萌えるエスペラント語

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『萌えるエスペラント語 っ!』(9)
第6課 「相関詞と疑問詞」

(注) この物語に登場する人物・団体などはすべて架空のものです。

今回の学習項目 (ページ内リンク)


相関詞

【沢渡さん】「今日は疑問詞や指示語についての話をしますね。『こ → こ』『んな → んな』みたいに、日本語の疑問と指示の言葉って、規則性がありますよね」

【俺】「ああ、『こ・そ・あ・ど』の変化だな」

【沢渡さん】「うん。エスペラントはこれが全部規則的になってるんです。この図を見てください」

(図) 左: ki- (疑問)、ti- (指示)、i- (不定)、ĉi- (普遍)、neni- (否定)。右: -o (事物)、-u (個別)、-a (性質・種類)、-es (所有)、-e (場所)、-am (時間)、-al (理由)、-el (方法・程度)、-om (数量)。これら左右を1つずつ組み合わせてつなげる

【沢渡さん】「図の左側の一つと右側の一つを選んでつづりをつなげてみてください。その単語は二つを組み合わせた意味になるんですよ。たとえばこんな感じです」

【俺】「おお、すごい。規則的」

【美音先輩の補足】「『いつ → いつも』は英語では『whenalways』って感じで規則性がないけど、こういうのが全部規則変化になった感じね」

【沢渡さん】「つまり、この図の左側5個と右側9個の合計14個を覚えただけで、組み合わせで5×9=45個の単語を覚えたことになるんです。この45個を『相関詞』って言いますよ。表にするとこんな感じです」

相関詞
相関 疑問 ki- 指示 ti- 不定 i- 普遍 ĉi- 否定 neni- 品詞 複数 対格
事物 -o
kio
tio
それ
そのこと
io
何か
ĉio
すべて
nenio
何も〜ない
代名詞 - n
個別 (人や物) -u
kiu
だれ
どれ
tiu
その人
(それ)
iu
だれか
(どれか)
ĉiu
全員
(全部)
neniu
だれ(どれ)も〜ない
j
(kiu)
どの
(tiu)
その
(iu)
ある
(ĉiu)
すべての
(neniu)
どの〜も〜ない
形容詞
性質種類 -a
kia
どんな
tia
そんな
ia
ある種の
ĉia
あらゆる種類の
nenia
どんな〜も〜ない
所有 -es
kies
だれの
ties
その人の
ies
だれかの
ĉies
全員の
nenies
だれの〜も〜ない
- -
場所 -e
kie
どこで
tie
そこで
ie
どこかで
ĉie
どこも
nenie
どこも〜ない
副詞 n
時間 -am
kiam
いつ
tiam
そのとき
iam
いつか
あるとき
ĉiam
いつも
neniam
いつも〜ない
-
理由 -al
kial
なぜ
tial
それゆえに
ial
なぜか
ĉial
あらゆる理由で
nenial
どんな理由でも〜ない
方法程度 -el
kiel
どのように
どれほど
tiel
そのように
それほど
iel
なんらかの方法で
ĉiel
あらゆる方法で
neniel
どうやっても〜ない
数量 -om
kiom
どれだけ
いくつ
tiom
それだけ
iom
いくらか
ĉiom
ありったけ
neniom
少しも〜ない

【俺】「……って、でかい表だな。この右端の『品詞』とかって(らん)?

【沢渡さん】「それは、その横にある単語がどの品詞として使えるのかと、複数 (-j) や対格 (-n) の語尾が付けられるのかってことです。じゃあ、順番に見ていきますね」

疑問詞の使い方 (疑問代名詞)

【沢渡さん】「『ki-』で始まってる相関詞は、疑問を表すので『疑問詞』とも言いますよ。このうち、代名詞のように主語や目的語になるもの (疑問代名詞) は、この二つですね」

【俺】「ええっ? 『だれ』と『どれ』が同じ単語?

