萌えるエスペラント語

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『萌えるエスペラント語 っ!』(16)
第11課 「不定詞・命令文」

(注) この物語に登場する人物・団体などはすべて架空のものです。

今回の学習項目 (ページ内リンク)


不定詞

【沢渡さん】「今日はまず、動詞の不定形 (品詞語尾は -i) の使い方をやりますね。不定形は辞書に載ってる形 (原形) って言ってたけど、もちろん文の中でも使いますよ」

pura [púːra] (プー)
[形容詞] 純粋な、清潔な

【沢渡さん】「こんなふうに、ふつうの文から主語を取り除いて、動詞を不定形にしたら『〜すること』の意味になるんです。この形を『不定詞』とも言いますよ」

【俺】「えっ。じゃあ、不定形って不定詞になる形って意味だったのか」

【美音先輩】「まあ、そんな感じね。エスペラントでは動詞の不定形 (つまり原形) がそのまま不定詞になるのよ。不定詞に主語は付けられないよ」

Mia laboro estas purigi ĉi tiun ĉambron.
私の仕事はこの部屋をそうじすることです。
labori [labóːri] (ラボー)
[自動詞] 働く

【沢渡さん】「こんな感じで、文の中にそのまま入れられますよ」

La knabino finis legi kelkajn librojn.
その少女は数冊の本を読み終えました。 (「本を読むこと」終えた)
Mi provis eliri el la ĉambro.
私はその部屋から出ようとしました。 (「部屋から出ること」試した)
fini [fíːni] (フィーニ)
[他動詞] 終える、終わらせる
kelka [kélka] (カ)
[形容詞] 数個の (量にも使える。あまり多くない数量)
provi [próːvi] (ヴィ)
[他動詞] 試す、〜しようとする

【美音先輩の補足】「『(A)(B)を終えた』=(B)が終わった』って関係ね。『fini (終える)』と『finiĝi (終わる)』のような違いは区別するよ」

【沢渡さん】「不定詞が目的語になっても不定形は変化しない (-n は付かない) ですよ。エスペラントには英語のような動名詞はないから不定詞だけを使うんです」

可能・義務など

【沢渡さん】「じゃあ、次はこんな文です」

Mi amas ludi pianon.
私はピアノをひくことが好きです。 (「ピアノをひくこと」を愛している)
Mi povas ludi pianon.
私はピアノをひくことができます。
ludi [lúːdi] (ディ)
[他動詞] 遊ぶ、演奏する、スポーツする、演じる
piano [piáːno] (ピアーノ)
[名詞] ピアノ
povi [póːvi] (ポーヴィ)
[他動詞] できる、ありえる

【美音先輩の補足】「楽器の場合も、特定か不特定かで冠詞を付けてね」

【俺】「えっ。この二つ、同じ形?

【沢渡さん】「うん。実は、エスペラントには助動詞がないから、こういうのは不定詞を目的語にして言うんです」

【美音先輩の補足】「原形が不定詞だから、『動詞+不定詞』と『助動詞+原形』の区別がなくなる、とも考えられるかな」

【美音先輩】「『povi』は能力的にできるだけじゃなくて、許可されてるからできるって意味にも使えるよ。つまり『してもいい』ってニュアンスでも使えるってことね」

devi [déːvi] (デーヴィ)
[他動詞] しなければならない、〜にちがいない
voli [vóːli] (ヴォー)
[他動詞] 〜したい (と思う)
bezoni [bezóːni] (ベゾーニ)
[他動詞] する必要がある、必要としている

【沢渡さん】「こういう動詞は全部同じ言い方になりますよ。さっきの文の『povas』を『devas / volas / bezonas』に置き換えたら『ひかなければならない / ひきたい / ひく必要がある』ですね」

