沖縄 SEE YOU!

(3)45島目の上陸
@いざ,鳩間島へ
6時前,起床。前回そうだったこともあって(「沖縄はじっこ旅U」第4回参照),日航八重山では港と市街地が見られる部屋を要望していたが,今回もそんな感じの部屋が取れていた。そこから見る景色は曇天の空にミニチュアのように広がる街の景色だった。そういや,「ふるさと食堂」から日航八重山までタクった運ちゃん(前回参照)が,「いやー,今日は天気がよくなってよかったです。明日も大丈夫だと思います」なんて感じで天気の話題になったとき,「曇っていても,雲が高ければ大丈夫です。悪くなってくるときはもっと雲が下がってきて風が強くなってきます」と言っていた。
昨日部屋に入って暮れていく空を見ていた感じでは前者の感じだったが,今朝起きてみると後者との中間ぐらいにまで雲が下がってきている。ただ風はほとんどないし,北側の空に少しばかり明るさがあった。「石垣ケーブルテレビ」というテレビ局でずーっと天気予報をやっていて,たびたびチェックをしていたが,予報は「曇のち雨」とあまりよくないが,気温は真夏日の予想で,波はそれほど高くないという感じだった。こうなると,この旅のメインであり,本日行くことになる鳩間島行きの船便は,ほぼ間違いなく出てくれるであろう。
「管理人のひとりごと」Part80にも書いたが,沖縄ではこの鳩間島,奄美では与路島への上陸でもって,この沖縄奄美行きをひとまず終わりにしようと思っている。それだけに天候不順で行くことができなくなってしまうと,自分なりの“約束事”が崩れてしまって困るのだ。行けるならば行けるうちに行っておきたいのである。私的な感傷に過ぎないので,その真意をこれ以上は述べるのは止めておこう。「だったら,今までの旅行記も私的な感傷以外の何物でもなかったのでは?」というツッコミもあるだろうが,それはそれとして置いとくとして,第一それを仮に語るとするならば,与路島に行ってからにしたほうがいいし,書くほど大したものでもないし,いまいちその理由も定まっていなかったりする。
鳩間島行きについては,今回安栄観光へのツアーを予約している。島内散策をメインにしたものである。たしか,価格は1万800円だったか。鳩間島については,この1月に行こうと思って断念した経緯がある。当時,定期船は1日1便で曜日によって出航時間が違うフェリーのみで,あとは鳩間島への郵便を請け負っている「デンサー食堂」の方の船に有償で乗せてもらう方法しかなかった。で,結局はいろいろあって行けなかったのである(詳細は「沖縄博打旅」第1回参照)。ツアーで行くという選択肢は春季・夏季限定なので,どっちみち冬はもっぱら行きづらい島だったのである。
それに比べれば,今の季節は夏。ツアーがあちこちの観光会社で始まっているから,日帰りのそれに参加すればスケジュールは立てやすくなった。そんな中,私もツアーで鳩間島に行くことに決めた。安栄観光で4月から9月まで催行している,鳩間島内の散策をメインとしたツアーである。島内散策に加えて,鳩間島を舞台にしたドラマ『瑠璃の島』のロケ地を見学して,昼食もつくという。
決め手となったのは“散策”という点。他の大小さまざまな会社でも,鳩間島に行くツアーを催行しているのだが,どれもこれもシュノーケリングやダイビングをやり,これにプラス島内散策というのが多い。こちらは基本的に海に入らない身だし,海に入らないのに入るための料金がかかるのもバカらしい。それだけに,島内散策がメインである安栄観光のそれは私にはピッタリだったのだ。早速,まだ4月であったが電話で予約をしたところ,2人以上からの催行でまだ1人だけの予約であったため“仮予約”の形であったが,ひとまずこれで鳩間島への上陸の目処は立った。また『やえやま』によれば,鳩間島にはこれといった食堂がないので,昼食つきというのも助かる。
さらに,朗報が待っていた。その安栄観光が運航している定期船のうち,石垣港と西表島・上原港とを結ぶ航路が,この4月から毎日往復で1日1回鳩間島に寄るようになったのである。安栄観光の時刻表によれば,行きは朝10時に石垣港を出た船が10時45分に,帰りは16時半に上原港を出た船が16時40分に,それぞれ鳩間島に寄港する(ただし,石垣港発の時間は季節によって違う)。これにより,定期船での日帰りが可能になったわけである。島内では6時間ほどの見学時間があるわけだが,鳩間島の周囲はわずか4kmだ。集落を見たりなんかしても,十分すぎるくらいの時間である。これによって,最悪上記の申し込んだツアーが私1人しか申し込みがなくて中止になったとしても,この定期船で行く方向にすればいいのである。

