宮古島の旅アゲイン(全3回)
(4)下地島へ
さて,車は“海峡”を何でもない10mくらいのコンクリ橋で渡って,いよいよ下地島に入った。周囲は,あいもかわらずさとうきび畑だが,根元が心なしか枯れて見える。下地島に限らず,伊良部島でもそうだった。その先で畑に水を撒いている噴水車とすれ違う。沖縄では梅雨明け後,ほとんど雨が降らないと聞いているが,そのくらいしないといけないくらいに,水不足なのかもしれない。もともと平地ばかりであるし,地図を見る限りは川や溜池といったものはない様子だ。頼りはホントに「天の恵み」だけということなのか。
やがて道は右にカーブして,海岸と広大な敷地に挟まれて進んでいく。敷地とは,下地島の名物とも言える,パイロット訓練用飛行場・下地島空港のそれである。
まずは「はさま池」というのを見ようと思うが,看板が見当たらない。あるいはスピードを出しすぎて見落としたのか。そうこうしているうちに,次に見ようと思っていた「通り池」に着いてしまう。こっちには大きな看板が入口にあり,非常に分かりやすかった。下地島空港とともに島のメインスポットだけに,扱われ方も違うのだろうか。
道を1本入ると,10台ほど停められる駐車場。無論“青空”である。その脇の屋根付きスペースにはワゴンが停められており,移動販売のアイスクリーム屋をやっている。ガイドブックにも当然載っているから,確実にここに客が来るであろうことを見越してだろうが,残念ながら私はその手にはひっかからない…というか,腹いっぱいなので何も食いたくない。願わくばドリンクの自販機くらいあれば有り難いが,そこまで観光地化,あるいはうがった言い方をすれば,“観光ズレ”していないのかもしれない。

駐車場からは鬱蒼とした緑の中,木で作られた遊歩道が伸びる。アロエやソテツ,アダンだの南国の樹木が茂っていて,日陰になっている。直射日光を浴びないだけ涼しいが,代わりに青臭くムッとした空気が流れている。
数分歩くと,直射日光の下,東屋が見えてくる。そして道をはさんでメガネのように一対の池。これが「通り池」だ。シンセイレンタカーからもらった伊良部島のパンフレットには,ここの航空写真が表紙に載っているが,空から見るとまさしくホントにメガネだ。近くにある看板によれば,海側のほうは直径75m×深さ55m,陸側のほうは直径55m×深さ25mだという。
そして二つの池の間には天然の岩のアーチがかかっていて,海側の池は,水深15mほどのところで外洋とつながっているそうである。後ろから来た親子連れらしき人の話が聞こえたが,ダイバーがいきなりムクッと池から顔を出してビックリしたとか。島の土壌は,古代の琉球石灰岩でできていて,そこにできた鍾乳洞が地殻変動による陥没と海水の浸食によって,現在の形のようになったようだ。
二つの池とも濃い藍色をしていて,水面も風によって波紋が若干できて,それが光に反射して鮮やかだが,波の音がまったくしない…というか,波の音が聞こえることは聞こえるが,はるか向こう側から聞こえてくる感じで,ここはホントに「無の境地」で,神秘的なたたずまいをしている。太陽ではなく月の光だったら,なおさらのことだろうと思う。
さらに遊歩道は続いていく。周囲はゴツゴツした岩肌で,その隙間からモンパノキが生えている。これまた数分歩くと二股に分かれる。一方の先には天然の岩の空洞がある。相当に深いのか,あるいはフタがされた感じなのか,水はまったく見えないが,「チャポーン,カッコーン」という音が聞こえてくる。風呂場から聞こえてくるあの音に近いが,水が岩肌に弾ける音だろう。何も見えないので,余計に不思議になる。
一方の終点からは入江が見える。断崖と打ち寄せる波。通り池で聞こえた音はここからの音なのだろう。左を見ると,管制塔の羽のような赤い物体。空港施設ならではのものだろう。

車に戻ると,中はサウナ状態。コンクリートとか二酸化炭素だとかの影響がある都会の暑さとは違うから,なんて思ってはいたが,この際そんなものはどーでもよくなった。動くと汗が否応なしに落ちてくる。この暑さが東京にもそろそろ来てもいいはずだが,どうやらそれはもう少し先のことになりそうだ。
そして,ふと時計を見ると15時を過ぎている。食事の時間と,通り池での見学時間がそれなりにあったせいか,思いのほか時間を費やしている。車は16時20分頃には佐良浜港に置かなくてはならない。時間なんて結構あっという間に過ぎてしまうものだ。
先に進む。5分ほどすると道はコンクリの防波堤と兼ねる。幅にしてギリギリ車がすれ違える程度。右には3〜4mほどの高さのフェンス。そしてだだっ広い滑走路および周辺敷地。一発で空港のそれと分かる。陸の端をそのままダイレクトに海に落ちる格好にせず,緊急時の用途とかで護岸工事も兼ねて道にしたのだろう。道は直角直角に陸を縁取るように曲がる。所々で釣り客の車が停まっているが,その一番突端は,桟橋のような細長いスペースがはるか海の彼方まで伸びていて,白い
地面に赤い手すりが印象的な光景だ。うまくすれば,この“桟橋”をなぞるように上空を飛行機が通過していく様子を写真に収めることができるようだが,残念ながら私がいた間には,何事も起こらなかった。
前編で紹介した「オーシャンハウスinサシバ」のホームページに,下地島空港での訓練予定表が出ているので前もって見ていたのだが,この日はCRJ-100とかいう飛行機の訓練日だったようだ。さらに道を進んで直角に左に曲がるところのスペースで,カメラを構えた男性1名を見つけた。そのフェンスの向こうには小型の飛行機らしき物体が見えたので,おそらくはそれがその飛行機だったのかもしれない。私は時間の都合で通過せざるを得なかったが,もう少し粘れたらあるいは貴重な光景を目にできたかもしれない(下地島空港の詳細については,もう一つ「下地島空港ガイド」というホームページがかなり充実している。飛行機が入ったいい写真を撮れるスポットの解説もある。あわせてご参照いただきたい)。

