(注) この物語に登場する人物・団体などはすべて架空のものです。
「今日はまず接続詞についてやりますね。今まで出てきた接続詞は『kaj』がありました」
「『(A) kaj (B)』で『(A) と (B)』だったな」
「うん。『kaj』は、文と文の間に来たときは『そして』っていう意味になりますよ。……接続詞はほかにもあって、選択や逆接の言い方はこんな感じです」
「あれっ、『sed』と『tamen』はどこが違うんだ? どっちも逆接?」
「品詞が違うんですよ。『sed』は接続詞だから、語句や文のつなぎ目に置くんです。『tamen』は副詞だから、後ろの文のいろんなところに置けますよ」
「この熟語には『sed』ですね。前が否定だけど、後ろが肯定だから逆接って感じなのかな?」
「『kaj』と『aŭ』は、強調するときは両方の語の前にも置けるよ」
「こんな言い方もあるんですね。そういや、日本語も『(A) と (B) と』って、後ろにも『と』が置けるもんな」
「三つ以上列挙するときには、途中はコンマで、『kaj』や『aŭ』は最後にだけ置くことが多いですよ」
「今まで出てきた接続詞は語句や文をそのままつなぐだけなので『等位接続詞』って言います。接続詞にはもう一つ『従属接続詞』っていうのがあって、接続詞直後の文がその外側の文の一部になるんです」
「ってことは、これから出てくるのが従属接続詞ってことだな」
「この接続詞直後の文を『従属節』、外側の文を『主節』って言うよ。エスペラントでは、従属節が主節の後ろにあっても間にコンマを置くのがふつうよ」
「『Ĉar (A), (B).』または『(B), ĉar (A).』で、『(A) だから (B)』の意味になりますよ。『ĉar』の後ろが理由ですね。この文は回数の対格にも注意です」
「こういうのも、どっちかと言えば、主節と従属節のうち、新情報のほうを後ろに置くことが多い感じかな」
「『Kial (なぜ)』で聞かれた疑問文に答えるときにも『Ĉar 〜』で答えるといいですね」
…………。
「これも従属節は後ろに置いてもいいですよ。『dum (〜の間ずっと)』は前に前置詞として出てきたけど、実は従属接続詞としても使えるんです。つまり後ろが文でもいいってことですね。『ĝis』も前置詞にも従属接続詞にもなりますよ」
「つまり、後ろが語句でも文でもいいってことだな」
「この言い方は時間にも場所にも使えるよ。『九時から五時まで』とか『家から学校まで』とかね。ほかの前置詞の前にも置けて『de sur la tablo (テーブルの上から)』『ĝis antaŭ tri horoj (三時間前まで)』とかも言えるよ」
「へぇ。前置詞が二重になっててもいいんですね」
「『de tiam (そのときから)』『ĝis nun (今まで (に))』とか、後ろに副詞も置けるんですよね。……『ĝis』を使った表現にはこんなのもありますよ」
「『revido』は『vidi (見えてる、会う)』に接頭辞『re- (ふたたび)』が付いた名詞形で『再会』の意味ですね。次にいつ会うか決まってるとき (再会が特定のとき) には冠詞を付けて『Ĝis la revido.』って言うこともありますよ」
「直訳したら『再会まで』か。『また会おう』って感じのあいさつだな」
「略して『Ĝis!』だけでも軽い別れのあいさつになるよ。『じゃあね / またね』って感じかな」
「次は比較を表す文です。形容詞や副詞はどれでも、本来副詞『pli』を前に置くだけで『もっと〜』『より〜』っていう、比較を表す意味になりますよ」
「『(A) pli (B), ol (C).』の形で、『(C) より (A) のほうがより (B)』って意味ですね。『ol』は従属接続詞だから後ろに文を置けるんですけど、実は主節と同じ部分は省略できるんです。そのときは間のコンマも省略してもいいです」
「最後の文も省略せずに言うと『, ol mi estas.』だけど、こういう文は省略するほうがふつうよ」
「そうか。日本語でも、同じ動詞を二回言わなくてもわかるもんな。略したら、後ろは『ol mi (私よりも)』って前置詞みたいになるんだな」