6時半,朝食。バイキングである。ホンネはたくさん食べておきたいところだが,自重しておく。個人的にはここのスクランブルエッグがフワフワして好きだ。これにケチャップではなくて,しょうゆをかけて食べるのがいい。あとは八重山風ちぎりかまぼこ,からし菜とツナの和え物,肉類はベーコンにウインナーなどなど。もっとも「自重しておく」といいながら,2回目を少しだけよそいに行ってしまったし,しかもスクランブルエッグを食べておきながら,温泉卵にも手を出してしまうツメの甘さ。個人的には卵は1日に1個と決めているので,あっさりと破られてしまった。実にヤワな約束事だったりする。
開店と同時に入り込んで,20分ほどでサクッと食べ終えて部屋に帰る。上記ツアーに申し込んでいる者は,安栄観光からお迎えのバスが来る。船はおそらく上記定期船に便乗することになるのだろう。ツアーの出発は10時である。迎えのバスは9時40分到着で,5分前までにロビーに来るようにということで,昨日フロントで紙を受け取っている。すなわち,ゆったりしたスケジュールなわけだが,そのわりには私が一番嫌っているはずの「典型的観光客のセッカチな飯の食い方」であると思う。すなわち,時間を効率的に使うために,しかるべき時間にとっとと飯を食うという方法――ま,私の場合は出発までの時間を利用して,この駄文を打っていることは言うまでもないのだが。
そんなときに,ケータイに電話がかかってきた。一瞬「?」と思ったが,出てみると安栄観光のものだった。いわく「今日のツアーはお1人だけの申し込みのために中止になりましたので,そのご連絡です」――なーんだ,中止か。残念。ということは,上記のように定期船の選択肢を必然的に選ぶことになる。聞くところによれば,ドラマ『瑠璃の島』の影響もあって,鳩間島へ行く人が増えたと聞いている。それが4月からの定期船の寄港につながったのかどうかは分からないが,楽観的に「日帰りだし,余裕で申し込みが出るだろう」と思っていたが,鳩間島の関係者にはちと失礼だが,他の八重山の島ほどやっぱりメジャーじゃなかったか。
あるいは定期船の寄港によって,ツアーで行くメリットがなくなってしまったのかもしれない。私も正直なところ,ツアーだと高くつくなと思っていたのだ。ツアーを申し込んだのが4月で,定期船の寄港を知ったのは,実は毎年5月に刊行される『やえやま』である。すなわち,ツアーに申し込んだ後で定期船のことを知ったのである。ツアーのキャンセルということを考えなくもなかったが,「実はもう1人いたのに,私がキャンセルして中止になっちゃった」ということは……ま,しても罪にはならないだろうが,ツアーにはツアーのメリットがあるし,そのまんま申し込んでおいたのである。
ということは,逆にデメリットもあるわけだが,それはすなわち現地での空き時間ができてしまうのではということである。ツアーであればある程度ゆっくり周るであろうから,おのずと時間が経過してくれる。対して個人での旅行だと,私なんかは特にセッカチだったりするものだから,見るところだけサクサク見てしまって,帰りの船の時間まで必ず空き時間ができてしまうと思うのである。あとは誰かによる説明もないわけだし,『瑠璃の島』のドラマ自体も第2回くらいまでしか見ていなかったりするので,そうなると「ただ行ってきただけ」って感じになりそうなのである。ま,でも今回の旅の第一義は「上陸すること」にあると言っても過言ではない。ひとまずそんなことは現地に行ってから考えようか。
――9時20分,チェックアウトして出発。タクって離島桟橋まで行くことにする。510円。またも車内で運ちゃんとの会話。「どこの島に行くのか?」と聞かれる。鳩間島だと答えると,その運ちゃんは「行ったことがない」と答えていた。地元の運ちゃんに違いないが,まあ所詮はそういうものなのだろう。すなわち,外部の人間のほうがいろんなところから情報を詰めこんでいて,実際に足を運ぶのに旺盛だったりする。多分,定期船がこの4月から通っていることなんて,運ちゃんは知らないだろう。
安栄観光の前で降ろしてもらって,安栄観光のカウンターで往復のチケットを買う。4150円。島の位置としては上原港よりも石垣港に近いのだが,上原港に行くよりも料金がかかる。直行で行くのがほとんどである中で1便だけ「寄ってもらう立場」だからなのか。荷物はバスターミナルのコインロッカーに入れておく。多分,帰りはバスターミナルから石垣空港に向かうことになるだろうから,少しでも大きな荷物を持っている時間を減らしたい。
