好きまでの距離感〜バレンタイン編、二十八〜

昼間にもあいつ、チョコを押しつけられていたみたいだし、今年は結構貰ってるんじゃないのか?
な、なんかこう…悔しいっていうか、負けたっていうか、差を付けられたっていうか…。

ちょっと複雑な気分を味わっていた俺に、姉貴がさらに衝撃的な事を言い出してきたんだ。
「それであんたは桂君にチョコでも贈るの?」
「はいぃ!?」

あまりに意外な問いかけに、思わず声が裏返っちゃったよ。
「な、なななにを言い出すんだよいきなり。俺が、どーして桂にチョコなんか贈らなきゃなんねーんだ!」
もう心臓もバックバク。
まさかとは思うけど、姉貴が俺達の関係に気づいちゃったんじゃないかと不安になっちゃたから。
だけど姉貴の答えは意外なものだったんだ。

「え?だって、今は女の子同士でチョコを贈り合ったりするじゃない。最近は男女で贈るとかじゃなくて、そっちがメインみたいだし。だからさ、男同士でもやるのかなーって思っただけだけど」
そ、そーいうこと?
もう、勘弁してくれよ。マジ、びびったじゃねぇかよ。
「んなわけねぇだろうが。確かにクラスの女子達はお互い、チョコの交換とかしてるみたいだけど男はやんねーよ」
「えー、そうなんだ。つまんないわね」

どこがつまんないんだ、いったい。
「あんま変な事、言い出すなよ。なんで男同士でチョコのやりとりなんかしなきゃならないんだって。気持ち悪いだろうが」
動揺を押し殺しながら言い返す俺に、姉貴は一向にへこたれる様子を見せなかった。
「変なことって、失礼ねぇ。今時は同性同士でも贈りあうのかと思っただけじゃないの。それにたとえ男同士では贈らなくたって、あんたは桂君にチョコをあげた方がいいと思うわよぉ?」
「はぁ?」

正直、何を言ってるんだと思ったんだ。
どーして俺が桂一郎にチョコを贈らなきゃいけないんだろうかって。で、それを問いつめたら姉貴が実に嫌な事を言い出したんだよね。
「だってさぁ、あんたってばしょっちゅう桂君に迷惑ばっかかけてんじゃないの。小学生の頃は宿題は全部写してもらっていたし、何かあれば直ぐに頼っていたじゃない。ホント、あんた桂君にべったりだったもんね。小さい頃からさ。だからこんな時くらい、桂君にお返ししてもいいんじゃないかなって。ま、お中元とかお歳暮みたいなもんで」
「な…何を。俺がいつ桂にべったりなんだよ」
「あんたが桂君に甘えまくっているって言ってんの」

ぐ…。
図星なだけに反論出来ない。
それから姉貴は色々言って、退散したんだけどさ…。
俺の頭には色んな事が渦巻いちゃったんだよね。

まぁね、確かに俺は色んなところで桂一郎に頼っていた自覚はあったんだ。
それこそ夏休みの宿題とか写してもらっていたし、面倒な事とかも桂一郎にしてもらってたりとか。甘えてると言われればそうなんだろうけど…。

でもそこでチョコ?
俺があいつに贈るって?

だけどお中元みたいな感覚でって言われればそうなのかも…って気にもなってくるし…。
別にチョコなんかどうでもいいやって気分になりかけていた俺の心に、姉貴が投げかけた何気ない一言は結構俺の胸に迫ってきたんだ。
もっと軽い感覚で贈ればいいんじゃないのかって。
桂一郎も欲しいって言ってたし…。俺が贈れば、あいつが絶対喜ぶのは分かってるし。
あいつが欲しいって言う気持ちも分からなくないから。

俺がチョコを贈るのを渋っている理由っていうのも、恥ずかしいだけだからさ。
人に何かをプレゼントするのが嫌いっていう訳じゃないから。
しかも贈ったら、確実に相手が喜ぶのが目に見えているのが分かってるんだし。だったら別にいいんじゃないんだろうか。

桂一郎にあげちゃうか?
それこそ姉貴が言ったみたいにお中元みたいな軽い気持ちでさ。
あいつにチョコを。
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