宮古島の旅アゲイン(全3回)

(1)プロローグ
宮古空港行きの飛行機は,いわゆる“沖止め”。ほぼ定刻どおりのリムジンバスに5分ほど乗り,空港の端っこまで行くと,JTAの飛行機。こぼれた乗客がいくらかいたようだが,10分程度の遅れで無事全員搭乗。サクサクと滑走路に向かって,離陸を待つ。前回の宮古島行きは,出だしでつまずいてしまった(「宮古島の旅」前編参照)が,今回こそはゆとりを持って観光ができそうだ。
そこに,機長のアナウンス。「翼の調子がよくないのでいまから検査に入ります」。そして「それほど時間はかからないと思います」――おいおい,どういうことだ。とりあえず機体は,滑走路脇の操車場みたいなところで,エンジンをかけたまま待機することになる。
しばらく機内で待っていると,冷房が効きすぎて寒いの何の。Tシャツ1枚なだけに,モロに冷気を浴びることになるから,暑がりと寒がりの両極端な私はどうにも我慢ならなくなってきた,機内ではかなり毛布がはけているようだが,私も毛布を頼むべく,脇の“CAボタン”(というのか?)を押す。
しかし,呼べどもなかなか来ない。機内で右往左往するばかりである。5分ほどして待ったか,たまらず通りかかったCAに声をかけたときには,時すでに遅し。「申し訳ありません。すべて出てしまいました」――毛布って人数分ないんだね。知らなかった。

何やかやで1時間ちょい経っただろうか。CAからのアナウンス。「ただいままで全力を注いでまいりましたが,直りませんでした。機種を変更致して隣に用意致しますので,出る準備をしてお待ちください」。それから10分ほどで,石垣行きに乗り継ぐ23名を除いて,全員なぜか再びバスに乗る(ちなみに石垣行きの人は,その後那覇行きに乗って那覇から石垣行きに乗ることになったようだ)。
再び来た道を戻り,着いた先は何とバスの出発地のロビー。時間は9時ちょい過ぎ。「搭乗案内は9時半,出発は9時40分となりますので,ロビーにてお待ちください」――私は結局最後まで搭乗口のそばにいたのだが,実にJTAの人間がバタついている。「9時半に案内して,場所も遠いし,ガキもいるのに10分で出発できるわけねーだろ」と思ったが,向こうもそれなりに必死だったのだろうか。
9時半ちょい過ぎ案内が入り,再びバスに乗って,結局着いたのは,さっき1度目の飛行機に乗ったのと同じ場所。「そのまま横付けするまで機内で待機して,スライド移動できなかったのか」とその時は思ったが,今から考えると,機内だとできないことをロビーにいる間にやってもらう(機内では飲み物と飴しか出ないため。食料を買うとか,誰かに連絡を取る等)ための配慮だったり,何より安全上のこともあったのかもしれない。もっとも,素人考えの域を出ないが。
結局,離陸は10時10分。機長のその後のコメントでは,翼そのものではなくて,翼をコントロールする計器だかの調子が狂ったための遅れだったようだ。まあ,“万が一のこと”があったら取り返しがつかなくなるから,機種変更をしたということだったんだろう。
前回3月の宮古島行きでは,管制塔のシステムダウンで1時間半遅れ。今回2度目は機体トラブル……何だか「飛行機止め夫」の不名誉な称号を再び与えられそうでイヤだが,ともかく無事出発できて何よりである。

