好きまでの距離感〜第五十七話〜


「あ…あの…桂?」
「和、いい?」

はぁ?
いいって何がいいんだ。
あいつの問いかけの意味が分からず、首を傾げる。

「いいって、何がいいんだ?」
「してもいい?」

しても?
何をする気なんだ。
どうにもこうにも、こいつの口の重さっていうか肝心な事を省いて話す癖はどうにかならんかなって思ってしまう。
いつもなら付き合いの長さでだいたいの事は察するんだけど、今日はね〜。
俺の頭ん中は許容範囲超えちまってるからねぇ。
もっとも。
周りからは鈍いとか、脳天気とかも言われてるけど。

に、してもだ。
今のこいつのいい…は今ひとつ意味が掴めなかったんだ。

「だから何がしてもいいんだ」
「和に…」
「あ?」

聞き返して、ちょっとびびりそうになってしまった。
だって。だってさ。
桂一郎の顔と体が俺のすぐ側なんだもん。
しかも妙〜な圧力も感じてしまう。

ええとですね。
これってば、あんまり追求したらもしかして…ちょっとばかり…ヤバイ?
桂一郎の思わせぶりな物言いと、妙な具合に近い顔と体の距離。
何となくに変な圧迫感も感じちゃうし。

でも。
だけど。
このまま曖昧にして流しちゃうのも、落ち着かないんだ。
「俺になんだ?」
「だからいいのかって」

あ〜の〜な〜。
お前は主語を省くな。主語を。

いい加減、桂一郎の思わせぶりな言い方に切れそうになりかけたその時。
微かにチャイムの音が聞こえてきたんだ。
「あ、昼休み終了?」
それまで俺に詰め寄っていた桂一郎も、顔を上げてチャイムの音を確かめていた。

もうこんなところで無駄なお喋りをしてる場合じゃないんだろうな。
今まで散々に頭を使って、神経も使って、もう十分って気分になっていた。
桂一郎との事も、まぁそれなりに決着ついた気もするし、今日はもういいかな。

「ほら、桂。いつまでもこんなところでうだうだやってる暇ねぇぞ。午後の授業が始まっちまうし、話があるなら家に帰ってからにしないか?それでいいだろう」
そう言って立ち上がりかけようとした俺の手を捕まえ、桂一郎が自分の隣から離そうとしないんだ。
「あのなぁ桂。もう授業の始まりなんだぞ。もうそろそろ教室にいかねぇとヤバイだろーが」
「まだ和の返事を聞いてない」

脱力。
お前のしつこい性格は重々承知しているつもりだったけどさ。
なにもこんなときに発揮しなくてもいいんじゃねぇ?
「返事って…あのなぁ」
そもそも肝心な部分はぼかしたままの会話で、俺にどう返事しろっていうわけなんだと突っ込みたいぞ。俺は。
「してもいい?」
いい加減、面倒になってきちゃった。
「ああもう。分かったよ。いいよ。してもいいから、とっとと教室へ戻ろうぜ」

俺がそれを言った瞬間、桂一郎の顔があからさまに嬉しそうになったと思ったのもつかの間、いきなりあいつに肩を掴まれて引き寄せられたんだ。

ちゅっ。

んっ?
何?

な、何が起きたんだ。今!





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