好きまでの距離感〜バレンタイン編、十〜

そんなに真剣にならなくたっていいじゃんかと突っ込みたいよ。
もちっと軽く、明るい雰囲気でやってほしいんだよなー。
これじゃあさ、まるで本気で好き合っている者同士のキスみたいじゃん?
俺達ってまだそこまでの関係じゃないと思うわけよ。

ま、確かに何回かはキスはしてるけどさ。
ちょっと前の学校の屋上での一件以来、こいつはどうにも図に乗っているっぽくて、俺に所構わずに迫ってくる。
もう無理強いはしないとの約束通りに了解は取ってくるけどさ。
あれはどうにも了解というよりは、騙しとか、言い含められている気がしてならないんだ。

今だってそうじゃないかと思うんだ。
俺の了承を得てと言うよりは、殆どごり押しみたいな感じがするから。
桂一郎のしつこさは知っているつもりだったけど、なんとなく俺が押し切られているみたいだもんな〜。

桂一郎の手が後頭部にかかる。
あいつが覗き込んでくる。
眼鏡が…とか最初は思ったけど、今じゃ上手く避けながらする仕方も覚えちゃったし。
これって堕落?とか思わないでもないかなと。

軽く触れる唇。
体を鍛えていて、どこもかしこも堅い桂一郎の体だけど、そこだけは柔らかい事も知ってしまった。
別に知りたくもなかった事実なんだけど。

「ん………」
あいつが俺の唇を啄むように触れてくる。
ゆったりと味わうように、そして確かめるように。
気を抜くとヤバイ気分に陥ってしまいそうで、あえて俺はキスの間はどうでもいいことを考えるようにしているんだ。
今日の晩飯の事とか、明日の授業の事とか。来週、コミックスの新刊が出るなぁとか、本当に色々。
色気がないのは分かってる。分かってるんだけど、ここであいつのキスに神経を向ける訳にはいかないんだってば。

だって…。だってさ。
何か変な気分になっちゃうんだもん。
頭がぼぅっとするっていうか、背中がぞくぞくするちゅーか。体温が高くなるような気もするし。
何よりもあいつとのキスをそんなに嫌がっていない自分が嫌なんだ。
段々自分がヤバイ方向へ進んでいるような気がして、怖いんだよ。マジで。

強くあいつに抱きしめられる。
押しつけられる体。衣服越しに感じる熱。
俺の背中に回されたあいつの手が、すぅっと背骨をなぞってくる。

ちょ…。それは駄目だってば!
背中はくすぐったいんだって。
何か、変な気分になっちゃうから触るなちゅーの。

身をよじり、あいつの腕の中から逃れようとしたのだけど、桂一郎は俺をがっちり抱き込んで離そうとはしてくれなかった。
ここで手を緩めたら俺に逃げられるとでも思ってるのだろうか。ますますきつくあいつは力強く抱きしめてきたのだから。
拘束する腕の力が少し痛いくらいなのと、背中をなぞる指の動きが何だかいやらしく感じてどっちも嫌だった。
だから尚更止めて欲しくて、抗議しようと口を開きかけたところへ、あいつの舌が俺の口の中へするりと入り込んできたのだった。

「ん…ん?」
な、何の真似だ?
舌。舌が俺の口の中へ?
入ってる。動いてる?
うそーーーー!

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