20th OKINAWA

(5)ホットムーンライトテラス
17時25分,安座真港着。久高島は伊敷浜で一緒になった大学生(前回参照)は,一足早くフェリーを出てどこかに消えていった。早速,マーチに向かってダッシュボードに入れたLet's noteを触ると,やっぱり蒸しあがっていた。5分もあれば宿に着いてしまうので,気休め程度にしかならないが,ガンガンにクーラーを効かせて冷やすことにする。
夕方ともなれば,車の数は大分減っていた。そして,あれほど強かった陽射しは,すっかり和らいでいる。でも,蒸し暑さだけは変わらない。そして,歩いて上がるにはちょいとキツイ坂を上がって,5分ほどで「安座真ムーンライトテラス」に到着する。満車だった駐車場はすっかり空いて,黄色いエプロンをして黒い子犬を抱いた中年の女性が誰かを待っていたかのように外で出迎えてくれる。名前をすぐ言われたので,もしかしたら私をわざわざ待ってくれていたのだろうか。
外観は,海を見下ろす白い洋風の民家って感じである。華美な飾り付けは一切ない。1階は駐車場。脇にあるちょっと急な階段を上がると,2階がフロントとレストラン。玄関のドアは明らかに民家のそれである。そして,まずはレストランにチェックインがてら通された。レストランといっても,2人席と4人席が三つずつと,それほどの大きさはない感じだ。
さらに,名前などを書いていると,ウエルカムドリンクということか,グラスに入ったジュースを持ってきてくれる。早速飲んでみると,マンゴージュースだった。氷が入ってキンキンに冷えている。サイクリングして身体が火照っていたから,とても美味かった。こういうサービスはとてもうれしい。むさ苦しい男性でもそう思うのだから,女性だったら確実にハートをゲットするであろう。
ここでついでに夕食の時間と明日の朝食の時間を聞かれる。夕食は18時から可能とのこと。現在は17時40分。「おそらく,今から作るかもしれないのに,あと20分でどうしてメシが作れるのだろうか?」と思ったのは,「じゃあ,18時からで」と思わず言ってしまった5分後ぐらいであった。そして,明日の朝食は8時からとしておく。こちらは余裕であろう。
ここのメシは,いわゆる“コース”なのである。メインは3品から選べる。正確な名前は忘れてしまったが,魚はサーモンのグリル,肉は牛肉か豚肉のソテーであったと記憶する。いずれも惹かれるものであるが,とりあえずは豚肉のソテーを選択することにした。ちなみに,ホームページを見れば,ここのオススメは「スズキのヨモギソースがけ」というものらしい。それがあったら間違いなくセレクトしていたと思うが,メニューにないものはないのであろう。
で,案内された部屋は「月待」という部屋。レストランとフロントの間から伸びる階段を上がると,手前と向こうで左右,都合四つの部屋がある。毎日10人限定で,一室が4〜5人の家族部屋である以外,残り3部屋はツインというペンション。部屋の名前は「月待」「月光」「満月」「夕月」と,すべて「月」がついている。「海を見下ろす部屋」ということで予約をしてもらったが,なるほど,テラスからは安座真港などが見下ろせる。大分,先ほどよりも車が減っていることがよく分かる。
ベランダ…というかテラスがあるので,外に出る。スリッパが1足あった。陽は完全に翳っても,あいかわらず温室みたいに蒸し暑い。白い軒が突き出ていて真下が見られないのはちょっと残念だ。遠くを臨むしか景色を楽しめない。そして,潮風でスチール製のテーブルとイスがザラついているのは,これはやむなしか。一方,宿の後ろには生い茂る濃い緑の森。地図を見れば「安座真城跡」とあるから,その石垣などが隠れてあったりするのか。はたまたすぐそばの斎場御嶽の緑ともつながっているのかもしれない。いずれにせよ“単なる緑”ということはないのだろう。