(2)決死の移動?
12時45分,宮古空港着。天気は快晴。今回はロビーにいるレンタカー屋群を素通りしてタクシー乗り場へ。今回旅行のメインは,伊良部島と下地島だ。向かう先は平良(ひらら)港。伊良部島・佐良浜(さらはま)行き高速船の出発地である。船は30分おきに出ていて,余裕を見れば13時30分発くらいに乗って御の字だが,できることなら13時ちょうど発に乗って,2時間半の遅れを何とか縮めたい。ちなみに乗ったタクシー,初乗りが390円。東京ではまず考えられない安さだ。
さて走行する道路は,3月に一度通っているので,およそ地理は分かる。しかし車は看板の「←平良市内」とは逆方向の「→下地町」方面に走り出す。もしかして遠回りでは,と一瞬あせるが,相手はプロなんだから,その辺は身を任せるしかあるまい。
すると5分ほどで,国道390号に出た。この通りはたしか前回旅行では北上して平良市内に入った道路だ(「宮古島の旅」後編参照)。車もその方向に曲がって,すぐさま平良市に入った。ということは,このまま北上して海岸側を走り港に行くということだろう。
ふとメーターに目が行く。上がる瞬間を見ると,上がったのは60円。これもまた安い……と思ったのは一瞬。車はスムーズに進むが,メーターもそれに合わせるようにスムーズに上がっていく。もちろん実際の距離だってそれなりにあるのだろうが,初乗り距離も上がる距離も,おそらくは初乗り660円のタクシーより短いのかもしれない。
間もなく,道は二股に分かれ車は左に行く。港に向かう道路だ。私が前回に通ったのと同じだ。時間は12時53分。運ちゃんがかけているAMラジオからは,「NHKのど自慢」が流れている。あらためて今日が日曜だと認識するが,それにしても天気のいい日に,これを聞くとなぜか妙に気持ちがのどかになる。去る4月の奄美旅行でも似たような体験をした(「奄美の旅」第3回参照)。
そのまま5分ほどして,市民ビーチのパイナガマビーチを通過すると,やがて平良港ターミナルだ。青空駐車場には100台単位だろう,車が
びっしり入っている。どこに車をつけるのかと運ちゃんに聞かれたので,伊良部島行きの桟橋前につけてもらうようにお願いすると,一瞬違わずその桟橋の前に車は止まってくれた。1290円。特別安くもなく高くもなく,まあこんなものなのだろう。

時間は12時59分。左には平べったい高速船が,エンジンをふかして出発せんとしている。右には3階建ての大きなターミナルの建物。おそらく乗船券は後者で買うのだろうが,向かったのは船のほう。こういうときに律儀になるのはかえって裏目に出る。乗員がいたので「チケットは向こうですか?」とターミナルの建物を指差して聞くと,「中ででもいいですよ」と言ってきた。よっしゃ,13時発に乗船成功。急いでかけこむと同時に出発と相成る。
船内は150〜200人くらいは乗れる広さ。だが,20〜30人程度の乗船率である。いくらもしないうちに,エメラルドグリーンの作業着を着た,彫りが深くて日焼けしたやや髪の薄い,竹脇無我崩れみたいなおじさんが料金回収のため船内を回り出す。中にいる客はほとんどが伊良部島の地元民なのだろう。そのおじさんに話しかけたり,逆におじさんから話しかけたりもしている。
そのうち私のところに来た。日帰りだし当然船に帰りも乗るわけなので,往復で買おうとすると,「帰り何時ですか?」と聞かれる。「(午後)5時半くらい」と言うと,ちょっと怪訝な顔。と,「5時だと…5時30分ですけどいいですか?」と聞き返す。それでいい旨答えると,「もう一つの会社のには乗れませんが,いいですか?」と再び言ってくる。
そうそう忘れていた。この平良と佐良浜の間には二つの会社が交互に運行している。宮古フェリーとはやて海運という会社だ。いま私が乗っているのは前者。どうやら宮古フェリーが運行する,その17時30分発とその前の16時15分発の間に,はやて海運の船が出るようだ。事前にホームページを見ていたら,たしか料金は同じだったと思ったが,実家の近くを走るバス路線における東武バスと国際興業バスとは違って,大げさでなくこういう地方では死活問題になるだろうから,ライバル会社ゆえ相互に乗船可能というわけにはいかないのだろう。でも,こういうお節介は旅人にとっては有り難い。「来た船に乗るということで」となり,結局は片道料金400円のみを支払う。
数分もしないうちに,目前には伊良部島が見えてくる。そのまま船は勢いよくすっ飛ばして,時間にして15分もかからぬうちに佐良浜に到着。漁港も兼ねていて,宮古の漁業の拠点にもなっている。かつて,南方カツオ漁業の母港だったそうだ。建物も,漁協らしきコンクリの高い建物も含めて民家が多く密集しており,島の入口にふさわしいたたずまいである。

