JIS行組版ルールを考える

JIS規格の組版

和文の文字 (漢字や仮名) は原稿用紙を考えるとわかるように、基本的にすべて正方形をしています。しかし、すべての文字がそうではありません。例外は記号類で、これら記号類を「約物」といいます。ここでは約物の組み方を考えてみたいと思います。

JIS規格に『日本語文書の行組版方法』(JIS X 4051) というのがあり、約物の組み方も規格になっています。以下、簡単に説明しますが、その前に用語を解説しておきます。

始め括弧類
‘ “ ( 〔 [ { 〈 《 「 『 【 などの文字を言います。
終わり括弧類
’ ” ) 〕 ] } 〉 》 」 』 】 などの文字を言うだけではなく、JISでは読点 (テン) とコンマもこの分類に入ります (後述)。
句点類
句点 (マル) とピリオドのことです。

また、JISの用語ではありませんが、以下、始め括弧類の前と終わり括弧類の後ろを「括弧の外側」、始め括弧類の後ろと終わり括弧類の前を「括弧の内側」と呼ぶことにします。

約物の組み方

ではここで、

「ひらがな」、「カタカナ」

という文字列をすべての文字を正方形として、等幅で組んでみます。原稿用紙のイメージですね。次のようになります。

【すべて同じ幅で組んだ図】

なんだか読点がポツンと中ぶらりんの位置にあるみたいですね。なぜこうなるかというと、仮名や漢字は正方形のマス目の中央に位置するので問題ないのですが、次の図のように終わり括弧類はマス目の左端に寄った位置にあります。

【約物のマス目内の位置を示した図】

つまり、元々文字の右側部分が空白になっているような文字なので、次の句読点との間にすき間が空いてしまうわけです。では、これをJISの日本語組版の方法で組んでみます。

【通常の日本語組版で組んだ図】

今度はきれいに見えます。カギ括弧と読点の間を先ほどより半角分詰めた形です。通常のDTPソフトは、このように組みます。この組み方は次の2通りの考え方ができます。

  1. 終わり括弧類は普段は全角幅だが、後ろに読点などが来たときには半角分詰める。
  2. 終わり括弧類は元々は半角幅だが、後ろに普通の文字 (漢字など) が来たときには半角分空ける。

どちらの考え方をしても得られる結果は同じですね。そして、通常の日本語フォントは括弧類も全角幅がありますので、DTPソフトが日本語フォントを処理する際に実際にやっている処理は、この1番の処理になります。しかし、組版ルールを言うときは、伝統的に2番の考え方をします。おそらくは、活字時代の考え方の名残だと思います。

括弧は半角幅

ここで、「半角幅」と「半角文字」をごっちゃにしないで下さい。1バイトの欧文用文字 (ASCII文字) などを「半角文字」という場合がありますが、ここで「括弧が半角」と言っているのは、いわゆる「半角文字」の括弧を使うという意味ではありません。

全角の括弧のことを、半角幅の括弧と半角幅の空きから成り立っていると仮想的に考えるという意味です。使うのは全角文字の方の括弧です。

同様に、全角の中点「・」も文字自体は半角幅で、その両側に全角の4分の1幅ずつの空きがあると考えるのです。日本語フォントにとっては変な考え方ですが、先述の通り、これは活字時代の考え方の名残だと思われます。たぶん、活字がこういう作りだったのでしょう。

【約物の活字イメージの図】

なお、組版ルールでは、半角分の空きを2分の1幅ということで「二分アキ」と言います。全角の4分の1幅の空きだと「四分アキ」となります。また、空きを入れないことを「ベタ」と言います。

まとめると、終わり括弧類は半角幅の文字だと考え、後ろが読点ならベタ、後ろが漢字なら二分アキにするということです。中点も前後が漢字なら四分アキになります。

もちろん、漢字や仮名などは普通に全角幅の文字と考えればいいです。日本語組版では、クエスチョンマーク等も全角のものを使います。

禁則処理

前ページの「各ソフトの組版比較」でも書いたように、約物の中には行頭や行末に置くことができないものがあります。この時、「追い込み」か「追い出し」で解決するのが禁則処理です。

