サニーサイド・ダークサイドU

那覇空港,9時25分着。羽田での出発は,3連休の混雑もあって10分ほど遅れたのだが,空中で挽回してくれたのだろうか,ほぼ定刻である。今回はANAのホームページで,そのままトヨタレンタカーに予約を入れていたので,ダッシュでレンタカーロビーに行く。すると,金髪の20代くらいのアンちゃんが,プレートを持っている。
はぁ,またここでいつものように何分か客が揃うまで待たされるのかと思ったが,とりあえず声をかけると,何と「あの玄関の前で停まっているバスに乗ってください」という。そのままバスに向かうと,発車しかけていたバス…というよりは大きめなワゴンが停まってくれた。中にはすでに15人くらいの人がいたが,私が1人だったのでうまく入り込めたのかもしれない。
5分ほどして事務所に到着。ここは昨年の9月に世話になっていて(「沖縄・遺産をめぐる旅」第1回参照),今年の2月には世話になろうとしてキャンセルをしている(「沖縄・8の字旅行」前編参照)。9月のときは,やはり3連休でロビーが観光客でごったがえして,出発までに40分かかったのだが,今回は時間帯が早いからか,ガラーンとしている。とはいえ,もう1時間遅い便あたりで来ていたら,同じ轍を踏んでいたに違いあるまい。
さて,こういう余裕なときでも,一番乗りに受付して「“いいポジション”でスタートしたい」と考えてしまう小心者の私。運よくワゴンのドアそばに陣取ったおかげで建物に入ったのは一番乗り。入口脇でまず運転免許証を渡すのだが,それも一番。そして,次に呼び出されるまで待つのであるが,やっぱりというか呼び出されたのは虚しくも7番目であった。地道に“努力”したところで,所詮はこんなものなのである。ちなみに,その運転免許証を渡した入口脇の机には,100枚単位と思しき大量の書類が並べられていたが,おそらくはそれらが本日“さばくべき”客数ということだろう。待っている間にも,ピストン輸送されてきた観光客が少しずつ入ってきている。
中に入ってから20分ほどして,ようやく車に案内される。待っている間にちらっと自分の書類が見えたが,そこにはちらっと“プラッツ”の文字。いつも乗っていて所有台数も多いヴィッツではないのかと思っていたら,実際あてがわれたのはそれでもなくて,黄緑色の“パッソ”という車。どうやら最近出てきた車のようで,ギアがレバー式だったり,ドリンクホルダーが運転席ドアについていたり,広さもゆとりがあってなかなかのものであろうが,それよりも何よりも,中のオーディオがCDしかない。でもって,立派なまでのカーナビがついている。
前にも書いたが,私にとってカーオーディオは何より大事な部分である。カーナビなんてものは私にとってはほとんど役に立っておらず,持参する地図に頼りっぱなしである。これならば,ボロっちくてもいいから,せめてカーオーディオがカセットであったらと思ってしまうのは,やっぱり可笑しいことなのだろうか。もっとも,ネットでの申し込みではその辺の希望欄がなかったし,後で電話で交渉したわけでもないから,いまさら吠えてみたってどうしようもないってところだろうが,やっぱりMDというやつも衰退してきているんだろうか。そろそろCD‐Rに鞍替えでもするしかないってことか。
何はともあれ,いよいよ出発である。早速,今回絶対行きたいところを発表する(?)と……@シムクガマAアブチラガマの二つである。なーんだって感じであろうか。早い話が,前回旅行(「サニーサイド・ダークサイド」参照)で行き損ねた@と,Aも名前の通り,ガマすなわち自然洞窟である。何を好き好んで洞窟に入りたがっているのか。そんなに「穴があったら入りたい」状況なのだろうか……って,別にそうではない。@はすでに説明済みであるが(「サニーサイド・ダークサイド」第4回参照),Aについては,改めて説明していきたい。