次は昼食のことだ。鳩間島での昼食が期待できないとなると,食材は石垣島で仕入れていくのがベストだろう。何度となく気になっている港そばの「マルハ鮮魚」。ここであつあつの天ぷらを買って,オリオンビールは現地の売店にさすがにあるだろうから,それで昼食にしようと思っていたが,残念なことにまだ天ぷらは作られていなかった。魚を練り込んだらしき味噌はあったが,まさかそれだけ食って済ませるというのは味気ない。あるいは市場の食材をと思って公設市場のほうまで歩いていってみたが,これといったものはなかった。強いていえば5個とか10個とか袋で入ったサータアンダギーがあったりもするが,これも三つ目くらいから味に飽きたりするし,ビールにはいまいち合わない気もする。
ということで,結局は「A&W」にて「デラックスチーズバーガー」(335円)と「カーリーフライ」(170円)を買う。これを海でも観ながら食べることで本日の昼食は決まった。飲み物は今のところ自販機で買ったサンピン茶で間に合う。お茶は冷えていなくても飲めるし,一方,ビールは冷えていなければマズい。『やえやま』によればタバコは売っていないらしいし,それ以外に売っているものはたかが知れている感じのようだが,まあビールくらいは売っていよう。万一なかったらないで仕方ない。市場のほうまで行ってきたせいか,鳩間港経由上原港行きの高速船乗船したのは,10時出発の5分ほど前になっていた。

A集落を歩く
船内では途中からまどろんでしまって,どこをどう通ったかはあまり覚えていないが,西表島らしい大きな陸地を左に見ながら操行していたのは見えた。しばらく左に陸地を見ながら,やがて右手に緑色の小島が見えてきた。あれが鳩間島である。最後と銘打っているから言葉にするが,「沖縄で45番目に上陸する島」である。45も我ながら,よく上陸したと思う。その緑色の中から白く突き出ている棒のようなものが,どっかのホームページで「島に訪れた人が必ず行く」と言われる鳩間灯台である。
10時45分,鳩間港に入港。行きは船の後部から乗ったものだから,すっかり後部でスタンバっていたのであるが,高速船は舳先を桟橋にひっかけるように停まっていて,そこにくっついたタイヤを踏み台代わりにして降りるスタイルだった。これもまた「途中に寄る島」ならではの上陸方法なのだろうか。横付けをしないのかとそのときは思ったが,後で考えてみたら桟橋のほうが高速船よりも位置が高いので,船の中でも構造的に高くなっている舳先にタイヤをくっつけて,辛うじて高さを合わせているのかと思った。元々フェリーのみが寄港していた港。フェリーにはスロープがついているのだろうが,高速船用のそれはないのだろう。周囲を見渡してみると,小さい船がいくつも寄留していたが,例えば階段がついた脇のほうから上がってくる格好である。この辺りの大雑把さも,沖縄らしいっちゃ沖縄らしい。
入口はどこの離島ともこれといって変わらない,素朴以外の何物でもない護岸された港であった。この島でも,上陸して私を待つ者はいない。船内にはたしか20人ぐらいいたが,意外だったのは半分くらいが下船したこと。もっと数人程度しか下船しないのかと思っていたが,やっぱり,一応は気になる島ではあるのかもしれない。これもドラマの影響だったりするのか。
ここからのガイドは『やえやま』の地図が頼りである。無論,島に地図を配布してくれるところなんてない。そもそもそれほどの見所がない島に,そんなものは必要ないからだ。港から一直線に内陸に伸びる道をまずは進んでいく。軽自動車1台が通れる程度の舗装道路。あるいは車すらいらないかもしれない雰囲気である。空気は至ってのどかの一言である。
左手にロフトのようなテラスがついた「あだなし」という建物。民宿兼食堂で,どうやら昼食もやっているらしいが,ビールと軽食という風にホワイトボードに書いてあった。こーゆーところで出すものはたかが知れているだろう。外にあるテーブルに3人ほど座っているが,彼らは宿泊客であろうか。時間がもしできるようだったらば,ここに寄ってみようか。一方,右手には古ぼけた民宿が2軒連なっている。ホントに「民宿」という言葉に偽りがないってほどに,民家なのか宿なのか区別がつきにくいが,こーゆーところが好きな人はトコトン好きなんだろう。
