西表リベンジ紀行

(1)プロローグ
石垣空港,9時50分到着。上空は花曇りとでも言うべきか。色としてはスミアミで5〜10%,コピー機にかけたらすっ飛びそうな,白に近い灰色である。予報では晴れマークが続いていたが,これはその晴れのうちに入るのだろうか。そして,案の定飛行機を降りた瞬間にムワッとした空気に包まれる。植物園の温室に入ったような感覚である。
さて,大抵飛行機は遅れるものであり,今まで何度もそれを経験しているが,今回は何と予定より5分早い到着である。たかが5分という莫れ。偏西風が吹いている国土ゆえ,言ってみれば南に向かうのは“向かい風”の中を行くようなものなのだ。それもあって,南に行くときは帰りの戻る便よりも時間が余計にかかるというのに,予定よりも縮まったのである。これをものすごい幸先のいいスタートと言わずに何と言おうか。この勢いを殺してはならない…と言うと,これはさすがに大げさか。でも,今日はこれから11時石垣港発の西表島・大原港行きの高速船に乗らないといけないのだ。早めに目的地に着けるに越したことはない。
港やホテルへはバスでも行けるが,確実に早いのは価格が高くてもタクシーのほうである。ということなのか,タクシー乗り場に行くとすでに十数人の列が。「やれやれ,考えることはみんな一緒か」と思っていたら,何のことはなくて若い“バカップル”が,荷物をトランクに積むのに手間取っていただけだった。その後ろには10台ほどタクシーが連なっており,トランクに荷物乗せ待ちの運ちゃんが,後続を促して前に来るよう指示する。そのおかげか,私に回ってくるまではいくらもかからなかった。ちなみに,空港のロータリーの内側にあるバス乗り場にはまだバスがいなかったと思う。予定より早く着いたから,まだ準備していなかったのか。
何はともあれ,石垣港に向かう。タクシーの運ちゃんは一言もしゃべらない。行き先を告げたら普通は「はい,わかりました」ぐらい言いそうなものだが,それもない。ひたすら無口なまま,海沿いの道に入った。後で調べたら,空港から1本道なのだ。多分,今までも通ったはずだが,改めて見てみると驚きである……そんな中で「レストランプカプカ」が見えてきた。海沿いにデッキがある典型的海辺のカフェである。なるほど,こーゆー店なのか。“ある人の質問”に対して,ネットで見つけてここプラスいくつかを勧める書き込みをしたら,このプカプカにしますってレスがあった。でも,私はここに行ったことがないのだ。いいのだろうか,こんな勧め方で。そして,そんなことしているオレって何者……?

石垣港には10時5分に到着する。あいかわらず狭い道に路駐ばかりの中,空いたスペースに入ってもらう。810円。潮の匂いがプンプンと伝わってくる。まず入るのは安栄観光だ。「石垣―大原」のチケットを買うためである。この区間は安栄観光と,もう一つ西表島観光センターで競合している。当初は帰りの便が不確定になりそうなので片道のみにしようかと思っていたが,聞けば往復でも2週間有効だという。なので,万一急ぎになっても帰りのチケットを窓口でいちいち買わなくちゃいけない煩わしさも考慮して,往復で購入することにする。2930円。これで必然的に安栄観光しか乗れなくなるが,片道で1540円だから,一応往復割引も効いているということで納得しておこう。
そして,肝心なのは次のこっちのほうだ。平田観光に行かなくてはならない。無論,舟浮ツアーの手続のためである。早速,店内に入り別の客への対応が終わったばかりの女性従業員に声をかける。胸のプレートには“研修生”とあった。「すいません,舟浮ツアーを予約している者なのですが」「少々,お待ちくださいませ」……すると,すぐそばのパソコンを操作している女性の元に行った。予約の確認だろうか。
「あの……ご予約がお1人だけなので,今のところ
だとツアーが出ないのですが……」