【美音先輩】「『devi』は『〜すべきだ』ぐらいのニュアンスで使うこともあるよ」

facila [faʦíːla] (ファツィー)
[形容詞] 簡単な、容易な

【俺】「『devi』は『〜にちがいない』の意味もあるわけか」

【沢渡さん】「うん。『しなければ』ってことは『必須(ひっす)』ってことだから、『必ずだ』って意味合いでつながるのかな」

否定文の注意

【沢渡さん】「『devi』の否定文は要注意みたいです。『しなければならない』を『義務がある』の意味だって考えたら、理屈では……」

【俺】「そうか。『ne』は直後の語を否定するから、意味が変わるわけか」

【美音先輩】「でも実際は、この形には混乱が多いのよ。『しなければならない』の否定文が『禁止』の意味になる言語は多いみたいで、『ne devas』を禁止の意味で使う人も多くて……。だから実際に『不必要』って言いたいときは、『ne devas』は避けて『ne bezonas』って言ったほうが誤解がないよ」

【俺】「ああ。『必要がある』の否定なら確実に『必要がない』ってことですね」

【沢渡さん】「これは直後の語が否定されて、『(A)ないことができない』ってことで『せざるをえない』の意味ですね。『(A)』の部分は不定詞を置きますよ」

前置詞と不定詞

【沢渡さん】「前置詞『por (〜のために)』の後ろに不定詞を置くことができますよ。『〜するために』って意味になります」

Hodiaŭ mi frue ellitiĝis por telefoni al ŝi.
今日、私は彼女に電話をするために早く起きました。
Por iri de ĉi tie ĝis la stacidomo oni bezonas kvin minutojn.
ここからその駅ビルまで五分かかります。
(直訳: ここからその駅ビルまで行くために人は五分を必要とする)
hodiaŭ [hodíːaw] (ホディーアゥ)
[本来副詞] 今日
telefono [telefóːno] (テレフォーノ)
[名詞] 電話

【美音先輩の補足】「『hodiaŭa』は母音が増えてアクセント位置が変わるよ。『ellitiĝi (起床する)』は前回やった合成ね。『stacidomo (駅舎/駅ビル)』は『stacio (駅)』と『domo (家)』の合成語よ」

【俺】「そうか。『(〜すること) のために』で『〜するために』になるんだ」

【美音先輩】「そう。……この形の不定詞は、文の主語の動作を表すよ。つまり、電話するのと早く起きたのは同一人物ってことね。逆に言うと、動作主が違うときはこの形では言わないよ」

【美音先輩の補足】「『por』のほかにも、『sen』『krom』『anstataŭ』の後ろにも不定詞を置けるよ。『〜せずに』『〜する以外に』『〜する代わりに』って感じね」

La infano estas tro juna por kompreni tion.
その子供は幼すぎてそのことを理解できません。
(そのことを理解するためには幼すぎます)
infano [infáːno] (インファーノ)
[名詞] 子供、幼児
tro [tro] ()
[本来副詞] 〜すぎる
kompreni [kompréːni] (コンニ)
[他動詞] 理解する、理解している

【美音先輩の補足】「『kompreneble』は、『理解可能なこと → 当然なこと → もちろん』みたいな発想ね」

【沢渡さん】「『tro (A) por (B)』は、『(B)するためには(A)すぎる』ってことで、つまり『(A)すぎて(B)できない』ってことですね」

Mi deziras ion por manĝi.
私は何か食べるものがほしいです。
deziri [dezíːri] (デズィー)
[他動詞] ほしい、〜したい (と思う)

【美音先輩の補足】「『deziri』も不定詞を置いたら『〜したい』の意味になるよ。ほぼ同意語だけど、さっきやった『voli』は意志や意欲で『したい』、この『deziri』は欲望や願望で『したい』って感じ」

【沢渡さん】「これは前置詞が後ろから、前の相関詞『io (何か)』を修飾してますよ。これ全体が目的語になって、前置詞の前が対格ですね。『名詞 + por + 不定詞』で『〜するための〜』って意味になります」

