沖縄点々旅行(全2回)

(1)プロローグ
那覇空港,9時半到着。奇跡的なまでの定時到着に感動しながら到着ロビーに出ると,時間が早いからなのか,観光客の姿も業者の姿も少ない。
早速,端っこにあるレンタカーロビーに行き,今回車を借りるオリックスレンタカーの係員に声をかける。このレンタカーロビーもまた人がまばらである。先週の“バーゲンフェア”あたりは,ひょっとしてごった返したのかもしれないが,「沖縄=大量の観光客」という“暗黙の方程式”が出来上がってしまっている私としては,拍子抜けしてしまう。

係員からは「5〜6分でバスが来ます」と言われる。ロビーに来る前にトイレに入ったので,あるいは1本先に行かれてしまったか。ま,せっかくできた時間なので,このスキにダッシュでコインロッカーにジャンパーとマフラーを入れに行く。これから気温は20℃くらいまで行くだろうから,邪魔になるのは目に見えているし,何より100円というロッカー代がいい。
戻ってきて2〜3分でバスが到着する。中はクーラーがガンガンに効いていて,少し厚手とはいえシャツ1枚には少しキツい。十数人乗れるバスだが,この送迎バスに乗ったのは結局私だけ。考えてみれば,ピストン輸送で私だけ乗せるということもないだろうから,レンタカー客,もとい観光客自体も少ないのだろう。いや,厳密に言うならば「“何でもない日”だから少ない」と言っていいのかもしれない。
オリックスレンタカー那覇空港店は,空港への道路の入口にある赤嶺(あかみね)地区ではなく,少し北側の田原(たばる)地区にある。しかし,ゆいレールの小禄駅に近いのと,できれば夜に時間を作って国際通りに行きたかったので,私には都合がよいことから選んだ。実は当初,21日に行くときは9月に世話になった赤嶺地区のトヨタレンタカー(「沖縄・遺産をめぐる旅」第1回参照)にしていたのだが,既述のように寸前でキャンセル。もちろん,再予約することもできたわけだが,最寄りの赤嶺駅まではやや遠いので,今回は見送ることにしたのだ。
ちなみに前回の沖縄旅行で会員になった,トヨタレンタカーの前にある大手のジャパレン(「沖縄“任務完了”への道」第1回参照)については,料金シミュレーションしてみたところ,オリックスより若干高く出たのだ。“ノン・オペレーションチャージなし”“ガソリン補給不要”“カーナビ無料”は,いずれも前回のみの特典。会員サービスとして,乗った距離だけお金を払うシステムなんてのもあるようだが,台数は限られている。となれば,申し訳ないがムリに“義理堅くなる”必要もないし,オリックスはタダでカーナビがつくのだ(トヨタレンタカーもつく)。もっとも,カーナビって私はほとんど使えないし,使う気もないのだが,どこを走っているかが分かって安心するというだけで利用しているのだ。
5分ほどでオリックスの営業所に着くと,早速手続を開始。周りを見ていると,ちらほらと客は入ってくるが,実に静かである。12時間までの賃借料に保険料込みで税込6300円は,トヨタレンタカーと同じである。そして,大してプラスにはならないが,JALのマイレージにもなるというのでそれも手続してもらう。
淡々と進んで,10分もしないうちに出発と相成る。今回私にあてがわれたのは,三菱の「ディンゴ」という車。フットペダルのサイドブレーキに,レバー方式のギア。そして,前もって「カセットかMD付き」と希望を出していたカーオーディオは「カセット/CD」である。

