好きまでの距離感〜バレンタイン編、弐〜 で、案の定桂一郎の手が妙な動きをみせてくる。 最初はただ俺の体を抱きしめているだけだったのに、手がまるで撫で回すようにあちこちを移動し始めたんだ。 ここでうかつに反応しちゃうと桂一郎を喜ばせるだけなのは今までの経験から分かってるもので、あえて無関心を装ってやった。 そうしたらあいつの手の動きがさらに大胆になってきたんだ。 背中を撫でているのはまだよかった。 手が二の腕をさすり、腹に触れ、胸に上がり始めた段階で俺の堪忍袋の緒はぶっつんと切れた。 「てめ!いい加減にしやがれ!」 叫びながら、あいつの腹に遠慮無くエルボーを決めてやったんだ。 「!」 声にならない呻き声を上げて、桂一郎が腹を押さえていた。 そうとう痛そうだった。 うん、まぁ無理もないと思うな。 だって手加減しなかったもん。 ずっとガキんちょの頃から剣道をやって体を鍛えている桂一郎と、ここ最近の運動は学校の往復と体育の授業。それと対戦格闘ゲームのみの俺とでは、鍛え方に雲泥の差があるだろう。 だから多少きつめのお仕置きをしたって、しょうがないだろうってなもんだと思うんだ。 いわばこれは正当防衛ね。正当な防御行動ってやつなのよ。 決して過剰反応では御座いません。 あの無表情男の桂一郎が痛そうに眉間に皺を寄せている顔を見せてたって、俺には詫びの感情なんて、いっぺんも沸いてこなかったもんね。 ただね。 さすがに桂一郎も腹にエルボーはきつかったみたい。 恨みがましそうな瞳を向けてきたんだ。 「和…」 「な、なんだよ。んな顔をしてたって無理だかんな。だ、だいたいだな、お前が悪いんじゃないか。あんな…変な触り方をするから、ついつい肘が動いちまったんだよ。だから悪いのは俺じゃない。お前がすけべな手の動かし方をするから悪いんだ」 自分でも結構無茶苦茶な言い分なんじゃないのかな〜とは思ったんだけどさ、でもここで甘い顔をしたら駄目なような気がしたんだもん。何となく、身の危険ってもんを感じちゃったものですから。 でもやっぱり桂一郎は俺の無理矢理に近い理屈には納得してくれなかったみたいでして、あいつにしては珍しく声に愚痴っぽい響きを混ぜて返してきたんだ。 「でもエルボーはないと思う」 「うるせぇ。無意識に肘が動いたんだよ。いくら抱きしめてもいいと言ったからってな、あーいう事をするから俺がつい反応しちまったんじゃねぇか。俺はあんな事まで許した覚えはねぇ」 「上半身しか触ってないのに…」 「だから!その触り方が問題だって言ってんだ!」 学生らしく真面目にお勉強してたはずなのに、なんでこんな展開になっちまうんだと内心思いながら俺は言い返していた。 ここ最近はこんなやり取りが増えてきたような気もするんだ。 桂一郎は俺の事がずっと好きだと言っていた。 ガキの頃からずっとだと。 最初に告白されたときは、それこそ青天の霹靂?とか思っちゃうくらいにビックリしたけど、最近はそれにも結構慣れてきた。 けどね。 どうにもこうにもここ最近の桂一郎の行動は目に余るものがあると思うんだ。 今まで溜めに溜めてきた思いがあるんだろうか。二人っきりになると途端に俺に触りたがったり、あまつさえキスしたりしてきたりする。 もう、不意打ちのキスを何回仕掛けられたことだろう。 おかげでキスくらいじゃびびらなくなってしまったくらいに。 …これってあいつに慣らされたって事なんだろうか? で、でもだ。 だからってそれ以上は慣らされたくなんかない。 間違ってもキスまでであって、キスより先なんかは知りたくもないし、経験したくもない。 そんな思いも根底にあるからの過敏な反応かもなとは自分自身思うのだけど、桂一郎は俺の答えに満足はしてくれなかったみたいだった。 「俺はもっと和に触りたい」 「だからそれを止めろって言ってんだ」 「これでも我慢してるのに」 がう! あ、あれで我慢だって? じゃあお前の好きなようにさせてたら、何をするつもりなんだと聞き返したいくらいだった。 でもって、俺も馬鹿なんだよね。 ついそれをあいつに尋ねたら、あいつが妙に色気のある目つきをしながら俺に近づいてこう言ってきたんだ。 「全部触りたい」とね。 瞬間、血液が沸騰しそうな気分になってしまったんだ。 |
||
| BACK NEXT |