好きまでの距離感〜バレンタイン編、二十二〜 これは先輩を持ち上げておいたほうがいいんだろうな。 気さくで話しやすくって、いい人なんだけどこの性格がなぁ。マジで時々ついて行けない気分になっちまうって。 「やっぱり先輩が一番なんですか…」 「当然の結果だと思うけどねぇ。俺、かなりいい男だからさ〜。だから中西も野間が自分よりもチョコを貰ったからってひがまなくたっていいんだよ?俺って言う、上には上がいるんだからね。しょせん、野間なんて二番目の男だからさ」 「は…はぁ」 これはもう乾いた笑いしか出ないっす。 俺が愛想笑いを先輩に返していたところへ、桂一郎が脇から声を掛けてくる。 「和、そろそろ教室へ行かなくていいのか?」 うん? 桂一郎に言われて腕時計を見たら…。 「うわぅ!ヤベっ!もうこんな時間なのかよ」 「俺も朝練が終わったから」 「う、うんそっか。じゃあ俺、教室へ戻るわ。桂、お昼にまたなー」 桂一郎が指し示した時間を見て、俺はちょい青くなってしまった。それくらいに授業始まりぎりぎりの時間だったから。 歩き始める俺に向かって手を振る桂一郎。 その姿を見て取って、俺は駆けだしていったんだ。 何となく桂一郎が気になってちらりと振り返って見れば、先輩にあいつが何か言われている姿が目に入ったんだ。 (何を言われてるんだ?)とはちょい気になったんだけどさ、こっちも時間が差し迫っているもんだからそのまま走っていったんだ。 ほら。経過が知りたければ、昼間には桂一郎と会うじゃない? そんときに聞けばいいかな〜って思ったから。 とにかく今は自分の教室へ向かって走るしかない。剣道部は朝練があるからって、多少の遅刻は学校の方で分かってもらって免除されてるけど、俺は違うわけだから。 だからこっちは遅刻するわけにはいかないんだ。 今朝は色々あったもんだから、(下級生の女の子達とか、遠藤先輩に絡まれたりとか)いつもよりか時間がかかったんだよね。 おかげで全力疾走しなくちゃ間に合わないよ。 ぜーはー言いながら走り続け、俺は何とか自分の教室へとたどり着いたんだ。 俺が自分の机に座った直後に、担任の先生がやってくる。 うわっぎりぎりセーフじゃん。 マジ、やばかったわー。 大きく息を吐いて、椅子の背もたれに体を預ける。 担任が言う朝の言葉を聞きながら、俺の思考はいつの間にかあることに行き着いていた。 桂一郎が女の子達からチョコを貰っていたっていうことにだ。 あ、もちろんチョコを手にしたっていう訳じゃない。 彼女たちからのチョコを貰う前に邪魔が入って(その邪魔っていうのが遠藤先輩だったんだけどさ)桂一郎にチョコが渡されなかったんだけどさ。 でも、あの時先輩がいなかったら彼女たちはあいつにチョコを渡していたんだろうな。 女の子の集団ほど、パワーのあるもんってないだろうから。きっと、剣道部の練習があっても無理矢理にでも押しかけて渡しちゃいそうな勢いだったもんなぁ。 桂一郎は彼女たちからチョコを貰ったら、嬉しいんだろうか…。 あいつは贈られたチョコをむげに断ったりしないだろうから。もしかして貰って、ちゃんと食べて、そんでもって律儀にお礼なんかいっちゃったりなんかして…。 でもって、ホワイトディにはしっかりクッキーなんか送り返して…。 アホか俺は。 どうして俺が桂一郎のチョコの行く末を妄想しなくちゃなんねーんだ。 いいじゃんか、あいつがチョコを貰おうがどうしようが。俺には関係ないんだからさ。別にいいじゃん。どうだって。 どうでもいいんだ。どうでも。 でも…。 なんとなく腹立たしいのは何故なんだ? 女の子からチョコを貰って嬉しそうな態度を見せる桂一郎の顔を想像するだけでむかっ腹が立ってくるのは、自分でも訳分からないし。 ええい。止めだ、止め。 そんなこと、考えるんじゃない俺。 桂一郎がチョコを貰うがどうしようが、俺には関係ない。いっさいがっさい、頓着しないんだい。 自分が拘る理由も気にする理由も分からないままに、俺は一人で腹を立てたり、うじうじ色んな事を考えたりとしていたんだ。 自分の感情を持て余しながら。 |
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