沖縄はじっこ旅U

(1)ハートアイランドへ
@ウミガメを見て,ショートケーキを食べる
17時半,予定通り「サンエー前」にて下車。少し進行方向に歩くと“イオンタウンやいま”である。マックスバリュをはじめ,これから行こうとしているダイソー,メガネチェーン店,ドラッグストア,靴屋,本屋…などのショッピングモールである。プラス,モスバーガーやドコモの直営店などもあり,100m四方はある大駐車場には350台の自動車が入るという。もっとも,バス停になっているサンエーだって負けてはいない。敷地内に「和食亭」というファミレスを囲い込み,イオンタウンには及ばないが,大きな駐車場に100台以上は入れて,実際かなりの自動車が停まっている。この「和食亭」は,ちなみにサンエーの直営店である。
こういったところにバンバン来る人がいるから,中心部は得てして車の動きも含めて,結構ガラガラである。あるいは駐車場を完備しているところが少ないのもあるか。はたまた,中心部の飲食店は観光客用,郊外の飲食店は地元民用――といっても,地元民はいつも外食ばかりしているわけではないだろうが――とかいうすみわけまでできていたりするのかもしれない。ホテルが多い中心部で観光客をみすみす放っておくこともないし,かといって観光客があまり来ない場所に進んで観光客用の飲食店を開くというのも考えにくい。
話を戻す。ダイソーはバス通りから一番奥に位置する。通りの入口から店の入口までは100m以上はあるだろうか。2分ほどでようやくドアである。「土地をめいっぱい活用しました」って感じの売場面積は345坪(1坪=3.3平方m)というから,やはりかなりの広さである。ここダイソーでは5個入りのトラベルブリーフ(105円)というのがあって,泊まりの旅行のときに度々重宝しているのだが,今回は1泊で家から下着は持ってきている。ここで買っても後々の旅行で役には立ちそうなのだが,荷物になるのがとにかくイヤで止めておく。別の機会にすりゃいいや。少し離れた場所でTシャツと靴下(各105円)をゲットし,とりあえず退散することにしよう。
ついでに…と言っては何だが,隣のマックスバリュも見てみる。24時間営業(ちなみに,サンエーは9時〜22時,和食亭は10時〜23時)。こちらも負けずに広い売場面積だが,バリアフリーとかを考えて「ゆったりしている」と言ったほうがいいだろう。売っているものも本土と変わりなく,値段だって別に“離島価格”ってこともない。何を期待していたわけでもないが,「なーんだ,変わりないのか」と思ってしまうのもまたホンネである。かえって失礼なのに違いないが。
でもって,これまたホントについでとなるのだが,昨年11月,沖縄本島は豊見城市の海軍司令部壕跡からの帰りにマックスバリュ小禄店に寄ったのだが,そのときに店の管轄である那覇市とすぐそばの豊見城市でゴミ袋の値段が違ったことは,「久米島の旅」第4回で書いている。はて,ここ石垣のゴミ袋はどうなっているのかなどと,またも下らないことを思いつき,ゴミ袋売場に行ってみた。無論,1島1市なので,石垣市のゴミ袋しかないのだが,
  大 80cm×65cm 200円
  中 70cm×50cm 150円
  小 60cm×40cm 100円
となっていて,種類は赤い字の「燃やすごみ」と青い文字の「燃えないごみ」の2種類のみ。両方とも10枚入りで,値段・大きさは共通である。都合6種類で,実にシンプルである。どこの自治体も,この程度で統一してみたら,どうなのだろう。例えば,住民票が全国の自治体の端末で自分の番号を言えば出力できる時代である。それに比べれば,シンプルで他に偽り様がないと思われるゴミ袋の規格を全国統一することくらい簡単じゃないかと思うのだが,いかがだろうか。

さて,後は日航八重山に向かうのみだが,その前に夕飯を適当に済ませたい。ホテルでも構わないっちゃ構わないが,値段は確実に張るだろう。ホテルまではイオンタウンから産業道路という通りで1本である。その通り沿いに適当に店があれば,あるいは入ってしまおうか。
