好きまでの距離感〜バレンタイン編、二十四〜

「え?」と桂一郎が俺の問いかけに目を見張り、それからあいつにしては珍しく眉間に力が入ったのが見えたんだ。
「何か入ってるのかよ。どうしたんだ?」
さらに続けるとあいつが言いにくそうに言葉を濁す。

「別にちょっと…」
「ちょっと何だよ」
「たいしたもんじゃない」

いつもは物事に拘らないあいつがどうにも歯切れが悪い。
うん?と思った。

普段のあいつとは違う反応をされたら興味がなくても、つい追求したくなっちゃうだろう?
だから自分の欲求のままに突っ込んだわけさ。

「勿体ぶってんじゃないよ、何を入れてんだ?いいから見せてみ」
「こらっ和!」

隣に座っているあいつのポッケに手を突っ込んで中に入っているだろうブツを見極めてやろうとしたんだ。
「いいじゃんか。俺とお前の仲だろう。見せろってば」
嫌がるあいつを押さえ、無理矢理に中身を取り出したそのものときたら…。

「これ…」
手の平にのるくらいの小さな箱。ピンクの包装紙でラッピングをされ、銀色のリボンで綺麗に飾り付けられてあるそれを見て、中身を見るまでもなく何が入っているのか分かってしまった。
「バレンタインチョコ…か」

俺が口にしたその言葉に、桂一郎が堅い表情のままで言ってきた。
「無理矢理に押しつけられただけだ」と。

無理矢理に押しつけられただけ?
だから何だと逆に問い返したい気分だったから。
「べ、別にチョコを貰うのはいいじゃんか。むしろ羨ましいくらいよ俺としては。だって俺なんかまだ誰からも貰ってないんだもん。唯一貰ったチョコっていえば、姉貴からのあれ一個だけだぜ?身内からしか貰えてないのって、男としては侘びしいだけじゃんか。だからさ、お前も俺に気兼ねして隠す必要もないんだからさ」
「和」
「うん、いい事じゃんか。チョコを貰えてさ。ホント、羨ましいよな。マジで」

自分で言い放って、ちょい虚しくなった感はあったんだけどね。なんとなく平気な振りをしていなくちゃ間が持たないっていうか、僅かばかりに動揺している自分の感情がよく分からない気分もあったのね。
男としての見栄がそうさせているのかどうか、今ひとつ自分では判別出来なかったんだけど、とにかく俺は羨ましいを連発していたんだわ。

なのに桂一郎ときたら、俺の言葉に逆に難しい顔を見せるばかり。
あげくにため息なんて吐いちゃって、こんな事を言ってきたりしたんだ。
「顔も知らない子から貰っても、困るだけだ」

おいおい。
それは身内以外から一個も貰ってない俺からすれば、ただ嫌みなだけの発言だぞ?
「何言ってんだよ。お前、別に甘い物嫌いじゃないんだから有り難く頂いておけばいいじゃないか。お前のことを思ってくれたチョコだもの、大切に食しなさいよ。大切にさ」
「好きな相手からのチョコなら、大切に食べるけど」

そう言った桂一郎の瞳が真っ直ぐに俺を見詰めている。
は?
「好きな子?お前、何言って…」と、そこまで言いかけて物凄く根本的なことを思いだしたのね。

桂一郎の好きな相手って、俺じゃないかよってことに。
…ってことはだよ。あいつがチョコを欲しい相手って俺ってこと?
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