インテリアは至ってシンプル。ピンクの花柄のツインベッドがくっついて置かれていて,テラス側の一方の端っこには棚。最新の薄型テレビと小さい時計,そして,谷正樹という作家が書いた『ニンボスの墓標』『黄金の豚』という本,そして昨年7月号の『現代画報』がなぜか置かれている。この辺りのセレクト&レイアウトは宿のマネジャーのセンスだろうか。
本はともかくとして,物の少なさとシンプルさ加減はかなり私好みである。さらに,もう一方の端っこにはちょっとレトロな白い化粧台がある。中にはドライヤーが入っていた。全体的には,完全に女性向きあるいはカップル向きの部屋であると思う。もちろん,私のような野蛮な野郎1人でも安心して利用できるが,シングルユースだとちょっともったいないかもしれない。ちなみに,2人でも1人でも値段は変わらず,1泊2食つきで1万500円だ。
とはいえ,残念なこともあった。ユニットバスのゴミ箱に前に泊まった客のかもしれないが,汚物が残っていたのだ。部屋に結構女性のものらしい髪の毛も落ちていたし,あと,ゴミ箱・ティッシュ・浴衣がなかった。特に前二つはどこの宿でもついていただけに,逆に珍しいのではないか。ま,4部屋といっても,レストランの通常営業(昼と夜ともに営業)があるようだし,結構大変なのだろうか。それ以外はとてもキレイだっただけに,もったいない気がする。あと,浴衣は部屋に合わないのかもしれないが,レストランで浴衣で食べるのを禁止にすれば,部屋着として浴衣があってもいいような気はした。

18時をちょっと過ぎた頃,インターホンで夕飯の準備ができたという連絡がきた。さすがに18時ピッタリで準備完了というわけにはいかなかったか。ちょっと申し訳ない気もした。テーブルの上にはテーブル敷きが敷かれ,フォーク・ナイフ・スプーンの類いが都合5本置かれていた。これって,ひょっとしてコースだろうか。ちなみに,客は私以外は誰もいない。
すると,先ほどの中年女性がサーブとして出てきた。実はここのオーナー氏なのであるが,黄色いエプロンをして「こちら,○○の○○です」と,一応は上品にレストランのサーブのつもりでも,実は畳敷きの部屋で「はい,おまちどー。たーんと召し上がれ」って感じで,地元沖縄の食材を使った家庭料理を出していたほうが似合うんじゃないかって印象を持ったのは私だけではないはずだ。
まずは@トマトのチーズ焼きが出てきた。トマトの上にオリーブオイルとバルサミコ酢がかけられて,オーブンで焼かれたもの。上に三つ葉が乗っかり,チーズがとろけていて,赤と黄色と緑にバルサミコ酢のブラウンで,色合いは鮮やかだ。素材の味とソースがくっきり分かれていて,それでいながら相殺していない。次のAマッシュルームのクリームスープは,味は普通のポタージュスープってところだろう。直径8cmほどのコーヒーカップのような器に入って出てくる。大きなスプーンと小さいスプーンがあって,前者がA,後者が次のBを食べるためのものであったとオーナー氏から教えられたのは,思いっきり後者でAを半分ぐらい飲み干した後だった。ひねくれ者の私は,Bもそのまま後者で食べてやった。別に日本式だったら,すべてを一つの箸で食べるわけだし。
そして,Bジーマミ豆腐のイタリアンドレッシング和えAと同じぐらいの大きさの茶碗みたいな器に入っている。これはなかなか美味い。ジーマミ豆腐のタンパクな味に,ドレッシングの酸味と塩気が絶妙にマッチ。実は後で中年カップルが入ってきていたのだが,彼らはこれをつまみにしてビールを飲んでいた。間違いなく酒が進むクセになる味だ。ちなみに,私は最後までノンアルコールだったが……さらにC生野菜サラダ。野菜はトマト・コーン・キュウリ・レタスで和風ドレッシングがかかっていた。
いよいよメインのD豚肉のマッシュルームソース。味はごく普通のクリームソースって感じか。これにパンかライスがつけられる。私はライスにしたが,どちらかというとパンのほうが“ムード”が出るのかもしれない。ソースをパンにつけるほうがしっくり来るかもしれない。もちろん,ライスにソースをつけて食べても美味いことは言い添えよう。添え野菜として赤と黄色のパプリカと緑のブロッコリーがつく。彩りもまたオーナー氏の感性だろう。