と,早速進行方向右に,赤瓦のコテージ風の建物が見えた。門もこれまた赤瓦で「石垣屋」と,筆で書かれている。その門にポスターが貼られており,JAブランドの石垣牛を扱っていることをアピールしている。…うぅ,石垣牛か。一度食ってみたかったんだ。でも,石垣牛と思って食べたところで,質より量の自分には味なんて分からない気もしてしまう(「沖縄標準旅」第7回参照)。玄関まで行ったところで何だか躊躇してしまった。
そこからはひたすら独り歩くのみ。午前中,石垣空港からのバスで通ったのと同じルートであるけれど(第1回参照),通過スピードは圧倒的に違う。石垣島ショッピングプラザは,石垣空港からだと道を曲がってすぐのところなので,ここまでは「ああ,大したことないじゃん」なんて思うのだが,次の目印であるみんさー工芸館までが長い。おそらく1kmもないのだろうが,いかんせん周囲が十数kmの黒島を4時間サイクリングして,白保集落を徒歩で1時間散策した後。いい加減に足は疲労が蓄積している。“横浜ラーメン”と看板を打っている「琉王伝」という店も見たりしたが,いくらなんでも沖縄にまで来て,横浜の味なんて味わいたいは思わない。
30分ほど歩いただろうか,左に「あだん亭」という赤いちょうちんが見えた。門構えも赤瓦に木造の柱で,「島料理」とまで書かれている。ふと,正面を見ると,少し先にのっぽの白い日航八重山の建物が見えている。その隣には「あじ彩石垣島」というこれまた店がある。たしか,八重山舞踊が見られるとかいう店だ。ただし,建物が上品な料亭っぽいので,あるいは私1人ではとても入れないような店かもしれない。それでも,たしか日航八重山の前にも飲み屋が数軒あったような……一瞬,どうしようか迷ってしまう。それでも,こういうときはファースト・インプレッションを大事にすべきというのが持論。ここは一旦過ぎてしまった道程を戻って,「あだん亭」に入ることにしよう。
中は意図的と思えるほどとってもウッディな造りだ(もっとも意図的じゃないと,こういう店はいかんのだが)。手前はテーブル席が5席ほど,右側は手前にレジがあるが,その向こうは座敷が二つ。小さい7〜8人が入れるようなのと,大きな20〜30人入れそうなのとで,後者は現在,4人用のテーブルが五つほど配置されている。テーブル席に数人客がいるが,時間が18時だとまだ早いのか,それ以外に客はいない。
私はというと,最も奥にあるオヤジさんと相対するカウンター席に案内される。木の幹を適当な感じのイスにして,上にどういうわけかヒョウ柄の座布団。でもって,足を乗っけるところには丸いサンゴの石となっている。5席あるうちの一番右側に腰掛ける。どうせここにも客はいないのだから,真ん中に陣取ってしまったって罪にならないはずだが,どうにもこういうときは端っこに行ってしまい,そういうところに限って,厨房への出入口だったりするから,微妙に邪魔者になってしまう。
早速,注文。飲み物は…おっと,目の前に波照間島の幻の泡盛「泡波」の一升瓶がズドンと置かれており,メニューを見ると飲めるようなのだが,どうやら,家で気ままに“水割りシングル”をチビリチビリやるようには,値段もアルコール度数とも行かない感じのようだ。泡盛自体,種類はたくさんあるが,それだって3合以上である。3合まで飲める保障もないし,無論それらだって値段は“4ケタ”である。ここは正統派でオリオンビール……と思ったが,地ビールなんてのもある。“デュンケル黒”“ヴァイツェン”の2種類。たしか,後者は5月にこの島の「森の賢者」で飲んだような記憶がある(「沖縄はじっこ旅」第3回参照)。ということで,前者デュンケル黒(630円)を注文する。
