エディプス・コンプレックス
ー母と息子の心理学ー
 私の子供はご存知の通りマーくん、てっちゃん、ふっくんの息子三人。ところが今まで私がHPで書く文章の中に本来、末っ子で一番目を掛けられているであろうはずのフッくんの登場が少なかったことにお気付きだったでしょうか。 実はこれにはちょっとしたわけがあったんです。 

 誤解を恐れず言ってしまえば、ここ一年、私はまともにふっくんを愛せかなったんです。びっくりされた方が少なくないかも知れませんが男の子を育てた事のある母親なら理解していただけるんじゃないでしょうか。私がマークン(長男)で初めてこの感覚を体験した時にはとても悩みました。この間まで可愛くて可愛くて抱きしめたりキスしていたりしいた息子を疎ましく思うよになってしまって抱きつかれようもなら嫌悪感さえ感じるんです。まだ甘えたい盛りの5歳、ここで振り払ってはいけないと思うから離れるまで、じっと我慢したりしました。そんな自分に母親失格のレッテルを貼りかけたころ、ある先輩ママさんに相談する機会を得ました。 すると彼女も同じ経験をしていて、それが一過性のものであると教えてくれました。どんなに救われた思いだったでしょう。
 
 ある時ふと、昔読んだ心理学の入門書の中でフロイトがちょうどこの時期に男の子は母親に恋をすると言っていた事を思い出しました。最近になってよく調べてみると、やはりフロイトは男の子は5歳になると母親に「欲情」を覚えるのだと言っている事が判りました。いわゆるエディプス・コンプレックスと言う奴です。「欲情」と言う表現は人間の意識或いは無意識をなんでも性衝動と結びつけるフロイトならではですよね。 実際のところ、いわゆる「欲情」なんてものを子供が感じているとは思えませんが、それでも母親が息子に嫌悪感を感じる時期と一致するのは近親相姦への畏れの現れであると言われると思わず納得してしまいます。ひょっとしたら心理学上の「欲情」という言葉の意味と一般に世間で使う「欲情」という言葉の意味は少し違うのかもしれませんね。いずれにしても、この時期に息子の中に「男」としての自我が目覚め始め母親を異性と感じ始める時期なのかもしれません。そして母親はそんな息子の中の「男」を敏感に感じてしまうのでしょうね。

 難しい話はさておき、母と息子の間にそんな時期があるという事、そしてそれが一過性である事を知っているかいないかと言う事は母親にとって、大きな違いになるのではないでしょうか。実際に私はとても悩んだし、ちゃんと知っていたふっくんの時でさえ、このままこの子を愛せないままなんじゃないかと不安で仕方がありませんでした。それは大きなストレスになりますし、下手をすると親子とも取り返しのつかない心の傷を残す事になりかねません。

 またこの時期に父親の存在が不可欠である事も申し添えておしましょう。フロイトはこの後に訪れる男の子の自立のきっかけを「去勢不安」であるとしています。つまり母親に欲情する事が悪いことであるとが解ってきて父親から制裁(去勢)を受けるという不安がおこり、徐々に意識が母親から離れていくのだというのです。私が昔聞いた心理学の学者の話では母親への恋の敵として父親の存在は絶対であるべきで、恋を成就する為には父親を超えなければと言う思いが男の子を「男らしく」成長させるのだと言っていました。この時期の父親の存在が薄い、或いは夫婦の絆が薄いと母親は夫にかまってもらえない寂しさや不安を息子で埋めようとしてしまいがちで息子は障害もなく母の愛情を全て獲得する事になってしまいます。すると母と息子の繋がりが必要以上に強くなってしまい、いわゆるマザーコンプレックスの男性が出来上がってしまうと言う訳です。例えばアメリカではベトナム戦争の時に父親が戦場に行っていなかった家庭の子供に、まともに大人の女性を愛せない男性が多いと言うデータがあるそうです。もちろん、それが全てではなく母子家庭のお子さんだってお母さんがしっかりしていて、ちゃんと育てられた方はいっぱいいると思います。おそらく本当に父親がいない家庭では母親は父親の役割りもしなければという使命感を持っていて意識的に育てますから問題は起こりにくく、むしろ本当はいるのに家庭を顧みないと言う父親の存在こそが問題なんじゃないでしょうかねぇ。

 我が家はその辺は問題なかったんですけど、とりえずパパに頼んだ事は「今は私はふっくんをちゃんと愛せないから、パパがかまってあげてね」ということでした
 長く感じたトンネルでしたが最近また、ふっくんがとても可愛と思えるようになりました。心から抱きしめたいと言う衝動にかられます。今度は末っ子だけに溺愛してまうかもしれない自分が怖いくらいです(笑) 来月7日、ふっくんは6歳になります。

(てっちゃんの場合は障害の為か特異な発達のし方をしているので、まだこういう時期はないようです)
                            (Jun.2001)