(注) この物語に登場する人物・団体などはすべて架空のものです。
「今日は疑問詞や指示語についての話をしますね。『どこ → そこ』『どんな → そんな』みたいに、日本語の疑問と指示の言葉って、規則性がありますよね」
「ああ、『こ・そ・あ・ど』の変化だな」
「うん。エスペラントはこれが全部規則的になってるんです。この図を見てください」
「図の左側の一つと右側の一つを選んでつづりをつなげてみてください。その単語は二つを組み合わせた意味になるんですよ。たとえばこんな感じです」
「おお、すごい。規則的」
「『いつ → いつも』は英語では『when → always』って感じで規則性がないけど、こういうのが全部規則変化になった感じね」
「つまり、この図の左側5個と右側9個の合計14個を覚えただけで、組み合わせで5×9=45個の単語を覚えたことになるんです。この45個を『相関詞』って言いますよ。表にするとこんな感じです」
相関 | 疑問 ki- | 指示 ti- | 不定 i- | 普遍 ĉi- | 否定 neni- | 品詞 | 複数 | 対格 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
事物 -o |
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| 代名詞 | - | n |
個別 (人や物) -u |
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| j | ||
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| 形容詞 | |||
性質・種類 -a |
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| |||
所有 -es |
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| - | - | |
場所 -e |
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| 副詞 | n | |
時間 -am |
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| - | ||
理由 -al |
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| |||
方法・程度 -el |
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| |||
数量 -om |
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「……って、でかい表だな。この右端の『品詞』とかって欄(らん)は?」
「それは、その横にある単語がどの品詞として使えるのかと、複数 (-j) や対格 (-n) の語尾が付けられるのかってことです。じゃあ、順番に見ていきますね」
「『ki-』で始まってる相関詞は、疑問を表すので『疑問詞』とも言いますよ。このうち、代名詞のように主語や目的語になるもの (疑問代名詞) は、この二つですね」
「ええっ? 『だれ』と『どれ』が同じ単語?」
「うん。えっと、なんて言ったら……」
「ほら、『だれ』は人間を特定してほしいんだし、『どれ』も複数の中から特定してほしいのよね。どっちも人や物の個々の違いを区別するのよ。逆に『何』は『こういうのって何』って、それと同じ種類のものとひとくくりにする感じよ」
「そういう分け方なんですね。人と物は区別しないのか」
「じゃあ、疑問文の作り方です。まず、聞きたい部分を疑問詞に変えて、その疑問詞を文の先頭に移動するんです。たとえば『あなたはだれ?』だったら……」
「これで、『Kiu vi estas? (あなたはだれですか?)』になりますよ」
「疑問詞は先頭か。そういや、前にやった『ĉu』も文の先頭だったな」
「『ĉu (〜ですか?)』は『はい / いいえ』で答えられる疑問文を作るものだから、疑問詞 (疑問の相関詞) があるときは使わないよ。……疑問詞は文の先頭で固定だけど、その後ろは今までどおりの語順自由ね」
…………。
「目的語が疑問のときは疑問詞が対格 (-n) になりますよ。『kiu』は個別に見るから複数形にもなるけど、『kio』はひとくくりだからいつも単数なんです」
「『だれ』と『どれ』の違いは文脈で判断できますね。それから、前置詞付きの語が疑問のときは『前置詞+疑問詞』の固まりで文の先頭に行くんですよ」
「へぇ。『al kiu』で『だれに』か。前置詞を文の後ろに残したりはしないんだな」
「そう。エスペラントでは、前置詞とその後ろの語句はいつもひと固まりだからバラせないよ。この疑問文に答えるときも『Al Nanami. (七海にです)』って、前置詞を付けて答えるといいよ」
「『kiu』は形容詞としても使えますよ。つまり名詞を修飾できるってことです。そのときは『どの』っていう意味になって、『疑問詞+名詞』の固まりで文の先頭に置くんです」
「あとは『kia (どんな)』『kies (だれの)』が形容詞として使えますよ」
「えっ。じゃあ、『だれ、どれ、どの』が同じ単語 (kiu) で、『だれの』は別の単語 (kies) なのか? なんか分け方が変な気がするけど」
「こう考えてみたら? ……『だれが好き?』『どれが好き?』『どの〜が好き?』は、三つとも好きなもの自体を聞いてるよね。でも、『だれの〜が好き?』は、好きなものそれ自体じゃなくて、その所有者とかを聞いてるよ」
「おおっ、たしかに違う。だからこういう分け方になるんですね」
…………。
「『kia』も形容詞だから複数や対格になりますよ。でも『kies』は語尾変化しないんです。子音で終わってるから『kiesjn』とか発音しにくいですし」
「そんな理由?」
「主語を強調するときは、主語を文末に置くことも多いですよ。文頭・文末はめだつ位置でしたね。……二つ目の文は『Ŝi estas 形容詞』っていう文の形容詞部分を聞く疑問文ですよ」
「そうか。形容詞だけで補語にすることができるって形だな」
