Maggie's J‐POP論

その1 “隙間”を埋めてくれたアーティスト・黒夢

オリジナルMDやカセットを作るとき,テキトーに曲を入れていくために,所定のディスクやテープの時間が,例えば中途半端に2分半とか余ってしまうことがある。そんなときに,アーティストには失礼なことだが,“うめ草”として曲を入れられる便利なアーティストがいた。
それは,いまや伝説のユニット・黒夢である。シングルをそれほど出していないので,特にアルバムの曲で多く利用させていただいた。『Distraction』『C.Y.Head』『BAD SPEED PLAY』(いずれもアルバム『Drug Treatment』など収録),『Suck Me!』(シングル『Like @ Angel』c/wなど収録)など,いずれも2分台の曲だ。しかし短いにもかかわらず,シングル以上のクオリティと存在感があり,かつヘンに聴きづらさもないのが黒夢の魅力である。
といっても,彼らについては94年のメジャーデビューから活動無期限停止の99年までで,あまりに大きく変化を遂げたため,好き嫌いがはっきり分かれるだろう。私が魅力に思う黒夢とは,有象無象のビジュアル系から抜け出してラウド路線に転換した,96年アルバム『FAKE STAR』以後の黒夢だ。
『FAKE STAR』以後は,清春の最大の特徴である,うねるようなヴォーカルがこれまたうねるようなラウドな音にうまく乗っかって,そこにさらに激しさを加えることができたと思う。要は,ヴォーカルと曲の波長がマッチして,そこにプラスアルファが生まれたのだ。以前は,音がキャッチーでもヴォーカルにキャッチーさがないために,結果的にアンバランスな曲の印象を持ったものだ。もっとも,清春はインタビューでは「自分らの好きなようにずっとやってきた」と言っているのだが。
もちろん,私が「激しいもの好き」なのも多分にある。しかし,彼らがテレビの世界から,ファンにより近いライブ,それもキャパの小さいライブハウスへ表現場所を移したことで,「よりファンと一緒に盛り上がる曲へ」という思考になったのは確かだろう。より早くテンションが上げられ,それを立て続けにできる曲を求めたら,パンキッシュで時間が短い曲が自ずと多くなったのだと私は思う。
何かとりとめなくなってしまった。それらの曲も収められている,活動無期限停止間際の彼らを追ったドキュメント『LIVE OR DIE』のライブ映像を見ていると,否が応にも身体に熱いものが走る。それは現在のSADSや清春のソロ作品で代替できるものではない。あの短くも激しく燃える“2分台”が,限りなく2度と味わえないのが惜しくてならない。(おわり)

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