あちゃあ,1人とは……そうなのだ,このツアーは2人以上で催行なのである。それは予約をした2カ月前から分かっていたことである。とはいえ,トップに書いた過去3回とも,参加者は2人以上にはなっているのである。天候は他のときに比べれば抜群にいい状況だ。たしかに風が少し強くて波も少し高いようだが,予報では明日は次第に治まりそうな雰囲気だし,石垣―西表間の船便が動くならば,舟浮方面もおそらく大丈夫であろう。にもかかわらず,今回4度目はよりによって1人ゆえにダメなのか。せっかくここまで来たというのに。
しかも,これから私は西表島に入り,そのまま西表島に泊まることになるのだ。実は船便ゆえの欠航とか,これまた“いろんなこと”を考えて,石垣島に1回戻って翌日改めてここ石垣島のスタートから舟浮ツアーに参加しようかと思っていた。でもって,1日目はそのツアーで回りきらない場所にレンタカーで行こうということであるが,これだと西表島を都合2往復することになる。当然ながらムダである。しかも,ルート的に同じところを2度行く公算が高いのである。
これまたトップに書いたように,2年半前の2003年正月のツアーは,浦内川・星砂の浜・由布島の3箇所をピンポイントでしか見所を回っていない。その間に点在するものとか,浦内川より西側や大原港より南側とか,実に見ていないものが多いのだ。これらを初日に見ようってことなのである。もっとも,舟浮はといえば浦内川よりもずっと西側であるが,たとえピンポイントで舟浮しか行かないとしても,やっぱりどこかムダな行動をすることになるように思えてならない。
そんなとき,ツアー内容の端っこに,西表島で道路が通っている最西端の集落・白浜(しらはま)からの参加も可能であるという文言を見たのだ。石垣島からのツアー料金が1万7500円なのに対して,こちらは9500円なのだ。しかも,白浜で合流して白浜から別行動にできるという。すなわち,レンタカーを借りっぱなしでも問題はないし,レンタカーをメインにオプションでツアー参加という“理想の形”を取れるわけである。そうとなれば,西表島に泊まったほうが断然いいという結論に至ったのだ。
「ただ,明日飛び込みで来られる方もいる可能性も
ありますので……」
そう,デメリットもある。たしかに今日の時点では私1人なのだが,明日の当日になってツアー参加客が来ることもあり得るのだ。なるほど私も昨年,台風の余波から明けたばかりとはいえ,当日の飛び入りの形で波照間島行きのツアーに参加している経験者だ(「沖縄はじっこ旅U」第9回参照)。もちろん,飛び込みであっても2人になってくれれば,私にとっては当初の予定通りとなるから喜ばしいわけであるが,今回のケースでは西表島に行ってしまうわけだから,明日の状況はこの石垣島ではどうにも確認の取りようがないのである。
「あるいは明日の朝に再度ご確認いただくか……
もしくは別のコースに切り替えられますか?」
そう聞かれて少し答えに窮してしまった。「舟浮ツアー」と散々書いているが,フツーの定期便も1日4便,上述の白浜にある港から出ている。もちろん,別のツアーに切り替えるつもりは毛頭ないが,フツーの便で行っても舟浮のツアーと同じ場所を見ることができる。ただし,白浜と舟浮の間にある内離島(うちはなれじま)とか,舟浮湾の奥にある水落(みずおち)の滝は,ツアーでしか見ることができない場所である。でもって,前者はかつて西表島が「炭坑の島」だったときの跡が残っているという。こーゆー“意味深な過去系”が,不謹慎にも私は結構好きだったりするものだから,素直にツアーをキャンセルできないのである。
「分かりました……じゃ,明日連絡入れます」
「そうですか。それではお待ちしています」
「何時ごろがいいですか?」
「そうですね。出発のとき……8時半に石垣港出発
ですから,8時半に……」
「あ,8時じゃダメですか?」
