Maggie's J‐POP論

その15 私をコンサートに連れてってA
   ―宇多田ヒカル「UTADA UNITED 2006@さいたまスーパーアリーナ」2006.8.17―


隣接する「ジョン・レノンミュージアム」は出来たてのころに行ったことがあったけど,さいたまスーパーアリーナは今回初めての訪問。チケットには「Bゲート200レベル」と書かれてあったので,まずはそのBゲートに,向かう人が少ないなーと思いつつ行ってみると,案の定違うらしい。私と同様に向かってきている人間がいたので,これはややこしい。結論から言って,後段の「○レベル」というのが優先されるようだったみたいで,入ったゲートはAゲート。「○レベル」の指示も小さい看板でしか出ていないから,一度見逃したら別のところに行ってしまいかねなかった。ややこしかった。
何とかAゲートから入ると,気にしていたペットボトルの検査は行われず。どうやら,カメラがなければ素通りみたいなものでした。さいたま新都心駅そばにあるコンビニはかなり混雑していましたね。昼飯を多く食べていたから夕食は控えめにしようと思って,菓子パンとジャスミン茶のペットボトルだけ買って会場に入りました。会場内に売店があるかどうか,あったとしても混雑していそうで不安だったからですが,前もって買っていてやはり正解でした。主にファーストフードが売られている売店が点在してはいましたが,いずれも小さい規模で,19時の開演に対して18時の開門だったから,みんなどこも集中しちゃって,買っていられなかったかもしれないので,これは助かりました。
今回座ったS席という場所。ステージから見て右横1階席の後段でした。ステージ下にアリーナ席があって,あとは同じS席と思われるアリーナをはさんで対面の座席群があり,それぞれを覆いかぶせるように2階席があって,あとはアリーナの奥に3段ぐらいの座席群があるというレイアウト。個人的にはゲートのすぐそばで通路側だったから,スペースができてよかったです。私が座ったのが18時40分ごろだったので,割と間近に会場入りしたと言えますが(ま,会社から直接行きましたからね),それでも後から結構入ってくる人が多かったですね。19時10分開演。

今回のコンサートは,効果的に映像と照明を使っていました。映像は昔のプロモーションビデオだったりとか,雨・風などの自然,爆撃や世界の人々などといったメッセージ色のあるものだったりとか,はたまた会場にいるお客さんを映したりとか……今年リリースされた『Keep Tryin'』が演奏されたときは,歌詞の中の「おじいちゃん」「お母さん」「お父さん」「車掌さん」などというフレーズが出てくると,それらしき年齢の人がパッと映ったりしていました。「車掌さん」というところで,七三分けした中年おじさんが映し出されたのは,なかなか秀逸。前もって会場の中からセレクトしておくんでしょうかね。だって,演奏中にいきなりその人間を探すったってムリでしょうからね。
オープニングが何で始まるかってのも,これまた興味深かったですが,『PASSION』という抑え気味のシングル曲でした。青白いスポットライトが当たると,ステージ下から上がってきたのはモノトーンのピーターパン衣装みたいな感じのヒッキー。ステージは葉っぱの形をしたもので,全体的にはシンプルに…というか少し“無機質さ”すら感じるものでしたけど,あんまり大道具とかでゴチャゴチャしているよりはかえってよかったかもしれません。
『PASSION』をしっとりと歌い上げると,次からは『This Love』で徐々にテンションを上げていき,ヒッキーいわく「出発進行!」というフレーズから,そのまま“ダブ状態”を保って次の『traveling』へと,たしかに「出発進行」的に流れていき,さらに『Movin'on without you』まで3曲メドレー。ものすごくダブが効いているのに,最後に帳尻合わせ的に「バックでちゃんと演奏していますよ」的にドラムとかがドドド…と締めたのは笑えましたが,メドレー自体は,テンポもよかったですし,場内が盛り上がるには効果的だったかと思います。ちなみに,コーラスは彼女自身の声の録音。ドリカムのバックコーラスの女性みたいに,彼女の声に似たアーティストを連れてくるってことはなかったんですね。