間もなくして,そのデュンケル黒が出てくる。330mlの小ビンに入っており,ラベルは白地にスミ文字で「石垣島の黒ビール」と書いてある。でもって「麦芽とホップだけで作った無添加酵母入りビール」ともある。そのキンキンに冷えたビールを,これまたキンキンに冷えたグラスに注いでみる。見事な黒ビール。飲んでみると,黒ビール特有の麦芽たっぷりの濃厚な味である。暑い中を動いた後のビールということもあって,実に美味い。“ヴァイツェン”のフルーティーさもよかったけど,こっちの濃厚さもまたそれはそれでいい。これにお通しとして,パパイヤと鶏肉とにんじんの炒め煮っぽいのが出てくる。このお通しがなかなか美味かったりする。
さて,メインの食い物も注文しなくてはならない。飲み物と一緒に注文すればよかったが,タイミングを逸してしまっていた。繰り返すが,暑いところを動いてきたし,さらにはお通しがなかなか美味かったりもするから,ビールが思いのほか進んでしまうのである。量も330mlだから,ビールがなくならないうちに頼みたいところである。
で,「この石垣島に来たら…」ということで,出発前に会社の女性の先輩から「ヤギ,オススメだよ」と言われていた。もっとも,その先輩はこれまたご両親が沖縄ご出身という別の先輩から,「ヤギ料理好きですね」と言われたのだという。「漢字で書けば“山羊”となるから,羊すなわちジンギスカンのラム肉と似たようなものだろう。あれは美味いから好きだ」……私はその程度の認識だったし,彼女もそうだと思っていたらしいが,ところがどっこい彼女は食べてみたら,ヤギはおろか,それまで食べられていたラム肉まで食べられなくなってしまったそうだ。
……で,そんな料理にトライしてみろと言われたのは何なのだろうかと思いつつも,「じゃ,機会があれば」なんて返事した。無論,食った証拠まで求められるほど脅されたわけではないが,どことなく好奇心がくすぐられてしまったのもこれまた事実。で,ここのメニューには……ない。これが幸せなのか,不幸なのか,私にはよく分からないが,ないものは頼めないことだけは確かだ。
しばらくメニューを眺めて,結局注文したのは「ポーポー焼き」(530円)と「麩チャンプルー」(580円)の二つのみ。やっぱり,帰りの船を待つ間に食べたアイス(前回参照)で,食べるのを制限したくなったのだ。正直,腹が特別に空いているわけでもない。それに加えて,来週1週間休みは休みなのだが,9日に健康診断があるのだ。その前に旅行を入れている時点で間違いかもしれないが(健康診断は6月下旬に予約,旅行のチケットは7月に入ってから),“ヘンな数字”を出して再検査にひっかかることはやっぱり避けたい“欲張り”な私がそこにいる。まして,昨年はγ‐GTPが133なんて数字になっちゃったりして,再検査時の問診で「理解できない」と医者に驚かれたくらいなのだから(「久米島の旅」第3回参照)。

数分して注文した2品が出てくる。まず「ポーポー焼き」とは,小麦粉と牛乳と玉子と島ネギを混ぜ合わせたものを焼いたものである。材料だけ見ると7月に那覇で食べたヒラヤーチ(「サニーサイド・ダークサイドU」第3回参照)と同じであるが,こちらはそれをロール状にクルクルッと丸めたのを六つにカットしている。一つ一つは中華料理屋や中華弁当に出てくるカットされた春巻きみたいな形で,あれをもっと肌色に近くした感じだ。これを味噌をつけて食べるのだが,大して美味いとは思わなかった。そもそも小麦粉と牛乳といった時点で,むしろ甘い菓子にしたほうがいいように思えるのは私だけだろうか。しまいには醤油をかけて“それなりの味”にして食べてしまったほどだ。
もう一つの麩チャンプルーは,麩・玉ねぎ・ニンジン・ニラ・もやしを玉子でかき混ぜたもの。豆腐は入っていなかったし,肉の感触もなかったと思う。ここのは麩はかなり細かくなっており,何度か食べているような「豚肉と見紛うような感触」(「久米島の旅」第3回「ヨロンパナウル王国の旅」第5回参照)というのはなかった。
