琉球キントリ

(1)プロローグ
那覇空港,9時20分着。定時より20分の遅れだが,「この月にしては強い向かい風」で遅れたらしい。外はどんよりとした曇り空をしている。今回レンタカーを借りることになっている「スカイレンタカー(私が予約したときは「エックスレンタカー」。4月より改名したらしい)」の送迎車乗り場に急ぐと,まだ私1人だけだった。車内でしばし待つことになる。
外ではスカイレンタカーの男性2人が,隣の会社の男性と談笑していてすぐ出発する感じはしない。こちとら“貴重な20分”が惜しいのだ。しかも,これからブランチを取ろうとしているものだから,家で少しばかりキムチを食べ,機内でゆずジュースの「スカイタイム」とか,何やらサンプルでもらったと思われる大塚製薬の「SOYJOY」というお菓子を胃袋に入れたものの,相当に空腹でイライラしているのである。早いところレンタカーを借りて“自分のペース”に持ち込みたいところである。
2〜3分して,私と同世代ぐらいのカップルが乗り込んできた。たしか,チラッと見えた紙には7〜8組の名前が記されていたと思うが,このまま待たされるのかと思ったらば,外にいた男性の1人がケータイでやりとりした後で,もう1人が運転席に乗り込んで出発と相成った。車は,レンタカー店が多い赤嶺地区を右折して南下。国道331号線のバイパスに入って間もなく,左にある事務所に入り込んだ。所要時間にして5分ほどだったか。
とっとと手続を済ませたいところだが,「おかけになったお待ちください」だの「車を用意しますのでお待ちください」などと,至ってマイペースである……って,別に向こうはまったく悪くないので念のため。値段がたしか,1泊2日借りて4200円+免責補償が同3150円=7350円という安さだ。例えばオリックスレンタカーあたりだと,1日借りてたしかこの金額ぐらいのはずだから,いかに安いかが分かる。
逆に言えば,大手は“ネームバリューによる安心料”を少なからず価格に積んでいるということだろう。ま,かく申す私も結構その“安心料”を払わせていただいた身ではあるのだが……スカイレンタカーではカーオーディオは残念ながらCDしかないらしいが,その辺りは許容することにしよう。最近は大手でもCDしか取り扱わない店があるのだから,私にとっては“残念な意味で”ということにもなるのだろうけど,車自体の品ぞろえと装備では横並びなのだ。そうとなれば安いに越したことはない。
今回あてがわれたのは,トヨタのパッソ。沖縄では一昨年の7月(「サニーサイド・ダークサイドU」第1回参照)以来2度目。地元でも一度利用したことがあるので(「管理人のひとりごと」Part28参照),通算で3度目の乗車である。運転席まわりに収納が多くて,個人的には好きな車である。願わくば,しつこいがMDがついてくれればパーフェクトであるのだが。

(2)さぞかし屈辱的
まず行きたいと思っているのは,首里にある「あやぐ食堂」である。昨年12月に沖縄にやってきたとき朝食の候補に挙がった場所だったが,このときの朝食は松山にある「三笠」となり(「沖縄惰性旅U」前編参照),晩飯が「ルビー」となった(「沖縄惰性旅U」後編参照)。今度本島にやってきた際には,タイミングが合ったら行ってみたいと思っていたのである。
しかし,そんな矢先にあやぐ食堂は改築のために休業になってしまった。店のホームページのトップにその旨の断りがあったのだ。掲示板は(私が書き込みをしたわけではないが)なかなかレスがなかったりと,いつ開業するのか気になっていたが,店の人間が更新するより先に掲示板で誰かが,4月4日づけで「本日開業しました。花がたくさん飾られていました」などという書き込みがあった……めでたし,めでたしということで,晴れて今回行こうと決めたわけである。
道は何度も通った道である。ゆいレールの下を通る県道221号線,とよみ大橋を通る国道329号線のバイパスに入って,高速の那覇インターに向かうのだ。ただ,今回は高速には言うまでもなく乗らずに直進する。儀保交差点にて再び前方からゆいレールと出会い,そのまま右に曲がるのと同様に,こちらも右折する。この曲がってすぐのところに首里駅があって,ここでゆいレールはTHE ENDとなるが,私はそのすぐ先でさらに左折する。