その先,もうすぐ森になる手前左手が窪地になっていて,奥に丸い井戸の跡。「インヌカー」と呼ばれている。岩が階段のようになっていて下に降りていける感じではあるが,草がボウボウに生えっぱなしで意欲がいまいち出ない。漢字で書くと「西の井戸」。なるほど,集落の西側にある。もう一つ「アンヌカー」というのがあるが,これは東側にたしかに位置する。後でここは行くことになろう。
このインヌカーを抜けると,道は森の中に入る。その入ってすぐ右手には鳥居があった。「友利御嶽」と呼ばれる御嶽だ。苔むしてギザギザになった岩が階段代わりで,上に上がっていける。一礼して中に入らせてもらうと,並木道のようにアプローチが長くなっている。50mほどあったであろう。その奥に左手に鎮座するのは6畳程度の木造家屋と,そのそばにテントの骨組。ここで豊年祭などが行われるというから,それを見守る人たちが座るためのスペースだろうか。
木造家屋の中は板の間になっていて,上座に香炉などが置かれてある。一方,右手には小さい赤瓦の門があって石垣が張られた一角がある。中にさらに入っていけそうだったが,なぜか入口にどんぶりが砂に盛られている。「ここから先に入るな」ということか。ならば素直に引き下がろう。この区域に神様が降りたって島を造ったという“島建て”の場所とされている。
この友利御嶽の斜向かいには,さっき船から見えた鳩間灯台などがある「鳩間中森」という景勝地がある。標高にして34m。鬱蒼とした木々に囲まれて,これまた草が生えっぱなしの小道を上がる。石碑があるからそれと分かるが,何もなければ見逃されてしまいそうだ。虫をよけながら小走りに上がること1分,左手には小さい白い灯台。船から見えたあの灯台である。ここまで来ちゃったのだ。周辺海域の海難事故を防ぐために1948年に建てられ,あと2年で還暦を迎えようとしている。
一方の右手には,石を積み上げた物見台がある。物見台には階段がついていて上がれるので,試しに上がってみると,なるほど南になる港側は景色が開けていて海を観ることができる。遠くにボヤーッと西表島の島影が見えた。あとの北・東・西は森また森であった。それだけ木々が生い茂っているとも言えよう。北側では遠くに海が見えたが,白波が立っていたと思う。トータルでいけば「ま,こんなもんか」という感じだろうか。

来た道を戻る。途中右手にあった民宿「まるだい」は,この島に来るきっかけになった手前,何やかやと後述していこうと思うドラマ『瑠璃の島』で,東京で両親に見捨てられた主人公・藤沢瑠璃(成海璃子)の里親になった仲間勇造・恵夫妻(緒形拳・倍賞美津子)が経営する民宿「ぱいかじ」の場所である。この家で,瑠璃はいろいろありながらも夫妻に自分の子供のように育てられていく。
この脇で路地を入って東に向かうことにする。先ほど“西の井戸”ことインヌカーを見たが,西があれば東があるわけで,これから“東の井戸”こと「アンヌカー」を見ようと思う。主要な道以外は未舗装の狭い道だ。幅も人が通れる程度しかない。『やえやま』の地図で見る限りは道は間違いなさそうであるが,「地図に描かれる=重要な道」という(勝手な)認識と,実際の道とのギャップが結構あって,時々心もとなくなってしまう。
地図によれば「青空荘」という民宿のところで突き当たりになって,そこから左に行くとどんづまりに井戸があるようであるが,はて,地図に描かれた太い道の線と細い道の線の区別がいまいちよく分からない。上記鳩間中森に行く道は太いほうだったが,こちらは舗装道路だった。対して,途中で交差している細い線の道が舗装道路だったりして,ちょいと紛らわしい。しかも,この道は左方向,すなわち北の方向で途中でどんづまっていないから違う。民家らしい建物はあっても民宿らしくはない。

そんなこんなしながらも,民宿の建物うんぬんというよりも,左手がどんづまりそうだったのが見えて,ようやっとアンヌカーへの道に辿りついたことを知る。どんづまりには草木があるがままに生い茂っている感じだ。早速,そちらのほうに行くと,ジャリ道はぬかるんだ道となってパッタリと途絶えた。そのどんづまりにある大きなガジュマルは,少し盛り上がった感じの岩場に,根をガッチリとこれでもかとからみつくように張っている。
このガジュマルの根が張った岩場の下に,高さ・幅ともに4〜5mほどであろうか。ポッカリと大きな穴が開いている。中はもちろん真っ暗だ。まさしく「ブラックホール」という言葉がピッタリである。この中に間違いなく下り井戸であるアンヌカーがあるのだろう。草木が生い茂っているので,下ってはいけそうであるが,何となくためらってしまった。インヌカーとともに,島の貴重なる水源であったことは想像に難くない。それも80年代までだったというから,離島の水事情の厳しさが分かる。
