好きまでの距離感〜バレンタイン編、二十七〜

学校が終わって、家に帰って、自分の部屋でつらつらゲームをしている時には、俺の気持ちはチョコから離れていき始めていたんだ。
ところがだ。
俺がいい加減チョコから気持ちを切り離していたところへ、姉貴がいらんことを言ってくれたんだよね。

ゲームをやって、ダンジョンに潜り込んで中ボスと戦っている真っ最中の時だったんだ。
「ねぇ和、あんた…」
ノックもせずにいきなり姉貴が俺の部屋に入り込んできたのだった。

一応俺らは、男女の兄弟な訳なのよ。
けど、姉貴ときたら人の部屋に入るのにノック一つしないでいきなり乗り込んでくるんだもの。ガキの頃ならともかく、お互いいい年なんだからさ。もうちっとプライバシーってもんを尊重してほしいんだよね。
一度さ、それを姉貴に文句言ってやったら軽くあしらわれちゃったんだわ。

和音曰く。
「なにがプライバシーよ。一著前な口聞いちゃってさ。いきなりあたしが部屋に乗り込んだら困ることでもあるわけ?」とか、逆に言い返してくるんだもんな。
どうせ姉貴には口では叶わないし、今はもう諦めの境地ってやつだった。

俺自身、姉貴の部屋へは平気で乗り込んでいくからね。一応は声を掛けては入るけど、あんまりそこんところはお互い気にしてないからさ。
他の家ではどうかは知らないけど、我が家に関しては男女の性差ってやつはあんまり関係ないみたい。

で、姉貴がいきなり俺の部屋に入って来たのだけど…。
「何だよ和音」
姉貴が突然予告も無しに部屋に入ってくるのはいつもの事だから、頓着せずにゲームの続きをしていたんだよね。当然、顔はTV画面を向いたまま。
姉貴もそれに慣れているもんで、俺の様子を見て「あら、ゲームしてたの?」とか気楽に声を掛けてくる。
「ちょっとあんたの部屋にあるDVD貸してもらおうかな〜って…」
そう言いながら、姉貴が勝手に人の本棚を漁っている。
こういう理由で姉貴が俺のところへやってきて、本棚を漁るのもいつもの事だから放っておいたのね。勝手に持っていけばって感じで。
なんせ、俺は今戦っている真っ最中だから。手が離せないんだよね。
そうこうしているうちに、お目当てのDVDを見付けたのか。姉貴が「これこれ」とか言いながら、DVDを手に取るのが視界の端に映ったんだ。
そのまま温和しく退散すると思ったんだよね。
ところがだよ。
姉貴が俺の机の上を眺め、こんな事を言い出してきた。
「そう言えば、昨日あたしがあげたチョコ、食べたの?」
何でいきなり言い出したかなと思ったんだ。最初は。でもさ、よく考えたら俺って姉貴から貰ったゴディバの箱を机の上に置いてあったんだよね。それを見て言い出したんだろうなって、後から気づいたんだけどさ。
「もちろん食べましたよ。ありがた〜くね」
俺の答えに、姉貴が「なんか軽い返事だなぁ」とか言いながらもうんうん頷いていたんだけど…。

「で、あんたはあたし以外からはチョコ貰ったの?」
ぐ!
和音、それは俺にとって禁句だぞ。
情けない話だけど、今までのところ姉貴以外から貰っていない俺自身にとってその話題は心臓にクリティカルヒットなんだ。おまけにちょい動揺してしまったせいか、ダンジョンの中ボスとの戦いに凡ミスをしてしまって、あえなくゲームオーバーしてしまったんだよ。

「あのなぁ和音…」
「ふぅん、その顔だと貰ってないなぁ。情けないわね和」

お、おま、お前なぁ。
いきなり核心をつくな、核心を
「べ、別にどうだっていいだろう。どうせ俺はもてませんよ。それに今、チョコを貰っても後のお返しが大変じゃねぇか。貧乏な学生にはきつい出費がないだけ気分的に楽だもん」
自分でも苦しい言い分だと分かってはいたけど、案の定姉貴はやり返してきたんだ。
「和、それって負け惜しみって言うのよ」
「うっ…」

わ、分かってるよ。自分でも。
だからってわざわざそれを口にしなくたっていいじゃねぇか。情け容赦ねぇんだから。
「ホント、情けないなぁ和は。桂君はそこそこ貰えているみたいなのに、あんたってば一個も貰ってないとはねぇ」
ドキリとしちゃった。
おかげで返す言葉が、ついどもってしまっていた自分が情けなかったんだ。
どうして姉貴が桂一郎のチョコの数を知っているのかと思ってさ。
「な、なんで俺と違って桂が貰ってるって言うんだよ。あいつも俺と同じくチョコを貰ってないかもしれないじゃないかよ」
「ふふん、女の感よ、女の感。…って、言いたいところなんだけどね。さっき桂君の家に来るときにさ、郵便箱にバレンタインの包みらしい可愛らしい包みの箱、見ちゃったんだなぁ。自分で宅配した子でもいたのかなって推測したのよ」

自分で宅配?
わざわざ桂一郎の家にまで来て?そんなことまでするのがいるのか!いたのか?!


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