沖縄標準旅(全9回)

(13)石垣にて
竹富からの船は10時25分に到着。まず,港近くにあるニッポンレンタカーへ行く。どこかの観光センターを間借りしているようだが,窓口には観光客がいるものの,肝心の係の人間がいない。店員っぽい格好をしているのは,センターの人なのか。隣にはやはりレンタカーを借りようとしていると思われる人。何だかこれでは拉致があかなさそうので,とっとと去る。
通りを1本経て,メインストリートを進む。バスターミナルを北側から入ろうと引き続きダッシュしていると,「石垣島レンタカー」なる店。車1台くらいの幅の入口とプレハブの小屋らしき事務所。もしかして……入ると中に人はいない。ふと外を出ると,車を洗っている男性がいた。声を掛ける。

「すいません,予約していないのですが車を借りられますか?」
中に入ってきてくれて,帳面を開ける。
「うーん……ちょいと……何時間くらいです?」
「6時間くらいなんです」
「車はどんな……」
「うーん,できれば……小さめのがいいですね」
ふとその帳面を見ると,「ヴィッツ」のところが空欄だ。が,
「そうですね……スターレットなら大丈夫ですが……」
「……スターレットって!? どんなのか見せてもらえます?」
「あ,はい」
道路沿いの出入口は狭いが,奥が駐車場となっていて広い。車が10台ほど停まっている。自慢ではないが,私は車の名前なんぞまったく分からない。分かるのは,父親が乗っているマークU,M氏が乗っているファンカーゴ,そして自分が過去に乗ったマティス(注:2002年11月に屋久島で乗車)とヴィッツくらいだ。スターレットと言われても,トヨタの車ということしか分からない。
小さそうなのをそれとなく「あれですか?」と二度聞く。聞くたびに「いえ」というレス。その中にはヴィッツもあったと思う。で,一番奥にヴィッツの後ろを気持ち大きくしたような白い車。それがスターレットだった。「あ,これでいいですよ」。これで予定は立った。
早速,書類にサインする。なんかちゃちい。大手会社ではない,地元ならではのものだろう。なんとか証明書1枚のみだ。脇には新たな客も。どうやら応対は彼1人みたいで大変そうだ。「1時間・1000円ですので」と言うので,お金を用意しようとすると,「帰ってきてからでいいです」とのこと。「いいのか,そんなんで」と思ったが,考えてみれば書類には自分の名前が書かれているし,何よりも免許証をコピーされた。悪いことはできないようになっているのだ。
車に案内されると,彼はさっさと事務所へ消えていった。後の客の応対だろう。しかし,なんか不安だ。事務所へ戻ると,電話に出ている。「OKですね?」と聞くと,うなづく感じ。いいんだろう,これで。とりあえず出発しようとドアを閉めると,脇のボックスに例の証明書が。この紙1枚が車に入った時点で,交渉成立なのだろう。

@平野へ
車は東に進む。車に乗ったからにはどこへでも行ける。平野という集落にも行くが,実は近くにある石垣島最北の平久保崎という岬のほうが行きたかったのだ。こうなれば両方とも制覇し,当然川平へも行き,バスの通らない唐人墓にも行き,島を海沿いにキレイに一周できるルートとする。まず目指すは平久保崎。国道390号線をひた走ることに。
5分もすれば市街地を外れる。たまにすれ違うバスのヘッドには正月の飾りがされていて,正月であることに気づかされる。それほど朝からバタバタ動いているので,忘れがちになるのだ。
車内にはちょうど,BEGIN『Live in a Town』がかかる。この曲は名古屋テレビ「ユーラシア一人旅」のテーマソング。といっても名古屋で観ていたのではなく,夜,たまにMXテレビにチャンネルを合わせると,その名の通り,ユーラシア大陸の国を汽車旅だかをしている番組だ。ナレーションは桜井幸子。もしかして観たことがある人はいるだろうか。そこにかかっていたのが,アコースティックギターとピアノで構成されたこの曲で,のどかな旅にピッタリの曲だ。デビュー曲『恋しくて』も好きだが,この曲には一目惚れならぬ一聞き惚れしてしまった。
早速CDショップに行ったが,片っ端から探しても見当たらない。で,BEGINのホームページにネットで検索して辿り着いたが,何と8cmCDのカップリングだった。これじゃ分かりにくい。第一,8cmのやつなんざ,店から大分なくなっている。で,今度はレンタルCD店で探すが見当たらない。そして,とうとうHMVのホームページにて注文。コンビニでの購買扱いにして近くのローソンでゲットしたときには,送料やらなんだで1500円近くになっていた。それでも,執念でゲットしただけに嬉しかった記憶がある。これは昨年の春先の話だ。

