奄美の旅(第1回)

Aデミオと私の運命
西郷レンタカーには,17時過ぎ到着。例の凹みは,目立つし,後で何かトラブっても嫌だから,自己申告はきちっとするつもりではいた。
車を降りると,女性がこっちに向かってくる。彼女は開口一番,
「その右のドアの凹みは,前からあったものですか?」
と言ってきた。貸し主ならばなおのことよく見えるものなのだろう。私も凹みの経緯をきちっと説明すると,
「精算は,まだお済みではないですか?」
と聞いてきた。ちょいと困ったような表情。なんか,イヤな予感。
「クーポンだったので,お金は払っています。代理店経由です」
と答えておく。ちらっと第3回にも書いたが,旅行代理店の南西旅行開発のホームページから申し込んでいたのだ。代理店経由だから,保険加入はしっかりされているだろう。
女性がパンフレットを取り出して,説明を始める。
「えー,あのような傷ですと……まあ,運転して戻られてきましたので」
と,パンフレットの一部分を指差して,
「自分で戻ってこられないとなると5万なんですが,自走ということで,2万円をご負担いただくことになってしまうんですけど……」
ときた。一瞬,何のことを言っているのか分からなくなってしまったが,
「次のお客様にそのままお貸しするわけには参りませんので,修理に出すということになります。ゴールデンウィークで予定も詰まっていたものですし……」
と言ってきた。自分としては走行に支障はなかったし,まあそれはその通りだろうとは思う。が,向こうの反応としては,思いのほか深刻なようだった。しかし私も,昨日の「香川鮨」の主人の言葉(第2回参照)がひっかかっていたので,
「保険は効かないんですか?」
と聞いてみた。しかし,
「南西さんは保険に入っていますので,本来なら5万円かかるところが,2万となっているんです。こういうレンタカーの凹みについては,どこの保険会社さんについても,対象外なものですから」
とのこと。こうなったら仕方あるまい。結局カード払いで2万円を奉納することとなってしまった。

しっかし,あの程度の凹みで2万円とは正直驚いた。陽に当たると目立つのは確かだが,余裕で走れるわけだから,いささか取られすぎでは思ってしまった。「この2万円というのは,いくつ凹みをつけても自分で戻ってくれば2万円なんですか?」と思わず聞きたくなったが,それはさすがに不謹慎なので言葉を飲み込んだ。でも,そういうことなのだろう。だったらば,もうちょっと自分傷つかない程度に,そして車も走れる程度に何ヵ所か凹ませてやりゃよかったなんて,失礼なことを思ってしまった。まあ,相手の立場としては,走るには差し支えなくても,見た目としては提供するにはマズいから,やっぱり修理に出さざるを得ない。そして修理期間中の損失もそれなりに出るから,ということだろう。
17時25分発の,予定より1本早い帰りの名瀬行きのバスは,なんか疲労感がどっと出た感じだった。大げさではないが,2万円とともに魂まで抜かれた気持ちになった。しかし,修理に出したらホントに2万円もかかるのだろうか。最近CMをよく見る「カーコンビニ倶楽部」あたりだと安く済むんじゃないのか。ゴールデンウィークで予定が詰まっているというが,「やむを得ない」ということで,あのままもし明日も走っていたら正直ムカつく。
すると,バスが走り出して5分,カーコンビニ倶楽部の前を偶然にも通過する。空港の周囲に自動車修理店を見なかったので,多分ここに修理を持って行くのだろう。ちなみに,ホームページでは,条件を入れると見積もりを出すことができる。今回のケースを,
  車種:ハッチバック(「デミオ」はないが,「ヴィッツ」等と同扱いとした)
   車両重量:小型自動車
   カラー:メタリック/2コートパール
   破損個所詳細      破損個所     破損の種類   破損度合
             フロントドア(右)   へこみ    〜30cm
とみなして出すと,意外にも「3万5000円〜5万2000円」となった。もちろん,これよりも安くも高くもなろうが,チェーン店というわりには結構高いものなのだ。となれば,約半額負担となる今回のケースは,妥当な範囲なのだろう。まあ,何よりも「2万円」というべらぼうに高くもなく,かといってそんなに安くもない程度の金額負担が,適度な反省を促すにはちょうどいいのかもしれない。