追い込みなら文字間を詰めることになりますが、詰め過ぎて文字が重なってはいけませんので、各文字どうしの間がどれだけ詰められるかのルールが必要です。例えば、JISでは次のようになっています。

これは一例で、実際はもっと細かいルールがあります。なお、終わり括弧と読点は、どちらも半角幅の文字と考え、普段は後ろが二分アキで、ベタまでは詰められ、行頭禁則文字であるという風に、まったく同じ性質があります。ということでJISでは読点も「終わり括弧類」に分類されているわけです。

優先順位で詰める

JISでは文字間を詰めるときに、読点の後などを詰めることができますが、もしその行内に中点類がある場合はその両側を優先的に詰めるという規定があります。

正確に言うと、「欧文間隔→中点の前後→括弧類 (読点を含む) の外側→和欧間」の順に詰めていくのですが、和文部分だけを考えるなら、まず中点の両側を詰めていき、ベタまで詰めてもまだ足りないときに、ようやく次は括弧の外側や読点の後ろなどを詰めていくということです。そして句点の後ろは詰めません。要するに、詰める優先順位を規定しているのです。これは、文章の区切りの強さで考えることもできると思います。

区切りの強さ

例えば、句点 (マル) は文と文を区切る記号ですが、読点 (テン) はその文の中のフレーズを区切ります。ということは読点より句点の方が大きい区切りを表します。また、中点「・」も語句を区切りますが、両者を比較すると、中点よりは読点の方がより強い区切りです。

先述のように、これらの文字には半角分の空き部分がありますが、空きを詰めると前後の文字が近づいて区切りの意味が弱くなると考えると、強く区切りたい部分の空きはあまり詰めるべきではありません。

そこで、空きを詰める場合は、中点類などの弱い区切りの所から詰めていけばいいとなります。句点の後を詰めてならないのは、そこが「文の終わり」という非常に強い区切りだからと考えられます。

詰めが偏っている

では、このJISのルールに従って組んでみましょう。

彼の名はラ・テフと言いました。しかし、
昨日、ラ・テフでなく、なぜか「ラテック
」と名乗ったのです。

これを1行19文字で、段落字下げ無しで組んでみます。単なる例文なので、文意は気にしないで下さい(笑)。

さて、1行目行末が読点ですが、読点は半角幅で、この場合は後ろに文字がないので、通常は空きを入れません (行末にベタ)。結局1行目には18.5文字幅の文字しかないことになります。これを各文字間を空けて、19文字幅に組みます。

次に、3行目行頭の終わりカギ括弧が行頭禁則文字なので2行目に追い込むとすると、カギ括弧は半角幅なので、2行目内で半角分を詰めないとなりません。JISのルールでは中点周りから先に詰めますので、中点の前後の四分アキを両方ともベタまで詰めるとちょうど収まります。以下の図のようになります。

【中点だけを詰めて調整した図】

これがJIS規格通りに組んだものなのですが、どうでしょう。私は、「ラ・テフ」という文字の周りが、1行目と2行目でかなり違っているのが気になります。他の部分が詰まっていないのに、中点周りだけキチキチに詰めてあるという違和感があるんですよね。JISの組み方は必ずしもきれいに組めるとは限らないと思います。

優先順位でない詰め方

そこでこの2行目を、中点の前後だけでなく他の文字間も同時に詰めることを考えます。例えば読点の後と中点の前と後を同じだけ詰めることを考えます。すると中点は前後で詰められるので、結果、読点の2倍詰まることになります。しかし、中点より読点の方が強い区切りという理屈から考えれば、弱い中点の方が多く詰まるのは別におかしなことではありません。

