好きまでの距離感〜バレンタイン編、十五〜

あいつに甘やかされて、大切にされて、守られていた。
そゆことなのか?
なんかそれってつまり…。俺、情けなくねぇか。
男として、あんまりよろしくないような気もするんだけど。

ううむ。
そ、そこんところは深く考えないようにしよう。
取りあえず今は桂一郎に弁当を届けに行かなくちゃってことなんだから。まずはそっちを優先させようね。
弁当を届けて、そそくさと戻ってくるべぇかと。

ひとまず頭を切り換えて、俺は剣道場へと向かったんだ。

校舎の外れにある剣道場。
朝の早くから、気合いの入った声が道場の外にまで漏れ聞こえてくる。
ホント、朝から元気だよな〜。
根っこから文化系の俺にはついて行けない世界だわ。
これも毎朝毎朝、思ってることなんだけどね。だけど今朝はちょっとばかり趣が違ってたんだ。

剣道場の入り口付近。
数人の女子がなにやらたむろして、中を覗き込んでいる姿が見えたんだ。

何だ?
いったい何してるんだろうって思ったね。
普段は見かけない顔ばっかりだから、剣道部の部員とも違うっぽいんだよね。
こんな朝早くから何やってるんだあいつら?
そう怪訝に思いながら近づいていったんだ。

上級生じゃない…みたいだな。下級生か?
みんなそれぞれ小さな紙袋を持っている。お互いに目配せしあったり、きゃあきゃあ言いながら肩を突き合ったりして、賑やかだけど。
それにしても明らかに部外者の彼女たちが真剣な練習場で、こんなにもはしゃいでていいもんだろうかと俺の方が心配してしまうくらいだった。
剣道部の顧問の先生とか、部長さんに怒られるんじゃないのかと。

「こらっ!うるせーぞお前ら。練習の邪魔するんじゃねぇ!」

うおっ!び、ビックリした。

ただでさえ厳格で知られる剣道部。その入り口付近で騒いでいる女子らの様子にこっちの方が気を揉んでいたら、案の定彼女達に向かって厳しい叱責の声が飛んできたんだ。
彼女たちも驚いていたみたいだけど、関係のない俺まで驚いちまったんだ。

もちろん叱られた彼女たちもかなりびびっていたのが遠目からも伺えた。
さっきまで賑やかに楽しそうに笑っていたのが一転して、表情が硬くなり、明らかにビクついていたのが分かるほどだったから。

剣道場の入り口に背の高い男の姿が見える。
彼が彼女たちに向かって何事かを言っている。

あれは…剣道部の男子部主将の遠藤さん。
普段は穏やかでいっつもにこやかでどっちかというとナンパなイメージのある人なんだけど、やっぱ決めるときは決めるんだな。
剣道部の道場で騒いでいた女の子達に厳しい顔を見せていたんだ。

彼女たちもいつもと違う遠藤さんの態度に明らかに戸惑いを見せている。
それでも何事か言って、食い下がっている様子だったのだけど、やっぱり容赦してくれないみたいだった。
きつい顔つきのままで遠藤さんが言っているのが聞こえてくる。

「君らの言いたいことは分かったけど、それはうちの部じゃ禁止なんだよ。どうしてもやりたければ此処以外でやってくれ。教室とか他にも渡せる場所はどこにでもあるだろう?それだったら俺も何も言わないさ。とにかく今は練習中なんだ。関係者以外は立ち入り禁止ってことでいいか?」
賑やかな女子達に些かうんざりとした態度で接する主将の遠藤さん。

傍目からもこれはそうとうキているな〜って、うかがい知れるけど、彼女たちはどうやら欠片も気づいていない様子らしかった。
女の子の集団ほど怖い者知らずな団体もないもんな。
それでもしつこく食い下がっていたらしかったけど、遠藤さんもかなり手こずりながら彼女たちを追い払っていた。

あからさまに不満そうな表情を浮かべながら退散していく彼女達。

それはそれでいいんだけど、俺はどうすりゃいいんだろうって気分だった。
このまま桂一郎へ弁当を届けに行くのがすっごい気まずいんですけど。
BACK NEXT