(3)伊良部島Part1
@伊良部島ドライブへの道(?)
船着場に着いて外に出ると,右にいたワゴンの脇に,私の名前が書かれている“その辺の紙”を持った人間を発見。本日車を借りるシンセイレンタカーの従業員だ。こっちは沖縄出身のタレント・藤木勇人,あるいはディアマンテスのヴォーカルみたいな顔立ちで,声が1オクターブ高い。近くにある案内所のデッキに案内され,そこで書類に署名する。コピーというものはないから,名前や住所,免許書番号とかは向こうが書くことになる。
実は,こうなるまでにちょいとした経緯がある。伊良部島にはもともとレンタカー店がないということで,観光タクシーを使うか,あるいは宮古島でレンタカーを借りフェリーで乗り込むかの2通りしかなかった。ちなみに,私自身は車をフェリーを乗せるという経験はない。
まずは前者。伊良部島関連のホームページをいろいろ見ていて,伊良部島観光案内タクシーというのに出会う。これは地元の開発タクシーに勤める女性の運転手(名前はホームページで確認を)が作っているホームページだ。カラフルな車内に,三線や島唄のサービス,お土産もつくという。気になる値段は,2時間で6200円,もしくは3時間で9300円。少し高い気もするが,「いろんな付加価値も込み」と考えればいいだろうし,自分で運転する手間は当然に省けるから気楽である。
1カ月ちょい前になるが,早速,ホームページに載っているケータイの番号にかけた。しかし何と,「おかけになった番号は,現在使われておりません」。どうやら,更新をマメにしていなかったのだろう。その下にある電話番号にかけると,今度は自宅にかかった。多分,本人というよりは娘さんの声が出た感じで,これじゃさすがに「予約をお願いします」と言う気にはなれなかった。
そして,次に後者。上述した電話の経緯で,前回の宮古島旅行で車を借りたサーウエスト宮古島(「宮古島の旅」前編参照)にすぐメールにて予約を入れてみた。宮古・伊良部間のフェリー代は,宮古フェリー,はやて海運ともに往復3000円。車代と合わせても,レンタカーのほうが得なのだ。ちなみに,前回は1カ月半前にもかかわらず予約はギリギリで入った。飛行機の超割だかで車の予約が多かったのだ。それを知っているので,今回の3連休&夏休み突入だともしかして……というイヤな予感があったが,無情にも予感は的中。その晩,「申し訳ありません」というメールが返ってきてしまった。