【俺】「直訳したら『食べるための何か』か」

【美音先輩の補足】「『食べるための何か ← 何か食べる』って感じで、前の名詞部分にはふつう、不定詞の目的語になるような語が来るよ」

【美音先輩】「これは『欲望 = それを食べること』って感じで、不定詞は前の名詞の内容説明になってるよ。つまり、同じ意味合いの語句を並べて言ってる『同格』の形ね。『〜するという〜』の場合は、抽象名詞の直後に不定詞を置くよ」

【沢渡さん】「『食べるための欲望』じゃないから『por』は付けないんですね」

不定詞の主語

【沢渡さん】「不定詞は主語にもなりますよ」

Ami estas bele.
愛することは美しいです。

【俺】「あれっ? 『美しい』なら、形容詞だから『bela』じゃないのか?

【沢渡さん】「実は、エスペラントでは、不定詞が主語のときは、補語の形容詞は副詞形になるんです」

【俺】「ええっ、なんで副詞? それじゃ『愛することは美しく……ある』?

【美音先輩】「そんな変な日本語訳を考えなくていいよ。エスペラントでは、形容詞形と副詞形は別々の単語じゃないのよ。単語の本体は語幹『bel-』よ。それが、名詞や代名詞を形容するとき -a が付き、それ以外 (動詞など) を形容するとき -e が付くって変化をしてただけ」

【美音先輩の補足】「形容詞と副詞って言うより、同じ単語 (形容詞) の連体形と連用形ってぐらいの関係ね」

【俺】「じゃあ、この補語は主語を形容してるわけだから……。そうか。主語が動詞だから、それを形容する形は副詞形ってことか」

【沢渡さん】「うん。もちろん、この Ami が人の名前なら補語は bela ですけどね」

Estas grave lerni Esperanton.
エスペラントを学ぶことは重要です。
Esperanto [esperánto] (エント)
[固有名詞] エスペラント

【沢渡さん】「これは後ろの不定詞の部分が主語だから、補語の『重要』が副詞形になってますよ。この主語は文頭に置いてもいいんですけど、長い主語は文の後ろに置くことも多いみたいですね」

【美音先輩】「この文は、英語だったら形式主語 (it) を置くとこだけど、エスペラントには形式主語はないよ」

【俺】「そうか。語順自由なんだから、たんに主語を後ろに置けばいいだけか」

【美音先輩の補足】「『Estas por mi grave lerni Esperanton.』で『私にとっては重要』って意味になるよ」

無主語文

【沢渡さん】「形式主語がないってことは、天候とかは主語なしで言うってことです。前にやった時刻を表す文 (『十時半です』とか) も主語がなかったですよね。主語がない文も補語の形容詞は副詞形なんです。動詞一語でも文になりますよ」

varma [várma] (ヴァマ)
[形容詞] 温かい、熱い、暑い (天候、料理、心など)
pluvo [plúːvo] (ヴォ)
[名詞] 雨

【美音先輩の補足】「『varma』は『温かい』から『ちょっと熱い』ぐらいまでの範囲の意味があるよ。『すごく熱い』なら『varmega』ね。少し反対で『malvarmeta (すずしい)』とかも言えるよ」

【美音先輩】「主語はなんでも省略できるって話じゃないよ。意味のない主語なら付けないってことね。ほかにも『Bone! (いいねぇ/よろしい)』とかの慣用表現も副詞形を使うよ」

【俺】「主語がないときも副詞形か……。なんか形容詞は、副詞形のほうが基本形のような気がしてきたな」

命令文

【沢渡さん】「次は命令文です。動詞の命令形 (品詞語尾は -u) を使いますよ。命令文も基本的に語順は自由です」

Helpu min!
助けて!
Iru for!
立ち去れ!
Ne zorgu pri mi! Vi iru antaŭen!
俺のことは気にするな! お前たちは前へ進め!
helpi [hélpi] (ピ)
[自動詞/他動詞] 手伝う、助ける
for [for] (フォ)
[本来副詞] 遠くへ、離れて
zorgi [zórɡi] (ギ)
[自動詞] 気づかう、世話をする、心配する

【美音先輩の補足】「『antaŭen』は前置詞の副詞形の方向対格で『前』ね」

【俺】「あれっ、この最後の文の『vi (あなた)』って呼びかけ?