「うん。あと注意することは、『kio (何)』を形容詞としては使わないってことです。『kiu libro (どの本)』とか『kia libro (どんな本)』なら言えますけど、『kio libro
(なんの本)』とは言わないんですよ」
「『本』ってわかってるんだったら『何 (kio)』の答えはもう出てるって感覚かも」
「副詞になるのが『kie (どこで)』『kiam (いつ)』『kial (なぜ)』『kiel (どのように)』『kiom (どれだけ/いくつ)』です。全部同じ言い方ですよ」
「『kie』に置き換えたら『どこで』になるわけだな。その後ろはふつうに語順自由か」
「うん。ただ、目的語が人称代名詞のときは『主語→目的語→動詞』って語順もよく使うかも。まあ、語順は自由だからあまり気にしなくてもいいけどね」
「目的語があまり強調したくない語の場合、めだつ位置 (文末) から避けるためにこの語順になるってことも多いね」
…………。
「『kiel』は形容詞や副詞にかかることができますよ。文全体にかかるときは『どのように』って意味だけど、形容詞や副詞にかかるときは『どれほど』って意味になるんです。程度を聞く感じですね」
「これも『疑問詞+形容詞』がひと固まりで先頭に行くんだな」
「次は『ti-』で始まる相関詞ですね。これは指示語になりますよ。どの品詞として使うかなどは対応する疑問詞と同じです」
「つまり、『kiu libro (どの本)』って言えるなら『tiu libro (その本)』とも言える、みたいな感じね。『tiu』があるときは冠詞は付かないよ。そして、冠詞よりも強く特定してる感じになるよ。語尾変化も元の疑問詞と同じね」
「ってことは『tiuj libroj (それらの本)』になるのか」
「うん。それから、日本語では『これ/それ/あれ』って、距離で三つの指示語を使い分けますよね。でも、エスペラントの指示語は、この三つのどれにも対応してる感じなんですよ。で、近いって言いたいときは、この本来副詞を使いますよ」
「近いことを強調するときや遠いものと対比させたいときに『ĉi』を付けるって感じ。『ĉi』は語尾変化しないよ」
「そうか。副詞は複数や対格の語にかかっても語尾変化なしでしたね」
「『ĉi』は指示語の後ろでもよくて『tiujn ĉi librojn』って言い方もあるよ。『tio ĉi』とか、ほかの語でも同じね」
…………。
「『kiu (だれ) → tiu (その人)』って対応で『tiu』は単独で代名詞としても使えますよ。人を紹介するときに『Ĉi tiu estas 名前』(この人は〜です) とか言えますね。……ほかに代名詞として使うのは事物を指す『tio (それ)』です」
「『tio (それ)』と『tiu (その人、その)』の使い分けは、英語にはない区別だから注意してね」
「あれっ、人称代名詞の『ĝi』も『それ』って意味だったような……」
「うん。実は『ĝi』は前に話題に出てきたもの (名詞) を指すものなのよ。目の前に見えてるものを指してこれから話題にするのなら『tio』を使うよ。前の文全体を指すとか、抽象的な『そのこと』ってときも『tio』よ。あと、複数の中から選んで指す場合は『tiu』が使えるよ。『kiu (どれ) → tiu (それ)』って対応ね」
「『tio』で聞かれたものは『tio』のまま答えていいよ。そして『kio』と同じで、ひとくくりで指すから複数形にならないよ。『ĝi』のほうは複数なら『ili』ね」
「そういう違いですか。……でも、『それはなんですか。本です』って、本なのかどうか聞かなきゃわからない状況っていったい……」
「ううっ、たしかに変な文……」
「そう言えば、語学の初級の例文って『これはペンですか?』とか、『そんなこと聞かなきゃわかんないの!?』って文が多いかもね」
…………。
「相関詞も語根なので、『tiam (そのとき)』→『tiama (そのときの/当時の)』とか品詞語尾も付けられますよ」
「『i-』で始まる相関詞は、『kio (何) → io (何か)』みたいに、不明や不特定を表す語になりますよ。品詞や語尾変化は対応する指示語と同じです」
「『tiu knabino (その少女) → iu knabino (ある少女)』って対応か」
「まあ、冠詞がない『knabino』だけでも不特定の少女だけどね。形容詞として使う『iu』は不特定であることの強調って感じかな。単独の代名詞としての『iu』はふつう『だれか』って意味で使うよ」
「次に、『ĉi-』で始まる相関詞は『すべて』の意味ですよ。近いって意味の副詞『ĉi』とは関係ないです。『ĉiu』は複数形で使うと『すべての』、単数形で使うと『それぞれの (= 各)』の意味になるんですよ。これも冠詞は付けないです」
「結局、どっちにしても全部を指すんだけど、『ĉiuj』は全体を見てて、『ĉiu』は一つ一つを見てる感じかな」
「否定文になったときは、全否定か部分否定かに注意ですよ」
「一つ目の文は、否定に『ĉiam (いつも)』がかかってて、二つ目の文は『いつも』っていうのを否定してるよ」
「そうか。副詞が直後の語にかかるからですね」
「最後に、『neni-』で始まる相関詞は、ぜんぜんないことを表しますよ」
「これは『0人が来た』『0冊の本を持ってる』みたいに考えるとわかりやすいかも。否定の相関詞は全否定になるよ。さっきの全否定の文の『ĉiam ne』は『neniam (いつも〜でない)』に置き換えても同じってことね」
「『neniam + 過去形』なら、過去の時間だけ全否定されるから『したことがない』みたいな意味でも使えるよ」
「どの時間でもないって感じですね」
「じゃあ、今日の問題です」
エスペラントに訳そう。
…………。
「えっと、一つ目の文の『それ』は、前の文全体を指す『そのこと』の意味って考えたら、正解はこうですね」
「『そのこと』なら『tio』か。『al kiu knabino (どの少女に)』がひと固まりだから、いっしょに文頭だな。 二つ目は部分否定か」
「二つ目の文は少女が複数だから読んでる本も複数あるのでは……なんて考える必要はないよ。複数の主語がそれぞれ一つずつの物に対して何かをする場合は、その物は単数形でいうって法則があるのよ」
(つづく)
次回は第7課「いろんな前置詞・接辞」の予定です。お楽しみに。