沖縄・ミッションコンプリートへの道(第1回)

A無国籍な空間
「サンパウロの丘」を見終わって,ひたすら広い道を東へ向かう。両側は地図を見れば,嘉手納飛行場の敷地である。すなわち,我々はいま米軍基地の中をひた走っているのだ。もっとも,この道路自体は日本のものかもしれないが。
そして次に向かうのは沖縄市。「コザの街を見たい」とかねてから言っていたH氏の希望により訪れることとなる。ガイドブックを見ながら,メシをコザらしく,タコスかタコライスにでもしようかという話にもなった。実は昨晩の夕食をコザの街で,という計画もあったのだ。
私はちなみに3度目。間もなく国道329号線に入ると,道は広いし,ある程度慣れているから,車線を結構頻繁に変えたりしていた。それでも,大分昨日の寝不足からくる疲れがたまっているのか,せっかく入った車線で偶然前を塞ごうものなら,イライラが思いっきり出てしまう。そんな私を助手席のM氏が適当にあしらう。あるいは,ここいら辺からM氏にハンドルをお願いしてしまおうか。
さて,そのコザの交差点は,あっという間に通過してしまう。このまま行けば大幅にコースを外れるので,途中の交差点で右折して「くすの木通り」を目指す。住宅街の狭い道をまっすぐ北上すれば「空港通り」に入れる。
そして予定通り,空港通りに入った。この通りこそ,私が沖縄で「アメリカの田舎町」が体験できると思っている場所だ(「沖縄標準旅」第1回参照)。だが,日曜日の午後は結構車が出ている。ロードパーキングができる通りなのだが,左にうまく入れない。そうこうしているうちに目の前に嘉手納飛行場の正面ゲートが現れた。左右には立体交差になった広い県道が走っている。あと駐車できそうなとこと言えば,中央パークアベニューにある「コリンザ」(「沖縄標準旅」第2回参照)は,大きなテナントビルだから駐車場があるかもしれない。
そのゲート前の広い県道を一路右折すると,早速,右手に「コリンザ」の高い建物が見える。「P」という看板があるので駐車はOKそうだが,位置的には北の外れになってしまった。「ま,ぐるっと見られるからいいよ」と2人にフォローしてもらって,駐車場にめでたく入庫。駐車場はビルの6階になる。1時間300円だが,中のテナントで買物をして駐車チケットを提示すれば,3時間までタダになるという。
エスカレーターで1階まで降りる。と,1階にベスト電器が見えた。「ここで帰りに何か買物でもしよう」とM氏。こういうときの“連れ”の存在は有り難い限りである。でも,少なからずムダな出費…というよりもムダな“荷物”を作らせてしまうのが,ちょっと申し訳なくもあるのだが。

