同人誌印刷所にデータ入稿

印刷所への入稿方法

ここまでで作った原稿を印刷所に渡して本を作ることを考えます。印刷所に原稿を渡す方法としては、大きく分けて2つの方法があります。紙原稿で渡す方法とデータで渡す方法です。

紙原稿の場合は、そのまま1ページずつプリントアウトしたものを印刷所に持っていけばいいです。ただし、B5サイズの本を作る際にB5の紙にプリントアウトするわけではありません。紙原稿の場合、原稿をひとまわり縮小して印刷するのが一般的です。縮小によって解像度が上がるので、きれいに仕上がるからです。

従って、A5サイズの本を作りたい場合は、原稿はひとまわり大きなB5サイズにします。B5→A5と縮小されるわけです。さらに、「断ち切りの写真を入れる」の回に書いたように、トンボを付けて、ひとまわり大きな紙にプリントアウトしなければならないので、実際の原稿は、さらに大きなA4の紙にプリントアウトして持っていくことになります。

データ入稿

一方、データで渡す場合は、縮小はせずに原寸印刷が原則です。データ形式としては、主に次の4つが可能です。通常はCD-R等に入れて持っていけばいいですが、ネット経由で受け付ける所もあります。

DTPソフトの保存ファイル

印刷所の人が同じソフトで開いて印刷します。どのソフトで作ったデータを受け付けるかは、印刷所によって違いますが、超有名DTPソフトなら、だいたいどこでも受け付けられるようです。DTP専用のソフトなら、トンボ等の処理はソフトがやってくれますので意識しなくていいです。

TeXファイルでの入稿を受け付けている印刷所もあるにはあるようですが、実質上ほぼないと言えるほど、非常に限られています。というわけで、TeXで作る場合は、この方法はほぼ使えないですね。

1ページごとのEPSファイル

複数ページから成るPostscriptファイルを受け付ける印刷所はほぼないですが、1ページごとにバラしたEPSファイルをページ数分だけ入稿する形なら、受け付ける所もあります。1ページごとのEPSの方が面付け作業 (複数ページをまとめて1つ紙に印刷し、後で切り分ける) がしやすいということでしょう。

なお、各ページは、きちんとトンボを付けたデータになっている必要があります。そして、トンボの外側には一切何も置かないようにします。つまり、どのページもトンボが一番外側にある状態にします。これで全ページBoundingBox情報が同じになるので、面付けがスムーズにできるというわけです。

TeXからEPSにするには、まずdvips等で複数ページから成るPostscriptファイルを作って、その後、それをページ数分のファイルにバラすようにします。psutilsというフリーソフトパッケージに入っている「psselect」というツールを使うと、Postscriptファイルから任意のページだけを取り出せるので、これをスクリプトで回して、「ps2eps」等のツールでEPSファイルに直せばいいでしょう。以下はhoge.psから48ページ分を取り出すperlスクリプトの例です。

#!/usr/bin/perl
for $i (1 .. 48) {
 system sprintf "psselect -p%d hoge.ps > hoge%02d.ps\n", $i, $i;
 system sprintf "ps2eps hoge%02d.ps\n", $i;
}

EPSファイルで入稿する利点は、自分が持っていないフォントでも、印刷所が持っているPostscriptフォントで印刷できる点です (TrueTypeフォントは使えません)。TeXはフォントの字形データは一切見ずに、文字幅情報だけを使って組むソフトですので、自分のマシンにインストールされていないフォントでも、そのフォントのPostscript名を知っているだけで使うことができます。字形データは最終出力環境 (印刷所) にさえあれば、それだけでいいわけです。

ただ、この方法はある意味、最も出力トラブルの多い方法なので、印刷所としてはできれば受け取りたくない形式かもしれません(笑)。受け付けない印刷所も多いと思っておいた方がいいです。

1ページごとのラスタ画像ファイル

1ページごとのラスタ画像ファイル (通常の画像ファイル) をページ数分だけ入稿します。この方法は通常、どこの印刷所でも受け付けてくれますので、TeXでデータ入稿する場合は、真っ先に検討すべき方法だと思います。