【沢渡さん】「うん。えっと、なんて言ったら……」

【美音先輩】「ほら、『だれ』は人間を特定してほしいんだし、『どれ』も複数の中から特定してほしいのよね。どっちも人や物の個々の違いを区別するのよ。逆に『何』は『こういうのって何』って、それと同じ種類のものとひとくくりにする感じよ」

【俺】「そういう分け方なんですね。人と物は区別しないのか」

【沢渡さん】「じゃあ、疑問文の作り方です。まず、聞きたい部分を疑問詞に変えて、その疑問詞を文の先頭に移動するんです。たとえば『あなたはだれ?』だったら……」

  1. Vi estas [ わからない ].
  2. Vi estas [ kiu ]. …… (聞きたいところを疑問詞に変える)
  3. [ Kiu ] vi estas? …… (疑問詞を文の先頭へ)

【沢渡さん】「これで、『Kiu vi estas? (あなたはだれですか?)』になりますよ」

【俺】「疑問詞は先頭か。そういや、前にやった『ĉu』も文の先頭だったな」

【美音先輩】「『ĉu (〜ですか?)』は『はい / いいえ』で答えられる疑問文を作るものだから、疑問の相関詞 (疑問詞) があるときは使わないよ。……疑問詞は文の先頭で固定だけど、その後ろは今までどおりの語順自由ね」

…………。

【沢渡さん】「目的語が疑問のときは疑問詞が対格 (-n) になりますよ。『kiu』は個別に見るから複数形にもなるけど、『kio』はひとくくりだからいつも単数なんです」

Kio okazis?
が起こったのですか?
Kion vi diris al ŝi?
あなたは彼女に何言ったのですか?
Kiu estas via libro?
どれがあなたの本ですか? (あなたの本はどれですか?)
Kiun vi amas?
あなたはだれ愛していますか?
Kiuj estas liaj amikoj?
だれとだれが彼の友達ですか? (だれたちが彼の友達ですか?)
okazi [okáːzi] (オカーズィ)
[自動詞] (事件が) 起こる、(行事が) 行われる
diri [díːri] (ディー)
[他動詞] 言う、告げる

【沢渡さん】「『だれ』と『どれ』の違いは文脈で判断できますね。それから、前置詞付きの語が疑問のときは『前置詞+疑問詞』の固まりで文の先頭に行くんですよ」

Al kiu vi donis la libron?
あなたはその本をだれに与えたのですか?

【俺】「へぇ。『al kiu』で『だれに』か。前置詞を文の後ろに残したりはしないんだな」

【美音先輩】「そう。エスペラントでは、前置詞とその後ろの語句はいつもひと固まりだからバラせないよ。この疑問文に答えるときも『Al Nanami. (七海にです)』って、前置詞を付けて答えるといいよ」

形容詞として使う疑問詞 (疑問形容詞)

【沢渡さん】「『kiu』は形容詞としても使えますよ。つまり名詞を修飾できるってことです。そのときは『どの』っていう意味になって、『疑問詞+名詞』の固まりで文の先頭に置くんです」

Kiu libro estas via?
どの本があなたのですか?
Kiujn librojn vi legis?
あなたはどの本読みましたか? (読んだ本は複数と想定している)
Al kiu stacio li iris?
彼はどの駅に行きましたか? (「前置詞+疑問詞+名詞」でひと固まり)

【沢渡さん】「あとは『kia (どんな)』『kies (だれの)』が形容詞として使えますよ」

【俺】「えっ。じゃあ、『だれ、どれ、どの』が同じ単語 (kiu) で、『だれの』は別の単語 (kies) なのか? なんか分け方が変な気がするけど」

【美音先輩】「こう考えてみたら? ……『だれが好き?』『どれが好き?』『どの〜が好き?』は、三つとも好きなもの自体を聞いてるよね。でも、『だれの〜が好き?』は、好きなものそれ自体じゃなくて、その所有者とかを聞いてるよ」

(図) 「だれの」は「だれ」「どれ」とは疑問対象が違う。

【俺】「おおっ、たしかに違う。だからこういう分け方になるんですね」

…………。

【沢渡さん】「『kia』も形容詞だから複数や対格になりますよ。でも『kies』は語尾変化しないんです。子音で終わってるから『kiesjn』とか発音しにくいですし」

【俺】「そんな理由?

