(注) この物語に登場する人物・団体などはすべて架空のものです。
「今日はまず会話文の表し方です。会話文には、言った言葉をそのまま伝える『直接話法』と、自分の言葉に直して伝える『間接話法』がありますよ」
「『ke』の前のコンマは省略する人もいるけど、エスペラントでは従属節の切れ目にはコンマを入れるのがふつうよ」
「間接話法では従属接続詞『ke』を使うんです。代名詞が変わってることに注意してくださいね。彼女が私に『あなた』って言ったってことは、その『あなた』とは私のことです」
「話し手 (私) から見た言い方に置き換えるわけだな」
「うん。でも、英語と違って、時制の一致はしないんです。つまり、動詞は話された形 (現在形なら現在形) のままですよ。これは日本語の感覚に近いですね。この接続詞『ke』の省略もしないですよ」
…………。
「この文は『ordinaraj』をめだつ文末に置いて強調してるね。もちろん、形容詞は名詞の前でもいいよ」
「これは『oni』(不特定の人) が言ってるから『うわさ』を表しますよ。英語と違って『ili』を使ったら特定の『彼ら』が言ってることになりますからね」
「この動詞は『(A) interesas (B)-n.』=『(B) interesiĝas pri (A).』って関係ね。両方、(B) が (A) に興味を感じてるよ。きっと『(A) estas interesa.』ね」
「命令文では、省略されてた主語 (vi) を復活させてから、それを話し手から見た言い方に変えますよ。これも動詞は話された形のままです」
「『sidi』は座ったままでいること。『sidiĝi』は立ってる状態から座るという変化。『立ってる ←→ 立つ』と同じ使い分けね」
「へぇ。間接話法にしても動詞は命令形のままなのか」
「命令文の後ろに『, mi petas. (頼みます)』を付けて、命令をやわらげるという用法もあるよ」
「もう少していねいな命令だった場合は、こんなふうに主節の動詞を変えるといいよ。『ke』以下は命令口調の場合と同じね」
「疑問文のときは『ke』を使わずに、疑問詞をそのまま従属接続詞として使うんです。『ĉu』や『前置詞+疑問詞』も従属接続詞として使えますよ。これも代名詞は置き換えるけど、動詞や語順はそのままです」
「『demandi』みたいに、英単語とつづりが似てるのにぜんぜん意味が違うってのもあるから注意してね」
「あれっ、この『fari』って動詞は『する』と『作る』の意味があるのか。でも、『する』と『作る』が同じって、なんだ、それ。……やるとできる?」
「な、なんの話よ!! ……これは、結果を作るってことでつながるみたい。ちょっと変な感じかもしれないけど、どっちの意味かは文脈で判断するよ」
「『Ĝi estas farita el fero. (それは鉄から作られた = 鉄でできてる)』のように、原材料には、抽出を表す『el』を使うよ」
「接尾辞を付けた『fariĝi』は『なる』の意味で、補語を持ちますよ。もちろん『instruistiĝi (教師になる)』って、動詞一語でも言えるんですけどね」
…………。
「答えのほうは単純ですね」
「間接話法の『ke / ĉu / 疑問詞』は会話文じゃなくても使えますよ。従属節を名詞のように主語や目的語や補語にできるから『名詞節』とも言います」
「目的語になっても接続詞は変化しないですよ。否定の位置は『来ないと思う』でも『来ると思わない』でも、どっちの形も自由です」
「この文の『pensas』を『kredas』に変えたら『〜と信じてる』になりますよ」
「これも時制の一致をしないから、主節が過去形になっても従属節の動詞はそのままよ。心の中のセリフを間接話法にした感じね。次の二つの違いも注意して」
「ああ。『ke』だと (A) という事実があって、その事実を彼が知らない。『ĉu』だと (A) が事実かそうじゃないか、どっちなのかを知らないって感じか」
…………。
「こんなふうに、疑問詞の後ろは不定詞でもいいですよ。この形は『どのように使ったらいいか』って感じで『〜したらいいか』を付けて考えるといいです。『kiam』に変えたら『いつ使ったらいいか』ですね」
「名詞節を主語や補語にしたらこんな感じですよ。従属節 (名詞節) が主語のときも補語の形容詞は副詞形になります」
「固有名詞は大文字で始めるから、『日本』なら大文字で始めるけど、『日本人』や『日本の』は小文字で書くことが多いよ」
「これも副詞形か。『日本語』は『日本の言語』って言い方なんだな。この括弧(かっこ)は省略できるってこと?」
「うん。実はエスペラントでは『冠詞+形容詞+名詞』の形は、文脈から明らかなときは名詞を省略することもできるんです」
「前にやった最上級『Ŝi estas la plej juna. (彼女は一番若い)』とかも、この名詞省略の形と考えられるかな」
「名詞を省略しても、形容詞の対格語尾とかは残るんだな。じゃあ、さっきの文は『言語』なのが明らかだから省略できるってことか」
「『paroli』が対格を持つのは、ほぼ『○○語を話す』のときだけだからね。『(話題) を話す』のときは『pri (話題)』よ」
…………。
「『Ŝi ŝajnas libera. (彼女はひまそうに見える)』って感じで、この動詞は『主語+動詞+補語』の形にもできるよ」
「『Ŝajnas al mi, ke 〜』の形ですけど、ちょっと変わった構文ですね。これは『Mi pensas, ke 〜 (私は思う)』って言うよりも、ちょっと根拠があいまいな感じになりますよ。……こんな合成語もあります」