最後はEデザート盛り。おちょこぐらいの大きさのグラスに入ってくる紅茶ゼリーと,ブルーベリーアイス・チョコレートソースがけリンゴ添え,キャラメルソース風チーズケーキが一つの皿に乗ってくる。中でも,チーズケーキがなかなか美味かった。ドリンクはアイス・ホットの紅茶とコーヒーから選べて,私はアイスコーヒーにしたが,チーズケーキの甘さのおかげでコーヒーはブラックでいけた。
そう,このレストランでも1点気になったことがあった。たまたま観葉植物の隣に座ったのであるが,小さいアリが何匹かテーブルを這っていたのだ。間違いなく,植物から出てきたものであろう。もうちょっと離した方がいいかもしれない。もっとも,その観葉植物と筒に入ったバラのある角っこは,何気に子犬の居場所だったりするから,位置は簡単に変えられないか。
ちなみに,子犬の名前は「ブラッキー」♂4歳。もちろん,名前の由来は黒いからであるが,植物のそばに縮こまっている様は,まるで黒いモップのような感じである。一瞬,ホントにモップかと思いきや,呼吸らしき“ピクピク”という動きがあって,犬と実感する。これが何とも愛らしい。ご主人様に呼ばれるたびに,ちょこまかと早足でフロアを行ったり来たりする。「ほーれ,邪魔するんじゃないよ」というご主人様の注意は,あまり意味をなしていない。
ところで,先ほど中年カップルが入ってきたと書いたが,一応レストランとして営業していても,できるものはビーフカレーだけだったようだ。女性のほうはパスタが食べたかったらしい。奥に厨房があって多分誰かが料理を作っているのだろう。オーナー氏が相談に行っていた。男性は夏らしく白いシャツにチノパン,女性は何を着ていたか忘れてしまったが,いずれも小洒落たレストランに行くにはピッタリの格好だったと思うが,一気に地味な食べ物にまで成り下がって(失礼!)バツが悪かったのではなかろうか。「ビールにジーマミ豆腐でつまみ」ってのも完全に居酒屋だし。
ついでに,翌朝の朝食も書いてしまおう――こちらは朝8時といったのに,10分過ぎても連絡が来ない。我慢しきれずレストランに降りていったら,ちょうど1品目をこれから出そうとしているところだった。前日はヘルパーらしき男性がいたが,朝食はオーナー氏1人だったみたいだ。私よりも若いカップルが一緒の席につく。どうやら泊まったのはこの3人らしい。彼らは昨日,私が夕飯を食べている途中で宿に帰ってきていたと思う。なお,朝食はこんなラインナップだった。
まずは@グルクンの中華風ソースがけ。小さめにカットされてオーブンで焼かれたと思われるグルクンに,ソースにはキュウリ・パプリカ・長ネギが入っていて,黒酢で味付けされていた。これはなかなか美味かった。次いでA野菜スープ。ウインナー・キャベツ・ニンジン・えのき・椎茸が入ってコンソメ風味。直径10cm×深さ5cm程度のカップに入っていた。
そして,メインと思われるBオムライス。直径30cm程度の白い上品な器に,これまた上品にケチャップが貝殻の器に入って別になっていた。ライスはちゃんとチキンライス。少し器が大きいのかなと思ったが,見せるにはちょうどいいのかもしれない。ここにもパプリカが添えられていた。プラスC生野菜サラダは,前日の夕食のCと同じ。締めはDドリンク。オレンジジュース・水・ホットコーヒーから選べる。オーナー氏は「カフェラテにしましょうか?」と,コーヒーメーカーに牛乳を勝手に入れていた。私はオレンジジュースしか飲まなかったが。

さて,時間を再び前日に戻そう。夜もあいかわらずムシムシしていた。そして,少し曇りがちの空だったからか,宿名の象徴である月は見えなかったが,代わりに星はたっぷり出ていた。あと,遠くに沖縄市あたりと思われるオレンジ色の明かりがずっと光っていた。ちなみに,オーナー氏に翌日聞いた話では「一昨日は見えましたけど,12時過ぎでしたかねー」とのこと。なるほど,昨日は日付が変わる前に就寝したので,見る機会はどっちみちなかったのだ。
