Maggie's J‐POP論

その4 私が勝手に決めつける「傑作オリジナルアルバム10枚」
その4では,表題のように,勝手に私が傑作と思っているJ‐POPのオリジナルアルバム10枚を挙げたいと思います。肝心なのは「オリジナルアルバム」であること。シングルや名曲ばかりを集めた「ベスト版」というのは,だいたい“はずれ”がないものですし,だからこそ人々がこぞって買って売上げが高くなるのだと思います。
でも,そのベスト版だって,元々はオリジナルアルバムやシングルで地道に発表してきたものの積み重ね。誰だっていきなり「ベスト版」など出せるものではありません。だからこそ,この“特に地道な”オリジナルアルバムで,いかに多く傑作を残せるかによって,そのアーティストの“地力”というものも分かってくると思うのです。
ここに出てくる10アーティストは,いずれもそんな“地力”のあるアーティストばかりであり,現役がほとんどです。もっとも,年代は少し古くなりますが,それは私の中に“懐古主義”みたいなものがあるからかもしれません。その点はご容赦を。機があれば,第2弾もやりたいと思います。それでは。

@織田哲郎『SONGS』(1993)
(収録曲)世界中の誰よりきっと/このまま君だけを奪い去りたい/愛を語るより口づけをかわそう/チョット/咲き誇れ愛しさよ/SUMMER DREAM/BE MY VENUS/サヨナラから始めよう/OH SHINY DAYS/揺れる想い/翼を広げて
一言で言えば「食堂の賄い飯」的アルバム。その心は「人に提供したのよりも出来がいい」。例えば,ラストの「翼を広げて」は,DEENのオリジナルと違って打ち込みやギターのうるささがとれ,ストリングス中心の美しい曲に。また「BE MY VENUS」は,ブラスとストリングスとバンドが一体となった壮大な曲に仕上がっている(「沖縄標準旅」第6回でも触れている)。このほかの曲も,オリジナルとかなり異なる仕上げとなっており,聞き比べてみるのも面白い。

A米米CLUB『シャリシャリズム』(1985) 
(収録曲)フィクション/I・CAN・BE/ニュー・スタイル/エクスクラメーション・マーク/On My Mind/かっちょいい!/space/だからからだ/ノンコンプレックス/リッスン
米米のアルバムの中では「KOMEGUNY」(1987)とならんで最高の出来のもの。メロディーを重視する私にとっては,なかでも「ニュー・スタイル」「リッスン」は,非常に質の高い曲といえる(特に後者は,私が聴いたJ‐POPのバラードの中では1・2を争う名曲)。だからこそ,ギャグっぽい曲なんか歌わないでよと思っていたのだが,逆に言えば,そのギャグっぽい曲がなければもっと早い時期に行き詰まって解散していたということなのか。

B井上陽水『ハンサムボーイ』(1991)
(収録曲)Pi Po Pa/エミリー/ライバル/最後のニュース/ギャラリー/少年時代/フィクション/Tokyo/夢寝見/自然に飾られて/長時間の飛行 
ニュース番組やCMでおなじみの曲も収録し,曲調もピアノ1本からロック,打ち込み,オーケストラと,実に多種多様な曲が収録されている1枚。「その2」にも書いたが,井上陽水の曲の良さは,本人もそうだがむしろ,アレンジャーの力が大きいのではないか。93年に出たセルフカバー的アルバム『ガイドのいない夜』でもそれが証明できる。ところで蛇足だが,「少年時代」が同名の映画(監督は篠田正浩)の主題歌であったことを知っている人はどれくらいいるのだろうか。 

CX『BLUE BLOOD』(1989)
(収録曲)PROLOGUE(〜WORLD ANTHEM)/BLUE BLOOD/WEEK END/EASY FIGHT RAMBLING/X/ENDLESS RAIN/紅/XCLAMATION/オルガスム/CELEBRATION/ROSE OF PAIN/UNFINISHED
聴いていて感じるのは「なんか,やりたいことやりまくってんな」ということ。特に「ROSE OF PAIN」ではバラードからお得意のハードロックまで3段階の曲構成となっており,結果12分の大作に。3段階全部ひっくるめて1曲としているところに“らしさ”を感じる。その他,チョッパーベースやパーカッションを取り入れたインスト「XCLAMATION」,YOSHIKIの作品とはまた味の違う仕上がりの,hideの作品「CELEBRATION」(その3も参照)などバラエティー満載の1枚。

