好きまでの距離感〜バレンタイン編、十四〜

定時にセットしてある目覚まし時計に起こされて、いつもの時刻に目が覚めた。
「う〜」
唸りながら目を覚まし、パジャマ姿のままで階下へと降りていく。

「お早よー母さん」
食卓に付くと、母さんがご飯を目の前に置きながら返事を返してくれた。
「お早う和。早いとこ食べて、支度しなさいね」
「うん」
まだ寝起きでボケボケしている頭のままで茶碗を持ち上げた俺の視界に、テーブルの端っこに置かれてある紙袋が目にとまったんだ。
「何だこれ?」
手に取り、中身を覗いてみれば…。

「あ、そうそう。それ、今朝早くに桂一郎君があんたの忘れ物だって学校に行く前に寄ってきて置いていったのよ。あんた、昨日桂君の部屋に行って忘れていったんだって?だからわざわざ持ってきてくれたのよ。本当にもう、抜けてるんだから。あんたってば」
俺が問いかけるより早く、母さんが事情を説明してくれた。

俺が夕べあいつの部屋を飛び出しちゃったもんで、姉貴のチョコを忘れていったんだよね。それもしっかり紙袋の中には入っていたんだけど、それと一緒に教科書やらノートとかも入っていたんだわ。
う〜む。
姉貴から貰ったチョコの事は覚えていたんだけど、勉強道具までは気が回らなかったなぁ。…っていうか、まずそっちの方を気にしなきゃならないだろう自分って気分だった。
教科書より、チョコを気にする俺ってどうよって感じだよな〜。

まぁこれであいつの部屋へ行く必要が無くなったのは、ラッキーってところなのか。
今は桂一郎と二人っきりになるのが怖いね。もう次は何されるんだろうかって気がするからさ。
しかも自分が最後まで抵抗出来るかの自信もないし…。って、それじゃあいかんだろー!
俺とあいつはまだ、恋人同士って訳じゃないんだから。
容易くキスとかされたらいけないだろう。雰囲気に呑まれるんじゃねえよ俺。

紙袋の中を覗き込みながら自分の考えに陥っている俺を見て、お袋が怪訝な顔を向けていた。
「なに、一人でぶつぶつ言ってんの。あんまり時間が無いんだから、さっさと食べなさいね」
「あ…うん」
母親に促されて、俺は慌てて茶碗を持ち直す。
確かに朝から桂一郎の事を考えている場合じゃないなって思ったから。
朝食をかきこみ、学校へ行くべき支度に取りかかろうと意識を向けることにしたんだ。

相も変わらずに満員のバスに揺られて学校へと登校する。
俺の鞄の中にはいつもの如くに弁当箱が二つ入っている。俺の分と、もちろん桂一郎の分とだ。
毎朝の弁当宅配は相変わらずに続いている。
これがあるから、俺はあいつと暫く距離を置くことさえ出来ないんだよね。

母さんは俺と桂一郎との関係が変わっちゃってるのは知らないから。って、もちろん知られたくないんだけどさ。
だからあいつとちょっと顔を合わせづらいんだって言ったって、「どうしたの?」とか「何があったの?」とか言って根掘り葉掘り聞いてくるのに決まってるから。
例え「喧嘩したからあいつと会いたくない」って言っても、「だったら尚更早いとこ仲直りしなきゃ」と言い張って弁当の宅配を免除してさえくれないんだ。
おかげで俺と桂一郎が仲違いしたとしても、今までそれが一日以上続いたことなんかなかったんだもの。

まぁね。それ以前に、俺と桂一郎が喧嘩なんてもんをそもそもしたことが殆ど無かったんだけどさ。
なにしろ桂一郎があの性格だろう?
俺がどんなに我が儘言っても、無理難題を吹っ掛けたとしても、あいつは大抵の無理は聞いてくれてたから。
桂一郎は俺に甘いもん。
だから例えあいつと意見が合わない時があったとしても、大抵は桂一郎が折れるのが常だったんだよね。

でもって、ここまで考えてあることに気づいたんだけどさ。
俺ってば桂一郎に滅茶苦茶甘やかされていたってこと?
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