さて,今回の旅の目的は「行っていないところを“クリア”する旅」だ。今回私が行きたい…というか“行っておきたい”場所とは,
@久高(くだか)島(知念村)
A奥武(おう)島(玉城(たまぐすく)村)
B喜屋武(きゃん)岬(糸満市)
C佐喜真(さきま)美術館(宜野湾市)
D辺野古(へのこ。名護市)
の5ヵ所。それぞれがどういう場所かはあらためて後述するとして,地図で見ると@ABは南部,Cは中部,Dはやや北部と,広範にちらばっているのだ。
このうち,私がどうしても行っておきたい場所は@。名前の通り,れっきとした離島になるのだが,本島と橋でつながっているAとは違い,知念村にある安座真(あざま)港より船で所要時間15分ほどの旅となる。その船便は,これからだと11時半,14時,16時,17時の4便。逆に久高島からの帰りは13時,15時,16時半。このうち,行きの後ろの2便は日程的にムリだから,11時ないしは14時で久高島に渡ることにしなければならない。
さらに@ABは,南部といってもこれまた広範にちらばっていて,東端に位置する@(厳密には安座真港か)と中部に位置するAとの間は10kmほど,Aと西端のBとの間はその倍近く離れている。何やかやでレンタカーを出すのは10時過ぎになるだろう。BA@と,西から東へぐるっと周るのが,CDへ行くには距離が短くて効率的ではある。しかし,ABを先に周ったら11時半の便にはキツいし,14時発に久高島に渡ってとしても,滞在は45分しかないので大して見られない。その次の16時半の帰り便だと,CDはとてもムリである。あるいは,CDを先に見てから南部をBA@で,という手もあるが,ABCDを14時までにすべて見切れる保証は持てない。先に@を14時発で見たとしても,ここで時間が長引いてしまったときは,ABまで見切れるだろうか。
……と,前置きが相変わらず長いのだが,結局,まず@を見て少し遠ざかる形だがABと周り,最後にCDを見るというルートを取ることにした。安座真までは1時間ほどで着くだろうから,11時半発の船で行って,13時久高発の船で戻る。ABを15時ころまでに見られれば,高速で中・北部に行ける。ちなみにCは17時半までの開館だから,時間によってはCDということになるだろうか。いずれにせよ,中・北部については南部での時間次第である。

(1)プロローグ
@その前に……
車は国道331号線に入る。ゆいレールの赤嶺駅下で,道は海側を走るバイパスと陸側を走る旧道に分かれるが,旧道のほうが街並みを見られると判断し,片道1車線の旧道を選択する。旧道沿いは3〜4階建ての商店が建ち並ぶ,地方の郊外の典型である。豊見城そして糸満まで景色は特段の変化はないが,これが海岸沿いだと,ホントに何もないのではと想像する。
ただし,難点と言えば,車がきちっと法定速度を“守ってくれる”のだ。しかも,下を見るとだいたい黄色いナンバープレート。「観光客はバイパスを通るだろうから,我々地元民はマイペースで行こう」ということだろうか。飛ばしたくても飛ばせない。もっとも,彼らはそれで大いに理に適っているのだし,私のように「地元は見たいし,ある程度飛ばしたい」人間は,ものすごくワガママなのだろう。だから仕方ないのであるが,追い越そうにも対向車線からも車が結構来るし,カーブで見えないこともあるから,ストレスが結構たまってしまう――と,ここまで書いて「あれ?」と気がついた人は何人いるだろうか。
そう,このルートは糸満市中心部を経由して,喜屋武岬に向かっている道なのだ。知念の安座真に向かうには,国道329号線で南風原(はえばる)町,与那原(よなばる)町を通っていくルートが一番近道なのだが,別に考えを変えたというのではない。私はいま堂々と糸満市中心部に向かっているのだ。
というのは,単純なことだが安座真で時間を持て余したくないのである。知念村の中心部がさして何もないことは,9月に斎場御嶽を訪れたときに分かっている(「沖縄・遺産をめぐる旅」第2回参照)。まっすぐ行けば確実に11時ころに着くだろうし,それはそれで,船への乗り継ぎにあわてふためくことがないだろうからいいのだが,時間的に昼飯にありつけなくなるかもしれない。久高島にも店はあるという情報は持っていたが,あてにはならない。知念村でもはたしてどうか。ま,コンビニくらいどこかにあるかもしれないが,どうせなら,地元の名物を少しでも食したい。
そんなときにふと思い浮かんだのが,糸満名物の「バクダンおにぎり」である。何でも,さつま揚げの中にゴハンが入った代物で,元はさつま揚げ屋のまかない用だったそうだ。「分けて食べている時間がないから,いっぺんにカロリーも取れる」ために作られた,いわゆる“ファーストフード”の類いだが,こんなB級で面白い食い物はないではないか。いろいろホームページを当たってみたら,糸満の市営公設市場で売っているようだ。市場に寄ったとしても,喜屋武岬などに寄らずにまっすぐ安座真に向かえば,11時半の船には間に合うだろう。空腹でブルーになるよりは,食い物を前もってゲットしておくに越したことはない。
よって,いま私はその糸満市営公設市場に向かっているというわけなのだ。地図で見る限りは10km程度だから,どんなにかかったとしても30分はかからないだろう。そんな算段である。ちなみに,糸満市は10年前の初沖縄旅行のとき,南部戦跡公園に向かうときのバスの乗り継ぎで来ている。

