(注) この物語に登場する人物・団体などはすべて架空のものです。
「今日は関係詞についてやりますよ。これを見てください」
「『本を読んでる少女』って言いたかったら、まず『少女』って言ってからコンマを置きます。その後ろに、その少女のことを聞く疑問文『だれが本を読んでますか』って文を置くんです」
「これで『本を読んでる少女』の意味になるのか」
「『だれが本を読んでますか』って疑問の答えになるような『少女』って感じね。分詞形容詞でも同じ内容を言えたけど、これは従属節で修飾する形よ」
「実際は、後ろから訳さずにそのままの順序で理解するのが上達の早道よ」
「こんなふうに、ほかの語を修飾してる疑問詞は『関係詞』って言いますよ。修飾されてる語 (この場合 knabino) は『先行詞』とも言います」
「これも同じで、『少女はどれを読んでますか』って疑問の答えになるような『本』って感じです。対格に注意してくださいね。特定なら冠詞も付けますよ」
「疑問詞の後ろは語順自由だから『knabino』と『legas』の順序は入れ替わっててもいいよ。どれが目的語かは対格で判別ね」
「後ろの疑問文で修飾するわけだな。じゃあ、『少女は何を読んでますか』で『kion (何を)』にしてもいいのか?」
「それがダメで、『kio』はあとで言う特別な場合にしか使わないんです。だから『kiu (だれ/どれ)』で疑問文を作るんですよ」
「そう。最初に『本』って言ってるんだから、『何』を読んでるかなら答えは『本』って、もうわかってるって感覚かな。次にほしい情報は『どの』本かよね」
「そうか。本を特定したいんだから、個別に特定する『kiu (どれ)』か」
「そう。それから、英語と違って関係詞は省略できないよ。エスペラントは語順自由だから、関係詞を省略したら文の構造が決まらなくなるのよ」
「文にするときは、そのまま文の中に入れればいいですよ。目的語にするときは先行詞を対格にして、関係詞の文 (従属節) はそのまま変えないですよ」
「関係詞の文はコンマでくくられるのか」
「英語みたいにコンマを省略する人もいるけど、エスペラントではふつう、従属節はコンマで区切るよ」
「もちろん『前置詞+疑問詞』も関係詞にできるし、関係詞が複数のものを指すなら複数形ですよ。相関詞 (tiu/iu/ĉiu/neniu とか) も先行詞にできます」
「一つ目の文は『あなたはどれについて話してましたか』の答えになるような『本』ですね」
「それじゃあ、二つ目の文は『あなたはそのとき、だれ (たち) に会いましたか』の答えになる『ほとんど全員 (preskaŭ ĉiuj)』か」
「『preskaŭ』は直後の語にかかるから置く位置で意味が変わるよ。『ほとんど全員 が妹』≠『全員が ほとんど妹 (妹同然)』」
「関係詞の文は、ふつうに現在から見て過去だったら過去形って考えたらいいよ」
「先行詞が単独の tio / io / ĉio / nenio のときは関係詞は『kio』を使うんです」
「これも『私は何を言いましたか?』の答えになる『そのこと』って感じですね。この形は『〜なこと』『〜なもの』って感じの意味になりますよ」
「じゃあ、二つ目の文は『あなたは手の中に何を持ってますか』の答えになる『それ』だな。この括弧(かっこ)は省略できる?」
「そう。実は、『kio』の先行詞が『tio』で、この二つが同じ格 (主格どうしか対格どうし。『tio, kio』か『tion, kion』の形) なら先行詞が省略できるのよ。どっちかにでも前置詞が付いてるときは、ふつう省略しないけどね」
「へぇ。関係詞は省略しないけど、先行詞は省略することがあるんですね」
「今までは、関係詞の文が後ろから先行詞を修飾してるって考えましたよね。でも、こんなふうに、先行詞に関するつづきの話をするって用法もありますよ」
「『彼がすぐに食べたパンを彼に与えた』じゃ変だもんね。エスペラントでは、どっちの意味になるのかは文脈で判断するよ」