「えーと……できれば8時半でお願いできますか?」
後で考えれば,8時だと残りの30分の間に来る客のことがあるから,あくまで出発時の8時半を向こうは指定したのだろう。でも,私がツアーのこととは別に,ひそかに「大丈夫かなー?」と思っていたことは,この時点ではまだ解決していない。いや,このほうが実はかなり重要だったりするのだろうが,それは改めて後述しよう。

時間はまだ10時10分過ぎ。またここ石垣で一つ用事を済ませておきたいことがあったので,アーケード街「あやぱにモール」の方向へ向かうことにしよう。730交差点を渡って,昨年9月に波照間島へ行ったときに缶コーヒーやタオルを買ったコンビニ(「沖縄はじっこ旅U」第9回参照)の脇から路地へ入る。その路地を進むこと20mほどで,用事のある店があった。
店の名前は「SABO石垣島」(以下「SABO」とする)。しかし,まだ看板が店の中である。明かりがついていて,女性が開店の準備をしているのが見えるが,ドアはまだ閉ざされている。持参した今年度版の『やいまGUIDE BOOK』(「参考文献一覧」参照。以下『やいま』とする)では,10時開店となっているが,まあ多分こんな朝っぱら――といっても10時だが――から店に来る人間はいないってことで,スローペースなのだろう。実際,観光客の姿はパラパラである。
私にもまだ時間があるから,いったんこのままあやぱにモールの中に入っていこう。こっちは大分,開店している店が多い。路上で総菜や果物を売っているオバアもある。「アチコーコーのサータアンタギーとバクダンおにぎり」がともに100円で売られている“魅力的な店”もある(注・第6回参照)。両方ともデカそうな感じだ。そして“お目当てのもの”が売っている店もちらほらと見つかるのだが,初志貫徹でできればSABOにしたい。
とりあえず,石垣市特売品販売センターの建物に入る。まだ開店間もなくて,閉まっている店もあるのだが,ちらほらと観光客が入っていた。こちらでも“お目当てのもの”が売っている。「レキオゴーレス」という“泡盛中毒ブランド”で有名なタグがついているものもあった。そして,これは東京でもたまーに見る“海人”もある。でも,個人的には“海人”は好きじゃない。東京でこれを見たときほど,田舎っ臭くて侮蔑したくなるものはない。沖縄でもこの“海人”を見ると,つい「こいつ,バカじゃねーか?」と思ってしまう。“海人”の文字を書いたという俳優・梅津栄氏には誠に失礼な話になってしまうが,あの独特の文字はあくまで「紙の上でのみ生きるもの」であると私は思っている。
ま,ここまで来れば何が一体お目当てか検討がつくだろうが,最後まで引っ張ってしまうのが私の悪いクセだ…とどっかでも書いているが,ここでも書いてしまう。あいかわらずひどいヤツだ。それにしても,こんなものが2625円だの3150円だのと実に高いものだ。手作りだからレアだから仕方ないのか。うーん,こうなるとやっぱり初志貫徹でSABOにしたほうが,後悔が少ないか。
外に出る。センターの入口にある一角で「ちょっき」なるお菓子が売られていた。店名はそのまま「ちょっき屋」。八重山の方言で「おやつ」を意味する。といっても,店内はクーラーが効いているが,こちらは蒸し暑くて,しかも薄暗い階段の踊り場みたいなところに出店っぽく設けられた感じだ。“ちょっき”はでっかいのだと直径30cmほど。見た目は中国の“月餅”そのものである。小さいのは3〜4cmサイズで,赤瓦とブーゲンビリアが入った可愛らしいデザインの袋に入っている。“マンゴー”“パイン”“パッションフルーツ”と3種類。朝飯は羽田で6時前に“空弁”を買って食べたが,あさりごはんに小さい鮭の焼物と野菜の煮物がちょっとずつ入った軽めの弁当だった。昼飯はどっちみち西表島に入ってからだろうから,小腹を満たすにはちょうどいい。“パッションフルーツ”を1個購入する。