(8)名瀬市 Part3
@「ゆめのあるまち」
バスを終点手前の「名瀬郵便局」にて下車。近くにある「中央通り名店街」を散策するとともに,この商店街でパンツを購入したい(だしぬけに失礼)。昨日は「香川鮨」に行った後,下着類を現地調達するのに,近くの地元コンビニに寄ったが,Tシャツが1枚900円とある。これだと高すぎなので,他にないかと夜の中心部をさまよって,結局「グリーンストア」という,これまた地元のスーパーマーケットに辿り着き,ここでシャツ(2枚で800円)と靴下(2足で1000円。ホントは5足980円というのがあったが,荷物になるのがイヤで買わなかった)は2泊分購入した。しかし,パンツだけは1枚で1000円と割高だったので,買うのをやめていたのだ。本日分は,沖縄旅行時に買ったダイソーの「使い捨て5枚・100円」(「沖縄標準旅」第5回参照)が一つ余っていたのでOKだが,さすがに,明日まで2日連続は履きたくない。
早速歩いていると,洋品店というやつを数件見かけるが,「かわぞう」という店が下着類を置いているようなので,ここに入って1枚購入する(630円)。メインはスポーツ用品のようだが,この店で驚いたのはレジ。略称してはいけないと思うくらい「レジスター」という言葉がぴったりのやつだ。バーコード部分をスキャンすると値段が一発で出る,というのが当たり前な中,ここのは手打ちである……とここまではあり得る話。なんと,値段の出る数字板がガチャガチャと音を立てて回転するアナログなやつなのだ。おもちゃかと一瞬見紛う,ホントに「レジスター」という,「当時では画期的なものだったんだぞ」と言わんばかりに付けられた名前がぴったりの機械。こやつが,現役バリバリなのである。しかも,5%の消費税にきっちり対応ができているから,大したもの。渡されたレシートには,青の濃いインクで,タイプライターみたいな印字がはっきりとされていた。

この商店街はアーケードがあって,昭和40年代辺りのレトロ感がたっぷりである。昨日来たときは20時過ぎということもあり,店は軒並み閉まっていたが,18時台ともなればさすがに開店している店が多い。そして失礼だが,意外にもつぶれている店は少ない。アーケードの入口には,「中央通り商店街 ゆめのあるまち 出逢いの街」という看板がかかっているが,アーケードを作っているトタンの色が変色しているのを見ると,何だか「ゆめのあと」感が漂ってくる。
そのアーケードの看板の下には,レコード店があるが,「TOSHIBA」のロゴとスペースを共存している(店名は忘れた)。いかにも町のレコード屋で,メインは地元島唄か演歌かと思ってしまう。おしゃれさ・洗練さは微塵もない。しかし,まあ当然と言えば当然な話,いまどきのJ‐POPも置かれているし,無造作に貼られているポスターには,宇多田ヒカルだのBoAだのsmapといった有名どころがズラリ。端っこには,MOB SQUADも貼られているから,シェア自体は,いまどきを反映したJ‐POPが主体なのだろう。個人的には,ここで例えば元ちとせの島唄CDでも売っていれば,1枚記念に買っておけばよかったと思っているが,HMVやタワーレコードといった都会のショップに慣れすぎている私にしても,こういう地元密着系の店舗は,あればあったでどこかホッとするものがある。
路地を1本入ると,女子高生らしき5人組が店の前でたむろっている。その店は「SANRIO」と書いてあったから,「SANRIO」の代理店か何かなのだろう。でもその横には,思いっきり生活感あふれる総菜屋が,軒を同じくしている。こういうアンバランスさも地方らしくて,私は好きである。彼女らがもし,東京に出てきて渋谷や新宿の巨大店舗群に出くわしたら,一体どんな表情をするのだろうか。