Kiajn librojn vi havas?
あなたはどんな本を持っていますか?
Kia ŝi estas?
彼女はどんな (人) ですか?
Kies libroj ili estas?
それらはだれの本ですか?
Kies estas la libro?
その本はだれのですか? (主語をめだつ文末に置いて強調した形)

【沢渡さん】「主語を強調するときは、主語を文末に置くことも多いですよ。文頭・文末はめだつ位置でしたね。……二つ目の文は『Ŝi estas 形容詞』っていう文の形容詞部分を聞く疑問文ですよ」

【俺】「そうか。形容詞だけで補語にすることができるって形だな」

【沢渡さん】「うん。あと注意することは、『kio (何)』を形容詞としては使わないってことです。『kiu libro (どの本)』とか『kia libro (どんな本)』なら言えますけど、『kio libro (なんの本)』とは言わないんですよ」

【美音先輩の補足】「『本』ってわかってるんだったら『何 (kio)』の答えはもう出てるって感覚なのかも」

副詞として使う疑問詞 (疑問副詞)

【沢渡さん】「副詞になるのが『kie (どこで)』『kiam (いつ)』『kial (なぜ)』『kiel (どのように)』『kiom (どれだけ/いくつ)』です。全部同じ言い方ですよ」

【美音先輩の補足】「さっきの大きな表では『kie』に対格語尾が付けられることになってたけど、それについてはもう少し先に進んでからやるね」

Kiam vi ĝin aĉetis?
あなたはそれをいつ買いましたか?
aĉeti [aʧéːti] (アチェーティ)
[他動詞] 買う

【俺】「『kie』に置き換えたら『どこで』になるわけだな。その後ろはふつうに語順自由か」

【美音先輩】「うん。ただ、目的語が人称代名詞のときは『主語→目的語→動詞』って語順もよく使うかも。もちろん、語順は自由だから違う順序でもいいよ」

【美音先輩の補足】「この語順は、あまり強調したくない人称代名詞 (今の例では ĝin) をめだつ位置 (文末) から避けたって形ね」

…………。

【沢渡さん】「『kiel』は形容詞や副詞にかかることができますよ。文全体にかかるときは『どのように』って意味だけど、形容詞や副詞にかかるときは『どれほど』って意味になるんです。程度を聞く感じですね」

Kiel alta li estas?
彼はどれほど高いですか? (背の高さはどれぐらいですか?)
alta [álta] (タ)
[形容詞] 高い (背・高度・程度など)

【俺】「これも『疑問詞+形容詞』がひと固まりで先頭に行くんだな」

指示語

【沢渡さん】「次は『ti-』で始まる相関詞ですね。これは指示語になりますよ。どの品詞として使うかは対応する疑問詞と同じです。語尾変化も元の疑問詞と同じですよ」

【美音先輩】「つまり、『kiu libro (どの本)』って言えるなら『tiu libro (その本)』とも言える、みたいな感じね。『tiu』があるときは冠詞を付けないよ。そして、冠詞よりも強く特定してる感じになるよ」

【俺】「語尾変化も同じってことは『tiuj libroj (それらの本)』になるのか」

【沢渡さん】「うん。それから、日本語では『これ/それ/あれ』って、距離で三つの指示語を使い分けますよね。でも、エスペラントの指示語は、この三つのどれにも対応してる感じなんですよ。で、近いって言いたいときは、この本来副詞を使いますよ」

ĉi [ʧi] (チ)
[本来副詞] (指示語が近いことを表す)

【美音先輩】「近いことを強調するときや遠いものと対比させたいときに『ĉi』を付けるって感じ。あと、『ĉi』は語尾変化しないよ」

【俺】「そうか。副詞は複数や対格の語にかかっても語尾変化なしでしたね」

【美音先輩の補足】「『ĉi』は指示語の後ろでもよくて『tiujn ĉi librojn』って言い方もあるよ」

…………。

【沢渡さん】「『kiu (だれ) → tiu (その人)』って対応で『tiu』は単独で代名詞としても使えますよ。人を紹介するときに『Ĉi tiu estas 名前』(この人は〜です) とか言えますね。……ほかに代名詞として使うのは事物を指す『tio (それ)』です」

【美音先輩】「『tio (それ)』と『tiu (その人、その)』の使い分けは、英語にはない区別だから注意してね。もちろん『あれ』と『あの人、あの』でも同じ単語になるよ」

【俺】「あれっ、人称代名詞の『ĝi』も『それ』って意味だったような……」

【美音先輩】「うん。実は『ĝi』は前に話題に出てきたもの (名詞) を指すものなのよ。目の前に見えてるものを指してこれから話題にするとかだったら『tio』を使うよ。前の文全体を指すとか、抽象的な『そのこと』って意味のときも『tio』よ」

Ĉu vi legis mian libron?Jes, mi ĝin legis. (ĝi = la libro)
あなたは私の本を読みましたか? ― はい、それを読みました。
Kio estas tio?Tio estas libroj.
それはなんですか? ― これは本です。 (「あれ」でも同じ文)

