好きまでの距離感〜第五十三話〜


自己便宜をはかるならば、自分の感情を筋道立てて話せて説明出来る奴なんてそうそういないと思う訳なのよね。
しかもそれが予想外の相手からで、昨日親友の桂一郎から告白されたばかりなのよ。俺ってば。
ちょっとくらい時間の猶予を望んだからって、それが逃げとか卑怯な事とかって言うのは勘弁してくれよって感じなんだもん。

うん。俺は悪くない。
今は頭がパニクって、上手く働かないだけなんだもん。
だからもう少し時間をおいて、正常な思考が出来てから桂一郎との事はもう一回考えてみようかなって。

これは逃げじゃありません。
俺はちっとも悪くありません。

何かもうね。
色々考え込みすぎて、頭を使うのがしんどいんだわ。

お馬鹿な一高校生の俺には、いささかきっつい選択ちゅーか、問題だから。
そもそも当事者の桂一郎がそれでいいっていうんなら、いいんじゃない?

桂一郎がいつもの優しいあいつに戻って、こうして俺を甘やかしてくれている。
俺の我が儘とか、無茶なお願いにも怒るでもなく、穏やかな表情を見せて許してくれる。
あいつに依存しているみたいな感じもあるけどさ。でもいいだろう?当人の桂一郎がそれでいいって、言ってくれているんだから。

俺さ…。
こっちの桂一郎の方が好き…だな。
俺の知らない男の顔をしたあいつなんて、ちょっとね。
今みたいに、いつもの様子で側にいて欲しいんだよね。

俺の知らない間に、変わって欲しくなんかないから。
出来るなら、ずっとこのまんまの二人でいたかったって思うのは俺の我が儘なのかしら。
仲の良い幼なじみで、お隣さんで、俺の一番の親友の桂一郎でいて欲しいって。

無理なのかなぁ。
それこそ高望みなんだろうか。

つかの間の沈黙が俺達の間に流れる。
相変わらずに桂一郎は無駄なお喋りなんてしない。
まるで何事もなかったように俺の隣に座っているだけ。

むしろ俺の方が沈黙が辛かったりなんかしているくらい。
場が持たなくて、手にしたサンドイッチを食いなおしたりして。
気分が落ち着いたら、ちょっと物足りないかな〜って思い始めたりなんかもする。
サンドイッチだけじゃなくて、もっと買ってくればよかったかな?とか。

で、ここであることに気が付いたんだ。
桂一郎は手ぶらでここに来たのよね。
今朝は家も一悶着あったもんだから、いつもの弁当の宅配が出来なかった訳なのよ。
こいつ、昼食はどうしたんだろう。
帰りに部活もあるから、昼を抜いているわけはないと思うんだけど。

「あのなぁ桂。お前、昼飯はどうしたの?学食へ行って来たわけ?それとももう、何か食べてきたのか?」
俺の疑問にあいつがいいやと首を振る。
うん?
それってどういう意味だ。
まさか、こいつ…。
「お前、もしかして昼飯食わないでここへ来たのか?」
それにも桂一郎が頷いている。

驚きながらあいつを見詰める俺に、桂一郎が事も無げに答えていた。
「和を探していたから…」と。

なにおぅ?!

俺を捜して、それで何も食ってないって?
お前、何考えてんだ?
ハードな練習をこなさなきゃいけない運動部が、昼飯を抜いてもいいのか?
「だからってどうして何も食ってないんだ?購買部とか、学食とか、うちの学校の直ぐ側にはコンビニだってあるじゃないか。何で、昼飯を抜いてんだお前は!俺を捜すのなんか、後回しでもいいだろうが」

人一倍大食らいのくせして。
桂一郎ってば、見た目はスリムっぽく見えるけど、これで脱いだら結構良い体してるんだよね。
小さい頃からやっている剣道のせいなのか、無駄なくしっかりとした体つきって言えばいいんだろうか。背も高いし、引き締まった体つきをしてるから体重があるようには見えないけど、筋肉のせいで見た目よりも重いんだ。こいつは。
あんまり食べるように見えないらしい(周りからは禁欲的とも言われているらしい)けど、これでかなりの大食らいだったりするのを知ってるから。
その大食らいのこいつが昼飯を抜いているって?
しかもその理由が俺を捜してって…。
なんかもう………。

「お前さぁ…別にいいじゃん。別に今すぐに俺に会わなくったってさぁ。どうせ家はすぐ近くなんだし」
昨日の事を早くに決着つけたいって気持ちは分からなくもないけど、そんなに焦らなくったってさぁ。避けたくても避けられない距離にお互い住んでるだぜ、俺らは。
だからその辺りを言ってやったんだけどね。
でも俺のその言い分に答えた桂一郎の言葉は、さらに俺を赤面させるに十分なものだったのだ。

「でも俺は和の方が大事だったから」

………!
危うく口に含んだ牛乳を吹き出すところでした。






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