萌えるエスペラント語

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『萌えるエスペラント語 っ!』(10)
第7課 「いろんな前置詞・接辞」

(注) この物語に登場する人物・団体などはすべて架空のものです。

今回の学習項目 (ページ内リンク)


前置詞の用法

【沢渡さん】「今日はまず前置詞の使い方をやりますね。前置詞は『al (〜に)』っていうのを前にやりましたよね」

【俺】「『Li iris al la stacio. (彼は駅に行った)』とかだったかな」

【沢渡さん】「うん。その文の『al la stacio (駅に)』っていう部分は『行った』っていう動詞にかかってますよね。でも前置詞は名詞にかかることもできるんです。そのときは名詞の後ろに前置詞を置きますよ」

【美音先輩】「これは、駅は特定だけど道は特定じゃない場合ね。道も特定なら vojo の前にも冠詞が付くよ」

【俺】「ああ、前置詞の前と後ろは別々に特定かどうかを考えるんですね」

【沢渡さん】「で、これ全体が目的語になると、前置詞の前だけが対格 (-n 付き) になるんです。前置詞の後ろはそのままですよ」

Mi scias vojon al la stacio.
私はその駅への道を知っています。
scii [sʦíːi] (ツィーイ)
[他動詞] 知っている

【俺】「へぇ、全体が目的語でも、前置詞の後ろは対格にならないのか」

前置詞 (〜から/〜の)

【沢渡さん】「じゃあ次に、意味の広い前置詞『de』についてです」

Li venis de la stacio.
彼はその駅から来ました。
Ĝi estas libro de la knabino.
それはその少女本です。
de [de] (デ)
[前置詞] 〜から (起点)、〜の (所有・所属)

【美音先輩の補足】「『de la』を『de l'』とする短縮形があるけど、ふつうの文ではほとんど使われないよ。発音はくっつけて [del] (デ) ね」

【俺】「ええっ!? 『〜から』と『〜の』が同じ前置詞? なんだそれ?

【沢渡さん】「それ、わたしも最初、不思議に思ってた」

【美音先輩】「こう考えてみたら? 『来る』っていう動作の出どころは『駅』だし、『本』の出どころは『少女』……つながる感じわかる? 発生源を表す感じね」

【俺】「うーん、なんかだまされたみたいな気分……」

【沢渡さん】「『(A)(B)』は『(B) de (A)』って言うんですね。もちろんこれ全体が目的語だったら、前置詞の前の (B) だけ対格ですよ」

ほかの前置詞

【沢渡さん】「じゃあ、ほかによく使う前置詞を挙げますね」

pri [pri] ()
[前置詞] 〜について (テーマ)
por [por] (ポ)
[前置詞] 〜のために (目的・用途)、〜にとって (判断主体)
pro [pro] ()
[前置詞] 〜ゆえに (原因・動機)
sen [sen] (セン)
[前置詞] 〜なしで (不在)
kun [kun] (クン)
[前置詞] 〜と (いっしょに) (同伴・付属)
per [per] (ペ)
[前置詞] 〜を使って (手段・道具)
krom [krom] ()
[前置詞] 〜を除いて (除外)
anstataŭ [anstáːtaw] (アンタータゥ)
[前置詞] 〜の代わりに (代替)

【沢渡さん】「これ、英語の前置詞とイコールで結んだらダメですよ。たとえば、英語は『鉛筆で (書く)』と『バスで (行く)』は違う前置詞ってことがありますよね。でも、エスペラントはどっちも手段だから per を使うんです」

【美音先輩の補足】「『per』の発音は『パー』じゃないから注意してね」

【俺】「ああ、対応関係が違ってるのか」

【美音先輩】「日本語ともイコールで結んじゃダメよ。『事故のために遅れた』とかは『ために』でも por じゃないよ。原因だから pro ね。エスペラントの前置詞は意味で使い分けるってこと」

【俺】「そう言えば、日本語の『ために』は目的にも原因にも使いますね」

Mi preparis tagmanĝon ne por vi.
私が昼食を用意したのは、あなたのためではありません。
(あんたのためにお弁当作ったわけじゃないんだからね)
prepari [prepáːri] (パー)
[他動詞] 用意する、準備する
manĝi [mánʤi] (ンヂ)
[他動詞] 食べる

【美音先輩】「エスペラントでは、食事は『作る』って言うより『用意する』って言い方をよくするよ。この文の『tagmanĝo』って単語は合成語だけど、わかるかな?