A新穂花の夜
そろそろ夕飯の時間である。その「SANRIO」と総菜屋の店舗脇を左折すると,「新穂花」という創作料理店がある。昨日の「香川鮨」にもう一度行ってみようかとも思ったが,2万円を取られたと報告するのも,何だか恥ずかしい。気の毒に思ってまけてもらえるかもしれないが,それも何だか恥ずかしい。いや,そんな期待をすること自体,間違っている。きちっと勘定だけはさせられるだろう。そう思うとバカバカしい……そんなこんなで,この新穂花に入ることにした。
店内に入ると,エキゾチックな雰囲気がただよう。すぐ右に土産品がこぎれいに並んでいる。地元で取れた塩なぞを売っているようだ。少し待っていると,カウンター席に案内された。
カウンターの後ろには大きな座敷があり,3ヶ所に仕切られた中の真ん中には10人くらいの客がすでにいる。脇の席にもグラスやナプキンが置かれているので,これからも人が入ってくるのだろう。ちょうど料理が出始めているようで,従業員の動きがバタバタしている。店に入って少し待ったのもこのためのようだ。厨房も戦闘開始状態で,あちこちから大声も飛んでくる。こういうバタバタ感は,個人的には絶対客に見せるべきものでないと思っているだけに,少しげんなり感を持つとともに,やっぱり「香川鮨」にすればよかったかと,ちょいと後悔もする。
まあ何はともあれ,注文をすることに。店外の黒板にはコース料理が3種類書かれていて,いずれも島料理を食べられる。その中でも「おてがるコース」というのがあるというので,それを選択する。5種類の料理とおにぎりと味噌汁つきで2100円。
一番最初に先付に出てきたのは,豚の味噌漬けというやつ。小鉢に盛られたそやつは,ベーコンをかつおぶしで和えたようなもの。肝心の味噌味はあまりしない。

後ろの座敷には人がぞくぞく入ってきている。さっき開いていた脇の席にも,また店の奥のほうにある個室のテーブル席にも人が入っていく。おそらくは予約していたのであろう。また,カウンターの空いている席には,仕出しと思われる料理も置かれている。これからどこかに届けるのだろう。注文も入ってきているようだ。あらかじめバタバタするのが分かっているくらいなら,私1人であっても「満員」と言って締め出してくれたったよかったのだ……なーんてことを思ってしまうくらい,バタバタ感がさらに増してくるが,多分2万円を取られたショックも微妙にひきずっていることは間違いない。
そんな中,次に2品が出てくる。こじゃれた器に,刺身が3種類ちょこっと盛られている。何の魚かは不明だが,赤身と白身である。そしてまたも出てきたのは,豚骨の煮込み。こっちはスペアリブの豚骨だけ味噌味で,添え物のこんにゃくと昆布巻きは,薄味のやつである。よく言えば「洗練されている味」というのだろうか,香川鮨で食べたこってり感はない(第2回参照)。
その次には「島タコの島味噌和え」「島豚の塩焼」が出てくる。前者はその名のとおりのものが,味は普通の酢味噌和えだ。後者はベーコン状の焼物だが,いま流行りの「トントロ」みたいな感じだ。
この後,料理はしばらく来ない。たかだかおにぎりと味噌汁だけなのに,だ。後ろの集団が頼んでいるのは,薬膳料理のよう。ウコンとかが入っているやつだ。同じメニューばかりをまとめて作るというのは,店側にとっては結構楽なわけで,それは日吉裏のとんかつ屋「とらひげ」であからさまに言われたことからも立証済み(?)である。私1人なぞ,店側からしたら迷惑な存在なのだろうが,だったら,繰り返すが私を入れなければよいのだ。
10分ほどして,ようやくおにぎりと味噌汁が出てくる。おにぎりは普通のやつで,味噌汁は豚肉とわかめが入っていた。とっとと食して外に出る。うーん,それなりに新穂花もうまかったけど,やっぱり香川鮨に行ったほうが,何だか気も晴れてよかったかなと改めて思ってしまった。
ホテルに戻ってふと外を眺めると,部屋からはいろいろとあった例の駐車場が見える。私が2度目に入れた向こう岸の電柱脇には,「こんなの当然」とばかりに,きちっとまっすぐ車がバックで入れられていた。

(9)奄美から沖永良部へ
最終日の朝は,8時55分名瀬バスターミナル発の空港連絡バスで,奄美空港へ。そして,10時半発の飛行機で,次の目的地・沖永良部島へ行くことになる。1日沖永良部を見て,帰京だ。
名瀬バスターミナルは,奄美交通のビルの下にある。待合室の建物は平屋建てだが,椅子が30席ほどある広さ。人がちらほらと座っている。時間が20分ほどあったので路線図を見ていると,本数はともかく,結構バス路線は多いことが分かる。大きく分けて,ここ名瀬と古仁屋,そして昨日寄った赤木名の3カ所が,バス路線の中心地となっている。名瀬からは東西南北に伸び,古仁屋路線は南部をカバー,赤木名路線は北部をカバー,という形である。しかし,西部の宇検・今里間,および道を迷った名柄・久慈間(第3回参照)にはバスが通っていない。
そして,そういった市外線とは別に,名瀬市内には市内線というのが,たくさん走っている。ボロバスやマイクロバスといった類いをよく見たのは,この市内線だったのだ。中心部だと10分に1本くらいは便がある。こうして待つ間にも,市内の集落と思われる行き先のバスが,次々に入っては出て行く光景を目にする。
空港行きのバスは,そんなボロでもマイクロでもない,普通の観光バスみたいなやつだ。8時55分予定どおり出発し,空港にも9時50分無事到着。

