好きまでの距離感〜バレンタイン編、二十〜


まぁね。桂一郎ってば強面で近寄りがたい雰囲気があるとか言われている一方で、格好いいとか大人びているとか言われてそこそこ女子に人気があるみたいなのは知ってるんだ。
実際のところそれで桂一郎に告白の橋渡しをされそうになったことも何回かあったし。
でもって、そのせいで今、こいつと危うい関係になっちゃったわけだし。

桂一郎が女の子にわりと人気があるってのも今更のことじゃん?って気分だった。
一年の女子が学校の外れの剣道場にまで桂一郎にチョコを手渡したいって思って、ここに来るのも考えればありそうな話だもんな。
うん、いいんじゃない?
別に、俺には関係ないことだもの。気にする必要ないから。
俺、全然気にしてないって。

「お前にチョコを手渡したいってか。桂、もててんじゃん」
だからその事実だけを確認したいみたいな気分も込めてあいつに言ってやったらさ、桂一郎の奴ってば、何だか憮然とした表情を浮かべて素っ気なく言い放ったんだ。
「別に…」って。

別に?
別に何が言いたいんだろうね。別に嬉しくないとか別に何とも思ってないって言いたいのかね。どっちにしても、それはチョコを貰えない男にしてみれば嫌みな発言だよな。
いいよな、もてる野郎はさ。
俺なんか、誰からも貰ってないし。貰う予定すらないし。今までの所、くれたのは姉貴だけなんだぜ。寂しいよな。侘びしいったらないって。

だからなのかな。
何となく悔しんいだか、腹だたしい気分もあって、口調がつい愚痴っぽいものになっていたから。
「何が別になんだよ。わざわざ剣道場にまでお前にチョコを渡したいからってやってくるのって、それってば結構マジっぽくねぇ?いいじゃんか、素直に喜んでおけばいいじゃないのよ」
「和」

そう言いはなった俺に、桂一郎がいかにも不服そうな目を向けてくる。
ちょっと…俺も、言い過ぎたかな〜って気もしたところへ、脇から遠藤先輩がいらんことを言ってきたんだ。
「なぁによ。中西ってば随分きっついんじゃないの?自分を差し置いて野間がチョコを貰ってジェラシー感じちゃったわけ?」
「はいぃ?!」

な、なにを言い出すんだこの人ってば!
俺がジェラシー感じてるって?
そんなアホな。馬鹿な。ありえねーでしょうが!

「せ、せせ先輩、ば、馬鹿なこと言わないでくださいよ。何で俺が桂に嫉妬、なんかしなきゃいけないんすか。俺は別にこいつがチョコだろうが煎餅だろうが、何貰おうが全然関係ないっつーか、俺にはどうでもいいっつーか。桂一郎とはそんな仲じゃないし…」
「そんなに焦らなくったっていいじゃないのよ。正直に言えばいいじゃん。野間だけがチョコを貰って、自分穏やかじゃない気分なんじゃないの?」
「何で俺が!」

ぶっちゃけ、マジ焦ってる自覚大ありだから。
だって、だってだよ。
ノリの軽い、ナンパな先輩ではあるけれど、これでこの人が結構カンが鋭くて、目端の利く人だっていうのは知ってるからさ。だからもしかして俺と桂一郎との関係をそれとなく察して、今の発言を言っているのかと勘ぐっちゃったから。

でもってこういうときの桂一郎が本当に何の役にも立たない事を知ってるし。ただぼーっと側に立っているだけ。意味深な発言を発する先輩に自分から進んでフォローしようとする気、ゼロなんだもの。っていうか、何だか桂一郎の態度はいつもと同じなんだもん。
お前、ちょっとは焦ろよな。先輩に俺達二人の関係がばれたらどーすんだよ!

先輩の意味ありげな発言に慌てふためき、しどろもどろになっていて、自分でもかなり意味不明な事を口走っている自覚は大ありだった。
そんな俺を見て、先輩が苦笑じみた声音で返してくる。

「可愛いねぇ中西ってば。別に野間だけチョコを貰ったからって、気にする事はないからさ。そりゃあ親友の方が自分よりか多くチョコを貰って男として、面白くない気持ちは分かるけどね。チョコなんてのは、数じゃなくて質だからよ。チョコの数で負けたからって、敗北感を味わう必要はないからさ」
そう言って、俺の背中を叩きながら「大丈夫だよ」などと無責任に慰めてくれるんだ。

正直、脱力しちまった。
先輩が言ったジェラシーって、そっちの意味かよ!と突っ込みたい気分だったから。
はっきり言って、俺は先輩に桂一郎との仲がばれちまったのかと、一瞬血の気が引いたんだもの。
も、ホント勘弁してよって気分だった。
BACK NEXT