中央パークアベニューは色が白に統一されていて,店の軒が連なった下り坂の通りだ。下から上に上ってくる一方通行で,道幅は車1台が通れる程度。詳細は「沖縄標準旅」第2回を参照いただくとして,人通りはほとんどない。店も日曜だからか,シャッターが上がっている店は半分程度。ちなみに,最初にすれ違ったのは,白人の家族らしき女性2人。あらためて外国人街だと実感する。
早速,左に「チャーリー多幸寿(たこす)」というタコス屋の老舗を見つける。緑と赤と白の発光ダイオードで「沖縄の味 チャーリー多幸寿」と店名が書かれているが,パッと見サ店か韓国料理屋に思ってしまう。店の窓には“since 1956”とあるので,50年近く前から営業している。外に貼ってあったメニューを確認すると,タコスはもちろん,「チャーリーライス」と呼ばれるタコライスもある。時間は11時半過ぎだが,朝のバイキングで腹持ちがよく,今すぐ入る気にならない。ここはひと通り街中を見た後で戻ってこよう。
ブラブラ南下して,「次男」という食堂の角で右折する。2002年年末に訪れた「次男」では,外に掲げたメニューに表記してある英語がご愛嬌なスペルミスをしていたが(上記参照),それから1年余り経っても同じままであった。誰かが指摘をするまでもないのだろう。
そのまま路地を直進をすると,胡屋(ごや)のアーケード街。このアーケード街も,私は2002年時に訪れている。9年ぶりの沖縄訪問で,一番最初に降り立ったのがこの場所(「沖縄標準旅」第1回参照)。それから1年以上続いている“沖縄病”の元凶……いや,原点でもある。ここも変わらずに天井がくすんだ感じで,シャッターが開いているのは半分ほどと言っていい。ちなみに“胡屋”と“コザ”と紛らわしいが,H氏いわく,「アメリカ人が“胡屋(GOYA)”を“コザ(KOZA)”と書き間違えたんだ」。もちろん,それは第2次世界大戦後のことだろうが,それまでの長い地元の歴史よりも,“書き間違え”という自分らの都合によった以後の50〜60年の方がまかり通ってしまうのは,いかにも大国・アメリカの“力”である。
さて,アーケード街を歩きながら,この辺りのことを私が旅行記で書いた話(上記参照)になった。結論としては「ボリュームが多すぎて忘れてしまう」「写真がなく文章のみなので,どうしてもスケールが想像しにくい」ということだが,私はあくまでも“長(蛇)文学”の一貫で書いているつもりなので,このスタイルを変えることはないと思う。写真は適当にどっかのホームページで見てもらえばいいし,見たくなければ削除してくれればいいだけ――ま,それはどうでもいいとして,彼らにはこのアーケード街が,想像していたのと違って見えたということだ。
そうそう,自分が記憶に残っているアーケード街の店として,胡屋バス停そばのレコード店がある。ここも店が閉ざされていて,十数年前の“熱すぎる”吉田栄作のポスターが貼られたままだったのだが,今回その店は完全にシャッターが閉ざされていた。完全に売りに出されたのかもしれない。

そして空港通りに入る。人通りは先ほどの中央パークアベニューよりは多い。もっとも,通りの広さもあり,人口密度自体はさしてないのだが,やはり“駅前”ならぬ“ゲート前”ゆえに,好天も手伝って明るい印象を持つ。
さて,1年ぶりのこの通り。既述の「アメリカの田舎町」という表現はいささか誇張が入りすぎたかもしれない。たしかに英語表記の洋服店の看板は多いし,かかっている曲もヒップホップだったりはしたが,何か1年ぶりに来たらそれほどでもないと思う。やはり,寝不足がたたっているのだろうか。
いや,たしかに日本人よりは外国人の姿の方が圧倒的に多い。その点ではアメリカっぽい――もっとも各個人の国籍はさまざまな可能性もあるので,ここでは軍の所属する国ということで――気はするが,町並み自体はむしろ“無国籍”という表現のほうが適していると思う。2人も,それほどアメリカっぽい印象はしなかったようだ。
通りを歩いていると,たまたま路駐していたタクシーのトランク脇に「(AUTHORIZED)ON BASE」と書かれていたのに気づいた。1年前には気がつかなかったものだが,2人いわく「米軍基地に乗り入れが許可されたタクシー」ということだ。なるほど,走行しているその種のタクシーの客は一応に“日本人離れした顔”をしている。そして,また“この街らしさ”でもある。こういうときに博学な2人は実に頼りになる。ってか,私がアホなだけか。
さて,M氏が「路地に入らせてほしい」と言ってきたので,1本道を中に入る。「街を見るには歩くのが一番」とは彼の後日談だが,それは私も同感だ。レンタカーではどうしても地理に不慣れだと大通りを走りがちだ。よほど,昨日の首里城での出来事(第3回参照)のように,道を間違えたりしない限りは,路地なんてまず入らないだろう。そういう意味でも,歩いて街を見るというのは有効だ。
1本中に入ると,そこは住宅街…というよりは,沖縄の下町っぽい風景。家が密集して建っているため,道は基本的に狭いし,仮に幅を広げたとしてもヘンな広がり方をしている。それがまた魅力的なのだ。家は所々伝統の平屋建ての赤瓦家屋が混じっている。この付近は前回も来ている場所だが,また新たな発見があるかもしれない。
ブラブラ歩いていると,右側に巨大な亀甲墓と破風墓が出現する。M氏と私は昨日これらの墓を“体験済み”だが,H氏は繁華街の国際通りの散策だったので,いわば“初体験”。いくつもの墓が,家と家との間の隙間を縫うように建っているのは沖縄らしい光景。H氏もM氏も再びシャッターを切る。私もたしかここは前回と道が違っていたと記憶しているから,この場所自体は初めてとなる。そして昨日のM氏と同様,おいちゃんにも軽く“レクチャー”させていただく。今回の旅で私は「私設ガイド兼運転手」(M氏)の位置付けにあるらしい。

