Maggie's J‐POP論
その30 私をコンサートに連れてってO
 ―KIYOHARU 15th anniversary presents kuroyume the end
 2009.1.29@日本武道館―
   
やや唐突だが、拙ホームページ「Maggie's Room」が、この2月21日で開設丸5年になる。
その開設したばかりのころ、「MJP」の記念すべき第1回で黒夢のことを書いた。
 
そこでも書いたように、私は「FAKE STAR」(写真上、1996)、「Drug Treatment」(同左下、1997)、「CORKSCREW」(同右下、1998)の3枚の中の黒夢にめちゃくちゃ惚れた1人だ。それまでの「ポップな歌を歌うビジュアル系の一角」にいた彼らが、そこから脱出すべく年間100本以上の「骨太なライブハウスツアー」へ歩みだした時期と符合する。
 
彼らは、ライブを重ねるにつれて身も心もすり切れていく。清春氏・人時氏双方の“途中休暇”を挟みつつも、約2年がかりでライブハウスツアーを完結したのが、今から10年前の1999年1月29日。出した答えは「無期限活動停止」だった。


そのニュースを聞いたころは「へえ〜」としか思わなかったが、その数ヶ月後にNHKで放映された無期限活動停止間際の彼らを追ったドキュメントを見て、なぜかドキュンと胸を撃たれてしまい、同時期に発売されたドキュメントビデオ「LIVE OR DIE」も含めて、それこそこっちがすり切れちゃうくらい繰り返し観たのを思い出す。
 
そんな彼らが、一夜限りで復活するというニュースを聞いたのが、昨年の10月末のこと。正直、ありえないと思っていただけに驚きを隠せなかった。もっとも、無期限活動停止から10年経ったところで、オチが「一夜限り復活して正式に解散」というのも、実はとても不器用な彼ららしいホントの答えのような気がした。
  
そして、プレオーダーへ……まさか、そのコンサートのチケットを見事ゲットできるとは、これまた夢にも思ってもいなかった(2008.12.28のブログ参照)。
 
運命の日の場所として、彼らが選んだのは日本武道館。「ライブハウス武道館へようこそ!」とは、伝説のバンド・ボウイの氷室京介氏の名言であるが、はたして黒夢にとってはふさわしい場所だったのか。
 
武道館の周りでは、チケットを確保できなかったファンが、あちこちで「チケットゆずってください」と紙を掲げていた。あとで隣の席の女性2人が話しているのを聞いたけど、ヤフオクなんかでも定価以上で売られていたらしい。プレオーダーでゲットできたくらいだから、「実はもう、黒夢なんて過去のバンドなんじゃないの?」なんて思っていたけど、やっぱりチケットをゲットできて、マジで運がよかったのかもしれない。
  
それは、一夜限りのライブのグッズ売り場を目指す超長蛇の列を見ても、明らかだった。
  
10年の年月を超えて数十分後に復活し、数時間後にはリアルに「the end」になる彼ら。
 
私の席は2階席の後方。ぐるっと360度観客席にするとは前もって聞いていたが、こんな感じだった。清春氏が直前に、「懐かしさを求める人には、期待を裏切るライブになるかもしれない」と発言していたが、その「裏切り」も含めて、さあ、最後の雄姿を見届けようではないか。

18時15分、開演時刻より15分遅れてのライブスタート。もしかして、オープニングから「期待を裏切る」のかと思いきや、「FAKE STAR」で始まってくれたのがうれしかった。「LIVE OR DIE」ではもっとスピーディーだったし、間髪入れずに次の曲に移っていたのがよかったけど、今回はオリジナルに近くややスロー気味。そんでも、代わりにたっぷり余韻を味わって、2曲目は「SPOON&CAFFEINE」次いで、コカコーラ「スプライト」のCMソングに起用された「BARTER」へ。何となく、1997年に出した新宿ロフトでのライブを収めたライブアルバムを思い出しつつ、隣の女性に目をやると、彼女は目の前の復活劇に涙ぐんでいた。
4曲目
「Mind Breaker」
から5曲目「CAN'T SEE YARD」というラウドなつながりにも感動し、余韻を味わったまま清春氏の「薬は効いてるかー!?」の叫びとともに始まる「BAD SPEED PLAY」は、何が何だか分からないステージになっていたけど、観客の盛り上がりがそれを気づかなくさせていた。とはいえ、次の「CANDY」では完全に清春氏が歌詞を忘れてうやむやになってしまい、思わず演奏停止。いわく「久し振りだから、忘れちゃったんだよね〜」。しばらく打ち合わせてのち、「チャレンジ」とつぶやいて再演奏していました。
その後は、
「HELLO,CP ISOLATION」「ROCK'N'ROLL」「YA-YA-YA!」あたりを演奏して、いったん清春氏&ギター・ドラム氏退場。ステージに1人になった人時氏によるベースのみのソロ1曲に、ギター・ドラム氏を入れてのソロ1曲を挟む間に、清春氏は衣装チェンジ。最後のオリジナルアルバム「CORKSCREW」のオープニングナンバーであり、衝動的なドラムでスタートする「MASTERBATING SMILE」とともに、“第2幕”スタート。アルバムを忠実に再現するように、そのまま「FASTER BEAT」へ。多少、曲順は前後するかもしれないが、「SUCK ME!」「後遺症―aftereffect―」「C.Y.HEAD」を演奏後、「CORKSCREW」のラストナンバー「LAST PLEASURE」をもって、本編終了。ここまで、わずか1時間半。