で,場所とはいうと,@は中西部の読谷村,Aは南東部の玉城(たまぐすく)村である。すなわち,方向が逆なわけだが,まずは読谷に向かうことにしよう。高速道路をすっ飛ばして,さっさと@を見る。再び高速を南下して,一気に玉城村に入る。Aももちろんだが,玉城村は「グスクロード」というのがあるほど城跡が多く,また「ガー」「ヒージャー(樋川)」と呼ばれる湧水も多い。これらを見て回ればテキトーに時間がつぶれる。あわよくば,2月にあまり見られなかった久高島(「沖縄・8の字旅行」前編参照)にも渡ってみたいが,それはあまりに欲張りすぎだろうか。

(1)シムクガマへ
道は「沖縄・遺産をめぐる旅」第1回で書いているのとまったく同じ道である。何となくでも行けてしまうものだ。那覇市内は,思いのほか車が混んでいない。だが,そんな中でも「わ」ナンバーはよく見かける。よくも悪くも「車社会」と言われる沖縄だが,その何割かは私のようなレンタカー客による部分があるのではないか。10台に2〜3台は必ず「わ」ナンバーである。無論,沖縄の地元民がレンタカーを借りている可能性だってあるだろうが,こんな暑い時期には沖縄の人間は外で活動しないと言われているから,やっぱり観光客である確率が高いだろう。
その車の流れが,高速に入る直前でパッタリ止まる。前にデカいトラックが立ちはだかっていて,状況がまったく分からなかったが,どうやら工事で車線がふさがっていたようだ。それをクリアしていよいよ高速道路に入ると,後はスンナリ。少し小振りな車体ゆえの“哀しきブレ・揺れ”を感じつつも,平均で110〜120km,最高140kmの“スコア”を叩き出し,約20分で石川インターを降りる。石川インター下車はこの1月以来。残波岬に行ったときと同じだ(「沖縄“任務完了”への道」第4回参照)。後は県道をひた進んで海岸線を南下しながら村に入り,残波岬とは逆方向へ進んで途中からは路地を入る。せせこましい住宅街の中を走ると,11時過ぎに象のオリに到着する。
さて,ここからである。「サニーサイド・ダークサイド」第4回でも書いたように,シムクガマは象のオリの東側に位置しているはずである。どこかの路地からテキトーに入ると,その道は途中で途切れ,後は畑のあぜ道みたいな中を入っていくことは,事前情報で知っている。まず,その路地への入口が,間違いなくこの住宅街の間を走っている道のどこかにあるはずだ。もちろん「←シムクガマ」なんて看板があればいいのだが,そんなものはあるわけもない。地元の人に案内してもらわないといけないなんて情報もあった。後はその路地がどこかということだが,何となく畑の中を入って行けば辿り付けそうな気もするし,それらすべてがアウトである気もする。
明らかに“しかるべき道”の一歩手前まで来ているのだが,どこからはいるべきかでウロウロすること10分。「かむら花 ランチ900円」という小さい看板。見れば,少しジャリ道を入ったところの普通の民家っぽい建物の塀に「かむら花」の小さな看板がかかっている。店の敷地の中にも車は停められそうだが,別に店には用事はない。ちょうど路地の入口に車1台くらいが停められるスペースがあるので,そこに車を停めてみて中に入っていく。しかし,行けども周囲は畑っぽい。あぜ道っぽいのはたしかに続いていくが,その先にガマがありそうな気配はない。
時間は11時15分。昼飯としては少し早いが,決して早過ぎるわけではない。ここは「かむら花」に入って,ついでにシムクガマのことも聞き出そうか。時間も11時からと書いてあったと思うし,900円である程度のものを食えるのならばよしとしよう。ホントは玉城村で目をつけていたレストランがあるのだが,別に何が何でもその玉城で食いたいわけではない。店の敷地の中に車を移動してもいいが,今の場所でも別に車が入ってくることはあるまい。そこで車をチクチクと転回している最中,店からちょうど女性が出てきたりもしていたのだ。
