好きまでの距離感〜バレンタイン編、六〜 桂一郎がそこそこ女の子に人気があるのは今更だもん。 そもそも俺と桂一郎がこーいうヤバイ関係に陥った理由っていうのが、あいつと同じ部活の崎谷さんからの告白から始まったわけだし。 あれが全ての発端みたいなもんだから。その前にも結構他の女子からの告白とか受けてたのも知ってたしね。 だから女子に密かに人気があるっていうのは、周知の事実って奴だもの。 うん、いいんだ。 俺は別にね。 桂一郎が女子に人気があってもね。俺には関係ないことだもん。 第一あいつの本命は俺なんだし。しかもずっと昔っから俺のことを好きだったって言ってたからさ。 いくらあいつが女子に密かに人気があるっていっても、桂一郎にとっては無意味って事だもの。 …って、俺は何を考えてるんだ? 「どしたの和。何か変な顔してチョコ睨み付けてさ。あんたビターチョコじゃなくて、ガナッシュとか生チョコのほうがよかったん?それともチョコケーキの方が好みだったりするわけ?」 俺が和音から貰ったチョコを見ながらぐちぐちいらんことを考えていたのを、和音が不思議そうな顔をして眺めている。 「あ、ううん。これでいいって。別に他のが欲しいとか思ってないから。うん。ありがと和音。嬉しいって」 俺が取り繕うように笑顔で返すのを和音が首を傾げながら見詰め返す。 「ふぅん、そう?」 今ひとつ納得いかないような表情で見返す俺に、それでも和音はそれ以上は追求してこなかった。 俺だってどうしたのって聞かれても答えようがないんだから。なんかさ、今自分が考えていた事がどうにもこうにもちょっと変かもって気がしてきたから。 「姉貴からのチョコは有り難く頂きますって」 「とってつけたような言い方だなぁ。まぁあんたに心から感謝してますって言われても、こそばゆいだけだからいいけどね」 そう明るく言いながら、和音が「じゃあね」と言いながら部屋を出て行きかけたところで、ふと足を止めてドアに手を掛けたままで振り返る。 「あ、そうだわ。母さんから伝言もあったんだわ。”いくら桂君の所が誰もいないからって、夜遅くまでお邪魔してるんじゃないわよ”だってさ。もうそろそろ家に戻った方がいいんじゃないかってね」 「あ、うん。分かった。きりの良いところまでやったら帰るから」 そう答える俺に、和音が「あんまり遅くならないでね」と最後にもう一声かけて出て行った。 …相変わらずに慌ただしい奴。 黙って立ってれば、かなりの美人なのによ。あの性格がなぁ。 それでも姉貴の買ってくれたチョコをもう一度見てみた。 お高そうな包装紙に包まれたダークブラウンのリボン。金字でゴディバの文字が書かれてある。 バレンタイン限定らしいパッケージは、なるほど確かに学生には買えなさそうな見た目だった。 姉貴、あれで結構食い意地が張ってあるし、今まで買ってきてくれたスイーツもどれもこれも美味しかったんだよね。だから多分これもめちゃ美味いんだろうなー。 そう考えたら、楽しくなってきちゃった。 「なぁ桂。せっかくだから今、食べてみないか?和音が買ってきてくれたチョコをさ」 チョコを眺めていた桂一郎に食べないかと促してみたら、あいつが微妙な顔つきで俺を見返してきた。 「どした?お前、甘い物は別に嫌いじゃないだろう?これ食ってみたくないのか」 「甘いのは好きだけど」 「ならいいじゃん。どうせ、食った後で和音から”あれ美味しかった?”とか、”どうだった?”とか絶対聞かれるんだからさ。テキトーな事言うと、あいつ絶対怒るんだからよ」 俺がそう言うと、桂一郎が「確かに」と苦笑しながら頷いている。 「じゃあいいじゃんか。開けちゃおうぜ」と言いながら、俺が無造作に包装紙を破いていく。 「お!美味そー」 見た目は四角の板チョコみたいなんだけど、一個一個にゴディバの文字が入れられてあって確かに高そうで、とっても美味そうだった。 「うわー。いかにもお高そー」 こんなんお菓子は絶対コンビニなんかじゃ、買えないなー。 ついでに親からお小遣いを貰っている学生の身分でも買えないな。 一枚取り出し、口へ放り込んでやると…。 「おぉ。確かにビターかも。でも美味い。さっすがじゃん」 コンビニとかで売っている板チョコなんかとは比べものにならない美味さってやつかも。確かに甘さ控えめで苦みすら感じるんだけど、それがまた絶妙な匙加減なんだわ。 うぅーん。 有名なお店って、やっぱちゃんと理由があるんだな。 ホント美味いわ。 おれが美味しい、美味しいと言いながらチョコを食べているそばで、桂一郎が包みを開けもせずに俺を眺めているのに気づいた。 「なんだよ。何、人の顔を眺めてんだ。お前、食わないのか?」 「和は…」 「うん?」 「和は俺にくれないのか?」 いきなり何だ、こいつ。 「だから何を?」 「俺にチョコを」 「ぶはっ!!」 突然言い出した桂一郎の言葉に、俺は口に入れていたチョコを危うく吹き出しそうになっちまったんだ。 |
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