その曲が終わるころに,ホットスパーで停車。今日もどこで昼飯が食えるか分からないので,ここでおにぎりを二つ買う。1個はすっかり気に入ったポークおにぎり(第3回参照)。今度はポーク卵である。そのまんま,厚切りポークの下に卵焼きが入っているやつだ。これも立派な沖縄限定グルメであると言える。
車を再び出すと,間もなく宮良川。ヒルギ林=マングローブがあるが,明日は西表島に行ってイヤというほど見ることになるので,ここはパスすることに。
そして白保(しらほ)。石垣から一番バスが出ているのが,ここ白保までのバス。さぞかし開けたところかと思ったら,ちょこちょこっと家があるくらいで,大したことはない。
道はきちっと舗装された片道1車線。アップダウンはあるが,なだらかでカーブは少ない。たまに,前をトロトロ走っている軽自動車があると,脇から鮮やかに抜けてしまう。それにしても気のせいか,沖縄の軽自動車というのはホントトロい。逆の意味で法定速度を守っているのだろうかと思ってしまう。それとも,法定速度なんざ10〜20kmオーバーしてもいいくらいの感覚でいる自分が,「旅の恥はかきすて」とばかりに浮かれすぎているのだろうか。

しばらく集落らしい集落を見ないまま淡々と走りつづけると,一番最初の目的地・玉取崎(たまとりざき)の展望台に着く。11時27分。竹富島の雲の多さが嘘のように,陽射しはとても強い。車はなんとなく窓を締めっきりにしてしまっているが,軽く冷房を入れないと暑くていられない。
てっぺんの東屋から景色を見渡すと,北にはこれから向かう平野方面。下にはこれから走るであろうグレーの道路が軽く蛇行する。石垣島の形を例えると,鶏のモモを逆さにした感じである。平野はその鶏モモのトッテの部分。アルミホイルがくっついている辺りだ。真正面は遠浅の海がキラキラ光る。そして南を見ると,島の湾曲が遠くまで続いている。車に乗って1時間で随分遠くまで来たのかと思う。展望台だけに高台にあるが,斜面にはハイビスカスが鮮やかに咲いている。
再びグレーの道路・国道390号線に戻る。途中に川平に行く道路を通過し,伊原間(いばるま)を通過。前回旅行はここまでしか来ていない。たしか,玉取崎で降りて展望台に行き,さらに北上してここで終点のため下車。その後ここで20分ほどバスを待ち合わせた後,川平方面のバスに乗って石垣バスターミナルまで戻ったのだ。待ち時間の間に,絵葉書を書いてこの伊原間にある郵便局から出した。しかし,あわてて書いたので差出人を書かず,その場で相手に電話したと思う。
川平に行く道路との接点で国道は終了。先は県道平野・伊原間線である。道は舗装のままだが,心なしか道が一回り狭くなった気がする。これまで1車線がゆったりしていたのが,ぎりぎりで車1台が通れるくらいの幅となっている。海は,右に見えていたのが左に見え,島のくびれたあたりを通っているのがよく分かる。