さて,実は料理が来る前にビールを300mlほど勢いよく飲んでしまっていて,ビールのつまみで飲むにはいささか少ない量となってしまっていた。それだけ勢いよく飲んだわりには大した酔い加減でなく,「最近,泡盛を水で割って飲んだりしているから,酒に強くなったのか」なんて思っていたら,つまみを平らげた途端,急に酔いが回ってきてしまった。そんなこともあって,ポーポー焼きにしょうゆをかけたなんてのもあるし,麩チャンプルーにも同様にかけてしまった。半ばどーでもいい感じになってしまったのかもしれない。
ふと,厨房の壁を見ると「飲んだら乗るな,飲むなら代行」なんてポスター。酒を飲んだときに代わりに車を運転してくれるシステムだが,そこまでして飲みたいならば,行きも帰りもタクシーで来ればいいじゃん……って,この石垣島をはじめとして,地方では交通の便が必ずしもいいところばかりじゃないから,そうもできないのか。行き帰りともタクシーでは,単純に計算して,片道が車のときよりも倍の運賃がかかるわけだし。
腹持ちがよくなったので,これにてレジに行き精算。お通しも入れると1940円。店からしてみれば,シケた客に思えたのではないか。ホントはもっと食べてもよかったのかもしれないが,いかんせん健康診断が近くに迫っているのである。あまりムリはしないほうが,後々いいかもしれぬ。最悪,ホテル内の売店か自販機で空腹を満たしてもいいか。
外に出て,5分ほど歩くと日航八重山に到着。何だかんだ,てくてく2km近くは歩いてしまったかもしれない……で,フロントで対応してくれたのは,明らかに「中年」「実直」の二つの熟語を絵に書いたような,メガネをかけてキッチリ横分け,でもなぜかシャツは赤いかりゆしウェアという男性。一方,私は荷物はショルダーバッグしかなく,幾分風に吹かれて髪は乱れ,日焼けとビールで顔を少し赤らめている若干明日で31歳というガキだが,男性は私を部屋まで案内してくれる。部屋まで入ってきて,照明やら空調の使い方やら丁寧な案内である。「何か他にありますでしょうか?」と聞かれたが,どことなく恐縮してしまい「大丈夫です」と言うと,男性は静かに去っていった。チップは……やらなくてよかったんだろうな。書いている今ごろ気づいても遅いか。
部屋は1208号室。13階建ての建物の12階。窓からの景色は,夕焼けに染まった石垣市中心部とその向こうに海が見える“遠くにオーシャンビュー”……って,細かいことはどーでもいいが,なかなか好眺望である。海は白いものが見えるから,波が高いということだ。ちなみに,廊下をはさんで反対側はこれまた山をバックに一面の畑だから,その差は歴然である。1泊で税込1万500円の「ダブルルーム」というやつだが,この眺望を考えればヨシとしよう。あるいは山側の部屋だったら,安いのか……って,まあいいか。名前の通り,ベッドがダブルベッド。幅が1.6mというから数回寝返りが打てるゆったりさだ。無論,ここに今宵眠るのは私1人であるが。

@ウミガメを見て,ショートケーキを食べる
21時就寝後,朝3時に目が覚める。外では風の“ヒュー”が,高音かつ大きくなっている。雨は降っていない。この音で目が覚めてしまったのである。目が覚めると31歳になっていた……なーんて別段に劇的に何かが変わったわけではないが,とりあえず事実ではある。風はそんなにものすごい風というわけじゃないが,不気味であることに変わりはない。「ひょっとして…」という不安が一度もたげてしまうと寝付けなくなるのが,小心者の私。「なんくるないさ」の気持ちになるにはかなりの時間がかかってしまう。ウツラウツラしつつ,結局は時計を見て5時48分に起床する。
朝食は6時半からバイキングである。9時半までだし,別段に早く食べる理由もない。1人だし,何もテーブル1個くらいすぐ空くであろう。でも,何だか早め早めに行動しないと気が済まないのが,都会の人間の哀しさである。どうして1日をもっとゆったりと構えて過ごせないのかと思ってしまうが,そんな思いと裏腹にシャワーを浴びたりして,とっとと身支度をしてしまう。それを終えると,テレビをつけてみる。この風だが,何とか飛行機は飛ぶであろう。