そうそう,就寝のときにこんなことが――当日は朝3時間ほどしか寝ていなかったので,22時半に床についたのだが,ようやっとウトウトしかけた23時ちょっと前に「プルルルル…」と内線が突然きた。シーンと静まった部屋に大きく乾いて響いたので,何かと思って慌てて出たら,「いま,ベランダに月下美人が咲いたんですよ〜。よろしかったら観にいらっしゃってください。夜じゃないと咲かないですからね〜」とのこと。まったく,そんなことだったのか〜。焦ったぜ。
ま,せっかくオススメされるということで,ベランダということならと自分の部屋のベランダに出たら,なるほど観葉植物があるにはあるけど,どう考えてもヤシ系である。どういうことだったのか。結局のところ,私にとっては正直「眠気を妨げられてちと迷惑」って感じだったが,翌日レストランに下りていくと,オーナー氏から「観ましたか?」と聞かれる。事の顛末を話したらば,何とそれはレストランのデッキにあったものだったのだ。カーテンとサッシを開け放って,その正体を見せてくれた。哀しいかな,夜咲いているのを見たらさぞキレイだったかもしれない赤い月下美人は,すっかり萎れていた。「あー,ごめんなさい。場所を言えばよかったですね〜」だって。
でも,このどこかヌケた感じが,どうしても憎めないのだ。サービス精神で内線をかけてくれたんだし,食事のときもしきりに声をかけてくれたし,こーゆーお節介は嫌いじゃない。そして「底抜けに明るい」というのを地で行く印象のオーナー氏だと思う。一方,犬のブラッキーも最後には私になじんで,朝食のときはシートで私にピッタリくっついてきたりもした。動物は基本的に嫌いだと何度か書いているが,あまりに愛らしくて思わず毛むくじゃらの身体を触ってしまった。
私は津堅島に行かなくちゃいけなかったので,9時前には宿を出てしまったが,もっとゆったりと過ごせていればよかったと思う。出る間際,オーナー氏と少し会話をしたのだが,生まれは首里だと言っていた。そして,そばにあった額入りの証書を見たら「昭和23年」の文字。もちろん,生まれの年である。なるほど,私の母親と同世代だったのか。
さらに,この地にペンションを建てて2年ほどという。通りでキレイなのだ。「昨日,どちらに行かれましたか?」と聞かれたので久高島の名前を出したらば,「あそこはまだ行ったことがないんですよ。一度行ってみたいです」と話していた。ここは次回は女性連れでぜひとも来たいところである。上手くすれば会話がポンポンと弾むかもしれない。野郎1人だと,哀しいかなどうしてもムードが出ないペンションだ。女性1人旅ならばいいかもしれないが。
そう,なぜこのペンションを選んだかを書き忘れていた――それは,何度か掲示板に書き込みをしている「沖縄情報IMA」というホームページで名前が出てきたのがキッカケだ。元々は南部を旅行するのにどういう店と宿があるかという女性からの書き込みだった。そこに私がいろいろと回答したところ,管理人をやっている人物からの別の書き込みで,この安座真ムーンライトテラスの名前が出てきたのである。私の書き込みにはこの名前はなかった。もちろん,知らなかったからであるが,そこにリンクされたホームページのアドレスにアクセスしたら,なかなか瀟洒な感じのペンションだし,海が見えるペンションということで気に入って,迷わず予約を入れてしまったのである。「たまにはこんな旅もいいだろう」とそのとき思った記憶があるが,こういうホテルを基準に旅支度が始まるのは,私にとっては珍しいことであると思う。
ということで,鋭い方はお気づきだろうが,書き込みをした女性のおかげで,私はこのペンションを知り得たというわけである。そして,どこを回るかというところからフツーは旅支度は始まるはずだが,このように何よりもペンションに泊まることが大前提になったために,ペンションに近い久高島への再訪とか,久高島に行く前におきなわワールドに寄ろうか……などとプランが構築されていったのである。独力で旅をする人間の私であるが,今回は「“ご縁”があっての旅」だと言えよう。