平久保崎への道は,終点の平野に向かって右にカーブするあたりで左に折れる。その道を折れるとぐっと道は狭くなり,もう完全に,ぎりぎりで真ん中に線を引いたと思われる片道1車線だ。車1台がギリギリでしか通れないというところも。そして直角ともいえるカーブまで。後ろからも車が来てちょいとプレッシャーだが,かといってスピードは出せない。無論,後ろの車も同様だろう。そして10分ほどして岬に到着。時間は12時。駐車場には7〜8台置けるが,結構埋まっている。ホットスパーで買ったおにぎりを食べていると,車の出入りが1〜2度あった。
岬には灯台があり,そこへはなだらかな土の道を,少し上ってちょい下る。風が強い。今日も強風注意報が出ているが,ここも岬ゆえ余計に風が強いのだ。ふと,後ろを振り返れば登れそうな崖があり登ってみる。後ろについてきていた車の連中が先に登っていたようだ。二十歳くらいの5人組で,男が3人に女が2人。そういえば,平久保崎の道に入る前から自分と同じくらいのスピードでついてきていたが,若さゆえのノリもスピードを速めたのだろうか。
彼らが下りたあとを登る。崖だけに足場も不安定で,そこに風が追風で吹くからつんのめる。頂上に上がって灯台のほうを振り返るが,今度は向かい風になるからまっすぐは立てない。地平線の存在を確認したら,とっとと崖から下りて車に戻る。
直角のカーブ,車1台がギリギリでしか通れない道,ぎりぎりで真ん中に線を引いたと思われる片道1車線を通って,先ほどの入口を左折。平野集落はホントのどんづまり。家は数件ある。バス停を通過した先は,行き止まりとはこのことを言うのかというような行き止まり。バスの転回場と思しきスペースにて方向転換し,来た道を戻る。
思えば平久保崎からは2キロほどはある。バスで来た場合,平野バス停での待ち時間は20分。バス停からも平久保崎にもしかしたら行けるかと思っていただけに,改めてレンタカーを選択できたことの大きさを実感する。

A川平から西海岸へ
伊原間までは,ひたすら来た道を戻る。途中で平野行のバスとすれ違う。あのバスにもしかしたら乗っていたかもしれない。そして,終点・平野ですることもなくボーッとしていたかもしれないことを想像すると,再度車のありがたさを実感する。
次に,川平方面に向かうことにする。県道石垣港伊原間線だ。順調に走っていると,自分の後ろを走る軽自動車はスピードが速く,振り切ろうとしても追い上げてくる。女性3人組のようで車はレンタカーだ。でもって,目前には路線バス。この路線バスってやつもトロトロ走りやがるが,こっちは時間に制約されているがゆえに,やむを得ない部分もあろう。おそらく今日は元旦だから,客もさして乗っていないか。そのバスを直線で抜くと,触発されたように後ろの軽自動車も抜いていく。道を譲るのも,こうなったら恥になる感じでひたすら前に行ってしまう。
12時50分,吹通川に到着。ここはヒルギ林。さっきは宮良川のそれを通りすぎたのだが,川平公園まで見るものがなく,思わずヒマをもてあまして車を停めてしまった。後ろの車は通りすぎた。しばらくして路線バスも。河口近くなのだが,川の水は少ない。試しに舐めてみると,ほのかな塩味がする。淡水と海水が交じり合っているのだろう。
再び川平方面に車を進める。右には青い海がひたすら続く。前後に車がいないとマイペースに走れるが,スピードそのものは自然に上がっていくようで,あっという間に前にはさっきの路線バスが。そしてその後ろにさっきの軽自動車。軽自動車はどこで油を売っていたのだろうか。直線で軽自動車とともに,再び路線バスを抜いていく。