「ところが、『ol』は前置詞になるってわけじゃないのよ。これを見て」
「この文は『forte』がなくても通じるけどね。『pli』は動詞にかかることもできるから『Ŝi pli amas vin ol mi(n).』みたいな表現もありよ」
「あれっ、この二つの文……。主節と同じ部分を略したら、残った部分は後ろが『mi』か『min』かの違いだけ?」
「うん。つまり『ol』の後ろが主格か対格かで、主語と比較してるか目的語と比較してるかがわかれるってことですね。だから、これは前置詞とはちょっと違ってて、やっぱり従属接続詞の後ろを省略してるだけなんですよ」
「前置詞付きの語と比較するときは『ol pri li (彼についてよりも)』みたいな形になるよ。『ol li』だと主語との比較ね」
…………。
「同じ部分を略すって言っても、後ろの『の机』を略したら、机が人間より大きいって文になりますよね。こういうときは『tiu de 〜』を使いますよ」
「つまり、『(A) de (B)』と『(A) de (C)』の比較だったら、二つ目の『(A)』を『tiu』で置き換えられるってことね。複数なら『tiuj』よ」
「この『tiu』は『la tablo (テーブル、机)』の置き換えなんですね」
「ここは『tio』じゃないよ。個別に特定する『tiu』ね」
「『pli』の前に副詞を置いて、どれぐらい違うか表すことができますよ」
「『三倍』は前にやった接尾辞 -obl- を使った副詞形ですね。『pli』の前には『multe (たくさん)』『iom (いくらか)』とかも置けますよ」
「『kvin kilogramojn pli peza (5kg重い)』とか、違いを数量の対格で表すこともできるよ。これも副詞の役割をする語句を置いてることになるね」
…………。
「『pli ol 〜』の形で、数が『〜より大きい』の意味になりますよ。これはイコールを含まないです」
「つまり、『18以上』じゃなくて『18より上』ってことか」
「『malpli ol 〜』なら正反対になるから、不等号が逆向きの『〜より小さい (未満)』の意味になるよ。『ne pli ol 〜 (〜を上回らない)』だったらイコールを含むね」
「『x > y』の否定 (それ以外の部分) は『x ≦ y』ね。正反対なら不等号逆で『x < y』」
…………。
「『ol』は『pli』なしでも使えますよ。『antaŭ』は前置詞だから、そのままじゃ後ろに文は置けないんです。『antaŭ + 語句』か『antaŭ ol + 文』の形になりますよ。動詞を含むものが文です」
「『Antaŭ ĝin li metis. (それの前へ彼は置いた)』って文と『Antaŭ ol ĝin li metis. (それを彼が置く前に)』の違いに注意ね。語順自由だから『ol』がないと、この区別が付かなくなるよ」
…………。
「『pli』と間違いやすいのが『plu』です。どっちも『もっと』と訳せる場合があるんですよね。『増やして』の『もっと』は『pli』で、『そのままつづけて』の『もっと』は『plu』です」
「『〜 kaj tiel plu』は熟語で、『〜など』の意味ね。直訳すると『そしてそのようにもっと』かな。略して『k.t.p.』とも書くよ」
「次は一番の言い方ですよ。『la plej (形容詞)』か『plej (副詞)』っていう言い方をします。副詞のときはふつう冠詞を付けないです」
「『el ni』を文頭に置くような語順もありよ。『mia plej (私の一番〜な)』とか所有形容詞が付いてるときは冠詞はいらないよ」
「『私たちの中で』のように、具体的な複数の選択肢の中で一番っていう場合は前置詞に『el』を使いますよ。『学校の中で』のように、範囲の中で一番っていう場合は『en』を使うんです」
「うん。一つ目の文は、私たちの若さを比較して彼女だって言ってる文ね。でも、二つ目の文は、学校の太さを比較して彼だって言ってるわけじゃないよね」
「それで前置詞が違ってるんですね」