沖永良部行の飛行機は,36人乗りのJAC小型プロペラ機。こいつもYS‐11とかいうやつの仲間なのだろう。進行方向左が1人席で,右側が2人席。私は1人席の前から4番目に座る。翼の横は免れたが,外を見ると横にはプロペラがある。
飛行機は予定どおり出発。離陸時に,ホントはいけないのだが,どうしてもあの曲で飛んでみたくてMDをかける。やっぱり(?)山下達郎の『RIDE ON TIME』だろう。出だしの「青い水平線を〜」というフレーズに,ピアノとバスドラの音が,「これから飛ぶぞ」という高揚感を与えてくれる。下には大海原。太陽も心なしか,ジャンポ機に乗っているときに比べ近くに感じる。「GOOD LUCK!!」のキムタクではないけれど,手をかざしたらホントにつかめそうな気もしてくる。        
それにしても,プロペラの音とエンジン音がバリバリとうるさく,シートも低周波電流でも流しているかのごとく,ビリビリと振動する。CAの声も,心なしか震えて早回しのような声となっている。こういったことは,小さい飛行機ならではなのだろう。
やがて,そのプロペラとかの大きな音とともに約30分,沖永良部島を上空から見る。茶やら緑やら青やらが,貼り絵のようにキレイにちりばめられていてキレイである。南のほうが少し高い地形となっているが,それ以外はおおよそフラットな感じである。
11時5分,沖永良部空港に到着。天気は良好。暑さはあいかわらずだ。

空港の建物は,平屋の素っ気無い建物。中に入ると,「○○様」と書かれたプレートを持つ人たちの中に,本日レンタカーを借りることになっているFKレンタカーの人間が……どこにもいない。インターネットで見て探し当てたときは,空港から1分と書いてあった。外に出て建物の周りをあちこちを見回すが,それらしきレンタカー屋も人も見当たらない。再び建物の中に戻ろうとしたとき,スーツを着た女性とすれ違った。何かプレートを持っているようだが,そこには「トヨタレンタカー」と書いてある。
はて,どうするべきか。目の前に広がる駐車場をずーっと見ていると,その上の高台になっているところに「FKレンタカー」の看板を発見。予約をしたとき,ガソリンスタンドを兼ねていると話を聞いたが,その脇には「ENEOS」の看板がある。
早速,駐車場を横断してそちらに向かおうとすると,Tシャツにジーンズ姿の二十歳くらいの女性とすれ違う。ちらっと「FKレンタカー」の文字が見えたので声を掛けると,車は駐車場の中にあるという。早速案内されると,その車は軽自動車で,ホンダの「ライフ」というやつ。インターネットで見たときは,スターレットがあると書いてあったが,電話で確認するとないという。6時間使用で,もう少し大きめの車が3600円,軽自動車が3100円という。軽自動車というと,坂道とかでハンディがありそうなイメージが私の中にあったが,値段の差で軽自動車を選択したのだ。
車内はしかし,私の想像を超えていた……というと大げさだが,まずMDとCDが搭載されていたのには驚いた。これも予約時のことだったが,軽自動車にカセット(デッキ)があるかと聞いたら,「カセット自体はないが,デッキはある」という。軽自動車だから何もなかったらマズいとすっかり思い込んでいたためだが,その辺りの経緯で向こうが用意したのか。
そしてもう一つ,ギアがレバー方式だ。ハンドルの左に鈍角に曲がったレバーがついていて,それを上下に動かすのだが,慣れるまでに結構苦労する。バックからドライブに戻すのに,間のニュートラルで止まっちゃって,突然「ウーン」なんて音を出したりするのだ。

いろいろとあるが,何はともあれ11時20分,ようやく空港を出発する。帰りの飛行機は17時30分発だから,16時45分頃には戻ってくることにしよう。(第6回につづく)

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