好きまでの距離感〜バレンタイン編、八〜

一人安堵に胸をなで下ろした俺を、桂一郎が不満そうに見詰めていた。

そんな目で見てたって、誰がやるもんか。
いくらお前から好きだと告白されて、俺がなし崩しに受け入れたと言っても、まだ俺達の仲は確定じゃあないだろ。
はっきり言って今の状況は、友達以上恋人未満ってもんだ。

そんなチョコをやり取りするような間柄じゃないはずだ。
「いいか、バレンタインの事は忘れろ。あれは男女間のイベントなんだ。俺達には関係ねーから。どうしてもチョコが食いたければ、他の日に奢ってやるから。今は忘れておけ。いいな。分かったな!」

再度念を押して、俺は早々に桂一郎の部屋を出ることにした。
このままこの部屋に居続けたら、あいつはまだうだうだ言いそうな気配がしたからだ。
なんせこいつ、しつこい性格してるからなー。
蒸し返されたりしたら嫌だし。ここでこいつの押しの強さに負けるわけにはいかないからさ。

「いいな、バレンタインの事はもう考えるな。あれはお菓子メーカーの陰謀なんだからな。そんなもんに惑わされるんじゃねぇぞ」
そう言い捨てて桂一郎の部屋から出て行きかけようとした俺の腕をあいつが捕まえる。

「な、なんだよ。もう話はすんだんだろう」
俺の腕を捕まえたあいつの目がやけにマジなのが怖くて、つい腰が引けてしまっていた。はっきり言って、そんな自分がすっげー嫌なんだけど、こいつがこーいう目の時って今までの経験からどうにもろくでもないことを言い出しそうな気がするんだもん。
「チョコは諦めるから」
「当然だ」
「だから…」
「あ?」
「諦めるかわりに、キスさせて」
「はぁ?」

ば、ばっかじゃねぇ?
どうして当たり前の事を言った俺がお詫びにキスをさせなくちゃなんねーんだ!
そんなん理屈が合わないじゃないか。

「な、何で俺がんなことしなきゃなんねーんだ」
「さっき和姉が来て、和にあんまり触れなかったし…」
たかがそれくらいでか!
「あんまりってなぁ。あれだけすれば十分だろうが。お前、最近エロ親父化が進んでねぇか?」
エロ親父と言われ、さすがに桂一郎が不機嫌そうな顔をする。
「普段触らせてくれないくせに」
「男の俺に触りたいって思うお前の方がおかしいんだ!」
「しょうがないだろう」
「なにが?」
「好きなんだから」

だ、だからぁ。それは反則だって言ってんだろうが。
お前、好きで何でもかんでもすまそうとしてないか?
桂一郎に改めて”好き”と言われ、一瞬口ごもってしまった俺を見据えて、あいつが捕まえた手を引き寄せて間近でもう一度言ってくる。
「桂…」
「和にキスしたい」
「う…」

ここで駄目だと拒絶しても桂一郎は無理強いはしないだろう。一度俺を無理矢理に抱きしめて、手ひどく拒絶されたせいなのか、あれ以来桂一郎は力任せに押してくる事はなくなったんだ。
そのかわりと言ってはなんだけど、しつこさは健在だった。っていうか、言葉のしつこさは増したような気もするんだ。
俺に無理強いはしなくなったのはいいんだけどね。
しないかわりに、なんとな〜くいつまでも根に持たれそうな予感もする。ついでにまたバレンタインの事も持ち出されそうな気もしなくもない。
もうここは腹をくくってキスさせちゃったほうがいいのかしらん。
どうせもう、桂一郎とは何回となくしてるしな〜。何かキスくらいであたふたすんのもいまさらって、感じもするし。

「分かったよ」
「ん?」
「だ、だから…しても…いいって…」

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