好きまでの距離感〜バレンタイン編、九〜

気分的にはかなり投げやりな心境で桂一郎に了承してやったんだけどさ。そうしたらあの普段無表情の男があからさまに嬉しそうな顔をしたんだ。
それを見た瞬間、どことなく危ない予感を感じてしまっていたんだ。
ちと早まったかな〜ってね。もうちょっと考えてから、返事をすれば良かったなとかさ。

桂一郎が俺の右手を捕まえたままで自分の方へと引き寄せる。
温和しくあいつのされるがままっていうのが何となく嫌っちゅーか、癪にさわるんで、少し抗ったんだけどさ。
あいつは俺のささやかな抵抗なんか意にも介さずに、俺を腕の中へと抱きしめる。

桂一郎の胸の中にすっぽりと収まる自分の体っちゅーのがまた、腹が立つんだよなー。
昔はそんなに変わらない体型だったのによ。
少しあいつの方が背が高いくらいで、横幅は俺とどっこいどっこいだったんだ。むしろ背が高くて体重があんまり無かったから、ひょろりとした印象が強かったのに。

やっぱ、あれだな。
剣道をやり始めてから体型がどんどん変わっていったんだよな。
朝晩の練習とか、筋トレとかをやるようになって、身長に見合った体つきになっていったんだ。元々筋肉質の家系らしくって、あいつの親父さんもでかいんだわ。
体を鍛えるようになって、見る間に俺と差が付いていったんだもん。
今じゃあ身長で10センチ近く、体重だとどれくらいだ?20キロくらいは違うんじゃないんだろうか。
同じ年なのにさ。
日頃鍛えている人間と、何もしない俺と此処まで差が付くんだもんな。

おかげで俺は桂一郎の腕の中にジャストフィットの体型さ。
ああ、悔しいったら。
しかもだよ。
あいつの腕力とか、握力に俺は全然叶わないときたもんだ。
力でごり押しされたら正直抵抗しきれるかどうか自信ないから。実際、前に一回無理矢理抱きしめられたときには全然逃げられなかったもんな。
あれはマジで怖かったから。

で、今だよ。
今も桂一郎に抱きすくめられて、ちょっと胸に手を突っ張って儚い抵抗を試みたけどまるで叶わないし。
ここまで体力っつーか、筋力に差があるのも情けない話だよな。同じ年なのにさ。

桂一郎の顔が間近に迫る。
眼鏡越しの瞳が俺を見詰める。
その目が真剣なのがちょっと嫌だった。
だってねぇ。
相手は俺なのよ。男よ。しかも昔っからの幼なじみだぞ。
どうしてそんな俺相手に真剣になれるのかが分からない。

あいつの瞳が俺を見据えている。
この二人の間の沈黙がどうにもこうにも気まずくて、ついいらんこと口走ってしまっていた。

「や、やるならさっさとしろよな。和音も言ってただろ?あんまり遅くなるなって釘を刺されたんだからな。ちゃっちゃとすませようぜ」
はっきり言って、我ながらなんて色気のない台詞だと思うんだよ。
でもさ。ここで温和しくキスされるのを待つのもどうかと思わないか?
それじゃあ俺がまるであいつを受け入れているみたいな感じがして、嫌なんだもん。
そうしたら案の定、桂一郎は困ったような顔をするし。

「和…」
「なんだよ」
「…いや、いい」

苦笑じみた表情をあいつが見せながら、俺の肩を捕まえる。
ぐっと引き寄せられて、桂一郎の顔が迫ってくる。
うわー。なんかなー。


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