好きまでの距離感〜バレンタイン編、二十一〜

心臓なんかバックバクもんだったんだぞ。
もう不整脈出そうなくらいでしたよ、まったく。
なのに俺の心臓にかなりのダメージを与えてくれちゃった当の本人は呑気な顔で、さらに続けてくるんだから。

「それに野間が沢山チョコを貰ったからって、たいした事ないぜ。なんせこいつ、うちの部でチョコの数は二番目なんだからさ。ホント、全然たいした事ないんだって」
そう言いながら俺の肩に手を回し、にやりと笑いながら胸を反らした。

うん?
なんだか、とっても気になる言い方っぽい。
桂一郎が部内では二番目にチョコを貰った人。だから気にするなっていいたいのか。でも何を気にするんだろう。上には上がいるって言いたい…のか?
一番貰っている男子がいるから、桂一郎にジェラシーを焼く必要なんかない。
あっ!
遠藤先輩が何を言いたいのか、分かっちゃった。
うん、これは突っ込まずに、受け流すのが一番かも。

俺の肩に掛けられた先輩の腕から体を反らして逃れ、傍らに立っている桂一郎へと視線を向ける。
「まぁ…あの…なんだ。弁当は届けたから、俺はこれで行くわ。じゃあな桂」
話しかける俺に、桂一郎が頷きながら「今日の昼は」と問いかけてくる。
「あ、昼。うん、今日は大丈夫だよ。いつもの所にいるからさ」
「分かった」
「じゃあ」

傍らの先輩を無視して会話する俺らに、遠藤先輩があからさまに不機嫌な声を出してきた。
「おーい。俺を無視して会話するんじゃねぇよお前ら。スッゴイ無礼じゃないのかなぁ。天然入ってて朴念仁の野間はともかく、中西まで人のこと透明人間扱いすんの止めてくんない?」
でかいなりをして、しかも俺らより一学年上の人が拗ねた声を出したって可愛くないと思うんだけどなぁ。
「だいたいお前ら、すっごい失礼じゃないのかなぁ。俺がわざわざ野間がうちの部で二番目にチョコを貰う奴だって教えてあげたんならさ、ここで一番は誰ですかぁ?って聞くのが礼儀じゃないの?普通は聞くものよ。聞かなきゃいけないでしょー?絶対そうでしょうが」

なんていうか、そんなん聞いてどうしようって言い返したい気分なんですけどね。だってなんかさ、聞く前から答えが分かって来ちゃったんだもん。
「別に、一番にチョコを貰う人が誰かなんて興味ないですもん俺」
だからわざと素っ気ない言葉を返したら、先輩が「そりゃないっしょー」と情けない声を出してくる。
「んな可愛い顔をして、中西ったら冷たいんだから。おい、野間。お前の親友君ってばつれないよねぇ」
でもって今度は桂一郎に不満の矛先をむけてきちゃったりなんかする。

だけど桂一郎に気の利いた言葉を期待するのは、とても無謀な事だと思うんだ。
そして案の定、あいつの返した言葉はとても素っ気ないものだったんだ。
「俺も別に、興味ありませんから」
「おい、野間ぁ…」
とても後輩らしからぬ桂一郎の味気ない言葉は、むしろ部外者の俺の方が冷や冷やする気分になってしまいそうだった。

ここはやっぱり俺からフォローしてなげなくちゃ、先輩から解放されないって事なのかしら?
「…先輩、じゃあ聞きますけど一番チョコを貰う人気者って誰なんですか?」
俺が嫌々聞き返すと、先輩が待ってましたとばかりに身を乗り出してくる。

「おお、やっぱり中西は良い子だねぇ。うん、人付き合いはそうでなくっちゃ。で、一番を知りたいってね。いいでしょう、教えてあげましょうねぇ」
「はいはい」
「うちの部で一番に貰う人気者は、誰あろう俺。俺よ、俺。やっぱさぁこの見た目と剣道の実力者であり、人格者でもある俺が一番なのは当然の結果だと思わない?」

…やっぱそうきたか。
この答えが分かり切っていたから、あえて気づかない振りをしていたんだけどなぁ。
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