15分ほどすると,糸満市に入る。ここいらは郊外型の,TSUTAYAやレストラン類が並び立つ。さらに5分ほどで,早くも糸満ロータリーとなる。こっちは古い街なのだろう,道はぐっと狭くなるし,店も再びこじんまりしたものとなった。中心部ってのはこんなものなのだろう。だいたいみんな郊外に流れてしまい,そこにはデカくてきれいな店が建ち,概して中心部は廃れる。この“好対照”をまたこの街で見ることになる。
10年前の中心部の記憶は,あまりはっきりしていない。ロータリーといって,中部の嘉手納にある,それこそ建物が数軒入るくらいの広大なところ(「沖縄標準旅」第4回参照)をぐるっと周ることになるのかと思ったが,ちっちゃい花壇があるのみだった。しかも,道はまっすぐ行けるようだし,特に標識はない。なので,ロータリー兼花壇は左前に見つつ右折することになる。
1本路地を入ると,さらに道は狭くなる。路駐する車も多く,一気に庶民の街となってくる。バスははたして走ったまま行き来できるのかと思ってしまう。右手には漁協の黒ずんだ建物も見え,向こうには漁船らしきものが何艘も停泊している。「糸満=漁港」という構図がふと思い浮かぶ。
そして左には「公設市場」の看板があり,狭そうな道ながら車も入れそうだが,三つ目の角を左折すると,市営の無料駐車場があることは,前もって学習していた。なので,ムリはせずに三つ目の角で左折する。ちなみに後であらためて寄ったのだが,この先に糸満のバスターミナルがある。10年前に来たときと同じで,古びて白茶けた2階建ての建物が,ホントつくづく“ターミナル”な位置にある。なぜって,数十m先はもう海だからだ。
10時15分,市営駐車場到着。いわゆる“青空”で,数十台は停められる広さがあるが,空きも結構ある。入口に小さい小屋があり,その脇に来ると70代であろうオジイが出てきた。事前に地図で見ていたら,近くにシルバー人材センターがあったが,ひょっとしてそこからの派遣だろうか。
まあいいか。窓を開けると,ハガキの半分ほどの大きさの白い紙を受け取った。「12時20分まで2時間無料。3分4分はおまけしますよ〜」と,気のいい,こっちが観光客と分かっているような慣れた口調だ。でも2時間どころか,20分もいないだろうから大丈夫である。「ナンバーが書いてあるところは停められませんので,それ以外のところに停めてくださいね〜」と言われ,とりあえずはナンバーのない,すぐそばのスペースに停める。
荷物を持つべく準備をしていると,オジイが寄ってくる。はて,停める場所を間違えたかと思ったが,「市場に行かれるんですか?」と聞いてきた。「そうですー」と答えると,「じゃ,これまっすぐ行けば市場ですから,いってらっしゃい」とのこと。それもこっちは事前学習していたが,こういう地元の人との会話が何気に嬉しいのも事実である。