再び空港通りに出る。前回訪問で遅いランチを食べた「BIG BULL」(「沖縄標準旅」第1回参照)を通過すると,先ほど車でかすった嘉手納飛行場の正面ゲートが現れる。「あそこまでせっかくだから行こう」ということになって,広い数車線もある県道を渡る。そして,併走する沖縄自動車道のガード下をくぐり,いよいよ目前に「安保の見える入口」を垣間見る。
……といっても,もちろん部外者の我々はここまで。そんな近くまで行けるわけでもなく,数十m先で,ゲートチェックを受けて中に入っていく車を見ているだけだ。M氏とH氏はそれを写真に数枚収めている。何だか“見えない壁”が立ちはだかって,ちょっとした威圧感すらある光景だ。ガード下の壁には地元の体育館でボクシングの試合があるようで,そのポスターが何枚も貼られていた。それをM氏がデジカメに収める。値段を見てみると,やはりドルである。もっとも,出場する人間はみな日本人なのだが。
そんな我々の後ろから,白人の同世代くらいの背の高い男性3人組が通り過ぎて,中に入っていく。近くで改めてみると,明らかに体型が違う人種だ。その彼らにとって,ここは日常……いや,厳密に言えば彼らの出身国ではないだろうから,完全に日常ではないのかもしれないが,それでも我々よりは日常に近いだろう。
ちなみに嘉手納基地内は,宿舎をはじめ,スーパーマーケット,学校や娯楽場,食堂,映画館,ゴルフ場などが完備していて,基地内は都市そのもののようである。また,年に1回,7月4日のアメリカ独立記念日の前後に,市民に開放されるそうだが,基地の渉外部という部署に申し込むと,それ以外の日でも案内されるらしい。
その「安保の見える入口」を後にし,一路チャーリー多幸寿に向かう。再び広い県道を渡ろうとすると,その県道で右折の信号待ちをしていた車が数台。ふと,ナンバープレートが目に入る。見ると,ナンバーのひらがなになっている部分が一律に「Y」となっている。そして,中を見れば,いずれも“日本人離れした顔”のオンパレード。信号が青に変わってその車数台が列をなして右折する。その先は,言わずもがなだが,先ほどのゲートである。
この「Y」についてはさしもの博学な2人も分からないようだ。「“YANKEE”の略じゃないの?」なんて皆で冗談を言っていたが,後日ヤフー検索をしていたところ,国土交通省・中国運輸局のホームページにある「ナンバープレートあれこれ」というページにその答えがあったので付け加えておく。
それによれば,答えは「日本に駐留する軍人・軍属等がプライベートで使う自動車で,関税や物品税が課税されるもの」となるようだ。「課税されている」わけだから,「免税されている」ヤツに比べれば堂々と街中を歩ける……かどうかまでは知らない。でも,所詮は文学部の人間なので厳密に知りたい方(いるわけないだろうが)は,法律に詳しい方に聞いてほしい。