――話題を戻そう。ペンション名の「ムーンライト」だけでなく,久高島沖から上がる「サンシャイン」も最高だった。雲一つない快晴に,わざわざ道路に出てきて写真を撮っている人もいた。外に試しに出てみたら,あいかわらず蒸し暑かった。5時45分に起きることになって外を見ると,初めは真っ赤だったのが,次第に時間が経過して太陽が上昇するにつれ,ほのかに白んでいった。
最後。宿を出るとき,ドアをどう開けるかモタモタしていると,ブラッキーが外に出られるぞとばかりにドアのところにやってきた。やがてドアが開くと,♂らしく思いっきり階段を駆け下りていった。その後は駐車場で,しかも私がマーチを停めていた車止めのところでグダグダやっていたので,ブラッキー(とマーチ)を傷つけないか心配になったが,出発間際に別の女性が抱きかかえて事無きを得る。オーナー氏の温かい笑顔に見送られ,次の目的地を目指すことにしよう。

(6)キャロットアイランドへ
国道331号線を一路北上。昨日会った大学生(前回参照)の地元である佐敷町,次に入っていく国道329号線との合流地点である与那原町とも,あまり景色に記憶がない。前者はたしか大きな鳥居の前を通過したと思う。後者は道がかなり広いし店も多いし,町レベルではもったいない充実度だったと思う。いずれも,見所がかなりあるようだし,機会があれば徒歩で歩いてみたい。
ちなみに,佐敷町と知念村・玉城村・大里村で「南城市」という市になるそうだ。知念村の久高島(「沖縄・8の字旅行」中編前回参照)と斎場御嶽(「沖縄・遺産をめぐる旅」第2回参照),玉城村の奥武島(第2回参照),玉泉洞(第1回参照),アブチラガマや垣花樋川(「サニーサイド・ダークサイドU」第2回参照)などが「南城市の財産」になるのだ。人様の住んでいる自治体をとやかく言ってもしょうがないが,市町村合併というのは,どうにも「何かを味気なくさせるような道具」に思えてならない。もちろん,管轄がどこになろうがその“財産の価値”自体が下がることはないわけだが,地元の人間にしてみれば,あくまで「知念は知念」「玉城は玉城」なのではなかろうか。
与那原町から国道329号線を北上していく。初めて通るルートであり景色なのだが,これまた残念ながら特段に景色を覚えてはいない。2車線の広い道をひたすらすっ飛ばしていたからである。今日の旅のメインである津堅島への入口となる平敷屋(へしきや)港までは,せいぜい50km程度。2時間あるから間に合うとは思っていたが,どうしてもスピード任せで急ぎ旅となってしまう。通過していく西原町は初めての場所だし,中城城跡(「ヨロンパナウル王国の旅」第5回「沖縄“任務完了”への道」第6回参照)には行ったことがある中城村も,街中を通過するのは初めてだ。どんな街並みなのか余裕があれば見てみたかった。
そして,沖縄市に入る手前で国道331号線から県道227号線&県道85号線へ。こちらは工業地帯がある泡瀬地区を通っていく。無機質で走れば走るほど,砂ぼこりがバンバン舞いそうなルートだ。車線も引き続き2車線で,まさに「車を飛ばすための道」である。でも,途中からは一度通った道。一昨年の9月に勝連城跡(「沖縄・遺産をめぐる旅」第1回参照)に行ったときのルートだ。その勝連城跡への坂道は,今回通ったらば,ちょっとばかり整備されていた。
やがて,“元”勝連町の中心部を通り抜けると,平敷屋港への入口が。信号はあるが道は狭い。昔からありそうな何の変哲もない住宅街である。道も特に広げないままにしているのだろう。こう言ってはナンだが,たまたま私の前を観光バスらしきバスが通ってはいるが,津堅島はまだまだマイナーな島である。それほど観光のために入口を整備する必要性もあるまい。