D河村隆一『Love』(1997)
(収録曲)I love you/好き/涙色/Birthday/Love Song/BEAT/蝶々/Love/Evolution/小さな星/Glass/でも淋しい夜は…/SE,TSU,NA/Love is…/Christmas/Hope
LUNA SEAとは趣のまったく異なる“前向きさ”。エレクトリック・ギターを全体的に抑え,ピアノやオルガン,キーボードを多投したポップな仕上げに。このアルバムを聴いていると,LUNA SEAの曲は彼以外のメンバーの色が濃いのだろうかと思ってしまう。お勧めは,Say a Little Prayerに提供した「小さな星」と,THE ALFEEの高見沢俊彦作曲のタイトル曲「Love」。とても,LUNA SEAのメンバーとでは作れまい。

EB'z『LOOSE』(1995)
(収録曲)spirit loose/ザ・ルーズ/ねがい("BUZZ"STYLE)/夢見が丘/BAD COMMUNICATION(000-18)/消えない虹/love me,I love you/LOVE PHANTOM/敵がいなけりゃ/砂の花びら/キレイな愛じゃなくても/BIG/drive to MY WORLD
打ち込みからバンドサウンドになって彼らが好きになった私にとっては,最高のサウンドになったアルバム。これ1枚しか持っていないでB'zを語ってはいけないのだろうが,他のを聴いてもあまり満足できないような気がする。「キレイな愛じゃなくても」――なんかストリングスと激しいドラムスとエレクトリック・ギターがよく絡んで最高である。「ねがい」――シングルより“濃厚な”仕上がりである。「drive to MY WORLD」――ドラムスが激しくって気持ちいい!

F中山美穂『CATCH THE NITE』(1988)
(収録曲)OVERTURE/MISTY LOVE/TRIANGLE LOVE AFFAIR/SHERRY/スノー・ホワイトの街/CATCH ME/JUST MY LOVER/FAR AWAY FROM SUMMER DAYS/GET YOUR LOVE TONIGHT/花瓶
角松敏生プロデュースの1枚。こってこてに“打ち込み”だが,メロディーの美しさがその“くどさ”を和らげる役割をしている。角松の作品も,バラードの「花瓶」などストリングスとホーンが実に美しいのだが,特に中でも佐藤隆作曲・編曲の「TRIANGLE LOVE AFFAIR」「スノー・ホワイトの街」は超名曲。サキソフォンが実に効果的に使われていて,聴く者の耳を飽きさせない。 
        
G杉山清貴『realtime to paradise』(1987)
(収録曲) realtime to paradise/MYSTIC LADY/Bound for River's Island/タイをはずして/想い出のサマードレスBorderline/Cape light/MOVING MY HEART/モノローグ/The dream/最後のHoly Night
ソロになってからの2枚目のアルバム。ヒット曲「最後のHoly Night」(CDのみ収録)はクリスマスソングの定番になった。クリスマスなのに夏の海を思い起こさせてしまうのは,彼の声のさわやかさと音のキレイさによるのだろうか。だが個人的な意見として,曲の出来はこのへんが限界なのだろう。以降,「これぞ名曲!」と思わせる曲があまり出ていないのが事実だから。

HCHAGE&ASKA『SEE YA』(1990)
(収録曲)DO YA DO/水の部屋/すごくこまるんだ/ROLLING DAYS/Primrose Hill/僕は僕なりの/Reason/モナリザの背中よりも/ゼロの向こうのGOOD LUCK/YELLOW MEN/太陽と埃の中で
CHAGEの作る曲とASKAのそれとでは,次元みたいなものがぜんぜん違うことをこの1枚は証明してくれる。CHAGEの曲は結構遊び心をもってのびのび作っているなぁと思わせるのに対し,ASKAの場合は,けっこう力入れて濃密に精巧に作られているように感じられる。だから,ASKAには失礼だが,ソロアルバムは通して聴くのが結構つらい。曲調も似たり寄ったりだし。曲が多く入るアルバムというアイテムでは,合間に趣の異なる曲を入れることが,「変化を与える」という点で重要な役割を果たすことを証明する1枚といえる。        

IMR.CHILDREN「ATOMIC HEART」(1994)
(収録曲)Printing/Dance Dance Dance/ラヴ コネクション/Innocent World/クラスメイト/Cross Road/ジェラシー/Asia(エイジア)/Rain/雨のち晴れ/Round About〜孤独の肖像〜/Over
「ミスチルも,このころはこんなにさわやかだったんだよ」と思わず言いたくなる。逆に,今の彼らはいささかメッセージ色が強すぎると思う。ただ単に皮肉りたいだけなのか,「もっとよくなれ,この国よ」にまで及んでいるのかよくわからないし。この中でいくと「Innocent World」や「クラスメイト」みたいな,聴く者をみずみずしい気持ちにさせてくれるような曲がもう一度ほしいなあ……と思っていたら,「くるみ」が出てきたので嬉しいなーなんて思ってしまう今日この頃である。(おわり)

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