敷地に入ると,ホントに民家を必要最小限しか改装していない感じだ。戸が開いていて,中にさっきの女性が見えたので,声をかける。40代半ばくらいの女性である。女将さんだろうか。
「すいませーん,営業してますか?」
「あ,申し訳ないです。11時半からなんです」
ありゃ,当てが外れてしまった。でも,ここでシムクガマのことを聞かないで帰るとあまりにバカらしすぎる。なので「あのー,シムクガマって,このへんですか?」と聞いてみる。
「ええ,ありますよ。車ですか…ですよね?……あ
の,この道をまっすぐ行って(と言って,いま走って
きた道を北に向かって指す),交差点があります。
脇に電話ボックスがあるんですが……で,そこを
左に曲がってもらって,ずっと行くと左にゲートボー
ル場――お年寄りがやっているんですが――があ
るので,そこをぐるっと回ってもらうと,そこから先
がこういうジャリ道(と言って地面を指す)があるの
で,そこで車を停めてもらって……そこからは畑の
中を歩くんですが,その辺りは地元の方に聞いてく
ださい」
やれやれ,やっぱり私が考えていた道とは違っていたのだ。でも,これで念願のシムクガマに行けるわけだ。少し空腹になってきたが,ここは我慢して車を素早く動かして目的遂行と行こう。あるいは帰ってきて,ここで昼食というのもいいだろう。

車は間もなく電話ボックスの角を曲がると,左に大きくカーブしていく。車線は車1.5台くらいか。すぐに左に土のグラウンドが見える。これがゲートボール場であろう。誰も人がいないが,この陽射しの下ではさすがにやる人間はいないのだろう。言われたとおりの道を行くこと1分。同じくらいの幅の道と交差して,行くべき道は大きく落ち込んでわずか数mでどんづまりとなる。正面は樹木が生い茂った森があって“いかにも”って感じの雰囲気である。間違いなく,あの辺りにシムクガマがあるはずである。その向こうには象のオリのフェンスが立ちはだかっている。
件の女性は“ジャリ道”と言っていたが,落ち込んだところでたしかにジャリ道というか,あぜ道となっていて,どうやらその先にも引き続いているようだ。ただし,その舗装とあぜ道の境目辺りには軽自動車が1台停まっている。ナンバーは…「わ」ナンバーではないので,地元の農家の人だろうか。いかんせん,その軽自動車1台分しかそこにはスペースがないから,これ以上は行きようがない。対して,交差する道は向かって左側がコンクリートで住宅街に向かう道のよう。そして右側がおあつらえむきなジャリ道が続いている。
とりあえず,この交差点の角にちょっとした木陰があったので,そこに向かって頭を突っ込む形で停める。ハンドルが焼けつかないようにするためである。ふと生い茂っている森を見ると,右側に道らしきものと人影が見えた。目の前の軽自動車の向こうは,明らかに私が好き好んで入っていきたくない道であろうことは容易に難くない。なので,まずはその“おあつらえ向きな道”を進んでみる。
聞こえる音はセミの鳴き声。どこに何匹がどうやってへばりついているのかは分からないが,生きる時間の短さを嘆いて鳴くには,度を越した激しさである。これが南国の一面でもあろう。そのやかましい音を聞きながら1分ほど歩くと,間もなく左に折れる道が現れる。早速そっちに入ると,幅は車1台ほどの道だ。まさしく生い茂っている方向に向かっている。
順調に歩くこと1分。向こうから犬の散歩らしきおじさんが向かってくる。ん?……何だか微妙な違和感が湧いてきたなと思ったら,何のことはなく思いっきり象のオリのフェンスにぶつかってしまった。さっきすれ違ったおじさんは遠くに行ってしまい,いまさら道を聞くこともできない。ファースト・トライ,あっさり失敗である。