また、区切りの強さという点ではカギ括弧より読点の方が強いと思われますので、弱い方のカギ括弧はもう少し詰めて良いとも考えられます。さらに、漢字や仮名も文字枠内にぴったり収まっているわけではなく、いくらかの余白が周りにあります。これも少しなら詰めに使えそうな気がします。

比率で詰める

そこで例えば「読点後と中点前後 : カギ括弧前後 : その他和字間 = 1 : 1.25 : 0.08」ぐらいで詰めてみましょう。この比率は1文字当たりの値で今適当に考えたものです。この行は読点が2個あり、中点前後は前と後で計2個、カギ括弧前が1個で、行頭・行末を詰めないとすると和字間は14個です。比率を計算すると、

1×(2+2) + 1.25×1 + 0.08×14 = 6.37

で、これだけで半角分を詰めますから、1個の読点の後は半角の6.37分の1 (全角の12.74分の1)を詰め、カギ括弧の前は半角の6.37分の1.25を詰め……などと計算できます。そうやって詰めたのが以下の図です。

【全体で詰めて調整した図】

それなりに自然に詰まっているような気がします。JIS規格通りに組んだ上と比べてどうでしょう?

もちろん、この場合、追い出してしまうというのも一つの手です。TeXには、非常に詰まった行と非常に空いた行が隣合うのをできるだけ避ける (避けた方が汚くなる場合は許容する) というアルゴリズムもあります。1行目で空け調整をしたなら、2行目はあまり詰まらない方がいいかもしれません。

調整箇所を増やそう

JISのやり方は、調整箇所をできるだけ少なくする方法です。これは元々、活字の組版でやっていたノウハウを規格化した側面も大きいんじゃないかという気もします。活字なら調整箇所が多いと繁雑です。手を掛けない中で最もきれいに組む方法が優先順位を付けることだった??

でも、コンピュータで組ませるなら、調整箇所をできるだけ多くして1か所当たりの調整量を減らす方が、より自然な組版ができるのではないかと思ったりします。私見ですが、どうでしょう?

そんなに詰めなくても…

次に、以下の内容を1行17文字、段落字下げ無しで組みます。

彼の名は、ラテフと言いました。しか
しその時、ラテフでなく、なぜかラテ
ックと名乗ったのです。

やはり3行目行頭の「ッ」が行頭禁則文字なので、JISのルールに従うと、2行目の2つの読点の後ろをベタまで詰めて、以下のような追い込み処理になります。

【読点をベタまで詰めて調整した図】

しかし、読点の後ろをこれだけ詰めると、かなり窮屈な印象があります。読点は句点に次いで大きな区切りです。私は読点はベタまで詰めるべきものではなく、四分アキぐらいまでで止めておくべきかと思います。つまり、この例の場合は、もう追い出してしまってもいいと思います。

また2行目2つ目の読点は、読点前の「く」の字が元々左右に空きの多い字形のため、読点が前の「く」より後ろの「な」の方に近づいて見えます。詰め過ぎると前後の字形によってはこのように見える問題も出てくると思います。

括弧類の詰め方

同様に、読点の後よりは詰まっていいかもしれませんが、カギ括弧の外側などもベタまでキチキチに詰めるものではないと思います。例えば、〈この括弧〉 (不等号とは違う字ですよ) を「リュウミンL」などのフォントでベタまで詰めると、括弧の外側より内側の方が空いて見えるという問題があります。そういったことを避ける意味でも、最も詰まったときでも少なくとも八分アキぐらいは空いているべきでしょう。

ただ個人的に、丸括弧だけはベタまで詰めてもおかしくは感じません。文中のカギ括弧は語句の強調などに使われますが、丸括弧は語句の補足などによく使われます。強調の目的では、周りが空いていることで周囲から分離され、より強調が深まると考えられますが、補足ならつながっていて問題ないということも関係あるのかなと思ったりもします。

まとめると、組版ルールというのは、もう少し個別に細かく考える必要があるんじゃないかなということです。


渡邉たけし <t-wata@dab.hi-ho.ne.jp>