萌えるエスペラント語

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『萌えるエスペラント語 っ!』(8)
第5課 「副詞と否定文・疑問文」

(注) この物語に登場する人物・団体などはすべて架空のものです。

今回の学習項目 (ページ内リンク)


本来副詞

最近の部活は、三人四脚の練習や、数を言う練習 (トランプとも言う) ばっかりだった。沢渡さんにエスペラントを教えてもらうのは久しぶりかもしれない。

【沢渡さん】「今日は副詞についてやりますよ。語幹に品詞語尾 -e を付けたら副詞になるんでしたね」

【俺】「ええっと、『bela (美しい) → bele (美しく)』とかだっけ?

【沢渡さん】「うん。そういう副詞を『派生副詞』って言うんです。ほかの品詞から派生した『副詞形』って感じですね。でも実は副詞には、品詞語尾なしで語幹だけで副詞になるものがあるんです。そのままで副詞だから『本来副詞』って言いますよ」

【美音先輩の補足】「『本来副詞』は『原形副詞』という人もいるよ」

【美音先輩】「じゃあ、実際の文で見てみよう」

【沢渡さん】「はい。副詞はかかる語の前に置くのが基本なんです」

nur [nur] (ヌ)
[本来副詞] 〜だけ、〜にすぎない
ankaŭ [ánkaw] (ンカゥ)
[本来副詞] 〜もまた
[eʧ] (エッチ)
[本来副詞] 〜でさえ

【俺】「これが本来副詞か。そういや、日本語でも『だけ』や『も』の位置で意味が変わるな」

【美音先輩】「この最初の文だったら『nur li (彼だけ)』でひと固まりの主語になるわけね。語順自由って話があったけど、この部分はバラせないから注意してね」

Mi tre amas la belan knabinon.
私は、その美しい少女をとても愛しています。 (愛している程度が大)
Mi amas la tre belan knabinon.
私は、そのとても美しい少女を愛しています。 (美しい程度が大)
tre [tre] ()
[本来副詞] とても、非常に

【沢渡さん】「これもかかる語の前に置きますよ。この『tre belan knabinon』ってとこを見てください。『tre』に -n が付いてないですね。副詞は形容詞と違って、複数や対格の語にかかっても語尾変化しないんですよ」

【美音先輩の補足】「形容詞を後ろに置くと『la knabinon tre belan』ね」

【俺】「ふーん。……でも、これも本来副詞?e』で終わってるのに」

【沢渡さん】「『tre』の『e』は語幹 (語根) の一部で、品詞語尾じゃないんですよ」

【美音先輩】「うん。ちょっとまぎらわしいかもしれないけど、本来副詞は決まった個数しかないから別に覚えるしかないかも。全部覚えたら、残りは派生副詞だけよ」

否定文

【沢渡さん】「次はこの単語です。これも『e』で終わってるけど、本来副詞だから、この『e』は語幹 (語根) の一部ですよ」

ne [ne] (ネ)
[本来副詞] 〜でない、いいえ

【俺】「この『nei (否定する)』って動詞形?

【沢渡さん】「うん。語幹だけの単語でも品詞語尾を付けて『語幹+品詞語尾』の形にできるんでしたよね」

…………。

【沢渡さん】「否定文はどの文も動詞の前にne』を置くだけですよ」

Li ne estas ŝia amiko.
彼は彼女の友達ではありません。
Mi ne amas vin.
私はあなたを愛していません。

【俺】「へぇ。一般動詞かどうか、とかでわかれてないんだな」

【美音先輩】「まあ、エスペラントの動詞は全部が同じ規則変化だから、ある意味、全部が一般動詞みたいな状態だもんね」

【沢渡さん】「『ne』も副詞だから、かかる語の前に置くんですよ」

Ne mi amas vin.
あなたを愛しているのは私ではありません。
(私でない人があなたを愛している)
Mi amas ne vin.
私が愛しているのはあなたではありません。
(私はあなたでない人を愛している)

【美音先輩】「『ne』を置いた直後の語だけが否定されて、愛してるって動詞は否定されない感じね。もちろんこれも『ne mi』とかはひと固まりでバラせないよ」

【美音先輩の補足】「『Amas vin ne mi.』みたいな語順でも、直後の『mi』を否定してるってことね」

【俺】「これも置く位置だけで意味を変えられるんですね」

【沢渡さん】「副詞は二重に重ねることもできますよ」

Mi ne tre amas vin.
私はあなたをあまり愛していません。 (「とても愛してる」わけではない)
Mi amas ne nur vin.
私が愛しているのはあなただけではありません。