ってことは,さっきの軽自動車の向こうがやっぱりシムクガマへの入口になるのだろう。仕方なく来た道を戻る。だが,それにトライする前に,うまいこと交差点の角っこに自販機があったので,ここでさんぴん茶の500ml缶を購入する。110円。行きの機内で飲み物サービスの冷茶をもらって以降,しばらく水分を取っていなかった。たかが100〜200m程度の往復でも,ホントに一汗も二汗もかいたような感じになる。水分補給は今後欠かせないであろう。どこぞのメーカーかは忘れたが,3分の1ほどを飲み干すと,運転席についているドリンクホルダーを活用して,いざセカンド・トライである。
早速,どんづまりへ行こうとすると,左側の家から犬が2匹一斉に吠え出す。明らかに私は異質な人間に映っているのだろう。ムリもない,ホントに異質なのだから。で,軽自動車の向こうには間違いなくあぜ道がある。それは奥へ奥へと通じているようだ。
ところで,この時期は人間が非活動的になるのと反比例で,昆虫が超活動的になる。激しく鳴くセミもそうだし,気まぐれに空を飛ぶ蝶もそうだ。そしてファースト・トライのときからよく見かけたが,赤い物体が次々に羽を広げて飛んでいく。形からしてとんぼであるが,その名の通り赤とんぼだろうか。でも,秋の夕暮れにススキの穂などが似合う赤ではなく,黒が少し混じっているくらいの赤である。ホントによく私の脇をかすめていく。いつか書いたような記憶があるが,私は昆虫のすべてが苦手である。しかも,こっちの昆虫は威勢がよく,加えて色が濃くはっきりしている。なので,なかなか前に進むことができない。
その中で,私にとって最大の敵が蜂である。それも青銅色に輝いていて,身はまるまると太っている不気味さだ。間違いなく,くまんばちの類いであろう。小学校2年生のときに蜂に刺された経験を持つ私としては,どうしても蜂を見るとトラウマが先行してしまう。こうやって書いていても,鳥肌が立つくらいだ。あのとき刺されたのは,多分アシナガバチあたりだと思うが,それ以上に威力は強烈そうである。時折聞こえる“ブーン”という羽音は,大げさではなくプロペラ機みたいな鈍い音がする。そいつが何と軽自動車の脇にいやがったりするのだからたまらない。後方ではあいも変わらず,犬が激しくアンサンブルを奏でている。しばし,仕切りなおし。こうしてセカンド・トライも失敗となる。
さて,いよいよサード・トライ。ハチがいなくなったのを見計らって,奥へ進むことにする。テレビゲームではないから,何度失敗しても誰も何も言わないだろうが,それより何よりこっちの根気がなくなってくる。カンカン照りの陽射しも影響しているだろう。いい加減にケリをつけないといけない。この先にも見る場所はいろいろとあるのだから。
だんだん周囲は緑が生い茂ってきているが,足元の一筋の道はなかなか消えない。間違いなく,この先が1000人もの人が助かった“名誉のガマ”である。詳細は「サニーサイド・ダークサイド」第4回を参照いただきたいが,時期こそもう少し涼しかったとはいえ,こんなところをよく助かったと思わずにはいられない。現在の私には,この道を進むだけで一苦労なのだから。
地元民の案内はもはや必要ない。この道をしっかり覚えておけば大丈夫だ。下が草地ゆえ,昆虫に加えてハブという“もう一つの敵”もいてもおかしくないだろう。でも,そんなこと構っていたら,何もできなくなってしまう。昆虫からの“攻撃”は相変わらずだが,それでもこれが最後だと(勝手に)思うと,歩を進ませなくしてどうしようというのか。