歩きながらそのちょっきを食べる。こーゆー食べ歩きがまたいいのだ。すると,口の中一帯に広がったのは細かい生地のパサパサ感。パッションフルーツ味の餡の酸味が負けてしまうくらいに,口内の水分を一気に奪い去ってくれた。食感は沖縄銘菓の“ちんすこう”とクッキーの中間ぐらいだろう。歩きながら他の店を見ていたが,さっきのサータアンダギーとバクダンおにぎりの店がどうしても気になる。ともに100円でかなり魅力的だが,まだ午前10時だし,さすがにすべてを食したいほど空腹でもない。ここはあるいは帰りに来ることにしようか(注・第6回参照)。
再びSABOへ。今度はちゃんと開いていた――さて,ここまでもったいぶったが,何の店かというとTシャツの店なのである。いつも荷物を最小限にして旅に出る私。そして100円ショップで衣服や下着を現地調達していることはどっかで書いたが,今回も夏ということもあって上に着るTシャツを現地で買おうと思っていたのだ。「今回も」というのは,実は前回5月の旅行記「沖縄はじっこ旅W」に書きそびれたのだが,前回旅行のときも北大東島に行く前に,那覇空港にある「ISLAND BROTHERS」という店で同名のブランドのTシャツを買っていたのだ。こちらは那覇に拠点を持つ店。たしか2940円だったか。白地に黄色くブランド名が書かれたシンプルなヤツを買った。
そして,このISLAND BROTHERSと今回のSABOに共通して惹かれた理由というのが,壁に四角い木枠の中に色とりどりのTシャツがディスプレイされていた点だ。つくづく見た目というのは大事なのであると思う。こーゆー私みたいな単細胞なヤツがひっかかってくれるのだから……ま,必要以上に自分を卑下してもしょうがないけど,ホントこーゆー“センスもの”は,第一印象とインスピレーションがつくづく大事なのではなかろうか。
話を戻して,そのディスプレイは店の一番奥にあった。店内は白い壁のみでちょっとした街のプティックっぽい作り。Tシャツの色があれば余計な配色はいらないってことだろう。スチール棚にあるものをいろいろ見ていて,結局はベージュ地に小さく茶色の“いないいないシーサー”があしらわれたものを購入。2500円。柄はマンタもあれば,三線もあれば,同じシーサーでもセクシーなおネェちゃんをイヤらしーく見つめる“イヤらシーサー”なんてのもあれば,フツーのシーサーが4匹並んでいるのもある。黒地に金色で「ISLAND WEAR RYUKYU STYLE」と書かれた小さい袋に入れられた。ふと,アダルトビデオを買ったときに入れられる袋を思い出してしまった。

再び港に戻ると,時刻は10時半。船着場は港のいちばん南にある。とりあえず,その辺りまで歩いていくことにしようか。港にはいくつもの小型船が接岸している。色はどれも白地にスミ文字で船名が書いてあるだけ。だから派手さがない。そして,どこの船だかも分かりにくい。
さて,その道筋に「マルハ鮮魚」という魚屋…ではなくて“さしみ屋”を発見。ブルーの文字で「まぐろ」と書かれた看板の下には白いテントというそっけない造り。沖縄のさしみ屋では,その刺身だけでなく魚を使った天ぷらも売られている。もっとも“天ぷら”とは名ばかりで,実際は衣がモチモチのフリッターみたいな感じである。座間味で食べたヤツはなかなか美味かった(「沖縄卒業旅」第6回参照)。買う用事はないので外からガラスケースを見てみたが,残念ながら天ぷらは売っていなかった。もしかしたら欲しい人にはその場で揚げてくれるのかもしれないが,もちろん買う予定がないのに揚げてもらうわけにはいかない。そのまま素通りする。