【俺】「……そうか。『tago (日、昼)』と、この新単語『manĝo (食事)』の合成だ」

【沢渡さん】「うん。さらに品詞の変換が自由だから、『tagmanĝi (昼食を食べる)』なんて動詞形を作ることもできますよ」

【俺】「うはぁ。それ、一個の動詞で言えるのか」

【美音先輩】「ほかの食事も同じね。あと、この文で重要なのは否定の位置かな」

【沢渡さん】「はい。『ne por vi』は『por vi (あなたのために)』っていうのが否定されてますね。この文は、動詞『preparis (用意した)』の前に ne を置いたら、用意しなかったって文になってしまいますよ」

【俺】「そうか。直後の語が否定されるんだったな」

前置詞からの派生

【沢渡さん】「前置詞は品詞語尾がないですけど、語幹だけの単語でも品詞語尾を付けて『語幹+品詞語尾』にできるんでしたね」

【俺】「えっ、前置詞の副詞形? そんなのがありなのか」

【沢渡さん】「ありなんですよぉ」

【美音先輩の補足】「英語では『withtogether』って感じで規則性がないけど、こういうのが全部規則変化になってる感じね」

【美音先輩】「強調表現として両方使うこともあるよ。『kune kun vi (あなたといっしょに)』とか」

接辞

【沢渡さん】「次は『接辞(せつじ)』の話ですね。接辞っていうのは、単独ではほとんど使わないけど、ほかの言葉にくっつけて使うような、単語の一部分のことです」

【俺】「……って?

【沢渡さん】「たとえば、『忘れっぽい』とか『子供っぽい』とかの『っぽい』は、いろんな言葉にくっつきますよね。でも、『っぽい』だけじゃほとんど使わないです」

【俺】「そういうのか。『変態っぽい』とかだな。……俺のことじゃないぞ」

【美音先輩】「今のはボケたつもりが案外本当だったりしてね」

【沢渡さん】「あはは。……で、『っぽい』は言葉の後ろにくっつくけど、『超』とかだったら前にくっつきますよね。ほかの言葉の前にくっつく接辞を『接頭辞』って言って、後ろにくっつく接辞を『接尾辞』って言うんです」

接頭辞

【沢渡さん】「エスペラントにも接辞があるんですよ。まずは単語の前にくっつく接頭辞を紹介しますね」

mal- (正反対)

【沢渡さん】「どんな単語でも、前に mal- を付けたら正反対の意味になるんです」

dekstra [dékstra] (クス)
[形容詞] 右の
ofta [ófta] (タ)
[形容詞] ひんぱんな

【俺】「『どんな単語でも』って、好きな単語に付けていいってことか?

【沢渡さん】「うん。エスペラントの接辞は意味が通じるかぎり好きな単語に付けられるんですよ。『mal-』は反対語がない単語に付けたら通じないですけどね」

【美音先輩の補足】「『ナイフの反対はフォーク』とかはダメよ。対になるものじゃなくて正反対のものね」

【美音先輩】「逆に言うと、知らない単語に思えても、mal- を取り除いたら知ってる単語だったら、その反対語って考えたらいいよ」

【沢渡さん】「否定 (ne) とは意味が違いますよ。mal- だと逆方向って感じですね。『ne malamas (にくんでない)』って表現もできますよ」

【美音先輩の補足】「『mal-』に『悪』の意味はないよ。ただの正反対ね」

ほかの接頭辞

【沢渡さん】「ほかに、よく使う接頭辞にはこんなのがありますよ」

re- (ふたたび、元に)
ek- (開始、瞬間)
dis- (分散)
ĉef- (主要)

