好きまでの距離感〜第五十八話〜 唇に何か柔らかい物が触れた感触。 間近には桂一郎の顔もあった。もう目の焦点が合わないくらいに近くにね。 肩まで抱き寄せられて、間近にあいつの顔があって、口に何かが触れて…。 これから導き出せる結論は………。 どっかん! 心臓が止まりそうなくらいな衝撃をうけてしまった。 つまりですね。 あのですね。 け、桂一郎が俺に…あの…キ、キ、キキキスをしたって事? 軽く触れただけなんだけど、それでもこれはぁぁぁぁ。 「お、お前は…」 もう動揺しまくってこれ以上言葉が出なかった。 驚き、狼狽え、言葉も出ないで慌てまくっている俺に向かって、桂一郎が穏やかな笑みを見せていた。 「ちゃんと了解は取ったから」 って、なんだぁその言いぐさは! お、おま…お前の「いい」はこれなのか! これは了解とは言わねぇぞ。 騙しにちかいじゃねぇか。 あまりの展開と桂一郎の言葉に、怒りを通り越しすぎて何も言えなかった。 もうね。 驚きすぎて、言語中枢が麻痺しちゃったみたいなんだ。 「りょ、了解って…お前なぁ。あんな言い方で了解もなんもねぇだろうが。しかもここ、学校だし!」 「家ならいいのか?」 そーいう問題じゃあないだろー! 「だから、あのな。突然でこんなところでなんて、了解を求めろとも言ったけど、でも…あの…」 ああもう! パニクりすぎて、自分が何を言いたいのか。どう言えばいいのかすら、分からない。 しかも突然の展開に、怒ればいいのか驚けばいいのか、自分がどういう行動を取ればいいのかすら分からないんだ。 完全に動揺しまくっている俺を何故か桂一郎はいつもの表情で見詰めている。 …っていうか。 お前、なんか楽しそうじゃねぇ? 人がこんなにパニックを起こしているっていうのにさ。そんな俺を嬉しそうに見ているっていうか、機嫌良さそうに見えるっつーか。 最初に屋上に現れた時の桂一郎のどっか意気消沈した感じとか、雲泥の差に思えるんだけど。 「だ、だから了解すればいいってもんでもなくて。だいたい、あんな言い方されて同意もあったもんじゃないだろー。学校の屋上だって事もあるし、これから午後の授業もあるっつーし。何で、いきなりこんな事したんだよ。お前、何考えてんだよ!」 うん。 自分がそうとう動揺しまくっている自覚はあるんだ。 だけど暴走しちゃった感情を抑える術が全然分からないんだ。 何より涼しい顔をして俺の隣にいる桂一郎の態度も、俺を逆撫でするのに十分だったから。 「け、桂。どーしてあんな事…!」 「和」 なおも言いつのろうとした俺に、桂一郎の言葉が覆い被さる。 「な、なんだよ」 桂一郎に近寄られただけで、びびる自分も情けないとは思うけれど、どうにも昨日からおかしいんだ。俺は。 あいつが顔を寄せてくる。 ちょっと体を引いてしまった。 そんな俺の手をあいつが取り、静かな表情でこう、告げてきた。 「午後の授業が始まる。もう教室へ戻ろう」 「!!!」 そう言って、あいつは手を取った俺の頬へもう一度軽くキスを落としたんだ。 「うわっ!」 ざっと血の気が引いた。 上ずった声を出した俺に向かって、桂一郎が珍しく顔に笑みを浮かべて言ったんだ。 「俺は先に行ってるから。じゃあ」 そのまま軽く手を挙げ、最後に「サンドイッチありがと」と言い放ち、歩き出していったんだ。 一人取り残された俺はといえば…。 桂一郎に二度もキスをされ、あいつを糾弾することも叶わずに、ただ呆然とその場に立ちつくしているだけだった。 完璧に固まっちゃった神経と思考。 心臓はバクバクだし、自分がどういう行動を取ればいいのかすら分からない。 そうこうしているうちに、時間も過ぎていく。 教室に戻らなくっちゃという、切迫感も感じてしまう。 でも、でもだよ。 何だかとっても釈然としないんだ。 腹の中がもやもやした感じ。 桂一郎が去っていった階下へと通じるドアを見詰めた。 それからもやもやした感情のままに俺は叫んでいたんだ。 「桂一郎のバカヤロー!!!」 あのキスが二人の距離を変えた気がする。 俺とあいつの距離がこれからどうなってしまうのかなんて、分からない。 俺はあいつとどうなっちゃうんだろう。 どうしたらいいんだろう…俺は。 分からないままに、俺は赤らんだ頬を押さえていた。 第一部、完 |
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はい、ようやく「好きまでの距離感」が終わりました。ただし、第一部がね〜。
いや、まさか自分でもこんなに長く続くとは思ってもおりませんでした。
おかしいです。もっと短くまとめようとしていたのですが、訳が分からないですよ。自分でも。
まぁでもね。書いていて楽しかったのは事実だから。
アニパロも好きだけど、オリジナルはこれで好き勝手に設定とかキャラを作れるところが醍醐味だから。
和も桂一郎も大好きなキャラになりました。特に和君はある意味、自分を反映しているキャラでして。
コメディ、やっぱ大好きですね。書いていてとっても楽しいですから。
さて、第二部はどうしましょうかね〜。