川平公園には13時20分に到着。公園の入口には土産屋等が充実していることもあり,観光バスやらタクシーやら乗用車(レンタカー含む),そして観光客でごった返す。駐車場は30台は入れるだろうが,8割方は埋まっている。そのせいで,端の急な斜面しか空いておらず,そこに停めて海岸に向かう。
海岸には人がそれなりにいて観光地らしいが,そのわりに白い砂浜と青い海が保たれていて,キレイである。目前には20人くらいは乗れる屋形船っぽいやつが繋留されていて,時折沖からはその仲間が帰ってきては人を下ろしている。船底がガラスになっていて海が見られる、グラスボートのようである。時間はゆとりがあるので,乗らない手はない。20分ほど待って乗船する。
ボートは満員。子供を含めて24〜25人はいよう。無論1人客は私だけ。10分ほどは沖にひたすら向かう。当然見ているのは船底。よって,どこをどう走っているのかはまったく分からない。ふと顔を上げても,四方はすでに海。なのでまた船底に目を転ずる。サンゴの残骸とともに,時折魚がちらっと見え、「あ,いるいる」と声がどこからともなく上がる。
そしてメインスポットに着く。サンゴと熱帯魚の天国である。サンゴはキノコのような形,「じゃがいも」という名前がつくが「脳みそ」の形,イソギンチャクのようにウジャウジャしたものなど,他にもいろいろなサンゴが。ウジャウジャしたやつの中には先端が青いやつと白いやつがあり,ペンライトのようである。青も白もいずれも芽とのこと。固さは白墨ほどらしい。
熱帯魚は名前を忘れてしまったが,「〜タイ(ダイ)」と付く。要は鯛の仲間なのだろうが,食えるかどうかは分からない。青を地色に,黄色やら茶色が混じった虹色の魚。もっとも多く見た「キイロなんと
かダイ」「アオなんとかダイ」。のぺっと落ちているように生息するナマコ……なんだか自分の表現力の乏しさを恨むしかないが,ダイビングをしたくなる気持ちは何となく分かる。ガラス越しではなくて,直に海やそれらの動植物に身体ごと触れようものなら,大げさではなく世界観が変わるかもしれないくらい,そこには“何とも言えない世界”が広がっている。

川平公園を後にして,次は御神崎(ごしんざき)へ。ここはバスが通っていないところ。しかし,いま考えると,やんぱるの辺戸岬,竹富島の北崎およびコンドイ岬,そしてここ石垣の平久保崎などといい,またも先端を行く旅である。そしてその先端には往々にしてバスが通っておらず,そこを車にて“征服”できるという至福は,車に乗った者でないと分からないだろう。
14時40分,御神崎到着。この沿岸で水難事故があったらしく,それを教訓に造られた灯台らしい。灯台までの坂道を歩くが,向かい風が猛烈である。灯台の先にはさらに岩場が続いており歩道にて途中まで行くが,風がたまらずひき返す。
ここ御神崎と川平公園は,鶏のモモでいくと肉の垂れ下がっている部分になり,二股に分かれた半島状の形をしている。川平では半島をぐるっととはしなかったが,こっち御神崎では一周できそうなので来た道を戻らずに進む。
間もなくすると,海沿いに牧場が出現し,牛が放牧されている。太陽はあいかわらず上がっており,弱風の冷房がちょうどいい。牛には耳に黄色い札がピアスみたいにつけられており,いずれも「石垣牛候補」なのだろうか。今夜こそは、昨日食べなかった沖縄料理フルコースと行きたいところだが,この石垣牛のステーキも込みで8000円というコースがある料理屋があるようだ。「ものは試し」とばかりに,最後の晩餐といきたいところである。
道はカーブと起伏が多少あるが,地図のようなどーでもいい感じの道路ではなく,きちっと舗装されている。たまに両側の林が道の半分までせり出してくるのはご愛嬌。とはいえ対向車が結構あるので,気をつけないと正面衝突してしまう。
下り坂から直角カーブ。ここからは海を離れて再び県道に戻る。