すると,いままでしっかりしていた道は,ジャングルの中で泥道となり,かつ一気に下り坂となった。もはや,ここから先は今までの勢いでは行けなくなってしまった。無論,誰か“頼りになる”人間と一緒ならばこの先を行けるかもしれないが,私1人ではこれまでだろう。足元のおぼつかない人間がこの先に行くのは,自殺行為に近いかもしれぬ。虫嫌いにはいい加減根気も尽きてしまった。やむを得ない。残念ながらシムクガマそのものは見られないが,それとなくアプローチで雰囲気を味わったことにして,ここは引き返すことにしよう……って,思いっきり気が小さいだけじゃん。

(1)シムクガマへ
@懐かしきレストラン
時間は11時半。そろそろ,昼飯の時間である。さっきの「かむら花」に戻ろうかと思ったが,何しろ“挫折明け”である。上述のとおり玉城で目をつけていた店があるのだ。シムクガマ行きが上手く行かなかったまま,ズルズルと成り行きで後を過ごしてしまうのでは,後々響いてきそうである。ここは気を引き締めて玉城を目指すことにする。
国道58号線に出てから南進,嘉手納ロータリーを左折して沖縄市に入って,沖縄南インターから再び高速道路に乗る。行きと同様の“スコア”を叩き出して,シムクガマ出発から35分ほどで南風原(はえばる)南インターで下車。何の特徴もない,写真だけを見たら場所がどこか分からないほどの特徴のない景色を,県道86号線にて東進していくこと20分ほどで玉城村に入る。
と,看板で「→アブチラガマ」の文字。なるほどここから入るのか。もちろん訪問するつもりであるが,まずは腹ごしらえ。ここは一度通り過ぎ,親慶原(おやけばる)交差点にて右折すると道は上り坂。そのてっぺんあたりに目をつけていたレストラン「チャーリーレストラン」があった。とりあえず,出入口そばの狭苦しいスペースに車を入れたのだが,建物をはさんで向こう側に,十数台は停められる広い駐車場があるようだ。
それを示すかのように,中は結構広い。特にこれといった派手さはなく,一昔前の懐かしい“チェーン店ではないファミレス”という感じである。元々米軍基地でコックをしていたという店長が始めたとあって,そこにはアメリカンな雰囲気がある。こういう懐かしきレストランを,小学生時代は何度となく見たような気がするが,最近はトンと見なくなったと思う。やっぱりチェーン店には勝てないのだろうか。テーブル席が14〜15席くらいはあるが,時間帯のわりにあまり混んでいない。なぜか大きな鏡となっている,支柱と思しき柱の脇に腰掛けることに。
ここの店の最大のウリは,手作りというアップルパイである。店内に入ると,まず正面のショーケースにはキツネ色に照りがついた直径30cm大の円盤が大量に置かれ,その脇には赤い箱が大量に積まれている。ホールサイズで1200円とのことだが,店内で210円で“カット”でもいただける。初めは,参考文献一覧にもあるムック『プライオリティ 沖縄』に載っていた「山の茶屋 楽水」という店に目をつけていたのだが,このレストランを玉城村のホームページなどから知って,「こっちのほうがいいや」って感じで選んだ次第である。別に根拠はなく直感である。
さて,注文だ。主にメインは洋食であるが,今回は「チャーリーランチ」(1155円)というやつと,上記カットのアップルパイをいただくことにする。目の前の壁には「日本の『粋』な風味を ざるそば750円(エビ天,フルーツ付)」「沖縄そば 600円(いなりつき)」などと書かれた張り紙があるが,両方ともどこででも食べられるものだから,初めから眼中になかった。それにしても,ざるそばが“粋”だなんて,ウチの会社の近くじゃいつでも食えて,あまりに日常すぎているものであるが,やっぱりこちらでは沖縄そばが主流で,ざるそばは珍しいということなのか。「日本の」だなんて,ここ沖縄だって“立派に”日本のはずだが……。
