断ち切りの写真を入れる

断ち切りとは

通常、本や雑誌の各ページの紙には上下左右に余白部分があり、この内側に本文領域があります。この本文が組まれる領域を通常「版面」と言います。章名が書かれたヘッダ (柱) やページ番号 (ノンブル) などは通常、版面の外側の余白部分に置きますが、本文内の図や写真などは版面内に置かれるのが普通です。

これを版面からはみ出し、紙の端まではみ出させるのを「断ち切り」または「断ち落とし」と言います。書籍ではあまりやりませんが、雑誌では半分以上 (ほとんど?) のページが断ち切りになっているのが普通です。マンガとかでもよくありますね。絵が紙の端まで到達しているのが断ち切りで、迫力のある紙面を作ります。

断ち切りの作り方

本の印刷をする場合、例えばB5サイズの本を作るのに、B5の紙に印刷するなんてことはしません。通常、紙の端っこはインクがうまく乗らないので、これでは断ち切りが実現できないです。従って、ひとまわり大きいA4の紙などに印刷し、その後、B5の大きさにカット (化粧裁断) して完成品とします。

……というのも正確じゃなくて、正確に言うと、数ページ分を1枚の紙に同時に印刷し、折り畳んでからカットするので、実際に印刷する紙はもっとかなり大きいです。これは、版の数や印刷回数を減らし、コストを下げるのが目的のようです。

なお、原稿にはどこのラインでカットしてほしいかの印を入れておきます。この印を「トンボ」と言います。LaTeXで原稿にトンボを付けるには単に「tombo」とオプションを付けるだけです。もちろん、このオプションを付けたものを印刷する場合は、ひとまわり大きい紙に印刷する必要があります。plain TeXでトンボを付けるには、LaTeXのマクロからコピーしてくるのが早いかと(笑)。

\documentclass[b5paper,tombo]{jarticle}

次に、写真を断ち切りにしたい場合は、通常、印刷や裁断時のズレ等も考え、トンボの仕上がり線の外側に3mm分、写真をはみ出させて配置します。このはみ出した部分も印刷はされますが、化粧裁断の際に切り取られてしまい完成の本には現れません。切り取られる部分があるので「断ち切り」というわけです。この3mmは「塗り足し」または「ドブ」とも言います。もちろん、写真の重要な部分がこの部分に出てこないように余裕を持ったトリミングをしておく必要があります。

【トンボと断ち切りの図】

上の図は青線が仕上がり線で、印刷後にこの位置で裁断されます。図の青線は説明のために入れただけで、実際の原稿には線は書きません。灰色部分が写真を断ち切りで入れた状態で、仕上がり線の外に3mmはみ出しています。四隅にあるのがトンボで、仕上がり線の位置とその3mm外側の位置を示す線になっています。この他にもセンタートンボという原稿の中央位置を示すトンボが付いています。

なお、同人誌などの小部数印刷では、ドブ幅 (塗り足し幅) を5mm取れと言われることもあります。

これの応用として、「見開き」があります。ページを開いたときの左右のページにまたがった写真を配置することです。これも本のノド (綴じてある部分) 方向に向かって断ち切りをすればいいですね。この場合、写真は左右のページで重複する部分を作っておきます。本の綴じてある部分は見えないので、実際に本になったときには重複部分が見えずに、ページを開いたときにちょうどつながって見えるわけです。

TeXで断ち切り

というわけで、TeXで断ち切りにするには、写真を本文領域 (版面) からはみ出した位置に配置すればいいだけです。ページの上側を断ち切りにするには上余白 (1in + \topmargin + \headheight + \headsep) + ドブ幅 (3〜5mm) 分だけ上にずらすだけですね。ただし、ずらした分だけ本文領域が空いてしまってはいけません。このためには少し工夫が必要です。

例えば今、張りたい写真のデータが縦横とも10cmあるとします。長さは、画素数と解像度から計算できます。

次に、見開きの左側ページに張ることを考え、このページの上余白が3cm、左余白が2cmあるとします。この場合、この写真の左端と上端を断ち切りにするには、写真を版面の左上角から上に3.3cm、右に2.3cmずらして配置すればいいわけです (ドブ幅3mmの場合)。この時、この写真は本文領域に横7.7cm、縦6.7cm分残っている形になります。TeXにはこの写真が、残っている横7.7cm、縦6.7cm分の写真だと思わせて組めば本文のテキストはちょうどその下から始まることになります。

\vbox to 6.7cm{\vskip-3.3cm
  \hbox to 7.7cm{\hskip-2.3cm
  \includegraphics[width=10cm,height=10cm]{hoge.eps}\hss}\vss}

こんな感じのソースで、中身をずらしながら本物の長さと異なる長さに偽装することができます。下や右にずらす場合は、\hskip\vskip の移動量は正の値にします。

なお、「\vbox to 0mm」や「\hbox to 0mm」などとして、大きさのない写真ってことにしてしまうと、その写真は存在しないかのように、その後の本文テキストが写真の上に被ります。で、写真はbox内部の \vskip, \hskip 等で自在に移動させ、本文テキストは写真に被らないように改行や\pagebreak などで整形していくという手もあります。この方法なら、右下に置く写真をページの先頭に記述することもできることになります。整形作業が繁雑ですけどね(笑)。


渡邉たけし <t-wata@dab.hi-ho.ne.jp>