ちなみに,私にとってこの空港の印象的な光景は,今年の1〜3月にやっていたTBSドラマ「GOOD LUCK!!」での滑走路の航空写真。たしか第9話だったか。滑走路自体はほんの数十秒しか出てこないが,キムタクが避難訓練中の不慮の事故で下半身麻痺寸前になり,腐りかけていたとき,この空港からパイロットになって初めて飛び立ったときの光景が出てくる。目の前に見えた巨大な太陽の光に感動し,彼はコックピットから思わず手を伸ばす,という象徴的なシーン。そんな昔を思い出し,彼は再度パイロットとして復活するきっかけを掴む――何ともベタでくさい展開だが,私としてみれば,そのシーンを見てこの場所に来たようなもの。テレビの力はさぞ恐ろしい…いや,私のミーハー根性がただ単に異常なだけだろう。
さて,滑走路は見たが,地図にも載っている空港のターミナルや「さしばの里」なるものも,折角なので見ておきたい。海岸沿いから内陸に道を折れて数分,まずは「さしばの里」という施設。空港施設を利用する航空会社の人のための寮棟が数棟。奥に,一般人も泊まれる宿泊施設「オーシャンハウスinサシバ」やレストランもある。再び外に出てさらに直進すると空港施設の入口に着く。しかし,ここには警備員がいるようだ。無目的に来ている自分なぞ怪しまれるだけだと思い,中には入らずに右折することにした。空港のターミナルはこのゲートの中。写真で見る限りは白く素っ気無い建物のようだ。
なお,これら一連の施設を運営するSAFCOこと下地島空港施設株式会社は,多岐に渡る事業展開で119名の従業員(2002.4.1現在)を抱える結構大きな会社だ。1995年から,1人で6個の資格を持とうという「1人6格運動」なんて面白い施策が行われている(主に,特殊車両の免許取得者が多い)が,果たして「島のなんでも屋」にでもなろうとしているのだろうか。

(5)伊良部島Part2
ふたたび伊良部島に入る……というか,多分どこかで入ったのだ。どっかで橋を渡ったはずだが記憶がない。あらためて二つの島の一体感がよく分かる体験である。
さて,次に目指したのは佐和田(さわだ)の浜。しかし,車を飛ばしたせいか,何気に目に入った看板には「佐和田漁港」。地図で見ると浜辺よりもかなり北まで来てしまった。かといって戻る時間もなさげなので,先に進み,北端の白鳥崎に着く。波のない入江のみ。とっとと出る。
このまま海岸沿いを行くのもいいが,欲が出て伊良部町の役場付近も見ておきたくなった。地図で見ると公共施設も多いので面白そうだ。岬から直角に折れ,南北に伸びる道に入る。
すると初めは広かった道が,いきなりジャリ道となって狭くなる。地図ではさぞいい道が伸びていそうに思えたが,からかっているのかと思ってしまうほど,あぜ道みたいな細さになる。当然,舗装もガタガタで不安定だ。田舎の中心部から外れた道なんてこんなものだろう。まるで「人が見ていないからどーでもいいや」と言わんばかりだ。でも,圧倒的に地元民しか通らないのだろうから,それでも用足りているのかもしれない。
大通りに出て右折する。しばらく行くと,例の公共施設の多そうなあたりに入るが,これもまた,からかっているのかと思うほど貧相。町役場は3階建てくらいのがたしかにある。小学校もあった。スーパーも雑貨屋っぽいのがあった。でも「とりあえずある」って感じで,どこか集落全体が閑散としている。一応は中心地のはずだが,これじゃ玄関口の佐良浜のほうがよほど街らしい。でも,圧倒的に地元民しかいないのだろうから,ここの住民にはそれでも用足りているのかもしれない。逆に言えば,私みたいに歩いて行ける範囲に何でも揃えられる所に住んでいる者がここに住んだら,気が狂ってしまうこと請け合いである。