【沢渡さん】「一つ目は『tre (とても (= 程度が大きい))』の否定ですね。だから『程度が大きくない』ってことで『それほどでもない』の意味になりますよ。『ぜんぜん愛してない』ってことじゃないですよ」

【美音先輩】「これは文法用語で言うところの『部分否定』って状況ね」

【沢渡さん】「二つ目は『nur (〜だけ)』の否定だから『だけじゃない (= ほかにも愛してる人がいる)』になりますね。『あなた』を否定してるわけじゃないですよ」

【俺】「これは文法用語で言うところの『二股(ふたまた)』って状況だな」

【美音先輩】「それは文法用語じゃないって!!

【美音先輩の補足】「まあ、『amas (愛してる)』の意味は広いから、恋愛感情とは限らないけどね」

疑問文

【沢渡さん】「次は疑問文ですね」

Ĉu li estas ŝia amiko?
彼は彼女の友達ですか?
Ĉu vi amas min?
あなたは私を愛していますか?
ĉu [ʧu] (チュ)
[本来副詞] 〜ですか?

【沢渡さん】「どんな文でも、文の頭に『ĉu』を付けるだけで疑問文になるんです。発音は文末を上げ調子で言うといいですよ」

【俺】「えっ、それだけでいいのか」

【美音先輩】「うん。日本語で文の終わりに『〜か?』を付けるだけで疑問文になるっていうのと同じような感覚ね」

【沢渡さん】「答え方はたとえばこんな感じです」

Jes, li estas ŝia amiko.
はい、彼は彼女の友達です。
Ne, li ne estas ŝia amiko.
いいえ、彼は彼女の友達ではありません。
jes [jes] (イェ)
[本来副詞] はい

【沢渡さん】「『はい』は『jes』で、『いいえ』はさっきの『ne』を使いますよ」

【俺】「あれっ、『Jes』のあとって、質問の文をそのままくりかえすのか?

【沢渡さん】「えっ、別にそうじゃなくても……」

【美音先輩】「うん。エスペラントには、英語の『Yes, I do.』みたいな決まった答え方はないのよ。だから『Jes / Ne』のあとは、ふつうの文で好きな答え方をすればいいよ。質問の答え方なんていろいろあっていいもんだからね」

【俺】「まあ、そう言われたらそうか……」

【沢渡さん】「『ĉu』を付けたら疑問文ってことは、こんなのもありなんですよ。疑問文って言うより相づちみたいな感じですけど」

Ĉu vere?
本当に? (マジ?)
vera [véːra] (ヴェー)
[形容詞] 本当の、本物の

【美音先輩の補足】「『bela (美しい)』との発音の違いに注意してね。この文では副詞形を使うのがふつうよ」

【俺】「おお、なんか万能」

否定疑問文

【沢渡さん】「否定文を疑問文にすることもできますよ」

Ĉu vi ne amas min?
あなたは私を愛していないのですか?
(Jes,) amas mi vin.
愛してるって。

【沢渡さん】「答え方に決まりはないんですけど、エスペラントでは、答えが肯定文なら『Jes』、否定文なら『Ne』で答えるのが主流みたいです。愛してるなら『Jes』ですね」

【俺】「つまり、英語と同じで、日本語と逆ってことだな」

【美音先輩】「うん。否定疑問文を『はい / いいえ』どっちで答えるかは言語によって違うからまぎらわしいのよね」

【沢渡さん】「だから、否定疑問文は『はい / いいえ』だけで答えるのは避けて、ふつうの文で答えたほうがいいって言われてるんですよ。この例文のように『愛してる / 愛してない』ってはっきり文で答えるようにってことですね」

【俺】「そうか。それならまぎらわしくないな」

【美音先輩の補足】「この例文の答えは、語順を変えて『愛してる』ってとこを前に持ってきて強調してるよ。語順は自由だったよね」

付加疑問文

【沢渡さん】「『〜ですよね?』って、念を押す文が付加疑問文ですよ。これは文の終わりに『, ĉu ne?』を付けるんです。『そうじゃないの?』って感じの意味かなぁ」

Vi estas knabino, ĉu ne?
あなたは少女 (女の子) ですよね?