店のテントの下には,白いビーチ用のテーブルとイスが何組が出ていて,おじさんが1人だけ座っている。見ればカラになったビアジョッキと皿があった。どうやら,ここではできたての(沖縄で言うところの“アチコーコー”というヤツだ)天ぷらと刺身とビールをデッキで楽しめるようだ。しかも天ぷらは皿に山盛りである。ビールと天ぷらで1000円だそう。多分それぞれ値段は半分ずつと見た。でも,1000円でも上等だろう。軽く立ち寄ったつもりがヘビーローテーションになること請け合いである。
何たって,たまに吹いてくる爽やかな潮風を浴びながら,まさしく“オーシャンビュー”のテラスである。休みの朝っぱらの楽しみとしてはなかなかオツなものではなかろうか。実は私にもこーゆーこともやってみたいなんて希望があったりするが,残念ながらまだ余計なプライドがこれを許さない。仕方なくそのテラスの奥にあった自販機でサンピン茶のペットボトルを買ってあげた。それでも,店の人たちにとっては邪魔なのかもしれないが。
そのまま南に進む。波照間海運の建物の前には,波照間島行きの高速船の時刻表。しかし,11時発のは欠航と出ていた。そういや,予報では波の高さは「2m」となっていた。ちょっと高いくらいだから,まず西表島との間にある島々へは船が問題なく出るだろう。しかし,外洋に出るとなれば話は別である。ま,明日はさらに穏やかになるという予報だが,今日のところはまだ波が高いのだろう。多少は揺れる覚悟はしておこうか。
ちなみに,西表島へはこれから行く東部の大原港と,西部の船浦(ふなうら)港・上原(うえはら)港に行くのと2パターンある。しかし,より外洋を通る後者は,特に波がより高くなる冬場は欠航になる確率がぐっと高くなることは,「沖縄標準旅」第8回にもちらっと書いた。上述の舟浮へのツアーもそんなわけで,夏場はより現地に近い船浦港から入るのに対して,10月から3月までは遠い大原港から入ることとなる。他のほとんどのツアーもこれは同様のようである。
でも,夏場であっても外洋を通ることにはどっちみち変わりないわけで,今回泊まる西表アイランドホテルがある祖納(そない)集落は,船浦や上原よりも西側に位置する。だからホントは船浦ルートで入ろうと思っていたのだが,より船が動きやすいことを考えて大原ルートにしたのである。でも,今日実際に来てみたら,船浦ルートもちゃんと動いている。かといって,こちらはすでに大原にてレンタカーを予約しちゃっている。うーん,この選択は失敗だったのか,それとも間違いのない選択だったのか。ちなみに,運賃だと船浦・上原ルートのほうが高くなっているので,その点ではお得なのだが。
――そして,桟橋の端っこ・9番乗り場にいたのは「あんえい8号」。チケット売り場の女性が,数字を書き間違えるややこしさがある。小型船である。男性3人でダンボール箱を次々と積み込んでいる。まだ,時間的には中に入れないのだろう。近くに置かれた土台に腰掛けたり,周囲を見回したりしてみる。そういや「ろうきん」が(失礼ながら)こんな南の島にもあったな。いやはや,週明けからまた忙しくなるなーと,誰にも分からない独り言をつぶやく。
それにしても,陽射しはそこそこあれど,空はスミアミ5〜10%というのに,相当ムシムシする。おかげでサンピン茶のペットボトルが“汗ダクダク”である。これをハンカチで拭く。当然濡れる。そして,その濡れた部分で火照った顔をぬぐう。気持ちいい。これぞ人間の知恵である……ってウソ。単なるケチかバカである。
さて,時間が10時45分になると,客らしき人が船内に入っていった。そろそろいいのだろうかと近づいてみると,男性の1人が作業の傍らであっさりと私のチケットをもらってくれた。なーんだ,これならば初めっから入ってよかったのかもしれない。キンキンに冷えた船室の最前列ではオジさんが寝ていたが,後で起き上がって港にくくっていたロープを動かしていたから,安栄観光の人なのだろう。
