好きまでの距離感〜第五十二話〜


桂一郎に指摘されて、俺は咄嗟に自分の頬に手を当てていた。
自分の顔が赤くなっている自覚は無かったんだけど、言われれば何となく頬が熱くなっているような気がしてくる。
しかも意識すればするほど、顔が熱くなってきそうなんですけど。

「和、どうした?」
「は、はい?!」

桂一郎に問われて、咄嗟に答えた俺の声は妙な具合に裏返ってしまっていた。
ああもう。
何でこんなに焦りまくってんだ。俺ってばよ。

桂一郎に触られて気持ち悪いとか思わずに、むしろ無理強いされたって事の方を問題にしている自分。
それをたった今あいつに指摘されて、問題の根源が別の方にあるんじゃないかって…気がしてきたんだ。
これを突き詰めて考えたら、何かヤバイ気がするのね。
もうバリバリにヤバイ気がさ。

俺、変…かもしんない。
男に告白されて、しかもそれが幼なじみの桂一郎で、なおかつ気持ち悪いかとも全然思わなくって、今赤面しちゃってる俺。

自分が危うい世界に足を踏み入れちゃったような…。

「なぁ和」
つかの間、自分の世界に入り込んじゃった俺に向かって桂一郎が声を掛けてくる。
「な…なに?」
間近にはあいつのやけに真面目な顔。
それすらも今は俺を緊張させる状態の一つなんだろう。真っ直ぐに俺を見詰める目も、真剣すぎてどことなく怖い感じもする。
「俺を気持ち悪いとは思わないんだろ?」
「う、うん。まぁ…」
「嫌いでも…ない?」
「う…ん」

念を押してくる桂一郎。
あいつが何を言い出すのかと、ほんの少しビクつく俺に向かってあいつが問いかけてくる。
「だったら…俺は少しは自惚れてもいいのか?」

あ?
自惚れる?

それはいったい、どーいう意味なんだろう。
何かもう、昨日からの事やら朝の事やら、全ての出来事があまりにありすぎて、頭は飽和状態になっちゃってるんだろう。
あいつが何を言いたいのかすら把握出来ない。

把握出来ないけど、何か重大な事を言っているのだけはうっすらとは分かったんだ。
何か言い返さなきゃいけないってことも。

「あ、あの…だな。お、お前のことを嫌いじゃない…よ。でも、好きとかそんなんはよく…分からなくって…」
しどろもどろになりながらも話す俺を、あいつは辛抱強く聞いてくる。
だから俺は拙いながらも何とか今の自分の状態をあいつに聞いて欲しかった。桂一郎の事を好きか嫌いかの単純な言葉だけの関係で終わらせるなんて嫌だったから。

「お前の事をそんな目で見たことはない…んだ。これからもどうかは分からない。で、でもさ。桂一郎が俺から離れるのだけは…嫌…だと思う。だってずっと一緒にいたんだし。俺の一番の親友だし…」
「うん」
俺の辿々しい話に、優しく頷く桂一郎。
それに勇気づけられて、俺は話し続ける。
「好き…とは言い切れないけど、俺の側にいて欲しい…んだ。それじゃ…駄目?」

我ながら都合の良いお願いだという気はするんだ。
桂一郎は俺に真っ正直に言ってくれたのに、俺はそれにちゃんとした答えを出すことは出来ない。
嫌いじゃないけど、好きでもない。
でもずっと俺の側にいてほしいなんてさ。
ちょっとっていうか、卑怯な言い方じゃないかな…って。
答えを出さずに、ただ引き延ばしただけ。それでも俺の側にいて欲しいって、言い続ける。
俺にとってだけ、都合の良い回答なんだろうなと。

でも桂一郎は俺の身勝手な答えにもすんなりと頷いてくれたんだ。
「分かった」って。
むしろこっちが拍子抜けするぐらいにあっさりとね。

だからさ、逆に俺の方が驚いちまったくらいなんだ。
思わず念を押したくなっちゃうほどに。
「今ので…いいの?俺、お前のこと好き…とか言えてないのに…」
驚き、戸惑う俺に向かって、あいつが優しい瞳を向けている。
「嫌いじゃないって言ってくれたから」

つまりは、それだけでいいって事なの?
俺がこんな事を言うのは違うとは思うけど、お前ってばやっぱ俺に甘くねぇ?
今までの経験からいってもこいつが俺に甘いのは知ってたけどさ〜。
でも自分からそれを指摘する気にもなれないんだよね。
今はこいつの好意に甘えちゃおうかな〜って、気分にもなっている。

だってちゃんとした答えなんて出せないもん。
もちっと考える時間が欲しいって思うのは俺の我が儘だけじゃないと思うからさ。




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