しかし,たまたま見ていたニュースの画面の上には,白い文字のテロップが淡々と流れる。「JTA宮古発羽田行き午後の1便欠航,RAC全便欠航」――今日は11時5分・石垣発のRAC多良間行きに乗って多良間島行きに乗り,多良間島でサイクリング。16時台の飛行機で宮古島に飛び,2時間半のトランジットの後,19時半JTA宮古発羽田行きで帰京というのがスケジュールである。
しかもその前に,多良間島行きの飛行機は11時5分だから,7時半にはホテルを早々とチェックアウトし,空き時間を利用して日航八重山近くの御嶽とか井戸やらを散策しながら,9時から開くという具志堅用高記念館と近くの八重山平和祈念館を見て,タクって一気に空港へ……。クーッ,何て効率的で濃密なスケジュールだったのだろう。
――実は,前日部屋に入ってからというもの,地元の「お天気チャンネル」なるチャンネルをかなりの時間観ていた。もちろん,他のチャンネルも観てはいたが,ソングダーがいるからには天気が気にならないと言ったら嘘になる。観ているチャンネルがCMに入るたび,そのお天気チャンネルに目が行く。数分では予報の更新などあるわけじゃなく,2〜3時間ごとに更新されていくのが普通だろうが,どこかやっぱり不安がもたげてくるのだ。
そのお天気チャンネルによれば,当初は石垣島は“曇り時々雨”だったのが,昨日の晴天がそのまま続くようで“晴れのち曇り”にまでなっている。一方,百数十km北の宮古島は,残念ながら“曇り時々雨”で変わらない。降水確率はそれでいながら,当初は両島午前・午後とも50%で変わらないという不思議さもあったのだが,石垣島は次第に天気がよくなる感じであった。ただし,海は6〜7m以上と時化る見込み。多良間島でのサイクリングは,海岸沿いを走る可能性はあるが,船に乗ることはまずない。雨が降るかもしれないのはやむを得ない。雨に備えてレインコートは持ってきている。最悪,風が吹きまくって自転車が乗れなくても,レインコートを着れば歩いて多良間島の中心部を散策して時間をつぶせばいい。後は宮古島まで行ければ……。
そんなこんなの“青写真”なんざ描いていたのだが,こんなにも前向きだったのは私だけであったようだ。飛行機会社は,組織の利益・保護を考えてすべての便を欠航にしやがった……いやいや,やっぱり私の考えは素人の域を出ないのであろう。「安全はしておくに越したことはない」――そんな英語の例文を,今はここに書くことができないが,何度となく受験時代に見たことがある。
ウダウダ書いたが,要するに私の今日の計画はすべてオジャンとなったわけである。とはいえ,素直に現実に戻れないのも事実。あるいは,都合のいいように考えれば「ピンチの中で落ちついていた」とも言えるかもしれないが,いずれにせよ時間が過ぎるにつれ,腹が減ってきている。まずは1階のレストラン「AQUARIUS」に行く。数人がすでにスタンバイ。考えることは一緒なのだろう。近くにあるフロントではすでに身支度を整えた人もいたりする。
6時半,予定通り開店。中はやっぱり100人は入れる広さだ。4人席がほとんどで,支柱の下とかにちょこちょこと2人席がある。人はそこそこいるが,無論全席が埋まる勢いはない。別に4人席を独占したって罪にはならないが,何だか気を遣ってしまって,まさしく支柱の下の2人席をまず確保する。ちなみに,座席を先に確保するのはOKのようである。