数分して,ポタージュスープ生野菜が運ばれてくる。ポタージュスープは少し大きめなコーヒーカップみたいな器に入っている。サイコロ大のクルトンが数個入っているが,心なしかカットが大きく歯ごたえもはっきりしている。やはりアメリカンは「でかく」「ハッキリ」が好みということか。生野菜はトマト・キャベツ・キュウリ・コーンというスタンダードなもの。上にサウザンドレッシングがかかっている。いずれも別段に変わったものではない。

10分ほどして,大きなプレートが運ばれてきた。一番大きなところで30cmほど直径のあるだ円形の白いプレート。そこに乗せらせしは@5〜6cm大のハンバーグAこちらはもう少し大きめな半月形のスパムBマッシュポテトCエビフライD円盤型のフライEパッと見で分かる魚のフライFミックスベジタブルである。これだけが乗っかるとかなりのボリュームである。プラス,グラスでウーロン茶っぽい飲み物がつく。
なお「スペシャルランチ」なんてのが,もう数百円上乗せするとあるのだが,それは@がステーキになるとのこと。まあ,私は所詮ガキなのでハンバーグで十分であるが,こういうプレートはいかにもアメリカンである。昨年9月に沖縄市で食べたプレートランチも,たしかこんなメニューだったような(「沖縄・遺産をめぐる旅」第1回参照)。ちなみに,このチャーリーレストランの前もかつては米軍基地だったらしい。だから,なおさらに“アメリカの味”が出ているとも言えようか。
@はごくごく手ごねって味だ。Aはそのまま。塩コショウのシンプルさであるが,何もかけなくても十分塩気がある。それにしても,単独で何もつけずに食べると“独特の加工味”である。Bは上に薄茶色いソースがかかっている。味が何とも曖昧ではっきりしないが,多分こやつがグレービーソースというやつか。私は塩気がもの足りず,思いっきり醤油をかけてやった。Cはどこかの冷凍食品と勝手に想像する大きさだ。味もごく普通。Dは魚のフライかと思ったら,ロースカツ。円盤型の揚げ方は,ボリュームを見せるためのものか。はたまた肉の繊維を切り忘れて反り返っただけか。いやいや,コックがそんな“基本”を怠ることもあるまい。Eは12〜13cm大。何の魚かは不明だが白身魚であることは間違いない。ただ衣が少しモッチリしているので,フライというよりは食感は天ぷらに近いか。Fはこれまた冷凍食品っぽい感じ。そもそもあの大きさは,人間では表せないだろう。いかにも機械でカットしたものである。手作りでミックスベジタブルを供するレストランなんて,ないのではないか。あと,ウーロン茶っぽい飲み物はアイスティーであった。案外,業務用の“午後ティー”だったりして。まあ,いずれも総じて変わったものはないだろう。
プレートを食べ終わると,ウエイトレスが「アップルパイ,出していいですか?」と聞いてきた。そんなもん,プレートと一緒に出せばいいじゃん……ってそうか,注文のときに「食後」っ言ったんだよな。で,出てきたアップルパイは半径10cmほどで,その鋭角っぷりからいってホールの8〜9分の1くらいの大きさか。厚さは2cmほどか。よって体積は,10×10×3.14(いまは「3」か)×2×8〜9分の1……どうでもいいか。ちなみにブルーベリーパイとかいうのもあるらしい。
でも,これが210円ならば安いほうだ。東京じゃ下手したらこれだけで500円は取られよう。甘くシロップで漬けこまれた大きなリンゴのカケラを10個ほど見たが,なかなか食べごたえはあるし,決して甘すぎず美味かった。アップルパイなんて久しぶりに食べたから,なおさら印象に残ったってのもある。下に敷かれたアルミホイルの銀紙が,いかにも町のケーキ屋さんが手作りで作りましたって感じのレトロさだ。洗練された瀟洒な建物のショーケースの中で美しくディスプレイされた“芸術菓子”とは違う,アメリカっぽい“素朴な大らかさ”がそこにはある。(第2回につづく)
 
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