住宅街を抜けて,9時59分,平敷屋港に到着。フェリーらしき船がちょうど停泊している。これまたシンプルな白い建物で,「勝連町船舶待合室」という看板だけの平屋建ての待合室。そして,昨日の安座真港(第2回参照)と同様,建物を囲むようにこれまた車がビッシリだ。こちらは“れっきとしたビーチ”があるから,なおさら海水浴客が多いのだろう。とりあえず,まだ空いていた護岸側のスペースに車を停める。もっとも,どこに停めたところですべて青空駐車場。まあ,無料なのだからこれは仕方ない。そして,今日も蒸しあがることを覚悟で,パソコンをダッシュボードに入れておく。
その待合室へ向かう。私が乗る予定なのは,11時発の高速船。「11時のでいいですね?」と聞かれてナンだろうと思ったが,なるほど,さっき見たフェリーが10時発だったのだ。でもって,すでに港を離れていたから間に合わないよってことなのだろう。ま,思いのほか早く着いて,1時間待つことになるとは思わなかったが,予定通りなのだからこちらは全然構わない。津堅島からの帰りは15時発の同じく高速船。往復でチケットを購入。1200円。赤いチケットの裏に時刻表が貼ってあったが,定期便は5便。それにプラス臨時便が16時に出るという。手書きで書き入れてくれた。
さあ……あれ? タオルがない。昨日,久高島でサイクリングしたときにはやっていたのであるが,はたしておしゃべりをした後でなくしたのか。あるいは,ペンションか……マーチの中を探っても,それらしきものはない。港から住宅街のほうを見やると,商店が1軒見えた。実は来る時にすでに見えてはいたのだが……ま,ないのに気づいたのが港に着いた後だから仕方がない。外はまだ朝の10時過ぎというのに,東京の昼過ぎみたいな陽射しだ。5分ほどかけて汗をかきながら店に向かう。
商店の名前は「高良商店」。仮にも商店だったらば,明るい照明にして人に入りやすさを与えるのが筋だろうと東京モンは思ってしまうのだが,それと真逆に行くぐらいにうす暗い。入って右側には釣り道具が置かれていた。店の女性が「何をお探しで?」と声をかけてきたので,「タオルがほしいのですが」というと,一番奥にでっかいビニール袋に入ったタオル群が。柄ものもあれば,シンプルなカラータオルもある。とりあえず,後者の中から白いタオルを選ぶ。150円。

再び港に戻って,マーチの中で涼んだりしながら,時間は10時50分となった。「神谷観光」という会社の小さい高速船は,茶色地に白のストライプの船体。見た目はレジャーボートっぽい。そして阪急電車みたいなカラーである。ボチボチ乗り始めているのを見て,こちらも乗ることにする。乗り際に「ビーチに向かわれる方で?」と船頭らしき男性に聞かれたので,「いいえ」と答えると,男性は何か期待が外れたみたいな素振りをしていた。なんのこっちゃ。
そういや,レンタサイクルが島にはあると聞いたが,ビーチということはあるいはどこかの宿などに連れてってもらえるのか。その宿にレンタサイクルがあるとなれば,便乗させてもらおうか……さっきの船頭に聞こうかと思ったが,機会を逸したまま,結局11時に定時出発。若い茶髪でコンガリ焼けたアンちゃんを始め,クーラーの効いた30人程度入れる船室には,半分ぐらいの観光客が埋まった。
「久高島から近いんですけどね〜。ニンジンで有名な島ですね」とは,安座真ムーンライトテラスのオーナー氏の言葉。出がけに津堅島に行く話をしたときにそう言われたのであるが,たしかに久高島の北端・カベール岬から肉眼で見えるのだ(前回参照)。直線距離にしても10km程度だから,船で20分もあれば着けてしまうほどである。
にもかかわらず,もちろん久高島の徳仁港や安座真港からの船便はない。自治体が違うし,何より私のようなニーズがよほどない限りは,間違いなく運航などされないだろう。こればかりはしょうがないことだ。ちなみに,平敷屋港から高速船に乗るのも,これまた20分程度。とはいえ,その前には50km程度のドライブを要することになったわけだが。(第5回につづく)

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