画像は通常、各ページ600dpiで作成し、TIFF形式などで保存します。TIFF形式は昔からある画像形式で、解像度の値を保存できるので、印刷所では好まれているようです。

この方法の場合、ドブ幅を上下左右ぴったりに作ればトンボは要らないとする印刷所が多いです。例えばB5の本なら仕上がりサイズが182×257mm。上下左右に3mmの塗り足しを付けると、188×263mm。これが600dpiだから「÷25.4×600」して、4441×6213画素 (ドブ幅5mmの場合は4535×6307画素)。というわけで、各ページの画像ファイルがこの画素数になっていれば、トンボは要りません。もちろん、塗り足しの部分は断ち切られて、出来上がりの本には現れません。

TeXで作る場合は、dvips等でPostscriptファイルにしたら、Ghostscript (gs) で1ページごとの画像ファイルに変換できます。以下はhoge.psをPGM形式 (グレースケール) に変換するコマンドの例です。

gs -q -dNOPAUSE -dBATCH -sDEVICE=pgmraw -r600 \
  -sOutputFile=hoge%02d.pgm hoge.ps

後はこれをGIMP等で指定サイズに切り取り、TIFF形式等で保存しなおせばいいです。実際にはTeXでトンボを付けておき、GIMPでこのトンボ位置 (四隅のトンボの交点の位置) に合わせて切り取ると正確に切り取れます。この時、保存前に解像度の値を設定しておく必要があります。GIMPは「印刷サイズ」の所で「600dpi」と設定するといいようです。

とは言うものの実際には、ページ数が多いときには全ページGIMPで開いて保存しなおすのは面倒です。1ページだけGIMPで開いて、切り取る位置 (左上隅から何画素目の位置で切り取るといいか) を確認したら、後はnetpbmというフリーソフトパッケージに入っている「pnmcut」「pnmtotiff」などのツールを使って、スクリプトで回せば、全自動でページ数分の画像ファイルにしてしまうこともできます。以下は(100,100)の位置で切り取って保存するshスクリプトの例です。

#!/bin/sh
for a in hoge*.pgm
 do pnmcut 100 100 4441 6213 $a | \
  pnmtotiff -xresolution 600 -yresolution 600 > ${a/.pgm/.tiff}
done

なお、この方法は、文字データはすべてgsで画素の点に変換してしまいますので、gsが認識できないフォントは使えないという欠点があります。具体的には、MacintoshのNewCIDフォントなど、リソースフォークに字形データがあるフォントは使えません。この場合、上述の1ページごとのEPSファイルに変換してからPhotoshopで開くという回避方法があります。一旦、PDFにするという方法もあります。

もう1つの欠点として、600dpiは少し荒いと感じる人がいるかもしれません。1200dpiを受け付ける印刷所もあるにはあるのですが、たいていは重いからと嫌がられます。まあ、小部数印刷ではどうせそこまでの精度が出ないからという話もあるようですが。

PDFファイル

複数ページから構成されるPDFファイルを1つだけ入稿する形です。現在はまだ受け付ける印刷所は少なめですが、今後はどんどん増えてくると思われますので、今後はこちらが主流になりそうな予感です。

PDFの場合も、原理的には字形データが必要なのは最終出力時ですので、印刷所にさえフォントがあれば出力できます。ただ、実際には「PDFには必ず全フォントを埋め込んで下さい」という指定をしている印刷所がほとんどです。

基本的に、TeX以外のDTPソフトは、自分が持っていないフォントでデータを作ることができません。そして、PDF作成の際は、自分が持っているフォントは埋め込むことができます。そして、フォントが埋め込まれているPDFの方が出力トラブルが起こりません。それなら、印刷所が「必ず埋め込んで下さい」と指定してくるのもある意味当然かもしれませんね。困るのはフォントを持っていないTeXユーザーだけですし、TeXユーザーもOpenTypeフォント等を買えば問題ないわけですし……。

PDFファイルの作り方は、dvips等でPostscriptファイルを作ってからAcrobat Distiller (製品版) 等でPDFに変換する方法が一般的ですが、最近はDVIからPDFに一発で変換する「dvipdfm」というフリーソフトもあるようです。


渡邉たけし <t-wata@dab.hi-ho.ne.jp>