【沢渡さん】「『re-』の発音はローマ字どおり『』で、『ĉef-』は『チェ』ですよ。英語にも接頭辞はあるけど、エスペラントでは意味が通じるかぎり好きな単語に付けられるのが特徴なんです」

【美音先輩】「『ek-』が付くと瞬間の意味になるから、この二つの違いは要注意よ。いま知ってるなら、知ってる期間は過去と未来をまたぐから現在形。でも、知った瞬間なら過去ね。『いつ』と『いつから』の使い分けにも注意してね」

【美音先輩の補足】「『ek-』が付く動詞のように、一回かぎりの瞬間的な動作は過去と未来をまたがないので、ふつう現在形にならないよ」

接尾辞

【沢渡さん】「次に、単語の後ろにくっつく接尾辞ですね。でも、エスペラントでは品詞語尾が単語の後ろって決まってるから、接尾辞は語幹と品詞語尾の間に入るんですよ。『語幹+接尾辞+品詞語尾』の形ですよ」

【美音先輩】「接尾辞が付いたらアクセントの位置がずれるから注意してね。アクセントはいつも単語の後ろから二番目の母音だったよね」

-ig- (他動詞化 (〜にする))、 -iĝ- (自動詞化 (〜になる))

【沢渡さん】「接尾辞『-ig-』を付けると『〜にする (させる)』っていう意味の他動詞になりますよ。『-iĝ-』を付けると『〜になる』っていう意味の自動詞になるんです。発音は『ギ』と『ヂ』の違いですね」

stari [stáːri] (ター)
[自動詞] 立っている、立ち止まっている
naski [náski] (キ)
[他動詞] 産む
granda [ɡránda] (ンダ)
[形容詞] 大きい、偉大な

【俺】「『立ってる状態にさせる』で『立たせる』。『立ってる状態になる』で『立つ』って感じか」

【美音先輩】「うん。stari は立ってる状態を表す動詞で、stariĝi はそこへの状態変化を表す動詞って感じね。『-ig-』は使役、『-iĝ-』は自発や受け身のような意味になることも多いよ」

La letero ŝin ĝojigis.
その手紙は彼女を喜ばせました。
Mi amikis kun li.
私は彼と友達になりました。

【沢渡さん】「もちろん語順は自由だから、この順序じゃなくてもいいですよ。『喜んでる+にさせる』、『友達+になる』ですね」

【俺】「えっ。……ああ、これ『amiko (友達)』にくっついてるのか」

【沢渡さん】「うん。合成語のときにも言ったけど、単語を語根 (この場合は amik-) の形で覚えてたら、切れ目が見つかりやすくなりますよ」

ほかの接尾辞

【沢渡さん】「ほかにも、よく使う接尾辞にはこんなのがありますよ」

-eg- (大)
-et- (小)

【沢渡さん】「これを付けると、大きさや程度が変わる感じですね。好きな単語に付けられるから『belega (超美しい)』とか、いくらでも言えますよ」

【俺】「じゃあ、『amikego (大きなお友達)』とか」

【美音先輩】「それ、かなり特殊な文化圏でしか通じないような気がするんだけど」

-ist- (従事者、主義者)
-il- (道具、装置)
instrui [instrúːi] (インストイ)
[他動詞] (学問や技術を) 教える

【沢渡さん】「英語は動詞に -er を付けたら、それをする人や、するための道具の意味になりますよね。でも、エスペラントは人か道具かで別の接尾辞を使うんです」

【美音先輩】「うん。でも、『-ist-』は一時的にそれをしてる人とかじゃなくて、職業とかでずっと従事してる人を指すから注意してね」

-ar- (集団、集合体)
-an- (構成員)
arbo [árbo] (ボ)
[名詞] 木、樹木

【沢渡さん】「これは、集団や構成員を表す接辞ですね」

-ebl- (可能)
-em- (傾向、性癖)
-ind- (価値、ふさわしさ)
senti [sénti] (ンティ)
[他動詞] 感じる、感じがする

【沢渡さん】「『-ebl-』は、その動詞の目的語になれるようなものを表しますよ。あとの二つは、それをするような傾向と、それをするに値するって感じですね」

-ec- (性質)
-ul- (人)
riĉa [ríːʧa] (チャ)
[形容詞] 金持ちの、豊かな

【沢渡さん】「『-ec-』はそういう性質を表しますよ。ただの名詞形は『bono (善)』『belo (美)』だから、意味が違います。『-ul-』はそういう性質の人ですね」