【沢渡さん】「主語ですよ。実はエスペラントでは命令文にも主語が付けられるんです。『主語がそれをすること』を強く望むって感じの意味になりますよ。そして、主語が二人称 (vi) のときには主語を省略できる、って感じなんです」

nu [nu] (ヌ)
[間投詞] さぁ!、ねぇ!、さて、ええと……

【美音先輩の補足】「『Nanami, venu ĉi tien! (七海、ここへ来て!)』なら主語じゃなくて呼びかけね。主語にした『Nanami venu ĉi tien!』は三人称の主語だから第三者に言う文よ」

【沢渡さん】「『ni (私たち)』を主語にしたら勧誘表現って感じですね。それから、命令形を疑問文にしたら、話し手の意志を含んだ疑問になるんですよ」

porti [pórti] (ティ)
[他動詞] 持ち運ぶ、携帯している、身に着けている

【美音先輩の補足】「『havi』だと『所有』のニュアンスを持つから注意して」

【俺】「へぇ。命令形の疑問文ってのがありなのか」

teni [téːni] (テーニ)
[他動詞] つかんでいる、保持する、維持する

【沢渡さん】「同じ『持つ』でも『porti』は持ち運ぶイメージで、『teni』はそのままの状態を保つイメージですね」

ていねいな命令 (依頼)

【沢渡さん】「命令文をていねいに言うには『bonvolu + 不定形』を使いますよ。禁止のときは間に『ne』です」

Bonvolu ne uzi ĝin.
どうか、それを使わないでください。
uzi [úːzi] (ウーズィ)
[他動詞] 使う

【俺】「ここで不定詞か。『ne』は直後の不定詞を否定してるわけだな」

【美音先輩】「『bonvoli』は、この合成語の動詞形ね。ご好意をお願いしてるって感じかな。副詞形『bonvole』は『どうぞ』って意味になるよ」

【美音先輩の補足】「ていねいな命令は『bonvole (副詞形) + 命令形』の形もあるよ。でも、エスペラントでは『bonvolu (命令形) + 不定形』のほうが一般的な表現ね」

未来形

【美音先輩】「じゃあ、不定形と命令形をやったから、ついでに未来形もやっとこう」

baldaŭ [báldaw] (ダゥ)
[本来副詞] まもなく、しばらくして

【沢渡さん】「未来のことを言うときは未来形 (品詞語尾は -os) ってだけですね」

【俺】「あれっ、『来ます』なのか? 未来なら『来るだろう』じゃ……」

【美音先輩】「たしかに英語の授業で、未来形の訳には『だろう』か『つもりだ』を付けるって習うよね。でも、あれはたぶん、現在形と訳し分けるテスト問題の都合でそうさせてる面もあるのかも。実際は、『だろう』は推測を表す言葉であって未来じゃないよ。だから、あまりいい習慣じゃないと思う。こんなセリフにも付ける?

【俺】「うっ、これは弱すぎる。……そうか。未来でも断言していいんですね」

【美音先輩の補足】「日本語には未来形がないから、終止形のままで未来を表せるよ。逆に言うと、こういう文をエスペラント訳するときは、未来のことなら未来形にしなきゃならないってことね」

【沢渡さん】「エスペラントの未来形は、時間が未来ってことであって、推測を言う表現じゃないんですよね。時間が未来ならなんでもただの未来形でいいですよ。……じゃあ、ここで問題です」

エスペラントに訳そう。

…………。

【沢渡さん】「えっと、正解はこうですね」

【俺】「『彼女はしたい』と『するために』の形だな」

【美音先輩】「二つ目の文は未来形にしたら、自分がこれからピアノをひくかどうかの予定を相手に聞く文になってしまうね」

(つづく)


今回の要点

次回は…

次回は第12課「分詞・仮定法」の予定です。お楽しみに。

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