【美音先輩】「肯定文でも否定文でも、主語や動詞がなんでも、後ろに『, ĉu ne?』を付けるだけでいいよ」

【沢渡さん】「じゃあ、ここで問題です」

エスペラントに訳そう。

…………。

【沢渡さん】「えっと、正解はこんな感じですね」

【俺】「そうか。形容詞は複数の対格 (-jn) で、副詞は語尾なしだったな」

時制の使い分け

【沢渡さん】「じゃあ、ほかの副詞も紹介しますね。とくにどの単語にかかってるってわけでもないような副詞は、どこに置いてもいいです。動詞にかかってるって考えて動詞の前に置いてもいいけど、基本的には語順自由ですよ。文頭や文末でもいいです」

Li nun skribas leteron al ŝi.
彼はいま彼女に手紙を書いているところです。
nun [nun] (ヌン)
[本来副詞] 今
skribi [skríːbi] (スクビ)
[他動詞] 書く
letero [letéːro] (レテー)
[名詞] 手紙

【沢渡さん】「これは『今 (nun)』の話だから、現在進行中のことですね」

【俺】「あれっ? ただの現在形? 現在進行形とかじゃなくて」

【沢渡さん】「実はエスペラントでは、現在進行中のことでもただの現在形で言えるんですよ。次の三つはどれもただの現在形でいいんですよ」

【沢渡さん】「英語なら現在形、現在進行形、現在完了形って使い分けるとこですね」

【美音先輩】「うん。エスペラントでは、その状況が『もう始まっててまだ終わってない』って言いたいとき現在形って感じなのよ。図にすると、過去と未来にまたがった感じね。今の瞬間がどうかは関係ないよ」

(図) 過去と未来をまたぐ話は現在形で。進行・継続・習慣……全部ただの現在形で言える。

【俺】「へぇ、なんか『現在形』って、実際は『過去+未来形』って感じなんですね。現在は瞬間だから、幅がなくて見えないって感覚なのかな?

【沢渡さん】「くわしい時間を言いたいなら副詞で言えばいいって感じですね。動詞で区別しなくても『nun (今) + 現在形』なら進行中だってわかるし」

【美音先輩】「過去の進行もただの過去形、未来の進行もただの未来形で言えるよ」

…………。

Li ĵus venis.
彼はたったいま来たところです。
ĵus [ʒus] (ジュ)
[本来副詞] たったいま (直前の過去)
veni [véːni] (ヴェーニ)
[自動詞] 来る

【美音先輩の補足】「『veni』は、だれかが私 (話し手) のところに来る場合のほか、私があなたのところに行く場合にも使えるよ」

【沢渡さん】「これは、『来る』っていう動作がもう終わってるから過去形ってことですね。次の三つも現在完了形とかじゃなくて、ただの過去形でいいんですよ」

【俺】「そうか。全部ただの過去形でいいんだ。たしかに、実際にそれをしたのは過去だもんな」

【美音先輩】「そう。進行や完了なんて気にせず、現在より前の動作なら全部ただの過去形。現在よりあとなら全部ただの未来形でいいよ。現在形で言うのは、過去と未来をまたぐ (まだつづいてる) ようなときね」

Mi ankoraŭ ne legis la libron.
私はその本をまだ読んでいません。
ankoraŭ [ankóːraw] (アンコーゥ)
[本来副詞] 依然として、まだ、さらに
legi [léːɡi] (ギ)
[他動詞] 読む

【美音先輩の補足】「『ankaŭ (〜もまた)』とつづりが似てるから注意してね」

【美音先輩】「『ankoraŭ』は、その状況がずっとつづいてるってことを表す副詞よ」

【俺】「あれっ、過去形? 読んでないって状況は今も継続してるけど……」

【美音先輩】「否定文の場合は、否定状態がどうつづいてるかじゃなくて、何を否定してるのかって考えるといいよ。この文は『過去のどこかで読んだ』って経験を否定してるだけだから過去形なの」

【沢渡さん】「これからのことは何も言ってないってことですね。……じゃあ、今日はここまでです」

(つづく)


おまけ

(四コマ漫画) 俺「この文ってなんか二股みたいだな ― Mi amas ne nur vin.」 → 美音先輩「じゃあどんな文ならいいと思う?」 → 俺「Mi amas ankaŭ vin.」 → 美音先輩「ちょっと待って!! この漫画、毎回同じ展開じゃない!!」

今回の要点

次回は…

次回は第6課「相関詞と疑問詞」の予定です。お楽しみに。

制作・著作

© 2010 渡邉たけし <t-wata@dab.hi-ho.ne.jp>