ということで,その後時間を置かずに,伊良部島関連で実はもう一つ,情報が豊富ということでチェックしていた「オーシャンハウスinサシバ」という施設のホームページから,開発タクシーの電話番号を調べて電話。ちなみに「伊良部島観光案内タクシー」のホームページでは,その番号はFAX番号として載っていたものだった。そして,より多くを観られる9300円のほうで予約を入れることになった。宮古島に比べ,伊良部島はまだまだマイナーな島だが,行く寸前に電話して満車になっていたら意味がないので,とっとと電話を入れたのだ。11時30分・平良発の船で入るということで,昼食は,まさかタクシーの運ちゃんと,というのも何だし,空港から平良港に移動する間に取るしかない。
――それから1カ月近く経って,5日ほど前だろうか。何気に見た「オーシャン〜」のホームページのトップに,何と島内にレンタカー屋ができたという文字があったのだ。で,そこに出ていたのが今回車を借りるシンセイレンタカーだった。1カ月前のいわば“焦り”みたいなのは何だったのか。とはいえ値段を見ると,3時間3500円,6時間4200円とあるから,観光タクシーの半額以下である。島内には昼飯を食える場所もそれなりにあるようだし,こうなったらレンタカーに変えるしかない。ただ5日前だから,すでに満車かも……しかし,電話をしたらあっさりOKだった。こんなものなのだろうか。
そして肝心の値段だが,3時間で5000円だという。これは保険料込みとのことだ。なるほど,後で改めて見たら一番下にそれが書かれていた。3時間でこの値段とは,これまたちょっと割高な気もするが,観光タクシーのことを考えればかなり安いことはたしかだ。また,「3時間」という時間も,タクシーの時間設定が3時間が最高なのだから,私のハイペースならば余裕だろう。開発タクシーには後でキャンセルの旨電話をして,これで準備は完了した。
――再び話を戻す。デッキで,ガソリンを満タン返しすることと,キーをダッシュボードに入れてロックをして港で乗り捨ての形を取るように,説明を受ける。既出のサーウエスト宮古島のケースはロックはしないということだった(「宮古島の旅」後編参照)ので念のため再確認したが,やはりロックはしてくれという。多分,会社によって違うのだろう。
ひと通り説明を受け,出発する。太陽はギラギラと我々を照りつける。今回借りるのは藍色の軽自動車・スズキワゴンR。カーオーディオは,今回前もって確認していたのだが,カセットである。ただし,窓もドアも手動の古めかしいやつ。ぶっちゃけポロ車だが,これで5000円とは……。

A真夏に食べるそばの味
早速,港沿いに南に車を進め,牧山(まきやま)という展望台を目指す。そして海岸沿いを進み,その名も伊良部地区にあるホテル・サウスアイランドの「レストラン入江」で名物の肉そば(500円)を食すのがまず最初の目的だ。時間は13時20分。朝は7時前に羽田で弁当を食べ,機内では昼が遅くなることを見越して搭乗口そばの売店で買ったクッキーを4枚食し,さらには機内で出た黒糖キャンディも2個なめたが,時間的にもやはり腹が空いてきた。
と,港沿いの道は,急ぎ足気味の私をあざ笑うかのように,突然ぷっつりと切れてしまった。仕方なく来た道を戻ると,左に折れる急坂が。何だ,こっちに行かなければならなかったのか。早速登ろうとすると,早くもこのワゴンRが弱さを露呈した。そもそもの坂も急だから,他の車でもスピードは出ないかもしれないが,ドライブで行こうとしたら20km/hしか出ず,ウンウンとうなってばかりなのだ。セカンドにしてもダメ。ローギアにしてようやく馬力を出し始めた。沖永良部で乗った軽自動車・ホンダ「ライフ」(「奄美の旅」第5回参照)はそんなことはなかったが,やっぱり車自体が古いのだろう。
坂を何とか登り切ると,大きな通りに出て左に牧山の指示。左折すると道の両側は畑と樹木となる。畑は言わずもがなさとうきび。樹木は濃い緑。所々鬱蒼としていて,道に乗り出しているようなところもある。
そして,間もなく今度は右に牧山の指示。こっちは狭い道になり,展望台なので上り坂を登ることになる。ギアは初めにロー,勢いがついたら後はセカンドという感じで進んで行く。
間もなく道は農道という感じになる。樹木はなくなったが,周囲は畑ばかり。しかし,看板はどこにも出ていない。何となく高台っぽくなっているところが見えるが,そこが展望台である確証もない。そのままとりあえず進んでいくが,どうしても高台にはめぐりあえず,いつのまにか大きな通りに再び出て下り坂になってしまった。とはいえ戻って探すのも時間のムダになりそうだからあきらめる。早速,展望台見学失敗だ。