工事なのかはたまた自然なのか,よく分からない道の起伏があって,周囲に路駐が多くてゴミゴミした中を抜けて最初の交差点にさしかかろうとしたときに,左上に「あやぐ食堂」の看板が見えた。なるほど,首里駅から徒歩3分(「沖縄惰性旅U」前編参照)…かどうかは歩いたことがないので分からないが,至近距離にはある感じだ。駐車場は信号で左折する旨,その看板の下に指示があったが,見ればその信号がある交差点の角に駐車場があって,そこに入り込めってことで間違いあるまい。
店の前には一目でタクシーと分かる車が数台停まっていることもあったりして,素直にその指示どおりのスペースに入って“積極的バック入庫”をしておく(「奄美の旅(勝手に)アンコール」第1回参照)。食堂はその向こう隣にあるわけだが,停め終わって冷静に見ると,タクシーの間にも車を停められるスペースがいくつか残っていた。なーんだ。
中は開店して間もないこともあって,明るくて清潔感たっぷりである。キッチンもわりかし大きく取られている。4人がけのテーブルがある座敷が四つ,6人がけのイス席が一つ,4人がけのイス席が二つと,衝立前の2人がけのイス席が一つに,カウンターにイスが二つというレイアウト。壁には薄型テレビが掲げられてあって,ちょうど大リーグの「ヤンキースvsオリオールズ」が放送されている。座敷にタクシーの運転手らしき中年男性3人がくつろいでいるところだった。私は衝立前の2人がけのイス席を確保する。カウンターは物が置いてあって狭かったりするし,今の時間は10時ちょっと過ぎ。こんな時間にドヤドヤと客が入ってくることもあるまい。
後で「お水はセルフサービスでお願いします」という張り紙に気づく前に,勝手にコップをカウンターから奪って目の前にある冷たいお茶の入ったポットからお茶を注いでおく。そして,せわしない感じのカウンターから女性が出てきたところをつかまえて「A定食」を注文する。830円。「A定食」というと,上述の「ルビー」で食べた肉・肉・また肉の“Too special over カロリー定食”があるが(「沖縄惰性旅U」後編参照),ホームページを見ている感じでは似たようなラインナップだ。
あのときは歩く途中で下痢になってしまって反省しきりだった。とはいえ,今回はほぼ空腹であるから大丈夫かもしれない。もっとも,朝食を抜いたからといって,Too special over カロリー定食を食べるのがいいだなんて,世の中の大多数が肯定するわけがないし,「A定食」以外にも壁には整然と,しかしながらたくさんのメニューが掲げられている。それらの中にはA定食よりもおかずが少ないB・Cといった定食もあったりするのだから,そっちを頼んだっていいのかもしれない。いや,どうせダイエットをしているのだし,奄美の旅のときは特に気にしていたのだし(「奄美の旅(勝手に)アンコール」第1回参照),そっちを頼むべきだと言えよう。
しかし…である。その一方で「この店のA定食はどーゆーものなのだろうか?」と興味が湧くのも,これまた正直なところなのである。「あるからには,頼まなければ後悔する」「どうせまた来られるか分からないのだし」などという感傷もある。だから頼んでしまったのだ……なーんて,ウダウダ書いてしまって恐縮だが,要するに「食べてみたかった」だけなのだ。
10分も経たないうちに,それは出てきた。20cm×30cmほどの白いプレートに,これまた豪勢に盛られている。内容は――@5cm×3cmくらいのハンバーグAウインナーのケチャップ和え二つBロースとんかつ(フツーのとんかつ屋さんより厚さは薄いが大きさは変わらない)1枚C半月型ポークランチョンミート1枚D“耳”がついた赤いハム1枚EスクランブルエッグFマカロニサラダG千切りキャベツ・サウザンドレッシングがけHたくわん二切れ…と,これだけでもすっごく豪勢である。BFG(さらにはH)で「トンカツ定食」が成立するし,CEFG(さらにはH)で「ポーク定食」が立派に成立する。そういえば,CDの間には黄色いものがへばりついていたが,これはチーズだった。2枚に挟まれている必然性などないのにもかかわらず,挟まれているのだ。地味ーにカロリーアップを狙っているのか。はたまた「腹いっぱい食べてほしい」という“女心”なのか。