出航5分前ぐらいから,パラパラと乗客が入ってくる。でっかいリュックサックを背負った男性1人,まだ小さい女の子を連れた夫婦1組,若いバカップル1組,そして私。出航したときは,結局この7人しかいなかった。夏場だけにかなり混むかと思っていたので,ちょっと拍子抜けする。やっぱり,学校も休みに入る来週の3連休のほうが混むのだろうか。11時3分に出航。出るときに少しもたついていたが,何となくフラフラーっと「ほな行きまーす」ってだるーく港を出て行く感じだった。

(2)西表島へ
高速船は途中少し揺れたものの,無事11時35分に大原港に到着する。キンキンに冷房の効いた船室から出ると,一気にムワッとした空気がまず顔面を襲った。思いっきりメガネが曇ったのだ。とりあえず今日レンタカーを借りるオリックスレンタカーの人間を探さなくてはならないのだが,早速降りたそばにプレートを持って立っている女性が。メガネが曇って視界不良のままとりあえずそのプレートだけでも見ようとすると,女性は気を遣ってこちらに近づけてくれたが,別のレンタカー会社だった。かっこわるー。ターミナルの入口にもプレートを持った男性がいたが,こちらはどっかの民宿の人間だった。
ということは……なーんだ,結局お出迎えなしか。ま,港から歩いて2分ほどの場所だから構わないのだが,ちょっと哀しかった。港から集落に向かう勾配のある道を上がると,信号のある交差点。この信号が実は日本最南端の信号であるというトリビアを軽く披露しておくとして,その角にオリックスレンタカーの看板があった。周辺に公共の建物らしきものはほとんどない。そんな中で大手レンタカー会社の紺と黄色の原色バリバリな看板は,強く目に飛び込んでくる。
中に入る。男性が1人ちょうど電話をかけているところだった。「それはお客さまの責任で…」なんて言っていたと思う。そのうち「またかけます」と言って切ったが,多分早いところ切りたい電話だったのかもしれない。私が入ってきたのは,彼にとって絶好のタイミングだった…かどうかは知らない。そのうちに別の若い女性と交代。用事があったのか,彼は外に出て行った。
ところが,この女性がかなりトロい。まだ不慣れなのだろうか。やることなすことに時間がかかる。別に急ぎ旅ではないからいいのだが,この後で彼女にはエライ目に遭う……って,これも別に大したことじゃないのだが…って,だったら書くなよって感じだ(ホントに→一応第6回にあります)。いずれにしても,相当短気な人には堪えるキャラである。別に悪いヤツではないのだが――1泊2日,明日の17時返却で1万4175円。クレジットカードで払おうと思ったら,返却時精算だという。なので,手続だけして外に出ることにする。狭い駐車場にはいろんな車が置かれてあった。
今回あてがわれたのは,日産の「ブルーバードシルフィ」である。当初はもっと小さいサイズを予約していたが,元々車自体がなかったのだろう。ホントならもっと高いはずだ。そして,肝心のカーオーディオはCDのみ。これもまあ仕方がないか。でもって,カーナビもなし……あれ? つけて予約してなかったかと,今になって気がついたが,まあなくても道はほぼ1本だし,それほど迷うこともあるまい。そもそもこの手付かずの原生林が多い自然だらけの島に,道なんてごくわずかしかないのだ。
とりあえず,耳にイヤホンを入れて出発するが,「あ,そういえば」……と思い立って,ケータイに目をやる。「圏外」――やれやれ,前回旅行(「沖縄標準旅」第8回第9回参照)から2年半経ってもあいかわらずか。実は既述した「ツアーとは別に気になっていたこと」とは,このことだったのだ。そもそもオリックスの女性にもケータイ番号を教えてしまったが,これではまったく意味がなくなるし,それよりも何よりも,公衆電話が世の中からなくなっている昨今,どうやって明日の朝に舟浮ツアーの催行確認を平田観光にとればよいというのだ?(第2回へつづく)

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