さて,昼飯@チャーリー多幸寿だ。時間は12時半過ぎだろうか。ものすごく空腹ではないのだが,少しは腹ごなしができたと思う。中は4人席が10席弱ほどで,とても雑然としてやっぱりサ店っぽい。その雑然さを演出するのは,壁に貼られた無数の紙とサイン色紙。紙に書かれているのは「チャーリーライス最高」「また来るぜ」など。この店の人気度を知ることができる。
また,色紙には沖縄出身のタレントが多く,有名どころだと,DA PUMPはメンバー4人の色紙及びそれを持った写真が飾られていて,2002年5月の日付になっている。あと,首里城のところでも登場した(第2回参照),いまや人気急上昇中のORANGE RANGE,なるほどなと思ったのは,元祖・沖縄出身アイドルのフィンガー5。そして,そんな中でTシャツ姿にサングラス姿の藤原紀香の写真もある。
カウンターは「昔はこうだったんだろうな」って思わせる,昔のファーストフード店風で,それを示すかのように,座席をまず確保してから,カウンターで注文をする。私はチャーリーライス(525円)に,ドクターペッパーのSサイズ(105円)を注文。他の2人は,チャーリーライスとコーラのMサイズ(飲み物はあいまい,値段不明)を注文して,プラスM氏がビーフタコス(三つで630円)を注文する。ビーフタコスは“皆で食べる用”の注文だ。そういや,ドクターペッパーなんて,随分久しぶりに飲むな。それと,Sサイズとはいえ105円とは安い。○ックだったらSでも150円はするだろう。
建物は2階もあるようだが,その階段の壁際に座る。中は1組だけ客がいるが,時間帯の割には空いている。あるいは,夜型の民族ゆえ,もう少し遅くなって混み出すのだろうか……なんて思っていたら,客が1組2組とぼちぼち入ってくる。店らしく,いずれも親子連れである。
いよいよチャーリーライスが出てきた。30cm×15cmほどの長方形の皿の中,ご飯の上に,ひき肉とチーズと赤いサルサソースが乗ったタコライスだ。しかし,よく見ればシャキシャキのレタスは,隣でサウザンドレッシングがかかったサラダとなっていて,ライスの中には入っていない。福神漬けもついていて,これが老舗のスタイルなのか。あるいは適宜混ぜて食せということか。ま,結論としては,その辺は沖縄の言葉でいうところの「テーゲー(大概)」なのだろう。
ということで,私はときどきサラダと混ぜて頬張る。タコライスについては2002年末,那覇の店で経験済みだ(「沖縄標準旅」第5回参照)。よって特段の感動はないのだが,そもそもこの具材の組み合わせだったら,まずくもならないが,かといってものすごく美味いという料理にもならないだろう。まあ「外さない」味といったところだ。味の決め手となるサルサソースは別に器に入っていてかけ放題。甘いも辛いもOKの私は,これでもかとソースをかけておいた。

こうして老舗のタコスを堪能して,コリンザに戻る。M氏とH氏は,1階のベスト電器をウロウロする。もちろん,上述したように駐車場代をタダにするためだ。
そして,私はといえば隣にあるレコード店へ。無論,駐車場代をタダにするのもあるが,いかんせん車内に音楽がないのがさびしい。もっとも,2人とテキトーにしゃべっていれば,時間なんてさっさと過ぎてしまうものだ。しかし,昨日丸1日音楽を聴けていなかったので,今日はさすがに我慢できずにイヤホンを片方の耳に突っ込んで,朝から運転していたのである。多分,2人にはヒンシュクだっただろう。
しかし,どうにも欲しいCDが見当たらない。BoAのCDがリリースされたばかりで,店頭に平積みになっていたが,どうも好きではない。倉木麻衣のベストも,最初のころの音楽は好きだが,最近はまったく聴いていない……結局,何も買うことなく,店を出てしまった。
で,結局はM氏がCD‐Rの束を1束購入することに。カウンターで,駐車チケットを機械に通してこれでOK。駐車代はタダ……といってもCD‐R代になるから,いずれ使うものといえど,かなり割高になってしまったか。ちなみに,2人からは「“ホームページビルダー”でも買ったらどうだ?」と言われはしたが,興味云々より荷物になるのがイヤで辞めといた。自分で車を入れときながら,誠に身勝手なヤツである。(第6回につづく)

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