はて、このまま終わって、一夜限りのライブは見事に「期待を裏切られ」、正直後味のよくないまま終わるのかと思いきや、アンコール@……「時間がないのに、カバーやります」の清春氏の言葉のまま、洋楽のカバー2曲。歌名なんて知るか! ともかく、2曲演奏して再びそでへ。いよいよ、これこそが「期待を裏切る」ってこと!?……しばらくすると、聞いたことのある発信音。ステージに彼らが帰ってくるのが見える。再び上気する場内。「YOU CAN'T HELP ME SAY “S.O.S”!!」のがなり。「S.O.S」で、アンコールAスタート。この曲、個人的に生で聴きたかった1曲だけに、立ち会えて超感動!
「S.O.S」が終わって、今度はサイレンとどろく中で清春氏の「EASY,MONEY,ISLAND,MESSAGE」のつぶやきが始まり、「カマキリをつぶせー!!」の叫びで
「カマキリ―1997 BURST VERSION―」へ。「カマキリ」をやってくれたら、このつながりでしょうとばかりに、「ラストー!!」の叫びとともに「SICK―1997 BURST VERSION―」へ。クライマックスに向かってますます上気する場内は、規模の違いこそあれど10年前に負けず劣らない。それをしっかり確認するかのように、清春氏は曲の終わりと同時に、ステージ上でひざまずいた。

明かりがついて、もう今度こそ終了……でも、場内は誰1人帰らない。「あれ、やってないよね!?」「え、マジでやんないの!?」「いやー、やるっしょ!?」「うん、やるやる」……5分ほどのインターバルののち、正真正銘のアンコールB兼ラストは、やっぱり「Like @ Angel」。「初期衝動に魅せられて走りだした」のところは、観客全員で大合唱。最後はたっぷりの余韻。そして、終演。

20時半過ぎ、黒夢は“伝説”となり、正式解散。ステージ上で、清春氏と人時氏が手をつないで万歳。

最後まで気になっていた、清春氏の「期待を裏切る」発言。
結果的に、何が裏切りだったのか? 歌詞を忘れて演奏が中断したことか? 曲のスピードが遅かったり、“立て続け感”があまり観られなかったことか?
うん、たしかにそれもあるかもしれないけど、問題は「懐かしさ」だ。
おそらく、場内のほとんどにおける「懐かしさ」とは、2年がかりのライブツアーの只中にいた黒夢だろう。ビジュアル系の彼らではないだろう。
その点は、曲のラインナップからしても、まったく裏切られた感じはしない。

じゃあ、何なんだろう?

これは、勝手な予想でしかないのだが、10年前に彼らが「無期限活動停止」の答えを出したとき、清春氏はステージ上で悔しさをにじませながら、涙ながらに自分の言葉で“その7文字”を言い、人時氏とともに深々を頭を下げた。「ステージの上では、ただかっこよきゃいいんだよ」という清春氏と、「家庭と黒夢の両立」に苦しみ脱退を申し出た人時氏。その2人がゆえに醸し出せた、一種異様な空気と、終焉へ向けての盛り上がり。

あの空気と盛り上がりはもう再現できない。それを清春氏は「懐かしさを求める人には期待を裏切る」という言葉で言い換えたかったんじゃないか? 彼ららしく、とても不器用に、そして誠実に。

小さくて見えなかったが、10年経った2人の顔に、あのときのような悔しさはなかったと思う。

むしろ、すがすがしい顔をしていたんじゃないか?

「LIVE OR DIE」で、清春氏は無期限活動停止を称して、「黒夢という衣装をクローゼットにしまう」と発言している。

10年ぶりにクローゼットから出された衣装は、こうして再びクローゼットにしまわれることになった。そのクローゼットのドアが奇跡的に開けられる日は、もう来ないのだろうか?(おわり)


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