「じゃあ、『Verŝajne li venos.』で『たぶん彼は来ます (= 彼は来るだろう)』になる?」
「そう。十中八九って感じね。もっと可能性が低いときは『verŝajne』の代わりに『eble (かもしれない)』を使うよ。これは接尾辞『-ebl- (可能)』の副詞形で『ありえる』って意味合いね」
「実は、エスペラントでは、提案・要求・必要・意向などを表す文では、従属節の動詞が命令形 (-u) になるんです」
「えっ。これって、命令? 心の中のセリフの間接話法?」
「実は、エスペラントの命令形は命令のための形じゃないのよ。『こうなってほしい (なるべきだ)』っていう意志を表すための形で、それが命令文にも使われてたってだけ。もちろん、従属節の命令形は話し手 (私) の意志とは限らないよ」
「この命令形を使った形は『意志法』とも言うよ。現実を表す直説法、非現実 (実現困難) を表す仮定法に対して、積極的な実現への思いを表す意志法って感じね」
「仮定法で遠慮しながら命令形か……。命令的な意味じゃないんですね」
「前置詞の後ろに従属節を置きたいときは、間に『tio』を置くのがふつうですよ」
「この従属節は、新情報の主語を後ろに置いてる語順ね」
「『彼はそのことについて話しました』って文の後ろに、『幼い少女が彼を訪ねたこと』って文がある形ですね。ほかの前置詞でも同じ形になりますよ」
「ってことは、指示語『tio』の指してる内容が後ろにあるって形なのか」
「『por (〜のために)』の後ろに『ke』節を置くときは、間の『tio』を省略することが多いですよ。主節と従属節の主語が同じときは『por + 不定詞』で言うこともできるけど、主語が違うときはこの形ですね」
「『por ke』節には命令形を使うよ。目的のために何かをするって文だから、これも実現への意志を表す感じね」
「名詞節じゃないけど、相関詞『tia (そんな)』『tiel (それほど)』なども、指してる内容を後ろに置く用法がありますよ。『tia』は名詞を、『tiel』は形容詞や副詞を修飾します」
「『そのテーブルはそれほど重いです』の後ろに『私がそれを持ち上げられないこと』か。指示語『それほど』の指してる内容が後ろにあるわけだな」
「『povas levi ĝin』の部分は『povas ĝin levi』みたいな語順もありよ。重要でない人称代名詞をめだつ文末から避けた形ね」
…………。
「『知らせ』は『scii (知ってる)』に『-ig- (〜にさせる)』が付いた『sciigi (知らせる)』の名詞形よ」
「これは『知らせ = 彼が来たこと』って感じで、従属節が前の名詞の内容説明になってるよ。つまり、同じ意味合いの語句を並べて言ってる『同格』の形ね。『〜したという〜』の形は、抽象名詞の直後に従属節を置くよ」
「これ、前にやった『抽象名詞+不定詞』の従属節版って感じですね」
「話は変わって、ここで補語の話です。動詞の中には目的語と補語の両方を持つものもありますよ」
「『trovi』は、『(目的語を) 見つける』って意味と、『(目的語が補語のような状態だと) わかる』って意味がありますよ」
「この『perdita』は受動完了分詞か。本から見て『失われた』だな。……この二つの文って、違いは最後の形容詞が対格になってるかどうかだけ?」
「うん。エスペラントでは、形容詞を名詞の後ろに置いてもよかったですよね。だから、対格にすると前の対格の名詞を修飾してしまうんです。主格だと目的語の一部じゃなくなるから、補語ってことになりますよ。補語は対格にしないです」
「対格一つでこんなに意味が変わるとは……」
「『Mi trovis interesaj la librojn. (それらの本がおもしろいとわかった)』とか、補語を目的語の前に置くこともありよ。強調したいほうを文末に置くといいかも。複数形にも注意ね」
「補語が不定詞のこともありますよ」
「これは、目的語に補語のことをさせるという使役の文ですね。『igi』は接尾辞『-ig- (〜させる)』の動詞形で、強制的にさせる意味。『lasi』は本人がやろうとするのをじゃましないって感じです」
「見える、聞こえる、みたいな動詞も不定詞の補語を持てますよ」
「『(目的語が補語をするのが) 見える』って言い方ですね。『aŭdi (聞こえる)』でも同じ形で言えますよ」
「そうか。『目的語+補語』って『主語+述語』の関係になってるんだな」
「そう。従属節で言うはずだった部分を従属節の外に出した省略形って感じね。『Mi vidis lin kuri. = Mi vidis, ke li kuras. (彼が走るのを見た)』とかね」
…………。
「ちなみに、さっきの『alia』って単語は『そのほか全部』って言うときには冠詞が付くよ。いっぱいある中の『どれかほかの』だったら不特定だけど、残り全部なら選び方が一通りしかないから特定って感じかな」
「『la alia + 名詞』は、文脈から名詞が明らかなことが多いから、名詞が省略されることも多いよ」
「目的語と補語を持つ動詞にはこんなのもありますよ」
「じゃあ、ここで問題です」
エスペラントに訳そう。
…………。
「えっと、正解はこんな感じですね」
「主語が従属節なら補語は副詞形だな」
「そう。名詞・代名詞には形容詞形。それ以外には副詞形ってことね」
(つづく)
次回は第14課「関係詞」の予定です。お楽しみに。