好きまでの距離感〜バレンタイン編、七〜

おわー、危ねぇ危ねぇ。
こんな高いチョコなんか滅多に食えないってのに、ここで吹き出したら勿体ねぇ。
どうせ自分じゃ絶対買えない値段だって分かってるもんね。
例え一口だろうと逃してなるものか…って、問題はそこじゃないんだっつーの!

「お、おま、おま、お前はいきなり何を言い出すんだ!」
「いきなりじゃなきゃ、いいのか?」

変なところで混ぜっ返すんじゃねぇ。
お前のその直接的なものの言い方って、時々スッゲー腹が立つぞ。

「いきなりとかそういうんじゃなくて、言っている内容が問題なんだって言ってるんだ。お前、何か?俺にっていうか、俺からチョコを貰いたいって言ってるのか?」
「うん」

うんじゃねぇだろー!
そんな当たり前な顔をして、何を突拍子もない事を言うんだお前は。

「何で俺がお前にチョコなんかあげなきゃならないんだ。そもそもバレンタインってもんは、女の子が好きな男に気持ちを伝えるために贈るもんだろーが。俺は女じゃねぇぞ。そこんとこ、お前は分かってんのか」
「分かってるけど…」
「けど、なんだよ?」
「貰えたら嬉しいかなって」
「俺に無理な事を要求すんじゃねぇ」

そう冷たく突っ放してやったら、あいつが悩ましげな目つきで俺を見据えた。
「無理?」
「あったりまえじゃん。それに今時のチョコって、バレンタイン用で何か値段が跳ね上がってんだぞ。いつもと変わらない味でんな高いチョコなんか買えるかっつーの。俺、今月お小遣いピンチだもん。新作ゲームとか色々買ったし。チョコなんかにお金を割く余裕なんかねーもん」

これは本当の話なんだ。
マジで、俺は今月のお小遣いぎりぎりなんだもん。
この間買ったゲームは前々から欲しかった奴で、中古で出回るのが待てなかったんだよな。それに合わせて、メモリーカードもついでに勝っちゃったし、ゲーム雑誌とかも色々とね。
だから後はもう、ホント余裕なしって感じ。
ついでにもう一つの理由もあったんだけど、それはあえて桂一郎には言わなかった。

だってさー。なんていうか。
この時期のチョコ売り場ってさ、いかにもバレンタイン!って感じでディスプレイされていて、男には近寄りがたいんだってば。
っていうか、側を通ることすら出来ませんって感じで。
なんか普通のチョコすら今は手に取る事すら、こっぱずかしい気分だし。
この時期に男がチョコを手に取るのって、誰にも貰えない奴が自分用にって気もするし。…考えすぎと言われたらそれまでだけど、でもやっぱり何となく恥ずかしい。

これを桂一郎に言ったら、こいつの事だもの。絶対に「何で?」とか「何が?」とか言いそうだって気がするんだ。
桂一郎の恥ずかしいの基準は、俺と違うし。

俺にあっさりとチョコを却下された桂一郎が姉貴から貰ったチョコを見ながら黙り込んでいた。
その姿を見て、何となくいや〜な予感がして、思わずあいつに釘を刺していた。

「あのな。俺から貰えないからってお前が俺にチョコなんか寄こすなよ。絶対、そんな恥ずかしいマネすんな。いいか、絶対にだ」
「………」
俺がそう念を押したら、桂一郎が微かに不満そうな顔をした。

うわー、マジかよ。
マジでこいつ俺にチョコを買うつもりでいたんか。
な、なんて恥ずかしい奴なんだ。
危なかった。ここで念を押さなかったら、こいつチョコを買っていたんだ。
よ、よかった。今、気づいて。
でなきゃ、バレンタインに俺はスッゲー恥ずかしい思いをするところだったんだわ。
男同士でチョコのやり取りなんて、寒すぎるぞ。本気で。

よくぞ気づいた俺。
伊達に長い付き合いしてないな。
偉いぞ俺。
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