好きまでの距離感〜バレンタイン編、十七〜

そーいうことなのね。
この時期はまぁ、あっちもこっちも浮かれてるからな。
でも彼女たちは知らないんだろうねぇ。見るからに一年生っぽかったもんな。

「剣道部ではチョコを贈るのは厳禁だって知らないで来たんでしょうね」
「だろうねぇ。あれは知らないで、来たんだろうな」

苦笑いを浮かべながら話す遠藤主将の様子に、俺は大きく頷いちゃったんだ。

ここ剣道部では、原則的にバレンタインでのチョコのやり取りは禁止されているんだ。
これは俺も去年、桂一郎から聞かされて知らされた事だったんだ。他の部ではどうかは知らないけど、ここ剣道部ではチョコはやらないことになっているらしい。
何でもチョコを貰ったり贈ったりするのは、お互いに気を遣い合ったりして良くないって事になっているらしくって、そんなのに気を遣い合うのは学生にあるまじきとか何とか言って、剣道部内ではバレンタインとかの行事のたぐいでのプレゼントの交換は全て禁止にしているらしいんだ。

もちろん、個人間でのやり取りは大丈夫みたい。さすがにそこまでうるさく言わないみたいなんだけどね。
でも表だってチョコやらホワイトデーのお返しとかもやっちゃいけないんだってさ。

まぁね。気持ちも分からなくもないんだわ。
剣道部は個人競技的なところもあるけれど、やっぱチームワークってものは大切なんだろうと思うんだ。
それなのに同じ部活内でチョコレートの数で優劣が付くのは精神的に色々あるだろうし、義理チョコといっても男子部員全員にあげるとなると結構な金額にもなると思う。
みんなで買って、全体で贈るという事も出来るだろうとは思うけど、男子はお返しってもんがあるじゃない。
女の子だって、贈ったら見返りをそれなりに期待するんじゃないかな〜。
ついでにああいうもんって、男の方は三倍返しが基本みたいじゃん?
働いてて、ちゃんと収入があるんならともかく、学生の身には結構きつい出費だと思う。

ぶっちゃけて言えば、貰えなかった人も辛いけど、貰った方もきついって事だよね。
それだったらいっそのこと、そーいう行事は全廃しましょうねって部内で決まっているらしいんだわ。
その話を去年桂一郎から聞かされてて、俺的には「ああなるほどね」と妙に納得しちゃった記憶があるんだ。

部内では原則禁止。
でも他の場所で貰う分には煩く言いませんって事らしい。

この剣道部のチョコ禁止令は結構学校内でも知れ渡っているらしいんだけど、今朝剣道場を覗いていた彼女達はどう見ても一年生っぽかったんだよね。
多分、剣道部でバレンタインでのチョコのやり取り禁止を知らなかったんだろうな。っていうか、そんなもんがあることすら想像出来なかったみたいだった。
だから堂々と剣道場にやってきて、あんなにも賑やかにはしゃいでいられたんだろうか。

う〜ん、知らないって怖いわ。
無知って強みなのねぇと。

でもって剣道場にやってきて騒いではしゃいで、そのあげくに怒られてってことなのね。
女って奴はよぉ。
強いと言えばいいのか、怖い者知らずと言えばいいのか、なんちゅーか。

「大変っすね」
もう俺にはそれしか言う言葉が思いつかなかったんだわ。
俺の同情めいた物言いに、遠藤さんが苦笑を浮かべながら頷きで返してくれたんだ。
「剣道場以外でチョコをくれる分には俺としても煩く言う気はないんだけどさ。さすがにここに来て、騒がれても困るんだよね。一応、俺ってば主将さんだから。他の部員に示しが付かない訳なのよ。彼女たち、結構可愛かったんだけどね〜」
「はぁ」

相変わらずって言えばいいのか。この軽い性格ってねぇ。

「で、部外者が神聖な練習中に騒いでいたから追い出したって事っすか。そんなのに、俺が此処にいてもいいんすかね。一応俺も部外者なんですけどね」
「あ、お前さんはいいのよ。だって、中西は騒がないじゃないの。ちゃんとそこ辺りは気を遣ってんじゃん。野間に弁当を届けたら、直ぐに帰るしね。自分の立場をわきまえている人間って、俺好きよ」
「そーっすか?」

気を遣ってるって言われてもなぁ。俺、睨まれたくないだけなんだけどね。
それでなくても、剣道部の人たちって結構お堅い人間多いんだもの。そんな中で、悪い印象なんか持たれたくないじゃない。だから控えめにしてるだけだし。
それとね。
俺がここに来ていることで、桂一郎が立場悪くなったら嫌じゃない?あんな礼儀知らずな奴と友達かよ…なんて周りから言われちゃったら、俺の方が居たたまれないじゃない。
だから用事を済ませたら、そそくさといなくなっていただけなんだけどね。
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