しかし,これらに加えて乗っかっているのが強力だ。I天ぷらである。内容は@ウインナーの天ぷら二つに,AナスBピーマンC白身魚Dニンジン。これだけでも「天ぷら定食」が立派にできてしまう。ちゃんと天つゆがついているし,衣も沖縄独特のもっちりしたものではなくて,カラッと揚げられたものである。「ウインナーがA@で2種類の味が楽しめる」なんて流暢なことを言っている場合ではない。こんなに盛り込まれてしまうと,もはや“食べる”のではなくて“闘う”ことになってしまう。「趣味・嗜好」から一気に「仕事・労働」のレベルになってしまうのである。下手したら「苦役」である。
総評は「3種類の定食が一つのプレートに盛られて830円!」という驚愕のワンプレートである。天ぷらは「ルビー」にはなかったので,このあやぐ食堂のほうがヴォリュームは完全に上である。加えて,Jライスは茶碗に大盛であるし,スープ代わりで味噌汁のお椀に入っていたK沖縄そばは,具はなくてそばしか入っていないけれど,これもまたおかずに近いものかもしれない。トータルでは「常軌を逸した一品」とも言えようか。
もうこうなれば,片っ端から“食べていく”というよりは“つぶしていく”感覚で闘うわけであるが,残念,無念。今回は@FGを残してギブアップとなってしまった。Iは,なかなか美味かったし,記念に食べられてよかったかもしれないが,結果他のものを残すことになってしまったのは,ある意味本末転倒だと,ちと反省した次第である。はたまた「無茶が効かなくなった」ってことで,年を少しは取ったのかもしれない。ま,この場合は若くても無茶には変わりないだろうが。

あやぐ食堂を出発。来た道を戻って,那覇インターを越えた後は進路を東に取る。トップにも書いたように,今回の旅のメインは伊是名島行きである。伊是名島は第2尚氏の祖である尚円の出身地だ。これにいわば“後付け”する形で行くことにした佐敷(さしき)町…いや,今年から「南城(なんじょう)市」になったのか。正式には「南城市佐敷」に向かうために,東に進路を取っているわけだ。
「長文学」を名乗るゆえに,しょーもないことまで書いてしまうし,すでに「参考文献一覧」にもちらっと書いているのだが,ホントは「那覇―伊是名」間でエアードルフィン社という会社による運営でセスナ機が飛んでいたのである。途中,伊江島にも寄る場合があるのだが(「サニーサイド・ダークサイド」第6回参照),陸路はるばるレンタカーを借りて運天港まで北上することなく――公共交通機関を使うという手もあるのだが,名護から先,運天を通る路線バスが走っていないので,最後はタクるか運天に最寄りとなるバス停から歩くしかないのだ――,伊是名島までサクッとひとっとび。時間も40分で行けるということもあって,これに期待していて旅程を組みたかった。
ところが,いざ問い合わせてみると,「チャーターでしか飛べない」という。チャーターだとものすごい金額となり,これで一度断念した……というのが,最初の伊是名島行き断念の経緯。それから数カ月経って再び同じことを尋ねたのは,私もすっかり忘れっぽくなった……いや,厳密には,最初に問い合わせたのは「沖縄ツーリスト」という旅行代理店。詳しくは分からないが,エアードルフィンから譲り受けたのか何なのか,とにかく問い合わせ先としてあったために問い合わせたまでである。これに対して,2度目は伊是名島にある「伊是名レンタカー」というレンタカー会社だ。「なぜにレンタカー会社が?」という疑問はさておき,ここもセスナ機の取次先をやっているもので,問い合わせたのである。
しかし,返ってきた答えは「定期便はなくなったんですよ」というものだった。だから,セスナ機をチャーターしなくちゃいかんのだ。飛行機で行けなくもないのだが,あくまでチャーターという方法しかないのだ。ま,当たり前な結末といえばそれまでだが,あるいは別の回答を期待しちゃったりして,事実「聞いてみるもんだね」という答えが返ってくることが,往々にしてあるものではないか。それを密かに期待してわざと2度も,しかも問い合わせ先を変えて問い合わせて何が悪いのだ。忘れっぽくなったのではなくて,一応は“計算”なのだ――って,こんなとこでキレる筋合いはないので謝っとく。要するに「もっとも当たり前な答えが返ってきた」というだけのことなのだから。