気を取りなおして道を進むと,正面から左に海が見えてくる。もうさんざん海の美しさは旅行記で述べているが,やっぱり何度見ても美しい。一度この海を見ると,湘南とか千葉には行きたくなくなる。うまい比喩なんてものは私のヴォキャブラリーには元々入っていないが,そんなもの面倒くさくってどーでもよくなるくらい。写真の線数とかがどんなによくなり技術が進化しようとも,自分の目で見るものの絶対性にはかなわないのである。
道はやがて平坦になり,予定通り次の目的地方面に向かって進んでいることが分かる。周囲はあいかわらず何もない。いまこの旅行記を書いていて思い出そうとするが,何も思い出さないくらいに何もない。そうこうしているうちに,左に渡口(とぐち)の浜という海岸。海水浴でもしているのか,裸の若い男性が数人いるが,ここは後で見ることにして,何よりもまず昼飯である。そして,それと同時に道が二股に分かれる。地図によれば,ホテルサウスアイランドに行くには左折しなくてはならない。そのまま左折して橋を渡る直前,右に3〜4階建ての白い建物が見えた。何だかホテルというよりは国民宿舎チックだが,まずは間違いあるまい。
そのホテルサウスアイランドは,やっぱり国民宿舎チックな白亜の建物だった。1階はまるきスーパーという地元密着系のスーパー。こういうのがあるからしてホテルっぽくないのだが,まあいい。そして2階に表のらせん状の階段を使って上がると,こじんまりとした特徴のない感じの玄関。右には喫茶店があり,暑い昼下がり,避暑がてら地元民らしき客が数人。そして左が目的地のレストラン入江である。
中には人がだれもいない。時間が14時近いこともあろう。テーブル席が四つと,奥には障子が閉まっているが,座敷がある。景色が見たいので窓際の4人席に腰掛ける。カウンターから赤いアロハシャツを着た若い女性が,ぶっきらぼうそうにこっちにメニューを持ってくる。もう1人同じような服装の,もう少し年をとった女性もいる。
メニューを見ると,いろいろな定食がある。見開きの左には名前入りの「入江定食」だの「伊良部定食」だのが大きく書かれている。地元で獲れた魚の刺身だの,煮物だのが入っているようだ。で,肝心の肉そばを探すと,メニューの右ページに2段で書かれている一品料理の欄,宮古そばの下に続いて書かれている。これでは何も調べずに入ってきた客は気がつかずに定食類を注文して,何となく沖縄料理を食った気分になるだけだろう。かく申す私もその扱いに一瞬不安になったが,やっぱり心は離れなかった。早速肉そばを注文することに。ちなみにホームページによれば,11時30分から13時30分までは,ドリンクつきで650円になるようだ。

