好きまでの距離感〜第五十四話〜


な、なんていうこっぱずかしい事を普通の顔して言うんだお前は!

「だ、大事って…飯よりも俺が?」
「うん」
真顔で頷くな、真顔で!

今の今までこいつがこんなに恥ずかしい奴だなんて知らなかったよ。俺は。
側にいて落ち着かないっていうか。腹の辺りがむずむずしてきそうじゃねぇか。
なのに当人の桂一郎ときたら、自分の台詞の恥ずかしさを気にした素振りも見せずに、涼しい顔をしてるんだ。
まぁね。こいつの鉄面皮は今更って言えば、今更なんだけどさ。
でもなんか、腹立たしいぞ俺は。
俺一人だけが狼狽えて、赤面して、振り回されているみたいでさ。
なのに桂一郎はいつものまんまなんだもん。
しかも言うだけ言ったせいもあるのか、妙にすっきりした顔をしているような気もするし。

なんか腑に落ちないなぁ。
もうちょっと困った顔とかすればいいのによ。
せめて腹が減ったとかいう顔でもすればいいんじゃねぇのか?
実際食い盛りの世代なのよ、俺らは。
それが一食だけとはいえ、抜いてるのは事実なんだし。

それに桂一郎が昼飯を食って無くて(しかも原因が俺を捜してたって言うし)ここにいるのに、俺一人だけがこうして食べているのも何だかとっても気詰まりなんだよね。
はっきり言って、ものすご〜く気詰まり。
肩身が狭い訳なのよ、俺としては。

取りあえずお互いの話の決着はそれなりに付いた事なんだし、せめて今からでも何か腹に入れてくればいいんじゃないのか。
そう思って側に座っている桂一郎にそれを言った訳なのよ俺は。

「なぁ桂。もう話が終わったんなら、お前これからでも学食行ってくれば?まだぎりぎり間に合う時間じゃねぇの?」
だから今からでも行ってくればと促した俺に、あいつがやっぱりいいんだと首を振る。
「何がいいんだよ。昼飯食わなくてそれこそいいのかよ。学食じゃなければ、購買部でもいいし、何かちょっとでも腹に入れといた方がいいんじゃないのか?午後、長いぞ。それに部活だってあるくせによ」
再度促す俺に、桂一郎がやっぱりいいと首を振る。

「な、何でいいんだよ。お前、腹減っていないのか?」
俺の問いかけに桂一郎が「減ってはいるけど…」と曖昧に答えている。なのにこいつときたら、腰を上げる素振りすら見せない。
どうしてと思った。
人一倍の大食らいのくせに。しかもこれから剣道の部活動だって控えているのに。

「腹、減ってるんなら何か食えばいいのによ。何、考えてんだよお前はよ」
呆れてぼやく俺に、桂一郎が返してくる。
「まだ…」
「あ?」
「まだ和の側にいたいから」
「!」

撃沈しそうだった。
もう勘弁してちょうだいって気分だった。
お前って、お前ってばそういう人だったの?

よく捉えればいじらしいんだろうけど、悪いけど俺にはただの恥ずかしい奴としか思えないぞ。マジで。

ああもう!
いいよ。分かったよ。
俺が何を言ってもお前は腰を上げないのね。
ほんとにもう、しょうがねぇなぁ。

「食え」
そう言って俺は自分が手にしたサンドイッチを桂一郎につきだしたんだ。
「?」
桂一郎が何だ?と言う目をして俺を見る。
「だから俺の食いかけだけど、まるっきりの腹ぺこよりかはマシだろう?半分は残ってるから、お前食えってんだよ」

どうせこのまま空きっ腹を抱えた桂一郎の側で飯なんか食う気にはなれなかった。
かといってこいつはここを動きたくないと言う。
だからこれは苦肉の折衷案って言うやつなんだ。

俺のを食えと促され、桂一郎が戸惑ったような瞳を向けてくる。
「でも和は?」
「俺はいいんだよ。それなりに食ったし、どうせ午後の授業が終わったら部活もないんだ。速攻で学校を出て、何か食って帰ればいいんだ。家に帰れば、何か食う物もあるだろうし。だから俺のことなんか気にしないで食えよ」
「………」
目の前に出されたサンドイッチを眺めて暫し、桂一郎が逡巡した。
それからうっすらと口元を緩めてお礼を言ってくる。
「ありがと」
「べ、別に…」

普通に礼を言われただけなのに、どうしてこんなに恥ずかしい気分になってくるんだろう。
何だかやっぱり居たたまれない気分なんですけど?






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