「あと、『kio』は前の文全体を指すことができますよ。『tio』の持つ『そのこと』っていう意味と対応してますね。『kiu』は語句しか指せないです」
「読んでたことに興味を感じたのか、本に興味を感じたのかって違いか」
「形容詞の疑問詞『kia (どんな)』も関係詞 (関係形容詞) になりますよ」
「今までと同じで、『あなたはどんな絵を探してましたか』の答えになる『そんな絵』って考えてつなげます。でもこれだと『絵』っていう単語が二重に出てきますよね。そこで、先行詞と重なる単語は取り除いて、できあがりです」
「これで『あなたが探してたような絵』か。後ろの『bildon』を取り除いても『kia』は対格のままなんだな」
「『kiu』は特定の絵を指して、『kia』は絵のタイプを指す感じね」
「元の疑問詞の『どれ (kiu)』『どんな (kia)』に対応してるんですね」
「関係詞『kiu』を『〜の』の形にしたいときは『kies』を使いますよ」
「これも『だれの姉が歌手ですか』の答えになるような『友達』を持ってるってわけか」
「副詞の疑問詞『kie (どこで)』も関係詞 (関係副詞) として使えますよ。先行詞は場所を表す言葉です」
「これも『少女はどこで生まれましたか?』の答えになる『街』ですね」
「先行詞が場所なら関係詞は『kie』?」
「ううん、そうとは限らないよ。これを見て」
「二つ目は『どこで愛してますか?』の答えの『街』じゃないですね」
「そうか。その街で愛してるんじゃなくて、その街を愛してるんだ」
「そう。目的語だから『kiun』ってわけ。『kie』は副詞だから目的語にはならないし、その行為が行われてる (行われた) 場所を指す感じね」
「『あなたは以前どこで働いてましたか』の答えになる『そこで』か」
「うん。これも『kie』の先行詞が『tie』で同じ格 (両方とも主格か両方とも方向対格) なら、先行詞を省略することができますよ」
「ほかの場所の相関詞も先行詞になるよ。『ĉie, kie 〜』なら、『〜する (した) すべての場所で』とかね」
「疑問詞『kiam (いつ)』も同じで、先行詞は時間を表す言葉です」
「『kiam』の先行詞が『tiam』なら、ふつう先行詞を省略しますよ」
「これ、『テレビを見る』で一つの動詞なのか」
「品詞変換が自由だから、いろんな動詞ができるんですよね。……ってことで、『私はいつ彼女を訪ねましたか』の答えの『そのとき』です。先行詞を省略した形は『(A) したとき (B)』が『(B), kiam (A).』って言えるわけですね」
「『Kiam (A), (B).』の形にもなるよ。『tiam』を文頭に置いてから省略したって考えたらいいね。つまり、『kiam』は『〜したときに』って意味の従属接続詞としても使えるってことね」
…………。
「『〜して以来』の言い方ね。これもいちおうは『de tiam, kiam 〜』の省略とも考えられるかな。『初めて会ったのはいつ』の答えの『そのときから』ね。『unuafoje』は前にやった『fojo (回)』の合成語よ」
「ほかの時間の相関詞も先行詞になりますよ。『ĉiam, kiam 〜』なら『〜するときはいつも』って感じですね」
「次は『kiel (どのように/どれほど)』を関係詞にしますよ」
「『私はどれほど速く走りますか』の答えになる『それほど速く』って感じですね。つまり、ちょうどそれぐらいの速さでってことです。これも先行詞と重なってる語を取り除いて、できあがりです」
「これ、さっきやった『kia (どんな)』の副詞版って感じだな」
「うん、そんな感じですね。……で、関係詞が『kiel』のときは、主節と同じ動詞は省略できますよ。そしたら間のコンマも省略できて……」
「『longa』は時間にも使えるよ。『antaŭ longa tempo (ずいぶん前に)』とか、『Kiel longe? (どれほど長く)』とかね」