中盤で「7年も前の曲で懐かしいっちゃ懐かしいけど,それでも7年じゃそれほど昔じゃないからねー。むしろ最近かもしれないねー」みたいな気持ちでしっとりと聴いた『First Love』が終わると,ここで衣装替え。黒のドレスに替わってから3曲,全編英語詩曲のアルバム『EXODUS』あたりからの曲と思われる曲を演奏。その最後にかかった『YOU MAKE ME WANT TO BE A MAN』は,多分メディアでよくかかっていたからでしょうか,割とノリがよかったですが,前の2曲はそれほどノリがよくなかった。他のところもそうだったけど,特にリアクションが見えやすいアリーナ席が,ただ立っているだけで一部だけ乗っている感じだったのが印象的でした。
6年ぶりに行われているという今回の彼女のツアーに観客が期待していたのって,おそらくは“シングルスーパーヒットコレクション”だったと思います。少なくとも私はそうでした(笑)。どちらかといえば「アルバムアーティスト」というよりも「シングルアーティスト」という印象もあるでしょう。毎年アルバム出してはツアーするっていうのとは違う動きしていましたしね。事実,シングル曲のほうが多かったですし,その点では私は助かりました――でも,盛り上がりの差が顕著でしたよ。最後のほうに『CAN YOU KEEP A SECRET?』『ADDICTED TO YOU』『wait&see―リスク―』と一気に歌っていきましたが,ここが多分場内が一番盛り上がったでしょうね。最後の『wait&see―リスク―』は,本人いわく「この歌を歌うためにここに来たようなものだ」とか言っていましたが,やっぱり締めに盛り上がるにはこの曲が一番だと私も思います。イントロで彼女が声を張り上げる部分が,やっぱり否が応にも気分が高まりますね。

ただ,気になったのは高音がなかなか出ていなかったこと。かなりかすれていました。上記全編英語詩曲の後でまた衣装替えがあって,赤のドレスになった彼女と,もう1人チェロを抱えた女性にスポットライトが当たると,まずはそのチェロの弾き語りで『BE MY LAST』,次いでピアノが入っての『誰かの願いが叶うころ』と続きましたが,この2曲のサビでの高音がなかなか出ない。次いでスローバージョンで歌った『COLORS』も,半音下げているのになかなか高音が出づらそうでしたし。
昨日は,22ある公演のちょうど中盤を折り返した辺りで,私のあくまで素人考えですが,おそらくは一番肉体的に(無論,声帯が一番でしょうが)負担がかかるであろう辺りでしょう。低音を使ったりして,ごまかしごまかし歌っているところが何度か見受けられました。ま,まだあることだし,ここでムリして後がつぶれたらどーしようもないんだろうけどね。何度かMCをやっていたけど,個人的には「そんなMCいいから,声を整えておけよ」と思わず野次りたくなってしまいました。ま,野球場じゃないので抑えましたが。
さて,そのMCの一つでは,彼女宛てに来たというファンメールで「今日コンサートに来る友達が誕生日なので,一言言ってやってください」というのがあったそうで,その送り主らしきハンドルネームが彼女の口から出ると,アリーナ席の真ん中あたりで「キャーッ」。お前らか,公私混同メール送ったの……って,ウソです。お誕生日,おめでとうございます。ヒッキーいわく「あまり誕生日って感慨を持たなかった」そうですが,「最近は何かいいかなー」と思えるようになったそうです。

――そういや『BE MY LAST』で,彼女とチェロ奏者にスポットライトが当たったとき,どっかで観たような光景だなーと思ったら,そうそう,東京新聞のCMを思い出しました(笑)。チェロ独特の響きが特にね。そのまま大太鼓が出てきたら,もう完璧「イーン・ナ・バス・ナイナイナイーン♪」でした。曲調だとか,「母さん〜」という出だしが,これまた侘しそうな印象もついでに持ったりして……ま,多分そう思ったのは私だけでしょうから,とっとと終わりましょう。

『Keep Tryin'』が本編の最後で,一旦袖に引っ込むと,館内からはお約束のアンコールの手拍子。数分待ってから出てきた彼女は4度目の衣装替えで,たしかピンクのノースリーブみたいなのを着ていたと思います。詳細は忘れました。とにかくカジュアルな格好でした。やっぱり,衣装替えというのは女性らしい発想ですね。先日の氷室京介&GLAY(「MJP」その14参照)は,一切衣装替えがなかったですから。
まずは本人いわく「これを歌わずに帰れないでしょう」という『Automatic』。うん,私もそれを聴かせてもらえずに帰らされたら,気分的に損をしたかもしれない。サビの“It's Automatic♪”のところは,私も両手を挙げてグルーヴさせていただきました。そして,彼女自身の名前がついていて個人的に好きだという『光』でもってアンコール終了。「ホントはもっと一緒にいたいけど,また明日もあるしね……ま,でもまた来ればいいじゃんかー!」と言い残して袖に去っていきました。
彼女は私より九つ年下ですが,なかなか貫禄があるというか,声こそ多分ツアー慣れしていなかったかもしれませんが,ステージさばきはなかなか。小生意気なとは思いつつも,ついつい聴いてしまったりして……やっぱりそこがスーパーアーティストっていうことなんでしょう。2時間ちょうどのステージで,所々衣装替えのところを映像で時間(と声量)を稼いだりしたのもあるでしょうが,気がつけばあっという間の2時間ではありました。いろいろ書いてしまったけど,全般的にはみんなが望んでいたであろう“シングルスーパーヒットコレクション”になったのでよかったです。すなわち「知っている曲が多かったので何より」ってことかな(笑)。(おわり)

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