そして,整然と並べられている食事から本日私が食べたのは,@アーサ入り八重山かまぼこ,Aオクラのゴマ和え,Bキムチ,Cサバの塩焼,Dウインナー,Eスクランブルエッグ,Fゴーヤーチャンプルー,G生野菜,Hサーモンとタラコのサラダスパゲッティ,Iゆし豆腐の味噌汁,Jホットサンド(チーズ・ハム・トマト入り),Kパンの耳に砂糖をまぶして揚げたような揚げパン,Lコーンフレーク,Mシークワーサージュース,Nコーンフレーク,O白飯である。この他には,パンは例えば紅芋パンなんかがあったり,おかずは肉じゃがだの筑前煮だの,あるいは納豆,焼海苔,漬物…と,ごくごく日常の食卓で食べるようなものもある。
この中では@FIは沖縄料理,Kは案外サータアンダギーの変形だったりするのか。@は名前とは違って,東京でいうところの“ちぎり揚げ”というやつだ。味もそんな味がする。Fはスパムは入っていないが,ごく普通のもの。Iも普通の豆腐の味噌汁だが,薄味なのはやっぱり南のほうの味付けなのだろう。Kはモノの割にはなかなか美味い――まったく,バイキングとなると,並べられているだけ食わなきゃならないとか考えてしまって,胃袋が必要以上にスペースを作り出してしまう。あと数日後には健康診断があるというのに,どうにももったいなくなってしまうのだ。
ちなみに,朝食バイキング自体の値段は1800円だったか(子どもは1400円)。私の宿泊プランでは朝食込みであるが,1800円を別に払うのだったらば,もしかしたら外で食べてしまうかもしれない。味は全然OKなのだが,はたして朝食でバイキングを食らう意義とかを考えると……って,そんなこと,さんざん食った挙句に考える必要なんてないか。

朝食を終えてロビーに出る。と,まばらだが身支度している人間がいるにはいる。聞こえてきた話では「早めに空港に行ったほうがいい」という。また「泊まるケースの場合,台風割引が適用になる」なんてのも聞こえてきた。こうなると,沖縄の言葉で言うところの“チム(肝)ワサワサー”になってくる。要するに胸騒ぎだ。思わずフロントにいた白髪の男性従業員をつかまえる。
「すいません,何だか飛行機が今日1日欠航って
話みたいなんですけどー」
「そうですねぇ。そのようみたいですね」
「あのー……今日仮に1泊延ばすことなんてでき
ます?」
「あー……今日は……大丈夫ですよ」
これはもう延ばすしかあるまい。今日1日はどうあがいてもこの島から出られないだろう。それに,どうせ今週いっぱいは休みなのである。まずは今日の宿を確保すべきと咄嗟に思った次第である。あとは,空港がどうなっているかによるだろう。「とりあえず,空港に確認に行きたいので」と,そのまま男性にカギを預け,玄関にちょうど停まっていたタクシーに乗車。向かうはもちろん,石垣空港だ。
乗って早速,ちょっとオジイに近い運ちゃんから「いやー,台風で軒並みダメそうだね」と言われる。「そうなんですよ。今日ホントは帰る予定だったんですけどね」「こりゃ,今日1日は完全にムリだねぇ」……こんなたわいもない台風ネタの会話である。とはいえ,外は風は少しあっても,薄曇りである。私も事の重大さがいまいち掴めていないのは事実だ。車内はNHKのラジオがかかっている。淡々としたアナウンサーの声。無論,ニュースの内容は台風18号,ソングダーのことである。
「沖縄本島は午前5時,暴風圏内に入りました」
「中心付近の気圧,930ヘクトパスカル」
「大東島地方,本島とも大時化の模様」
こりゃ,完全にダメである。ここ石垣も羽田も天気は大丈夫だろうが,通っていく道中がいかんともしがたい。そんな中,今日の天気がアナウンスされる。無論,本島地方は暴風雨。宮古島辺りも雨になる模様。そして石垣地方は「晴れときどきくもり,ところによりにわか雨または雷雨」だそうだ。すると運ちゃんは「雷が鳴るってことは,こっちの天気はよくなるってことだ」とおっしゃる。どういうことかは分からないが,今朝のテレビなどを見ていても,この辺りはソングダーの「強風圏内」の端っこあたりなのである。波はやはり時化になりそうだが,天気自体はやっぱり悪くはならなさそうだ。