次の目的地は,唐人墓と観音崎。また岬めぐりだ。とはいえ一度は行ったことがある場所。バスが通っていないので,タクシーで行った。石垣市の中心から5〜6キロあるので,往復で3000円は取られたと思う。玉取崎にしても唐人墓にしても,レンタカーで同じところを行くのは,「9年経って,ちょいとは成長してこんなこともできるようになった」みたいな満足感を味わいたいのだ。お金を払って連れて行ってもらうのではなく,自らの意志でその場所を,先ほども書いたように“征服”しに行くとでもいうのだろうか。
右には再び海が広がる。ときどき何かにさえぎられることなく,道の向こうは海という感じだ。時折,お約束のようにヒルギ林も見る。しかし,明日があるので今日は通過する。
15時30分,唐人墓着。駐車するときに気が抜けたのか,サイドブレーキを引き忘れて,下り傾斜になっていたためお尻をゴンと車止めにやってしまった。しかしスピードは惰性みたいなものだったので,後ろを見ても何の傷にもなっていなかった。気をつけなくては。
墓は,横長のカラフルな石碑。それだけ。向かいには観音崎があり,駐車場も車が多い。ヒマになった人たちが出てきているのだろう。しかし,岬は十分堪能して“満腹”なので通過する。
車を走らせると,突如大渋滞。その先には富崎観音。出店も出ている。初詣客の車が路上に停められたり,参拝客がウロウロしていたりと混雑している。すると,目の前で着物を着た子供と母親が,突然立ち止まる。何かと思ったがゲタの鼻緒でも直しているようだ。ったく,道の真ん中で……と思ったが,何しろ今日は正月なのだ。正月くらいは心穏やかであるべきだし,ここであせって動いてもしょうがない。時間は十分にあるのだから,待つことにしよう。

……こうして,石垣港レンタカーには15時55分到着。精算だが,向こうの書類には10時40分発となっている。5時間15分だから6時間分取られるかと思ったら,5000円にしてくれた。消費税もなし。そんなことで採算が取れるのだろうかと思ったけど,チェーン店にはない,そういうシステムなのだろう。いいレンタカー屋に入ったものだ。

B沖縄料理フルコース
2時間近くホテルでまったりして再び外出。上述した沖縄料理フルコースを食すべく,「郷土料理 ゆうな」に入る。ここへは一度来たことがある。中に入ると,18時ちょい前だが座敷は結構人で埋まっている。1人なのでカウンターへ座る。
さて,例の8000円のコースは,4000円の「ゆうな特定食」という10品ほどの料理に,伊勢海老のバター焼きと石垣牛のステーキが加わったもの。伊勢海老のみ追加だと6000円。しかし,牛肉と言えば沖縄市の「BIG BULL」でのビッグボーセット(「第1回」参照)で経験済み。向こうは英語圏の国籍を持つ牛かもしれないし,こっちは石垣牛でさぞかし高級かもしれない。しかし,旅行前にふと父親が言った「石垣牛なんて,草しか食ってないだろ」の言葉もひっかかる。私に「本物の石垣牛の味」が分かるわけでもないし,そして何より8000円の値段。伊勢海老だって,別にどこででも食おうと思えば食えるやつだ――ということで,石垣牛と伊勢海老は別の機会に譲り,「ゆうな特定食」を注文する。
店内には次第に人がたくさん入ってくる。カウンターも10席はあるが,3人しかいなかったのが,あと1席ですべて埋まる。隣にはカップルが座った。座敷はもういっぱいのようで,別棟にある部屋も明かりをつけた。これからもひっきりなしにたくさん客が入ってくるのだろう。だから,2人でも座敷ではなくカウンター席を余儀なくされるのかもしれない。客の平均年齢は比較的高い。私は下の方に入るだろう。