「『el』は選択肢の中から選び出す意味の前置詞ですよ。場所で『〜の中から』って意味もあります」
「合成語にすると『en』の反対みたいな意味になりますよ」
「『eniri (入る)』の反対で『eliri (出る)』。さらにその場所で『elirejo (出口)』とかね」
「ちなみに、『tute ne 〜 (まったく〜でない)』で全否定、『ne tute 〜 (まったく〜というわけではない)』で部分否定よ。副詞が直後の語にかかるからね」
「『unu el la plej 〜 (複数形)』で『もっとも〜なものの一つ』の意味になりますよ。選択肢から選び出す『el』ですね。『de (〜の)』じゃないですよ」
「あと、『tuta』は相関詞『ĉiu』との違いに注意してね」
「合成語なら『ĉiutage』『tuttage』と一語で言えるよ」
「そうか。『全世界』に『ĉiu』を使ったら、複数の世界……異世界まで考えてることになるんですね」
「最上級に接頭辞『mal-』を付けたらこんな感じになりますよ」
「なんか微妙な違いだな……」
「一つ目の文は『最上位』の正反対だから『最下位』。二つ目の文は『良い』の正反対だから『悪い』ってことね。この二つの表現は数値の比較なら同じことかもしれないけど、心理的なものではニュアンスが違うよね」
「ここで、不特定の人を指す代名詞『oni』についてやりますね」
「不特定の人? それ、相関詞の『iu (だれか)』と同じなんじゃ……」
「ううん。『iu』だと『だれかが売ってます』って意味になるよ。不特定だけど意味ありげな登場人物って感じね。それだと『だれが売ってるんだろう』って気になるよ。それに対して『oni』は、特定する必要もない人って感じね」
「とくに意味のない人を指してる感じですね。日本語訳では『oni』が文に出ないように受動態みたいに訳したら、きれいな訳になるみたいです。一般論を言うときに使ったり、『世間の人びと』って意味で使ったりすることもありますよ」
「ほら。英語では you や they が不特定の人を指すことがあるよね。でもエスペラントの『vi』は話をしてる相手のことだし、『ili』も、すでに話題に出てきた特定の人しか指さないのよ。不特定の人を指す代名詞『oni』が別にあるってわけ。単数でも複数でも『oni』でいいよ」
「次は再帰代名詞についてです。この二つの文を見てください」
「実は、エスペラントでは、主語以外のところに出てきた三人称の代名詞は主語とは違う人を指してるってみなされるんです。そして、再帰代名詞『si』は、その文の主語を指す代名詞なんです。『-a』を付けたら所有の意味になりますよ」
「ŝi (シ = 彼女) と si (スィ = 自身) の発音の違いに注意してね。従属節に『si』が出てきたら、その従属節の主語を指すよ。主節の主語じゃないよ」
「語順自由だから主語より先に『si』が出てきてもいいよ」
「主語と同じものを指すっていう代名詞だから、si 自体が主語や主語の一部になることはないですよ。それから、主語が一、二人称のときはこれを使わずに、そのまま一、二人称の人称代名詞を使うんです」
「まあ、『私』が別の『私』を指してたら怖いもんな」
…………。
「こんなふうに、再帰代名詞といっしょに使われることが多い動詞もありますよ。これも一、二人称なら『si』じゃないです」
「ええっ!! ……これ、『風呂に入る』じゃなくて『入らせる』ほうが語根なのか。すごい感覚だな。『自分自身を入浴させる』か……」
…………。
「『mem』は後ろからかかる本来副詞で、これは主語にも使えますよ。『sin mem (自分自身を)』って感じで、再帰代名詞と両方使って強調してもいいです。『reciproke』は『お互いに』ですね」
「じゃあ、ここで問題です」
エスペラントに訳そう。
…………。
「えっと、正解は省略して言うと、こうですね」
「そうか。二つ目は目的語と比較してるから『ol』の後ろは対格か」
(つづく)
次回は学習をお休みにして、挿入話4「夕立の中の王子様」をお送りします。お楽しみに。