好きまでの距離感〜バレンタイン編、二十三〜 むりやりに意識を桂一郎の事から引き剥がし、俺は授業に没頭するようにした。それでなくてももう少ししたらテストがあるし、マジでちゃんと勉強しなくちゃならないから。 もっとも。 この後桂一郎とお昼を一緒にする約束をしているから、どうしても顔を会わせなくちゃならないんだけどさ。 その時までにはこの胸の中のもやもやが消えてくれればいいなと願いながら、俺は先生の言葉に意識を集中しようと務めたんだ。 でもって、お昼。 俺は屋上でぼんやりと桂一郎を待っていた。 膝にはお袋の作ってくれたお弁当を乗せながら、まだやってこないあいつをちょいイラっとしつつ待っている。 いつもはだいたい桂一郎が先にやってくるのが常だった。 あいつ、時間にきっちりしている性格だから待ち合わせしててもだいたい約束の時間より少し早めに来てたりするんだよな。 普段は俺の方が遅刻してるから。 なのに今日はどうしたんだろう。 「遅いな〜桂」 ついぼやいてしまっていた。 ここ、屋上で桂一郎と色々あってから何となくあいつと一緒に昼飯を食うのが習慣になっていた。 どっちから言い出したって訳じゃない。 気が付けばどちらからともなく待ち合わせて一緒に食べるようになっていたんだ。 もう先に食べちゃおうかな? いい加減腹も減ったし。ここで只、ぼーっと待ってるのも虚しいし…。 ってなことをつらつら考えていたら、屋上の鉄製のドアを開ける音が聞こえてきた。 座ったまま顔を上げれば、桂一郎がやってくる姿が見えたんだ。 おお、やっときたのかよ。あいつ。 「遅いじゃねぇかよ」と声を掛けてやれば、あいつが右手を顔の前に出して軽く頭を下げて「ご免」というような仕草を見せてきたんだ。 桂一郎が理由もなしに俺を待たせる訳がないと分かってるんで、何か理由があるんだろうなと思ったから、さして追求することもなしにあいつを迎え入れたんだ。 桂一郎が俺の隣に座ってくる。 「ご免」と一言添えて。 別にそんなに遅くなったわけでもなし、きっちり時間を待ち合わせているのでもないのだけど、それでも律儀に詫びを入れてくるのはあいつらしい。 だから俺もさして気にもしないで「いいからさっさと飯、食べようぜ」と軽く返してやったんだ。 二人並んで座り、もそもそ昼飯を食べる。 桂一郎は相変わらずに自分から喋らないから、もっぱら俺が話しかけてあいつがそれに返すというある意味一方的な会話が進んでいく。 他の人が見たら仲、悪いんじゃないかなって勘ぐられるくらいに会話が弾んでいないように見られるかもしれないけど、桂一郎と一緒の時はいつもこうなんで俺自身は全然気にもしていなかった。 なんせ饒舌な桂一郎なんて想像だに出来なかったし、今となっては気持ち悪いだけだし? だからまぁ、それはそれでいいんだけどね。 俺自身は桂一郎と過ごすこんなゆったりとした時間は割と嫌いじゃないから。 二人で飯食って、弾まないお喋りを続けて、時々はお互い空を見上げてぼんやりとしたりね。 とらえ方によっては、充実した時間なわけですよ。 そんなわけで二人で飯を食っていて、会話が途切れたその時に、不意に視線を俺が下ろしたその先に桂一郎の学生服の上着のポッケが妙に膨らんでいるのに気が付いたんだ。 あれ?って思った。 で、何の気無しにあいつに尋ねたのね。 「桂、お前ポケットに何入れてんだ」ってね。 |
||
| BACK NEXT |