【美音先輩の補足】「『tio』で聞かれたものは『tio』のまま答えていいよ。そして『kio』と同じで、ひとくくりで指すから複数形にならないよ。『ĝi』のほうは複数なら『ili』ね」

【俺】「そういう違いですか。……でも、『それはなんですか。本です』って、本なのかどうか聞かなきゃわからない状況っていったい……」

【沢渡さん】「ううっ、たしかに変な文……」

【美音先輩】「そう言えば、語学の初級の例文って『これはペンですか?』とか、『そんなこと聞かなきゃわかんないの!?』って文が多いかもね」

…………。

【沢渡さん】「相関詞も語根なので、『tiam (そのとき)』→『tiama (そのときの/当時の)』とか品詞語尾も付けられますよ」

不定を表す相関詞

【沢渡さん】「『i-』で始まる相関詞は、『kio (何) → io (何か)』みたいに、不明や不特定を表す語になりますよ。品詞や語尾変化は対応する指示語と同じです」

Io lumas.
何かが光っています。
Li amis iun knabinon.
彼は、ある少女を愛していました。

【俺】「『tiu knabino (その少女) → iu knabino (ある少女)』って対応か」

【美音先輩】「まあ、冠詞がない『knabino』だけでも不特定の少女だけどね。形容詞として使う『iu』は不特定であることの強調って感じかな。単独の代名詞としての『iu』はふつう『だれか』って意味で使うよ」

普遍を表す相関詞

【沢渡さん】「次に、『ĉi-』で始まる相関詞は『すべて』の意味ですよ。近いって意味の副詞『ĉi』とは関係ないです。『ĉiu』は複数形で使うと『すべての』、単数形で使うと『それぞれの (= 各)』の意味になるんですよ。これも冠詞は付けないです」

【美音先輩】「結局、どっちにしても全部を指すんだけど、『ĉiuj』は全体を見てて、『ĉiu』は一つ一つを見てる感じかな」

【沢渡さん】「否定文になったときは、全否定か部分否定かに注意ですよ」

ridi [ríːdi] (ディ)
[自動詞] 笑う

【美音先輩】「一つ目の文は、否定に『ĉiam (いつも)』がかかってて、二つ目の文は『いつも』っていうのを否定してるよ」

【俺】「そうか。副詞が直後の語にかかるからですね」

否定を表す相関詞

【沢渡さん】「最後に、『neni-』で始まる相関詞は、ぜんぜんないことを表しますよ」

Neniu venis.
だれも来ていません。
Li havas neniun libron.
彼は本を一冊も持っていません。
Mi donis al li nenion.
私は彼に何も与えていません。

【美音先輩】「これは『0人が来た』『0冊の本を持ってる』みたいに考えるとわかりやすいかも。否定の相関詞は全否定になるよ。さっきの全否定の文の『ĉiam ne』は『neniam (いつも〜でない)』に置き換えても同じってことね」

【美音先輩の補足】「『neniam + 過去形』なら、過去の時間だけ全否定されるから『したことがない』みたいな意味でも使えるよ」

【沢渡さん】「どの時間でもないって感じですね。……じゃあ、今日の問題です」

エスペラントに訳そう。

…………。

【沢渡さん】「えっと、一つ目の文の『それ』は、前の文全体を指す『そのこと』の意味って考えたら、正解はこうですね」

【俺】「『そのこと』なら『tio』か。『al kiu knabino (どの少女に)』がひと固まりだから、いっしょに文頭だな。 二つ目は部分否定か」

【美音先輩】「二つ目の文は少女が複数だから読んでる本も複数あるのでは……なんて考える必要はないよ。複数の主語がそれぞれ一つずつの物に対して何かをする場合は、その物は単数形でいうって法則があるのよ」

(つづく)


おまけ

(四コマ漫画) 美音先輩「いつもの展開を避けるために私が一コマ目に あれっ、二人は……」 → 俺「疑問詞も目的語のときは対格なのか ― Kiun vi amas?」 沢渡さん「じゃあ主語にしたら」 → 俺「Kiuj amas min?」 → 美音先輩「そこを複数形!? ……って、また同じ展開じゃない!!」

今回の要点

次回は…

次回は第7課「いろんな前置詞・接辞」の予定です。お楽しみに。

制作・著作

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