さて,時間は15時半を超えた。あとは佐良浜に戻り,鯖置井戸(サバウツガー)と,佐良浜の街中を見るくらいだ。ちょうど3時間だし,うまくすれば16時15分発の平良港行きの高速船に乗れるだろう。車のスピードを再び上げて,佐良浜に向かう。
そして,10分もかからずうちに佐良浜の集落に入る。港町らしく坂が多く,道も特に路地なんかは超狭い。家が多く立ち並んでいて,これこそ「集落」という感じである。蛍光灯か乾電池くらいしか需要がなさそうな電気屋もある。「パソコン」なんて看板があり,おそらくはパソコン教室であろう建物もある。路線バスも走っているが,1日数本だろう。
鯖置井戸は,そんな集落から北に伸びる路地を500mほど進んだどんづまりにある。脇には小さい公営団地も数棟建っていて,公園っぽい広場がある。道の先は高い崖。井戸自体は,その崖に作られた石の階段を123段下りたところ。その階段も整備とは無縁で,石が凸凹しているから,一度下りるのをためらったが,ここまで来て見ないのももったいないから,ダッシュで下りていく。脇の岩場では子どもが水遊びに興じていた。
その井戸はパッと見,天然っぽいマンホールのような穴。直径2mほどで,深さは5〜6mはあるだろう。底に一応水がある。何でも,1965年に島に簡易水道ができるまで,貴重な生活用水として使われたそうだ。水汲みは女性の仕事で,朝の3時から階段を3〜4往復したという。
時間は間もなく16時。とりあえず,見るところはこれで一通り見たから,そろそろ車を佐良浜港に置かなければならない。地図によれば,港近くにガソリンスタンドがあるようだから,そこで満タンにしてちょうどいい時間だろう。

県道に出ると,海に向かって道はカーブを描いて下りとなる。狭苦しい道を進むと,左に地図に載っているガソリンスタンドの看板。さて,ここで…と思いきや,何とガラーンとしている。車が2〜3台停まっているが,給油の「き」の字もない。セルフという感じでもない。どうにもここ以外にはスタンドはなさげだし,弱った。かといって,返却時間も刻々と近づいている。これはシンセイレンタカーに電話をして相談しなくてはならない。そのまま進んで港に入って,混んでいる駐車場の中から停めるスペースを探し,結局港の端っこに停めてケータイをかける。
「すいませーん,いま佐良浜港にいるんですけど,近くのガソリンスタンド
でオイル入れようとしたら,休みなんですよ」
「あ…そうでしたかー。それはそれは」
「どうしましょうかねー」
「あー,下地島の近くにあるんですけど……そこまで行かないとないです
ねー」
「で,また港まで戻るということで?」
「そうですね。乗り捨てということで」
「……入れたほうがいいんですよね?」
「そうですね。申し訳ありませんけどー」
何ということ。時間はまもなく3時間を経過するというのに,地図によればこれから10kmほどを往復で走らなくてはならない。船の時間はともかくも,オーバー料金を取られてしまうのは釈然としない。まあ,でもそういうことなのだろうから,と再び車を出そうとしたときに,ケータイに電話がかかってきた。
「あー,○○さんですか?……いいですよ,そのままで構わないですよ」
「……そうですか。すいませーん,申し訳ありませーん」
「助かった」「有り難い」「そりゃそうだろう」というのが混ざった気持ちだ。こんなポンコツ車に5000円も払い,あげくの果てにガソリンも自腹で遠くまで入れに行かされたのではどうにもたまらない。さすがに,そこは向こうがある意味“当然の配慮”をしたのだろう。あるいはレンタカー屋近くのスタンドに向こうで電話して,営業していないことが分かったからこっちに電話をかけた……なんて気の効いた確認でもしてくれた結果なのだろうか。

まあ,そんなことはともかく,急いで言われた通り,ダッシュボードにキーを入れてロックをかけて乗り捨て完了。一応,「ご好意に感謝します」という旨の手紙をメモを破って書いてやった。ただし,ガソリン代なんてお金は,申し訳ないが置いていかない。そこまではしてやる必要はなかろう。そして,間一髪で16時15分の船に駆け込みセーフ。それと同時に船は出発。まったく,行きも帰りも“間一髪セーフ”とは,いい加減疲れる限りである。
ちなみに,後で領収書をよく見たところ,住所は平良市になっていた。島にレンタカー屋が新しくできたというよりは,出張所みたいなのが設けられたということなのだろう。レンタカー屋ができなかった理由に,ひょっとしてガソリンスタンドが日曜日に軒並み閉まって,不利益を被るからというのもあったりして。
それが証拠に,貸渡証の出発キロには「151769」と6ケタの数字。ホラ,完全に原価償却を何度もしているだろうボロ車だ。多分,下手したら昭和時代から宮古島を散々走っていて一線を退いたヤツをあてがわれたのかもしれない。レンタカー屋が“設けられて”1カ月くらいだと思うが,たかだか周囲30〜40km程度の島のどこをどう走っても,地球約4周分の距離になぞ,なるわけがないのだ。(後編につづく)

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