私たちの日々の診療においても、互いに信頼し合うことができたとき、その相手から働くエネルギーを頂いています。信頼が欠けているところでは、エネルギーが失われ喜びが消え、疲れが残ります。相手のすべてを受け止め尊重する時、相手もそれを認識し、信頼が生まれます。でも私たちの現実ではすべてにそれができるわけではありません。時には対立もあり、議論もあります。しかしそれでも互いに必然性をもって出会った関係であると思えた時、その信頼は揺るぎないものになるのではないでしょうか。病院など大きな組織の中で、医療者と患者さんの間だけではなく、医療者同士の間においても、信頼がないと皆が疲れ、あると大きな力を生み、患者さんたちも大きな安心を得ると思います。ラルシュでは、弱い人を大切にし、尊敬することにより共同体が形成され、互いに信頼する関係ができることを学びました。今回の総会が、新しい出会いと共に、互いに信頼することができる会として3日間をすごせますように祈っています。
重要なのは言葉ではない
総会副会長:内坂 徹(信州部会)
25年も前になりますが、私はインドのカルカッタを旅し、「死を待つ人々の家」を訪れました。厳しいカースト制度が残っており、貧しい人々は人間の尊厳を持つことを許されていないかのように、町の道路は路上生活者であふれ、その多くが路上で生まれ、路上で死んでいきました。
このようにして人生の終末期を迎える人々をマザー・テレサの神の愛の宣教会の若いシスターたちが「死を待つ家」でお世話をしていました。そこには世界中から来た若いボランティアも共に働いていました。シスターたちは足を蛆虫に喰われた人々のケアを心をこめてしていました。こうして一日を過ごし、帰ってくる若いシスターたちにマザー・テレサは人々のCareの中であなたはイエスキリストに出会いましたかと、よく問いかけていたとのことです。
死に行く人の世話をし、傍らに立って、その人の中にイエスキリストを発見する。普通ではとても理解し難いことかもしれませんが、信仰とはそのように人間の理解を超えた上よりの恵みなのだと思います。
ヘンリー・ナウェンというカトリックの司祭がいます。彼はイエール大学やハーバード大学で教鞭をとったり、マーチン・ルーサー・キング牧師と一緒にデモ行進をしたり、シトー派の修道院では沈黙のうちに何ヶ月も過ごしたり、南アメリカで宣教活動をしたりと巾広い活動をしてきた人です。キリスト教の霊性の指導者でもあります。そのナウエンがジャン・バニエに出会ったときの感動を『この世で知的ハンディを持った人の中に福音の本質が隠されているということを本気で信じている人がいる』話しています。ナウエンにとって最初ジャン・バニエは狂気の人と映ったかもしれません。しかし、ジャンの居るフランスのトロリー村のラルシュ(箱舟)で何ヶ月間か滞在した後、ハーバード大学を辞して、カナダのトロントにあるラルシュ共同体デュイブレイクの牧者になったのです。
マザー・テレサやジャン・バニエは知的ハンディを持った人を神格化しているわけではありません。ジャンは「彼らの生活は蔑まれ、乱暴に扱われ、どれ程犠牲にさらされてきたのでしょうか。苦悶や失意は様々な形で彼らの内に一生涯残るでしょう。」と言います。彼らの隠された力、つまり愛である神の存在を迎え入れる力を知的ハンディを持った人には備わっているというのです。
ジャン・バニエのこのような福音のとらえ方を聞いて違和感を覚える人は多いかもしれません。『病気で傷つき、弱く脆くされた人、周囲に疎んじられている人、人間とみなされずゴミ捨て場に捨てられていた人、人間として深い悲しみや問題を内包している人、その人々との出会いの中に、体験の中に私の人生をひっくり返す力が秘められている。福音の光が隠されている。』このようなジャンのメッセージに私は驚き、感動を覚えました。
私の敬愛してやまない故伊藤邦幸さんが、人生の最後に出会いたかった人がジャンであったことを知っている私にとって、ジャン・バニエさんを訪ねることは無意識の内の宿題であったと思います