窓からは池のような,川のような,レストラン名のような入江のような水辺を見ることができる。カヌーが1台,のどかにそこを通過する。そしてどこにでもあるようなコンクリの橋が当然のごとくかかっているが,これこそ,伊良部島と下地島とを分ける立派な“海峡”だ。地図で見ると貝殻のような形をしているが,二つの島がどう見ても一つの島に見えるし,伊良部島関連のいろんな見聞を見る限りでも,海で隔てられているようには見えないと書かれていたが,なるほどその通りだ。
一方,中では真正面の厨房からジューという音が聞こえてきた。すると,脇からTシャツに短パン姿のお父さんと,小学生くらいの子どもらが出てきた。カウンターにいた2人と何だか親しげだが,多分親子なのだろう。太陽の高い日曜の午後,レストラン全体にどこか,沖縄独特とでも言うべき,退屈で気だるい雰囲気が流れてくる。空気も冷房が入ってはいるのだろうが,ドアが開いているせいか弱冷房気味な感じで,汗が少し出てくる。
10分ほどで,肉そば登場。直径で20cmほどはある黒くて深い丼に入っていて,結構なボリュームがある。これで500円とは安い。東京なら700〜800円取られてもおかしくない。脇に市販のS&Bの七味唐辛子と,島唐辛子を泡盛で漬けた調味料・コーレクースの瓶詰め(ただしラベルはベタにも「島とうがらし」である)がついてくる。ホームページの案内では,後者を肉そばに入れると味が引き締まるという。
さて中身は,塩味のスープに太さ2〜3mmはある黄色い麺。その上には名前とは少し異なり,野菜炒めが乗っかっている。具はキャベツ,にんじん,たまねぎ,ピーマン,もやしと,どこにでもある具材。彩りでさらに上には紅生姜がちょこんと乗っている。肝心の肉は,その下を掘り起こすと,5cm×3cmほどの3枚肉が3枚ちゃんと入っている。スープはちょうどいい塩味。もちろん出汁を何かでとっているのだろう。肉はさぞトロトロと思いきや,普通のチャーシューの歯ごたえがある。1杯すすって予定通りコーレクースを入れてみると,ピリッと辛味が効き,旨みが増すとともに,途端に汗が吹き出した。
やがて,そばの熱さと室内の弱冷房加減とコーレクースの辛さで,食べれば食べるほど汗が止まらなくなってきた。味わって食べるというよりも格闘しながら食べる感じだ。冷たい紙ナプキンはもはや役に立たなくなってきている。でもその価値があるくらい美味い。空腹という条件も重なっただろうが,汁を半分ほど残して食べ終わったときには,私の身体の中はすっかり満腹感で満ち溢れていた。

レストランを出て,1階のまるきスーパーに入る。中には二十歳ちょいくらいの女性2人が店番。やっぱり,気だるい雰囲気である。私のようにハイテンションなヤツは場違いかもしれない。地元製造の菓子パン「うずまきパン」が興味深いが,さすがに食べ物を買う気にはなれない。
そのほか,古ぼけて地味な建物の中には生活用品が積んであって,どこをどう取っても普通の集落のスーパーである。MD用にパナソニックの2つ入り乾電池を購入するが,税込336円とは都内のコンビニで買うよりもやや高い(近くのコンビニでは税込294円)が,飛行機と船での輸送賃込みということだろうか。
車に戻ると,中は強烈な陽射しでうだるような熱さと化している。ハンドルのてっぺんは焼けついたように熱い。自販機で買ってフタを開けた缶コーヒーを置こうとするが,何とホルダーがない。何ともポンコツだ。仕方なく半分ほど飲んで捨てるはめになる。
ハンドルをハンカチで覆って,とりあえず出発。さっき通過した渡口の浜は来た道を数分戻り,川沿い…いや海岸線沿いのジャリ道に入って到着。空地に車を停めて人のいる方へ歩く。
こっち側の海岸は岩場になっていて,さっき見たカヌーがこっちに向かってきた。1機は父娘づれ,もう1機は若い男性が1人乗っている。一方,向こうすなわち下地島側は砂浜になっていて,濃い緑の防風林らしき林が続いている。
さらに向こうに向かうと,景色が開け砂浜が見えた。この砂浜が渡口の浜である。数百mは続く海岸線だが人気はまばら。ガイドブックに載るわりには意外だ。遠くに青い海が広がり,こちらは白い砂浜…とはいかず,海草が結構打ちあがって長く茶色い帯ができている。波打ち際からして既に茶色くて,海草だらけになっている。ちょっとがっかりだが,海なのだから別に不思議ではない。湘南や千葉では当たり前の景色ではないか。でも,沖縄でこの景色を見ると,所詮は勝手に私の頭の中にできたイメージでしかないのだろうが,何だか興ざめしてしまう気もする。

さて,いよいよ車は伊良部島を離れて下地島に入る。といっても,10mほどの幅の何でもない橋を渡るだけだが。(中編につづく)

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