これで,島内で観るべき観光地の7割ほどを観てしまったと言っていい。あとの3割は,これから歩を進める予定である島の1周道路沿いにある。空が少し曇り加減になってきたのが気がかりであるが,深刻な天気にはなるまい。その1周道路に向かう前に,昼飯をサクッと食べておきたい。メシはあるので,あとは飲み物,そうビールのみである。
アンヌカーから道を下ってくると,途中から舗装道路になって,やがて左手にプレハブのちっぽけな建物が見えた。「浦崎商店」という商店だ。オリオンビールの幟を掲げているから,ここが売店であることが一発で分かる。ここもドラマ『瑠璃の島』のロケ地になったはずである。瑠璃のことを“怪しい動き”ながら歓迎していた商店主・米盛(小日向文世)の店であったと記憶する。
あるいは,瑠璃が島に来たてのころに“暴走”してチョコレートの万引きを働いたのもこの商店だったはずである。それを人づてに知った勇造は瑠璃に謝るように説得するが,ガンとして謝らない瑠璃。とかくトラブルを起こす瑠璃に困った周囲の人間が,他の子供を里子にしてはどうかと勇造に説得しているところを聞いてしまったのだ。そうでいながら,瑠璃に対しては歓迎の態度を取ろうとする彼ら――ウラ・オモテのある大人たちに反発しての万引き行為であったのだ。
もちろんそれを知らない勇造は,彼女に対して“お仕置き”として暗くなった店に一晩閉じ込める。翌日彼女を迎えに行った恵が見たものは,腹を押さえてうずくまる瑠璃の姿。驚いた恵は急いで港に行って,病院のある石垣島に行ける船を探すが見つからず,救急ヘリを要請していざ石垣島へ――だが,この腹痛は瑠璃の自作自演。ウソだったのだ。逆鱗に触れると確信した瑠璃だったが,「よかったー。何もなくてよかったー」と嬉しそうに言う恵。さらに,恵に連れられ石垣島の港湾施設で肉体労働する勇造の姿を見る。無論,それは瑠璃を育てることを決意した勇造なりの行動だったのである。そんな姿に“凍りついた心”が少しだけ溶けていく瑠璃。3人は石垣島(「八重山荘」という民宿)に1泊して,翌日島へと帰っていくのである――。
話題を戻そう。屋根つきのデッキが外にあって,オッチャンが1人くつろいでいた。脇に何気に自販機があってオリオンビールが入っていたが,残念ながら故障中のようだった。ならば,中に入って買うしかない。ちょうど,店番のオバちゃんはタバコを吸いながら別のオバちゃんと駄弁っているところだった。何だか,完全なる旅人の私が邪魔になってしまった感じだが,まあいいだろう。売店といっても,見渡したらスナック菓子とかインスタント食品や缶詰しかない。ホントに必要最低限である。いくら人口が2ケタの島といえど,何か大事があったらばあっという間にストックがなくなりそうである。たとえ,ほとんどが日保ちするものであったとしてもだ。
はて,そんな中で飲み物は…と思って見てみると,オバちゃんの後ろに家庭用の冷蔵庫が置かれてあった。「すいません,オリオンビールください」というと,案の定そこから取り出してきた。冷たい飲み物はどうやら,この冷蔵庫に入れている感じだ。その取り出し方の何ともかったるそうな在り方。ま,日曜日の真昼間にテンションが高いのは旅人くらいだろう。230円。1000円札を出したら,お釣りの中に500円玉が入ったが,なぜかオバちゃんは「この500円玉は自販機で使えます」
と念を押していた。
さあ,昼飯をどこで食べようか。周辺をウロウロして,結局港のそばにある「前の浜」という砂浜の前,防波堤に座りながら食べることにした。もっとも,目の前の浜辺は工事中。日曜日だが,ショベルカーなどの重機が動いていた。おかげで「白砂に青い海」とはほど遠く,砂が海に流れ出ていて潮溜まりのようになっている。あまりいい光景ではないが,まあ食えればいいやって感じである。
空は一時だけだが太陽が照りつけ出していた。チーズバーガーもカーリーフライも冷めてしまっていたので,キンキンに冷えたオリオンビールで流し込むように食べた。美味いのかどうかなんて,ビールの勢いで分からない。食べ終わったころに,砂浜を歩いていたオジさんがおもむろにこちらに上がってきて,ニヤニヤしながら「何を食べているのかと思った」と言ってきた。ま,ハンバーガーの“ハ”の字もないようなこの島には,こんなジャンクフードがさぞかし珍しかったのかもしれない。(第4回につづく)

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