好きまでの距離感〜バレンタイン編、壱〜



2月。

街は何だか甘い香りに包まれているような気がする。
あ、違うな。2月からじゃないな。
正しくは1月の半ばくらいから、もうイベントは始まっているような気がする。

え?
何がって。
そりゃあ、もちろんあれだよ。あれ。
バレンタインに決まってんじゃん。

この時期、店にはチョコのコーナーが作られ、棚にはチョコが溢れかえり、本屋までもがチョコの作り方の特設コーナーまで出来ちゃうんだもん。
さらにそれに踊らされる女や男共だ。
まぁ女達はあれだな。見返り半分とか、半ばイベントと化して、義理チョコとか友チョコやら本チョコなんか言い合って楽しんでいるんだけどさ。
だけど男共は結構、シリアスだったりするんだな。

つまりこれって結局、自分が回りからどう思われているかのバロメーターみたいなもんだろ?
人気があるかないかのさ。
自分が同級生の女の子達に好かれているのか、いないのか。
ある意味、ここで自分の日頃の行いが分かるってもんなんだろうな。
男としての魅力とか、人間性が問われる?みたいな。
まぁそこまでシリアスに考える事はないんだろうけど、気になるもんは気になるんだもんね〜。

かくいう俺も、密かに本チョコを…と思いつつも、せめて義理チョコくらいは欲しいな〜とか思ってたりする訳なのよ。

うん。去年まではね。

今年。今年はだな…。
すこ〜しばかり事情が違ってたりするんだな。
つまり、その、ですね。
俺には幼なじみの野間桂一郎ちゅーのがいまして。そいつと…あの…ちょっとばかり普通の関係じゃあなくなっちゃったりしてるんだわ。これが。

世間様はバレンタインで浮かれている。
ああ、結構なことだろう。
そして俺はただ今、妙〜なプレッシャーを感じているんだ。

夕べ、桂一郎の部屋で一緒に勉強をやっていた。
あいつはあのくそ真面目な性格らしく、ノートとかもマメに丁寧に取っている訳なのよ。
俺なんか、たま〜に書き忘れている事とかも全部事細かにノートに取っている桂一郎は非常に有り難い存在で、テストとか近くになればこうしてあいつの部屋で一緒に勉強してるんだ。

…そう、今まではね。
それでよかったんだ。お勉強だけで。
なのに、今はこうして桂一郎と一緒の部屋にいると、おかしな事になってしまう訳なのよ。

あ〜つまりだね。
なんというか、身の危険を感じちゃうんだわ。

あいつの部屋で、あいつのノートの中身を自分のに書き写している最中に、桂一郎がすり寄ってくる。
すり寄ってくるだけならまだいい。
今更抵抗するのも面倒くさいんで放ってやると、腕を体に巻き付けて抱きしめてこようとするんだ。

「鬱陶しいから、離れろ」と邪険にしてやると、あいつがしれっとした顔で「和に触りたい」とぬかしやがる。
「俺は別に触られたくない!」
きっぱりと拒絶しても、桂一郎は一向にめげてくれない。
触りたいだの、くっついていたいだの、ぐちぐち言いやがる。
それでも拒絶していると、今度は「好きだから触りたいんだ」とまで言ってくる。

もう、殆ど根負け状態。
こいつのしつこい性格はそれなりに知っているつもりだったけど、まさかここまでとは思いもしなかったよ俺は。

いい加減、振り払うのもしんどくなっちゃったんだわ。俺は。
だからもう、好きにしろよ状態。
ただし。
触るのには条件を付けてやったんだ。
「いいか!おかしな真似をすんなよな。触るのは上半身だけにしろよな」って。
ある程度制約をつけておかないと、こいつはどんどんつけあがるんだもん。
この前も触りたいからと言われて許してやったら、後半本当に貞操の危機に陥っちゃったもんで。
あれはマジでやばかった。
危うく、「あなたの知らない世界」に連れて行かれそうになっちゃったから。

だから触る前に、一応条件を言ってやったんだ。
そうしたら案の定、桂一郎はスッゴイ不満そうな顔をしたんだ(多分、俺にしか分からない変化かもしんないけど)

とにかく。
桂一郎のしつこさに根負けして、抱きしめるのだけは許してやった。
あいつの長い腕の中にすっぽりと包み込まれ(腕の中に体が収まるっていう、この状態もある意味腹立たしいものでもあったけどね)体を押しつけられる。
そんな中で黙々とノートを書き写している俺っていう、この状況もある意味とんでもないシチュエーションなんだろうなーとは思いつつも、あえて無頓着を装いながらいたんだ。

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