10分ほどで空港に到着する。750円。やっぱり考えることは皆一緒である。発券カウンターにはすでに20人近い列が二つできている。真ん中と端っこに一つずつ。真ん中は紙が貼られて「欠航手続中」と書かれている。一方の列は紅白の“JALグループ地”のプレートに「航空券発売」などの文字。前者は女性従業員が2人で,後者は男性従業員が1人で対応している。
はて,どちらに並ぶべきか迷うが,まさかこれだけ並んでいてキャンセルと予約が別の列だというのだろうか。そうだとしたらフザけた限りだが,残念ながら,分裂気質と言われる私でも,身体まで分裂はできない。どっちかに並ぶか“運命の決断”……だなんて大げさなことを考える間もなく,私はとっとと「欠航手続中」の列に並んでいた。キャンセルしてからチケットを買うのが通常の流れだからである。所詮,今日帰らなくてもいい気楽さもあろうか。
列はなかなか前に進まない。そりゃそうだ。今の便を確認してキャンセルして改めて別の便を確認して予約だから,端末をそれなりに叩かなくてはならない。しかも,考えていることは皆一緒。1人当たり5分はかかっていよう。ふと「航空券発売」のカウンターの奥に各行き先のプレートがはめこまれているのが見えたが,軒並みその右側は灰色の白抜き文字で「欠航」の2文字。一番便が多い那覇行きの10列分については,その「欠航」という列に見事な統一感すら感じてくる。
その中に2箇所だけ赤い文字がある。一つは9時発の宮古経由羽田行き。もう一つは伊丹行き。周囲が灰色だけに余計目立つが,期待してはならない。何のことはなく「満席」の2文字だからだ。あと,関西空港行きもあるが,こちらは欠航である。海に突き出た空港ではダメということか。二つの満席便とも,今のうちに飛べるだけ飛んで行ってしまおうってことであろう。
並んでいる間,前のカップルと後ろの女性2人組は“数の力”を見せ付ける。すなわち,カップルは女性のほうがもう一つの航空会社であるANKの列を見に行っていて,戻ってきたのだ。いわく「こっちは欠航だけど,全日空は15時以降はまだ何も出てないのよ」とのこと。一方で,後ろの女性2人組は,いま目の前にできている二つの列にそれぞれ並んでいたようだが,こっちはキリがないとでも思ったのか,早々に“分裂”を解消していた。そして後ろを見ると,二つの列ともかなり長くなっている。多分,ここに来たときに私の前にできていた列と同じくらいか。さらにこの列は増えるであろう。むしろ,私はまだ早いうちにここに来ていたってことだろうか。

刻々と時間は過ぎ,30分ほどしていよいよ私の番である。相手の女性の顔なんて覚えちゃいないが,早速自分が今日乗るはずだったルート「石垣―多良間―宮古―羽田」を説明する。今,このうち「宮古―羽田」については,行きの「羽田―石垣」と同時にチケットレスで購入。で,すでにチケットをゲットしている。しかし,多良間島からの2便については,まだチケットレスのまま。すなわち券は持っていない。無論,自動発券機くらいこの石垣空港にもあるが,機械にクレジットカードを入れてチケットを発券する時間などあるくらいなら,この長くなる列に並ぶのが正しい選択である。
なので,クレジットカードを渡すと「なるほど,石垣―多良間,多良間―宮古,宮古―羽田ですね」と確認だけしてカードを返してきた。どうやらチケットのキャンセル自体は,もう一方の列でやるようである。ここではどうやら,乗りたい便を確認ないしは予約するだけのようだ。まったく,それだったらば,緊急自体なのだから係員をもっと動員して「こっちはこういう列で,あっちはああいう列」と誘導すべきであると思うし,そもそもキャンセルと予約を同時にできるべきなのだ。とはいえ,カウンターを見渡しても係員は5〜6人しかいない。もはや人員はこれでも総出なのだろう。