15分もすると,料理が出てきた。お膳に乗っかる量ではなく,2回に分けて5〜6品ずつ運ばれてきた。その料理を紹介すると……,

@ジューシー……炊き込みご飯のこと。筍が入っていたが,珍しさのない普通の感じだった。
Aラフティー……豚の角煮(これが「ラフティー」)に,こんぶ・ニンジン・大根・こんにゃくが入った煮物。薄めの醤油味。売られているラフティーは照り焼きソースみたいに色が濃いが,薄めのほうがスタンダードなのだろうか。
 実は一昨日,名護の「ゆがふいんおきなわ」(第2回参照)にあるレストラン「花織」で同じような定食を食べたのだが,こっちにもこの煮物が入っていた。そっちはもっとおでんみたいに薄い味付けだった。角煮はここ2〜3年の間に随分ポピュラーになったと思う。そのせいか,食べても特別な感慨は湧かなかった。
Bミミガー……豚の耳。味付けはさまざまあるらしいが,ここのは酢味噌合え。「花織」でも出てきたが,そっちは単なる酢の物。耳は千切りとなっていて,触感は鳥の軟骨に近いか。固さとしては, 人間の耳の上部の固さと同じだろう。ただし,耳自体には味はないと思われ,味付けそのものを楽しむといったところだろう。酢味噌がとても濃厚だった。
Cもずく酢……思いのほかヴォリュームがある。ロンブーの敦の「もずくん」で変な注目を浴びているせいか,食いながらあの敦の格好を思い出してしまった。甘酢が結構美味い。
Dナカミの味噌炒め……早い話が「モツ煮込み」。ここのは濃厚な味がして,出てきた中では一番 美味かったと思う。バターが,おそらくは隠し味みたいに入っているのだろう。
Eグルクンの唐揚げ……グルクンとは「タカサゴ」という魚。オコゼの唐揚げに似たような感じ。丸ごと1匹,頭からしっぽまですべて食えるが,反り返って揚がるからかデカさを覚える。味は白身魚で淡泊。天つゆで食べる。
 ところで,「タカサゴ」は「タ・カサゴ」なのか「タカサゴ」なのか。あるいは,カサゴとオコゼとを私が勘違いしている可能性もあるので,「タ・カサゴ」なのかも。
F紅芋の天ぷら……紫色した揚げ物。おそらくは素揚げだろう。一見するとお菓子のように見える が,食べるとさつまいもの味がして,デザートではないことが分かる。さつまいものパサつきがなく,モチッとしていたのは,すりつぶしたか何かしたのか。
G刺身……何の魚かは分からないが,赤身ではなくピンク系統。まぐろの一種なのだろうか。あと 貝もあったが,何の貝か不明。
Hジーマミー豆腐……ピーナツを原料とした豆腐のようだが,ごま豆腐と言われても私には分からないだろう。
Iアーサー汁……岩海苔と豆腐が入ったすまし汁。薄味。
J漬物……たくわん。何の変哲もないたくわん。

ちなみに,「ゆうな」に出てきてなくて「花織」に出てきたのが,KゴーヤーチャンプルーL豆腐ようMスクガラス豆腐Kは言わずと知れたやつ。Lは泡盛に漬けた豆腐。強い酒の味がした。Mのスクガラスとは,アイゴという魚の稚魚の酢漬け。豆腐の上にちょこんと小魚が乗っただけのものだった。あと,グルクンに関しては,「花織」では香味揚げで小さくカットされていた。
これだけヴォリュームがあると,@ADEGと5品ほど食べたあとからは,まさに「格闘」。もずく酢の酸っぱさはちょっと胃に来た。グルクンも全部食ってやりたかったが,他のものを胃袋に入れるために身だけにとどめる。そして何とか意地で全部食ってやった。石垣牛も伊勢海老も頼まずに正解だった。たぶん頼んでも食べきれないこと間違いなしだったろう。おかげで腹がすっかり苦しくなり,このあとは苦しさのみ。何かのためにもってきた「大正漢方薬」がここで役立ってしまった。

さて,22時。夕飯から3時間経過してようやっと胃がまともになった。しかし,最後の晩餐だからそれもいいのだ。明日は最終日。この旅の最後にふさわしい(と私が勝手に思っている),西表島ツアーである。(第8回につづく)

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