ということで,ここは素直にレンタカーで北上するしか伊是名島に行く術はないのだ。運天港をフェリーが出航するのは15時半。羽田発を朝8時台の便にして11時ごろに那覇に着いたとしても,レンタカーを借りるまで30分,プラス高速を使ったとして2時間もあれば運天港まで行けてしまうから,当初はそのつもりで飛行機もレンタカーも手配していたのだが,那覇からダイレクトに運天に行くというのが,ここまで「惰性で“沖縄奄美旅”を続けている身」からすると,これまたもったいない気がしてきた。
そこで,いつものように…というのか,朝1便の飛行機で那覇に降り立って,どこかを観ながら運天港に行くということになったのだ。でもって,“第2”に行くからには“第1”にも目を向けなければ…というか,第1尚氏の系統の方々には失礼だが「ついでに触れておく」のが,このホームページのネタにもなっていいということで,これから第1尚氏発祥の地である佐敷城跡に向かうのだ。一度何かの折に旧町のホームページを見たときに,史跡がかなり多いようだったし,何度か通り過ぎていることもあって,一度は観ておきたい町でもあったのだ。
何の変哲もない県道を通り抜けて,与那原町から国道331号線に入る。この辺りからだろうか,急激に腹が痛くなってきた。間違いなく,原因はA定食であろう。やれやれ,またもこんなことになるとは。しかも,今回は車の中である。トイレに行くタイミングをゲットしなくてはいかんのだ。こんな大ポカ,犯罪じゃないからいいけど,警察が絡む犯罪だったらばすなわち“再犯”ということで,“実刑確定”である。初犯は反省の意思表示次第では“軽いお咎め”で済むかもしれないが,2度目となれば言い逃れようがない。「どーしようもないヤツ」というレッテルが貼られるのみである。
いやいや,ま,そうは言ってもなってしまったものは仕方がない。あるいはこのまま我慢できるならば我慢したいところだが,腹痛というヤツは風の強い日にたまーに強烈な突風のように,ある時は治まっていてもある時はズーンと打撃を加えられたりと,自分でコントロールが効かないのだ。そんな中でもハンドルだけはしっかり持って車を走らせているのだから,つくづく惰性ってヤツは恐ろしいものである。道も2車線になっていて結構車の量も多いので,簡単に停められないというのもあるだろう。
やがて,腹痛発生から10分ほどだったか,車線も片道1車線となって行政区域も「南城市」になっていたと思うが,左手にローソンがみつかった。コンビニといえばトイレ…という結びつけは,いまこの私にしかできない“珍技”であるが,駐車場も広いしタイミングとしてもちょうどいい――と思ってはいたのだが,佐敷城跡まではまだ距離がある。できることならば,“現場”に近いところで効率的に物事は済ませたいところ。まだ我慢できるし…ってことで,今回は見送ることにした。
すると,それをあざ笑うかのように,トイレ…もといコンビニや店の類いが突然なくなった。あるのは民家のみ。今から考えればどっかの民家で「すいません,トイレ貸してください」と言えば,あるいはよかったのかもしれないが,元々そんな図々しい…というか,あまりそんな“勇気”はない。“しかるべきトイレ”が見つからなければ,ひたすら我慢することしかできない愚か者である。

そうこうしているうちに,旧佐敷町の中心部に入って「→月代宮」という看板が出てきた。そうそう,今はたしかそういう名前になっているのだ。お宮さんを象徴するようなでっかい鳥居の下をくぐると,せせこましい急勾配の道に入る。周囲は「住宅時々畑地」という感じだろうか。そこだけ丘陵地形となっていることを利用した城であることを示すかのように,道はひたすら急勾配だ。とはいえ,この程度の勾配が上がることが体内に影響を及ぼすとは思えないのだが,再び腹痛が襲ってくる。このクネクネ道がどれほど人の神経を逆撫ですることになるか。いくら自業自得だとはいえ。
上がること数分,正面やや左手上に茂みが見えた。祠もちらほらと見えるので,何となく神社っぽい雰囲気だ。そして,右手を見れば公衆トイレが……あるにはあるが,何だか完全に“忘れ去られたような感じ”だ。中の様子が想像できてしまう。いよいよこの頃になると腹痛が増してきて,トイレの前に車をつけようかと思ったが,道が狭くて停められそうにない。茂みの前に大きな駐車スペースがあったので,そちらに車をつけておいた。