宗教と時の権力とは人間の歴史の中で、長らく表裏一体の関係でした。5000年前のシュメール帝国やアッスリヤ帝国、バビロン帝国、エジプト帝国等、ほとんど例外なく宗教と権力はそういう関係にありました。イエス様の福音(あるいは中国の老子)(ブッダの教え)は、しばしば時の権力と相いれないものでした。それがキリスト教という宗教になり、ローマ帝国の国教にまでなった時「悪魔がキリスト教に毒をもった」(ポール・トルニエの言葉)ということは真実なのだと思います。その後のキリスト教国の歴史はヨーロッパを見ても、十字軍を見ても、アフリカや南アメリカの植民地支配やアメリカ合衆国の歴史を見てもキリスト教会が時の権力と一つになって弱い人々を搾取したことは、明らかです。そのような西洋のキリスト教の歴史を知りつつ、ジャンの著作を読んでいますとその中で驚くような言葉が語られています。「無力なる神」とか、「イエス様は今も泣いておられる」という言葉です。全能なる神、神の大いなる右手といった伝統的なユダヤ教から引き継がれてきた神観とは全く違った言葉が出てきます。イエス様も全く弱くされて亡くなられました。それは私たちにとっても大切な希望です。そして三日目に復活されたことは私たちにとってもっと大きな希望なのです。
今回の主題の一つ、テゼ共同体については植松さんが詳しく話されると思いますので、私は少しだけ感想を述べます。
バングラでテゼのブラザーたちとの出会いは驚きであり、深い恵みでもありました。宗教の壁、人種の壁、宗派の壁を取り払っているブラザーたちの中に存在の輝きを見ることができました。フランスのテゼを訪れる数千人の人々と祈りを共にしているとき、涙が止めどなくあふれたことがあります。それは私の中に人を許せないという気持ちがあったのですが、その怒りの心が、祈りの中でイエス様の前で溶かされていることを体験し、自分でも驚きました。その時からテゼは私の魂のふるさととなったのです。
今日の総会は今までのJCMAの伝統とは少し違った会になり、戸惑われる方も多いかと思いますが、どうか心の壁を取り払ってJCMAの会員の皆様が親しいひとつの交わりの共同体となることを願ってやみません。
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総会へのご案内
1.申込方法
本誌とじ込みの申し込み葉書にて必要事項をご記入の上、7月17日(金)までにお申し込み下さい。ご予定がなかなか決まらない方も多いことと思います。その方は、申込にある内容を記載して7月31日(金)までに下記のメールにお送り下さい。それが最終受付日となります。ahimiyazaki@yahoo.co.jp (宮崎宛) 折り返し、確認の返信を送ります。
2.参加費
会員:学生(看護、医療技術、医)12,000円 医師以外 24,000円 医師 30,000円
非会員:現在の職で上記の金額と同じでお願いいたします。
ご家族(会員、非会員を問いません):幼児(布団のいらない場合) 食事のみ 3,000円
幼児小学生(布団の必要な場合)8,000円 中学生、高校生 12,000円 成人12,000円
○
申し込みと同時に、振込にてお支払い下さい。
○
部分参加の方は、来場当日、受付時に宿泊・食事に応じて精算いたします。振り込みの時は上記の金額をお支払い下さい。
○
14日(金)、16日(日)の昼食は含まれません。ご希望の方は会場のレストランをご利用下さい。
参加費振込先:郵便振替00840−6−117999
日本キリスト者医科連盟名古屋部会
3.欠席される方へ:総会は、キ医連として大切な年1回の議事も含んでいます。総会の成立のために総会委任状をご記入の上、郵送してください。
4.プログラムから
1)主題講演、発題:本大会の主題聖句、ラルシュ共同体のあり方を通して、3名の演者がお話し下さいます。また、フランスにあるラルシュ共同体へ訪問し、ラルシュの創設者であるジャン・バニエさんにお話しを伺い、ラルシュのメンバーと生活を共にさせていただいた名古屋支部のメンバーが、それぞれの感じたことをみなさまに分かち合うときも持たせていただきたいと思っております。
2)分かち合いのとき: 小グループに分かれて、互いについて学び合うときとなります。例年の分団と異なり、意見交換や質問といった討議ではなく、一人ひとりが心にある思いを語り、周りはそれにじっと耳を傾けるというかたちを取りたいと思っています。お互いのより深い内面を共有できる時間となればと思います。
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