本来は上述の通り前のチケットをキャンセルしてから別のチケットをゲットするのが筋。私は順番を逆に踏んでいるようであるが,ホンネを言えば誰だって先に帰り便を確保したいものだ。すなわち,私の選択はホントはいけないのだろうが,こういう状況下ではある意味正しかったことになる。これも日ごろの行いがよろしいから……あ,よろしいから飛行機が飛ばないのか。これで逆に並んでしまっていたら,やりきれなかっただろう。
……あいかわらず,ウダウダと長くなった。もちろん,今日これからの便はすでに考えていない。気持ちは明日以降に向いている。とりあえず,ここ石垣からの羽田・伊丹・関空行きの様子を聞いてみると,まあ手が早いのか,はたまた「すでにそうなっていた」ということもあるのだろうが,6日・7日までは満席とのことだ。「8日なら空いてますけどねぇ」と女性は言う。そう,何も慌てなくてもいいのだ。9日に健康診断があるのだから,別に8日までに帰京できればいいのである。延ばしたからって,誰にお咎めをもらうものではないのだ。
無論,8日に帰って健康診断に合間を置かずに臨むことを考えると,早めに帰れるに越したことはない。でも,すでに満席の便に対してキャンセル待ちをするってなると,空港にずっと留まっていなくてはなるまい。整理券だけもらって順番を確保して,後は時間が来るまでどこかで暇つぶし……なんてことはできない。神様と航空会社は,確実に空港でひたすら我慢して待ってくれている人間に対して優先的に微笑む“システム”なのである。
「じゃ,8日でいいですね。8日までに帰れればいい
ので」
「よろしいですか? 前の便とかにキャンセル待ちと
か入れなくても。それも可能ですけど,どうします?」
「いいです,いいです,8日で」
「じゃ,ひとまず8日で入れときますね」
これにて帰りの便は,8日の9時発・宮古経由羽田行きをゲットした。受け取ったペラペラの薄っぺらい白い紙には,英語とアラビア数字がごちゃごちゃと書かれているが,私の名前と行き先と日付はしっかり印字されているから,大丈夫だろう。ホッとして「やっぱり,皆考えることは一緒なんですね」と言うと,「そうですねぇ。中には昨日のうちから備えていた方もいましたからね」だと。まったく,これでも旅慣れたつもりでいたが,上には上がいるのだ。やっぱり,ケータイが使えないのが痛いのか。仮にケータイがあって結果が同じだったとしても,どっか不安な気持ちになってくる。
再びもう一つの列に30分ほど並んで,正式にキャンセル完了。無論,お金は全額キレイに戻ってきたが,でも,考えてみれば新たに予約した「石垣―羽田(宮古経由)」のお金はどうなるのか。とりあえず,今は予約のみのはずだ。それと,座席の位置は……ま,いいや。ひとまずそれはまた改めて考えよう。帰り際,列は空港の外にまで延びていた。これからもこんな感じなのだろうか。

とりあえず,日航八重山に戻ることにする。手元には財布は持っているが,『やえやま』や“その他の備品”は部屋に置いたままだ。どうせ,今日1日はこの島からは出られまい。時間はまだ8時半ちょい前だから,「サンデーモーニング」の“喝!”のコーナーでも観てから,市街地をぶらぶら歩いたりして,そうすりゃ具志堅用高記念館も八重山平和記念館も開いている……クーッ,何てスカスカなスケジュールなんだ。まったく,これじゃ散策後にメシを食ったり,あるいはダイソーで改めて今後の下着類の買い物をするにしても,14時には今日のスケジュールが終わりになりそうだ。
――ともあれ,31回目の誕生日はこうして始まった。停まっていたタクシーに乗ると,またもソングダーの話に。かかっているラジオももちろんソングダーの話である。「ま,この1週間休みなんで,8日に帰ることにしました」なんて言うと,運ちゃんは「もっと前の便をキャンセル待ちとかにしなくていいの?」と言ってきた。「何だか,さっきニュースで言ってたけども,サイパンで台風が発生したらしいよ。19号が」(第5回につづく)

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