-ad- (継続、行為)
-- (事物)
-ej- (場所)
-uj- (容器、国名)
dolĉa [dólʧa] (チャ)
[形容詞] 甘い、甘美な
lerni [lérni] (ニ)
[他動詞] 学ぶ、勉強する
vendi [véndi] (ヴェンディ)
[他動詞] 売る
mono [móːno] (モーノ)
[名詞] お金 (通常、複数形にしない)

【美音先輩の補足】「『jo (ヨ)』と『ĵo (ジョ)』の発音の違いに注意してね」

【沢渡さん】「『-ad-』は継続的動作の意味なんですけど、たんにその動詞の行為を表す名詞になることも多いですよ」

【美音先輩】「『lernejo』は『学ぶ+場所』ってことで、学校を『学習所』って言ってるような感覚ね。合成語や接辞は、わりと漢字の熟語に近い感覚があると思うよ」

【俺】「そうか。『vendejo (店)』も『販売所』みたいな言い方なんですね」

【沢渡さん】「あと、vendo (販売物)、vendisto (販売員)、vendilo (販売機) って感じで、一つの語根からどんどん単語ができますね。漢字の熟語みたいです」

接辞の組み合わせ

【沢渡さん】「接辞は複数組み合わせることもできますよ」

【俺】「えっ、大きい意味の -eg- が付いてるのに『とても小さい』?

【沢渡さん】「正反対の mal- が付いてるから、意味が反対方向に大きくなるんです。-et- (小) なら『malgrandeta (ちょっと小さい)』ですよ」

【俺】「ああ、マイナスのかけ算みたいな感覚なんだ」

【沢渡さん】「あと、接辞が付いたものでも、さらに合成語になるんですよ」

【沢渡さん】「『naskiĝi (生まれる)』はさっき出てきた『naski (産む)』に接尾辞 -iĝ- が付いたものですね。『naskiĝo (誕生)』って名詞形もありますよ」

【俺】「へぇ、-iĝ- は接尾辞なのに、最後は語根の間にはさまれるんだな」

【美音先輩】「うん。エスペラントの接辞って、単語の前や後ろにくっつきやすいってだけで、実はただの語根なのよ。だからこれも三つの語根の合成語って考えていいよ」

【沢渡さん】「ただの語根だから、『ĉefa (主要な)』『ree (ふたたび)』『o (物)』とか品詞語尾まで付けられるんですよね。接辞だけで合成語もできるんですよ」

【沢渡さん】「じゃあ、今日の問題です。ヒント……食堂は食事の場所ですよね」

エスペラントに訳そう。

…………。

【沢渡さん】「えっと、特定の食堂だとしたら正解はこうですね」

【俺】「そうか。『kun kiu (だれと)』は『前置詞+疑問詞』を文の先頭に置くやつだな。食堂も接辞で言えるのか。二つ目の文は前置詞の前だけ対格だな」

(つづく)


おまけ

(四コマ漫画) 美音先輩「今回もまた私が最後に突っ込む役かな もう慣れたよ」 → 俺「接辞っていろんな単語が作れるんだな ― Mi amikiĝis kun li.」 沢渡さん「うん」 → 俺「Mi knabiniĝis por vi.」 → 美音先輩「それ、どう突っ込めばいいのよ!!」

今回の要点

次回は…

次回は学習をお休みにして、挿入話3「七夕と少女」をお送りします。お楽しみに。

制作・著作

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