いかにも裏道という,失礼ながら“うす汚れた”路地を1分ほど歩く。両側にも店はあるが通り過ぎると,真正面に公設市場が広がる。平屋建ての建物にテントみたいなのが隣接しているようだ。そのテントの下と周囲に散らばるように,十数人のオバアが座って各自モノを売っている。中には男性の姿もあるが,こういう場所は大抵女性の世界なのだ。
市場経験は那覇以外だと,宮古は平良市の公設市場に行ったことがある(「宮古島の旅」後編「宮古島の旅アゲイン」後編参照)が,平良市のは訪問が夕方だったし,建物自体が黒ずんでいるし,階段を数段上がることもあってか,正直近づきづらい印象があった。何を買うわけでもなかったし。その中からのジロッという感じの鋭い視線が,いまも印象に残る。しかし,今回は目的がはっきりしているのと,訪問したタイミングもよかったのだろうか,すんなり入っていける。
外の吹きさらしのところでは,野菜も売られているが,多いのは惣菜やサータアンダギーや弁当を売る店。野菜を作る手間よりは,それを“加工”して売ったほうが圧倒的に楽ということなのか。練り物も売られているが,同じ茶色系統でも“おいなりさん”とか揚げ物とか,あるいは普通のおにぎりかさつまあげのみとか,なかなか肝心の「バクダンおにぎり」らしきものは見当たらない。無論,それらも食べてみれば,庶民の味って感じで美味しいのだろうが,今回は目的を初めからはっきり決めてしまっているので,ただ通り過ぎるのみである。
ちなみに,平屋の建物の中も入ったが,こちらは生鮮食料品の店。真ん中の,人1人がすれ違える程度の通路をはさんで7〜8軒が連なるが,入口手前が鮮魚類,奥手が精肉類である。生物だから,建物の中ということか。前者はやはり本土にはいない珍しい魚が数匹いたが,たまたまかもしれないけど色が同系で,カラフルさはいまいちなかった。後者はだいたい三枚肉のかたまりがメイン。建物の古さと,生物独特の匂いとが入り混じった,何とも言えない匂いがたちこめる。
さて,先は予定が入っているから,いつまでも寄り道はしていられない。かといって肝心の店が見つからない。大して店の数自体はないのだが,かといって売っている人間に聞くのも,そこで買うわけじゃないから気が引ける。テントの通路を数度行き来すると,ようやく駐車場側の入口から一番奥に黄色い旗がかかっているテナント。見れば「糸満名物」と書いてあり,軒には「西南門小(にしへーじょうぐわー)かまぼこ店」の名前。ホント1坪2坪という感じの店だ。
早速,そっけなく小さいテーブルの上に,キレイな黄金色の丸い球体が十数個。「これ,バクダンおにぎりですか?」とおばちゃんに確認すると,そうだとのこと。「さけ」「うめ」「みそ」と3種類シールが貼られている。どれも直径5〜6cmほどの大きさで,パッと見はそれほどでもなさそうだが,事前情報ではかなりのヴォリュームがあるという。ま,単純にさつまあげとごはんのかたまりだから,質量はあるのだろう。
とはいえ,選んでいるのも面倒なので,結局は3種類とも一つずつ買うことにする。「三つ§∴£●◎450円※*☆♀○#……」……ご心配なく。文字化けではなく,ブツクサ言っているようで聞き取れなかったため,このように“表示”したのだが,1000円札を出したところ返ってきたのが600円。おそらく,バラで買うと1個150円で,三つだったら450円なわけだが,50円をおまけしてあげるという趣旨のことを言っていたのだろう。何はともあれ,幸先のよいスタートを切ることができた。
駐車場に戻って,とりあえず「さけ」を食す。朝ゴハンは6時だったから,時間としてはちょうどいいのだろうが,やや“おやつ感覚”だ。しかし味はというと,いまいちパンチがない。「さけ」といっても市販のフレークものだろうから,独特の塩気というのがあまりない。さつまあげもニンジンか紅ショウガのような赤い線がわずかに入っているが,ほとんどプレーンで味がほとんどない。ま,他の二つに期待しようか。
駐車場を出る。先ほどのオジイに紙を渡すと「終わりましたか?」と聞かれる。単純に「はい」と答えると,「またいらっしゃいね」と言われた。彼なりの“決まり文句”なのだろうが,私には何か嬉しかった。でも,2時間に3〜4分オーバーしてもタダなのに,たかだか15分しかいないとは,ちょっぴりオジイ申し訳ない気もした。