「あれっ、これは比較の言い方?」
「そう。『kiel』の後ろが対格なら目的語との比較になるとこも『ol』と同じね。これはいちおう関係詞なんだけど、もう『tiel 〜 kiel』の形で『同じぐらい〜』っていう熟語として覚えてもいいと思うよ」
「『ne tiel (A) kiel (B)』にしたら、『tiel (それほど)』が否定されて、それほどではない。つまり、『(B) ほど (A) ではない』になりますよ」
…………。
「さっきやった『bildo (絵)』と発音の違いに注意してね」
「『kiel』は動詞にかかるときは『どのように』の意味でしたね。『私はあなたにどのように言いましたか』の答えになる『そのように』って感じです。先行詞が単独の『tiel』なら省略できますよ。同じ動詞も省略できるから……」
「『kiel 〜』だけで『〜のように』って意味になる?」
「そう。ここまで来たら関係詞っていうより、ただの従属接続詞って感じだけどね。『kiel』はさらに『〜として』の意味もあるよ」
「英語では、『いつ → 〜したときに』は両方『when』なのに『どのように → 〜したように』は『how → as』って違うよね。エスペラントはこれが同じ単語 kiel になって、そろってる感じね」
…………。
「完全に同じっていう文でも『kiel』を使いますよ。同一の場合は特定って考えて冠詞も付きます」
「反対語だと『malsama ol 〜 (〜と違う)』になるよ。つまり同じを表す『kiel』と違いを表す『ol』って感じね」
「『kiom (どれだけ/いくつ)』も関係詞になりますよ。これも先行詞が単独の『tiom』のときは、先行詞を省略できます」
「『どれだけ必要としてますか』の答えになる『それだけ』だな」
「疑問詞で従属節を作る文には、ほかにこんな表現がありますよ」
「疑問の相関詞の後ろに『ajn』を置くと『たとえ〜しようとも』っていう譲歩を表す従属接続詞になるんです。そして、不定の相関詞の後ろに置いたら『任意 (無差別)』を表す言葉になりますよ。こっちは従属節にはならないです」
「ほかの疑問詞でも全部同じですよ。『任意』と『普遍』(ĉi- で始まる相関詞) は別だから注意してくださいね」
「そうか。どれでもいいってのは全部ってことじゃないもんな」
「疑問詞を使った表現には感嘆文もあります。名詞があるときは『kia』、形容詞や副詞には『kiel』を使いますよ。主語や動詞は省略することが多いです」
「あれ? これって、疑問文と同じ形じゃないか。『彼女はどんな少女ですか?』でも『Kia knabino ŝi estas?』なんじゃ……」
「うん。感嘆文のときは『kia / kiel』の部分をふつうより強く長めに伸ばすみたいですけど、イントネーションだけの違いですね」
「ほら。日本語だって、『なんて子?』と『なんて子っ!!』ってイントネーションだけで意味が変わるよ。それと同じ感覚かな」
「そうか。疑問文も言い方次第で疑問じゃなくなるのか……」
「じゃあ、ここで問題です」
エスペラントに訳そう。
…………。
「えっと、正解はこうですね」
「そうか。『ような』だから関係形容詞か」
「最後に、会話で使う表現を紹介しますね」
「『Mi dankas al vi.』=『Mi dankas vin.』で『あなたに感謝してる』。こんなふうに、エスペラントでは前置詞で言っても目的語で言ってもどっちでもいいって動詞も多いよ」
「直訳したら『お許しを』『(心からの) 感謝を』か。もう一つは……」
「接尾辞『-ind- (価値)』が付いてますよ。『感謝に値するものじゃないです』って謙遜(けんそん)ですね。……ってことで、これで文法は一通り終わりました」
「おお。まさに、ここまで『どうもありがとう』って感じだな」
(つづく)
今回でいちおう本編の学習部分は終わりです。次回はいよいよ物語の最終回。エピローグ「俺たちの文化祭」をお送りします。お楽しみに。