車を降りた瞬間,それまでは座って身体が固まっていたのが”解放”された状態になったのか,一気に便意がドドッと押し寄せた。月代宮へはさらに鳥居をくぐって階段を上がらなくてはならない。一方では私の身体の中は完全なる下り坂状態であり,転げ落ちそうな勢いすらある。これは鳥居をくぐるどころの状態ではない。その下り坂の勢いに負けたというのか,どうにも我慢ができずに“ホウホウの体”でトイレに駆け込むことになった。距離にして坂を下ること20m。この距離の何と長いことか。鳥居の周囲にトイレはない。まさか祠もあるような場所で“野×ソ”ってわけにも行くまい。
そんなこんなで辿りついたトイレはといえば……かえって「ラーラーラーララーラー♪言葉にできない」と歌いたくなっちゃうくらいに,それはそれは世紀末的な阿鼻叫喚な汚さである。「汚物にまみれ,スカトロの空」by BUCK-TICK『MY FUCKIN'VALENTINE』――もちろん和式だし“ボットン”だし,放置し放題。何年掃除していないのか。行政は何をしているのか。こんなところでできることならば…というか,調子が快復しそうならば一刻も離れたいくらいの場所だ。トイレと下の方にはものすごく神経質な私にとって,これほどの屈辱はないってくらいに屈辱的な思いがする。
しかし,押し寄せる腹痛は私の葛藤を全否定する勢いである。もちろん自業自得だから,それこそ「自分のケツは自分で拭かなくてはならない状況」である。戸のカギはかかっているんだかいないのだか分からないし,床にはいろんなものが汚物に半分まみれたまま散乱しているので,ジーパンはそこに間違ったって置けない。仕方ないので「まだマシ」とばかりに,外の地べたに置いといた。パンツは手に持ったまま。ティッシュはどうせないだろうと持ってきていて,案の定やっぱりなかった。こーゆーときのために持ってきといてよかった…なんて,こーゆー状況で使いたくなかったのに……。
――後味の悪い用事を取り急ぎ済ませると,パンツとズボンを履かなくてはならない。当たり前のことが,この区切られた汚物まみれのスペースではとてもできそうにない。そんなときよりによって,衝立はあるとはいえ,主婦が乗った車が1台坂の上からトイレの前にツツーと降りてきていた。こんなときに降りてこなくっても……はて,彼女から見えやしないか不安になったが,こちらだって仕方なく外に出てそそくさとパンツとズボンを履くしかない。あるいは視線をくれていたら,確実に私のセクシー…もといグロテスク…はさすがに卑下しすぎか。とにかく“生着替え”が見えてしまったかもしれない。“公然ワイセツ”なんて言われようものならば,この放置し放題のトイレが悪いのだ。
そして,左に目をやればこれまた近くの畑では男性の姿が。この男性の方向には衝立がないので,あるいは彼からは私の“生着替え”が見えてしまったかもしれないが,何も反応がなかった――ま,反応のしようがないかもしれないが――ってことは,多分見えていなかったものと信じたい。淡々と土曜日の農作業の風景だけが展開されたのだと信じたい。多分,周囲の人物もこんなトイレを利用する人間がいるなんて思いもしないであろう。
何事もなかったかのように,身体は再び軽くなっていた。恐るべしA定食。これで2度と食うまいと心にマジで誓ってしまった。そして,あのトイレには何年もかけて蓄積されたであろう“プロダクツ”の上に,さらに私が新たに“あやぐ食堂で仕込んできたプロダクツ”を重ねたという事実だけが,紛れもなく残ったのである。今度あのトイレに入った…というか,多分私と同様に“やむを得ず入らざるを得なかった人物”がいたとしたら,彼は一体何を思うのだろうか。
こんなトイレだから,手洗い場なんてのももちろんない。あるのは回すところがもげた蛇口3本だけだった。せめて,どれか一つだけでも機能してくれよ……これからこんな“不浄の身”で神社に入らなきゃいけない身にもなってもらいたい,新「南城市」の行政の方々。くどいようだが,たとえ“再犯”の自業自得であってもだ。(第2回につづく)

琉球キントリのトップへ 
ホームページのトップへ