@その前に……
時間は10時35分。向かう先はもう完全に安座真港である。ここからの道はひたすら内陸だ。ロータリーをそのまま真っすぐ行き,県道を都合4本走り,具志頭(ぐしかみ)村の港川(みなとがわ)にて国道331号線に入り,あとはひたすら東進するのみだ。
内陸の景色というと,まあさとうきび畑か荒地といった感じなのだが,どこでも収穫をやっていて,そのさとうきびを乗せるトラックと何度かすれちがった。ある場所では,工事中のトラックよろしく,さとうきびを満載した大型トラックが堂々と片道を塞いでいた。ホント車高が数mもあるトラックである。またある場所では,もう少しでこぼれそうなほどに荷台からあふれて積まれていて,その重みでいまにも横転しそうな軽トラックとすれ違った。
プラス,こっちはホンモノの工事をやっている箇所もあった。さしずめ「予算を年度内に使い切るための工事」というのは,本土も沖縄も共通なのだろう。そのうち「玉泉洞」の看板が見えたと思ったら,目の前に大きな水辺が広がる。港川に着いたのだろう。水辺は雄樋(ゆうひ)川という川。後で地図で見ると,ちょうど河口に位置しているために広いのであろう。
この景色を見て思い出すことがある。ここは,10年前の初旅行で玉泉洞を訪れたときに歩いた場所なのだ。玉泉洞を見終わった後,適当なバスがなかったのか,高台にある洞窟から坂を下ってこの辺りまで歩いてきた。多分1kmほど歩いただろうか。そして,もう少し川を下ったあたりにあったバス停に着き,時間を見たら本数が1時間に1〜2本だったのだが,うまいこと20分ほどの待ち合わせでバスが来て,めでたく那覇に帰れたと記憶している。
そして,そのバス停の上には大きな高架橋が走っていたのだが,今回もまたその光景を見る。これで記憶は完全によみがえる。この港川は谷間の集落なのだ。そして,高架橋の下をくぐり,集落をぐるっと回って国道に入るのだ。とはいえ,実は水辺のところで「←与那原」という看板が出ていたので,そこを左折するとホントは近道だったのだが,道なりに右折してしまったため遠回りする羽目になっただけなのだが。ちなみに,これも後で地図で確認することになったのだが,日本史にも出てくる港川遺跡は,件のバス停そばにある遺跡のことである。
国道に入って高架橋を渡ると,玉城村となる。ここ玉城村では上述のとおり奥武島を見たいのだが,時間が微妙なので島の入口もとりあえずは通過する。道路は内陸の高台をひた走り,右手遠くに海とその周辺集落を見下ろす格好になる。ビーチへの看板や「垣花(かきのはな)樋水」という名水の案内看板があり,一瞬心がぐらつくが,どっちみち戻ることになるだろうし,ひとまずは直進しなければならない。
ここ玉城村ではもう一つ,個人的に有名と思っているものとして演出家・宮本亜門の邸宅がある。何度か“有名人のお宅訪問”の番組でこの邸宅を見ているが,たしか周囲に緑があり,海に向かって景色が大きく開かれている部屋に強く印象が残った。あるいはこの海岸線のどこかにあるのかもしれない。もともと東京は銀座出身の彼だが,いろいろな“葛藤”を経て,たしかこの地に来たと番組で語っていた記憶がある。
そのまま玉城村を通過し,知念村に入る。途中バイパスと旧道を行き来しながら,やがて斎場御嶽に行くときに通った巨大なループ橋(「沖縄・遺産をめぐる旅」第2回参照)が左に見えたら,目的地の安座真港はもうすぐだ。斎場御嶽への入口を左に見て,コープと郵便局を右に見て,やがて「→知念海洋レジャーセンター」の看板のところで右折。急坂を下って海岸沿いの道を少し北上すると,安座真港に到着。駐車場は30〜40台ほどは停められる広さだが,8割方埋まっていた。時間は11時12分。個人的にはベストタイミングでの到着である。

こじんまりとして素っ気無い待合室。広さは6〜7畳くらいあるのだろうか。これまた素っ気無い売店やトイレなどを含めても大して大きさはないが,なになに人でごった返しているではないか。テーブルが数台あるが,すべて埋まっている。ほとんどの人間は“リラックスした格好”なので,あるいは久高島の人間かもしれない。
早速チケットを買おうと思うが,数人列ができている。この航路はフェリーと高速船が交互に運行しているが,今回は行きは高速船,帰りはフェリー。よって,目の前でほとんどの客が購入している“往復割引運賃”ではダメだ。受付のおじさんに「行きが高速船で,帰りがフェリーなんです」と言うと,「フェリーはドックに入っているので,いまは高速船だけなんです」とのこと。なるほど,それで皆往復運賃で買っていたのだ。もちろん往復運賃でチケットを購入。1410円。
船は小型のよう。少し客が乗り始めているが,まだ10分ほどあるのでこの合間に「バクダンおにぎり」の残り二つを食す。「うめ」は練り梅,「みそ」は何かみじん切りの“物体”が混じった少し甘さのあるみそだが,いずれもまず,その味自体が主張してくるので美味しく感じる。多分,私が濃い味付けが好きなのも大きいだろう。この二つは個人的にはオススメだ。
外に出ると,風が強く吹きつける。この時期独特の西風だろう。気温はそれなりにあるのだろうが,一瞬寒さも覚える。こんな調子ならば,波も決して低くはないだろう。ひょっとしてこの風は,久高島からのちょっとした“洗礼”なのだろうか。(中編につづく)

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